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自動運転や電動化の取り組みを解説する「デンソー ダイアログデー」初開催
厳しい現状こそ新しい未来を目指す絶好のチャンス
2019年5月24日 21:25
- 2019年5月24日 開催
デンソーは5月24日、報道関係者やアナリスト・投資家を対象とした事業方針説明会「デンソー ダイアログデー」を都内で初開催した。
この説明会では、デンソー 取締役社長の有馬浩二氏に加え、デンソーが取り組みを進めている先進技術の各領域を担当する経営役員4人など計5人が登壇。プレゼンテーションをつうじて各領域の現状や今後に向けた方針などが解説された。
厳しい現状こそ新しい未来を目指す絶好のチャンス
最初に登壇した有馬社長は、オープニングスピーチとして中長期方針を紹介。冒頭で有馬社長は元号が令和に改められたことを受け、同社の70年にわたる歴史について簡単に振り返り、創業時は数億円だった売上高が現在では5兆円にまで拡大していることを説明。また、平成の30年では、最初の10年はバブル経済の崩壊から海外進出を推し進め、次の10年では世界初、世界一となる製品を多数世に送り出し、もの作り力と技術力を両立させて戦い抜いたと紹介。最後の10年にはリーマン・ショックや東日本大震災といった激震に見舞われる中、経営基盤の強化に取り組み、原価構造やサプライチェーンなどさまざまな面で変化に強い体制作りを必死に進めてきたと有馬社長は語った。
また、平成の大きなトピックとしてIT技術の急速な発展があり、世界がつながって人々の生活が一変したことを取り上げ、令和の時代には人々の暮らしを豊かにしていくさらに大きな変化が起き始めているとした。
モビリティ分野でも「CASE」が速いスピードで進展したことで、これに対応するため業界の垣根を越え、サプライヤーチェーンが合従連衡していると説明。「われわれはまさに『海図なき大海原』で生きるか死ぬかの戦いのまっただ中にいるわけです」としながら、一方でこのピンチを新しい未来を目指す絶好のチャンスと表現。よりよい未来のモビリティ社会の実現に貢献していきたいと有馬社長は意気込みを述べた。
このためにデンソーでは、「地球に、社会に、すべての人に、笑顔広がる未来を届けたい。」をテーマとする2030年に向けた長期方針を策定。この目標を達成するために「電動化」「自動運転」「コネクティッド」「FA/農業」を注力分野とする「2025年長期構想」も用意。数値目標としては売上高7.0兆円、利益率10%を掲げて活動を進めている。
手前側となる2021年中期方針では「仲間づくり」による「新たな価値創造に向けた挑戦」、「現場力」による「次の成長を支える収益力の強化」、「人」による「経営基盤の変革」の3点を取り組みの柱として設定。これらをつうじ、世の中を豊かにする製品やサービスを実現し、普及させることで「笑顔広がる未来」に向けて貢献していきたいと有馬社長は説明している。
1月からサービスを開始した「mobi-Crews」でMaaS活用ノウハウを蓄積
具体的な技術解説では、最初にデンソー 経営役員 技術開発センター担当の加藤良文氏が、コネクティッドを含めた「先端R&D領域」での取り組みについて説明。
加藤氏は今後のモビリティ社会がCASEの発展で大きく変化していくと想定していると述べ、さまざまなメーカーによって進化しているCASEの各技術は2030年前後を境に融合を遂げ、新しいモビリティ社会が実現されていくだろうとの将来予測を披露した。
デンソーで取り組みを進めているADAS(先進運転支援システム)や自動運転などのシステムについて、加藤氏はすでに乗用車で一般化が進んでいるADASについて、交通事故を大幅に低減したと自負している一方で、「レベル4」に分類される完全な自動運転は交通弱者などあらゆるモビリティ利用者に移動の自由を拡大する非常に重要な技術としつつ、コスト面がハードルとなって乗用車での普及には時間がかかり、先にタクシーや小型バスといった「シェアードモビリティ」で利用がスタートしていくとの見方を示した。
しかし、完全な自動運転については必要とされる技術範囲が多岐に渡り、ビジネスとして成立しなければ意味を成さないことから、グローバルでパートナーを募って開発を進めているという。
このための施策が、アイシン精機、アドヴィックス、ジェイテクトと4社で設立した新しい新しい合弁会社「J-QuAD DYNAMICS(ジェイクワッド ダイナミクス)」であり、トヨタ、ソフトバンクと共同で行なう「Uber Advanced Technologies Group」に対する出資であると例に挙げた。
MaaS(Mobility as a Service)領域では、今後クルマはインフラやクルマ同士などいろいろなものと連携するようになり、データの生成と集約が行なわれていくと加藤氏は説明。この中で、実世界のフィジカル領域をデータ上のサイバー空間に再現する「デジタルツイン」が構築されていくが、デンソーではフィジカル側とサイバー側の両方で技術開発を実施。フィジカル側の事例としては、1月に行なわれた「CES 2019」で展示した車載エッジコンピュータ「Mobility IoT Core」を紹介。
サイバー側の事例では、通信型ドライブレコーダーを活用するクラウド型社有車管理システム「mobi-Crews」を取り上げ、デンソーとしてサイバー側で初の取り組みとして進めているmobi-Crewsでは、サービスの運用をつうじてMaaSプラットフォームの活用ノウハウを蓄積。さらなるサービス拡大を目指していくとした。
「品質と信頼性の高い自動運転システム」を実現する
自動運転領域については、デンソー 経営役員 モビリティシステム事業グループ担当の武内裕嗣氏が解説を担当。
武内氏は新しいモビリティ社会を実現に向けて、自動運転を中核になる技術であると位置付け。必要とされる技術領域について、人間の視覚を超える「周りを見る」技術、次の状況を予測する「先を読む」技術、乗員とコミュニケーションする「人とつながる」技術、社会とコミュニケーションする「社会とつながる」技術、車両の故障やサイバー攻撃に対応する「もしもに備える」技術といった5種類のコア技術が重要になると述べ、これにデンソーが培ってきた多彩な要素技術や信頼性、顧客対応力を組み合わせ、さらにパートナー企業との連携によって「品質と信頼性の高い自動運転システム」を実現していくと説明した。
実際の技術開発では、2018年4月に開設した研究開発オフィス「Global R&D Tokyo」で先進モビリティシステムの企画、開発、実証を加速させ、ADASや自動運転といった技術を早期に市場投入。これに続けて、2020年6月には自動運転車両の実証拠点を羽田空港跡地エリアに開業予定。すでに「AD(自動運転)システムパッケージ」の開発として、運行を管理する「ADセンター」、自動運転を実現する「ADセンサーキット」などの開発を進めているという。
また、自動運転の技術が進化していくと、クルマの車内空間も合わせて進化を遂げていくと武内氏は解説。現時点でのADAS技術では、ドライバーを支援してコックピット統合制御を行なう「E-コックピット」、レベル3までの自動運転では、AIが運転に関与してドライバーの状況を確認する「i-コックピット」、将来的な完全自動運転では、キャビン全体を制御する「i-キャビン」と区分して、クルマが人に寄り添ったサービスを提供していくとした。
また、i-キャビンの実例として、デンソーの得意領域である空調技術とHMI(ヒューマンマシンインターフェース)をコラボレーションさせ、自動運転時代を見据えた安心空間を実現していくという。
次世代技術の要素技術開発にも積極的に取り組み
車両電動化の領域については、デンソー 経営役員 エレクトリフィケーションシステム事業グループ担当の篠原幸弘氏から解説が行なわれた。
車両の電動化は、販売地域やメーカーによって扱われる技術が異なるものの、走行時に発生したエネルギーを発電で回収するエネルギーマネージメントを持つ方向では一致しており、持続的成長に向けてさらに進化させていく必要があると篠原氏は説明。
電動化では駆動力としてモーターを使う「走る」領域に加え、ステアリングを制御する「曲がる」領域、アクチュエーターで制動力をコントロールする「止まる」領域のほか、安全性や快適性といった領域でも、デンソーでは大小さまざまなモーターを開発してきた。
電動化技術ではすでにモータージェネレーター、インバーター、電池ECUなどで高い世界シェアを持ち、モータージェネレーターでは「セグメントコンダクタ-」を採用するなど技術力によっても競争力を発揮できるようにしているほか、多彩な市場ニーズに応えられるよう、仕様を柔軟に変更できるデジタルエンジニアリングで基本設計。市場にある90%をカバーする幅広いラインアップも実現している。
長期的な取り組みとなる次世代技術では、SiC (シリコンカーバイド)に代わるパワー半導体として、GaN(窒化ガリウム)、小型・軽量で資源リスクの少ないFeNi(鉄ニッケル)超格子による磁石、圧倒的な軽量化につながるカーボンナノチューブによる巻線といった要素技術開発も積極的に進めている。
このほか、モビリティの多様化といった面では、デンソーでは「空のモビリティ」に参入すべく開発を続けているという。この航空産業に加え、回生技術のさらなる追究、バイワイヤー技術、インホイールモーターなどの開発についても強化領域としていると篠原氏は解説した。
売上高償却比率は6%台でコントロール
会社としての持続的成長に向けた取り組みについては、デンソー 経営役員 グローバル戦略本部担当の松井靖氏が解説。
松井氏は中長期の成長目標を実現していくため、毎年1兆円規模で発生するキャッシュを設備投資、研究・開発、M&A・アライアンスなどに効果的に利用して事業成長を進めていることを解説。今後についてはさらなる成長に向け、営業活動でのキャッシュに加え、財務活動による借り入れも活用して投入する資金を創出していくという。
過去には売り上げに占める減価償却費が高すぎたり、逆に投資を絞りすぎた時期もあったと分析し、今後は売上高償却比率を6%台でコントロールし、規律を持った投資を行なって「筋肉質な体格」を目指していくとしている。
一方で、取り組みを強化しているCASEの開発などについては、デンソーが技術力によって市場を牽引し、社会貢献していくことを会社として目指している観点から、「研究・開発費は歯を食いしばってでもしっかりと継続していくことが、われわれの使命だと考えています」とコメントしている。