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住友ゴム、過去最高の売上収益4400億8200万円を記録した2021年12月期 第2四半期決算説明会

2021年8月5日 開催

住友ゴム工業の2021年12月期 第2四半期決算内容

 住友ゴム工業は8月5日、2021年12月期の第2四半期(2021年1月1日~6月30日)決算説明会をオンライン上で開催した。

 第2四半期の連結業績(IFRS)は、売上収益が4400億8200万円(前年同期比29.4%増)、事業利益が300億8800万円(前年同期は23億900万円の損失)、営業利益が285億7600万円(前年同期は29億7400万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純利益が205億100万円(前年同期は93億4100万円の損失)となった。なお、売上収益の4400億8200万円は同社で過去最高の数字となっている。

住友ゴム工業株式会社 代表取締役社長 山本悟氏

 説明会では住友ゴム工業 代表取締役社長 山本悟氏が登壇。決算内容の説明に先立ち、7月30日に公表された品質管理に係わる不適切事案について説明を行なった。

 山本氏は最初に、国内の加古川工場における防舷材検査、南アフリカ子会社でのタイヤ生産における品質管理について不適切な事案が判明したことについて、ユーザーや関係者に対して多大な迷惑と心配をかけたことについて謝罪した。

 現状報告としては、判明してすぐに自身を委員長とした緊急対策委員会を発足。安全性の検証を始め、ユーザーに対して速やかに対応していると説明した。これに加え、外部弁護士も参加する特別調査委員会を設け、原因の究明を行なって再発防止策を策定していくという。今後はこのような事態が2度と起きないよう、品質管理体制を強化し、体質改善と意識改革を徹底。再発防止とユーザーからの信頼回復に努めていくと述べた。

 決算説明では、2021年上半期の経済状況は新型コロナウイルスの影響で依然として不透明な状況にあり、経済全体では持ち直しの動きも出てきているものの、一部で弱さが増していると分析。同社のグループを取り巻く環境としては、天然ゴム価格や石油系原材料価格の上昇、海上輸送コスト上昇の影響を受けている一方、為替が円安傾向になっていることから輸出環境が改善したことに加え、米国、中国をはじめとして多くの市場が回復基調になるなど、明るい兆しが見えているとした。

 このような情勢の下、同社グループは2025年を目標年度とした中期計画を実現するため、経営基盤の強化を目指す全社プロジェクトを強力に推進。世界の主要市場に構築した製造・販売拠点の効果の最大化を目指し、各地の顧客ニーズに対応した高機能商品の開発・増販にも取り組み、グローバル体制による競争力の強化を推進していると説明した。

2021年12月期 第2四半期の主な要因

 セグメント別では、タイヤ事業の売上収益は3692億8900万円(前年同期比27.0%増)、事業利益は234億7700万円(前年同期は8億9500万円の損失)。新車用タイヤは世界的な半導体不足の影響などにより、自動車メーカーの生産台数が減少したことの影響を受けたものの、新車用、市販用の両面でコロナ禍からの回復傾向によって販売を伸ばし、売上収益、事業利益ともに前年同期を上まわっている。

 スポーツ事業の売上収益は514億3900万円(前年同期比72.4%増)、事業利益は55億1800万円(前年同期は29億200万円の損失)。ゴルフ用品は新型コロナウイルスの影響で縮小していた市場に反転が見られた結果、北米や韓国を中心に販売が伸長。テニス用品も同様に販売を伸ばしたことから、売上収益と事業利益ともに前年同期を上まわっている。

 産業品他事業の売上収益は193億5400万円(前年同期比0.1%減)、事業利益は10億6900万円(前年同期比27.3%減)。インフラ系商材で大型物件が減少し、制振ダンパーも受注減となったが、衛生用品であるゴム手袋や医療用精密ゴム部品は受注が増加して販売増となった。これによって売上収益は前年同期並みとなったが、事業利益は量構成の変化によって減益となっている。

セグメント別の詳細

 前年同期から324億円増となった事業利益の増減分析では、「原材料」で41億円の減益となり、内訳は天然ゴムで-35億円、石油系原材料で-5億円、そのほかで-1億円となっている。この原材料価格の上昇に対応するために行なった価格改定で53億円の増益となり、これに加えて「数量・構成他」の増販効果、構成の良化で194億円の増益となった。

 新型コロナウイルスの影響を受けていた前年同期から操業度が定常状態に戻ったことによって「直接原価」が67億円の増益となり、一方で「固定費」は影響がなくなって計画どおりに投資できるようになったことから25億円の減益要因。これにユーロ円の為替レートが円安に動いたことによる19億円の増益、企業活動が回復したことによる経費が23億円の減益で、スポーツ事業の54億円増、産業品他事業の4億円減と合わせ、最終的な324億円増を実現していると説明している。

事業利益の増減要因イメージ

 2021年通期の業績予想では、世界経済は“ウィズコロナ”の新状態で穏やかに経済活動が回復すると期待されるものの、その回復は一様ではなく、新興国や発展途上国の多くではワクチン接種の遅れが経済活動の足かせとなっており、新型コロナウイルスの感染再拡大による深刻な下振れリスクも懸念されると分析。

 また、経済活動の穏やかな回復を受けて天然ゴムや石油系原材料といった相場価格も引き続き上昇すると予想。為替は円安基調が続くと想定し、レートは米ドル109円として財務計画を立案している。

 こうした分析を背景に、同社グループの業績が年初予想より堅調に回復していることから通期の業績見通しを修正。売上収益を9100億円から9300億円、事業利益を500億円から550億円、営業利益を470億円から520億円、当期利益を330億円から355億円とそれぞれ上方修正。なお、通期の売上収益が9000億円を超えた場合は同社グループ初になり、事業利益と営業利益もコロナ前の2019年度を超えるものになるという。

2021年度に予想する事業環境
各項目で通期見通しを上方修正
セグメント別では、産業品他事業のみ下方修正としている
2021年度の事業利益における増減要因イメージ
設備投資は2019年レベルを回復する計画
タイヤ生産設備における生産量、稼働率も2019年レベルに戻していく

2030年以降に販売する全タイヤに「スマートタイヤコンセプト」搭載

同日発表したサステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」の全体イメージ

 このほかに説明会では、同日発表したサステナビリティ長期方針「はずむ未来チャレンジ2050」について山本氏から説明が行なわれた。

 住友ゴムでは2020年2月に発表した2025年までの新中期計画「Be the Change」では、計画を加速させるバリュードライバーとして「ESG(環境、社会、ガバナンス)経営」の推進を掲げており、事業を通じて環境問題や社会課題の解決に貢献し、社会をサステナブルなものにしていく取り組みをさらに強化することを宣言している。

 また、気候変動の拡大を背景としたカーボンニュートラルに向けた急速なシフトなど、社会課題も大きく変化していることを受け、自社の新しい企業理念体系を踏まえて社会と会社を持続的成長を遂げさせるためには、2050年を見越した長期視点での方針が必要だとの結論に至ったという。

 新たに発表したサステナビリティ長期方針では、事業をつうじて社会課題解決に向けてどのように貢献できるかを基点として策定。住友ゴムでは以前から経済的価値と社会的価値を追究してESG経営を進めており、新たな方針に「はずむ未来を実現する」という意味を込めてネーミングしているという。

サステナビリティ長期方針に則った事業活動により、社会と企業の持続的成長を目指していく

 はずむ未来チャレンジ2050では、環境、社会、ガバナンスのそれぞれで社会課題の解決に向けたチャレンジ目標をテーマとして設定。各テーマにタイヤ、スポーツ、産業品の各事業で取り組むこととしており、例として住友ゴムのコア事業であるタイヤにおける環境に対する取り組みが紹介された。

はずむ未来チャレンジ2050では、環境、社会、ガバナンスのそれぞれでチャレンジ目標を設定

 タイヤでは「調達」「輸送」「開発」「製造」「販売」「使用」といったサプライチェーン全体で、CO2の削減や原材料のバイオマス化、リサイクル化、車両のEV化などに対応する商品開発を推進。また、タイヤの空気圧や摩耗状態、路面状況などを検知できる独自のタイヤセンシング技術「センシングコア」を核として、「CASE」「MaaS」といったモビリティ社会の進化に貢献する「安心・安全で環境負荷の少ない新たなソリューションサービス」を提供することにより、2030年、2050年といったマイルストーンに向けて住友ゴムならではの循環型タイヤビジネスの確立を目指していくとした。

 多くの取り組みから具体的な事例として、「バイオマス原材料の活用」「次世代エネルギーである『水素』の活用」「サステナビリティ商品自社基準の制定」の3点について山本氏は紹介。

タイヤ事業では「循環型タイヤビジネス」の確立を目指す
具体的な事例として説明された3点

 製品開発では、従来から次世代タイヤ開発や周辺サービス技術として「スマートタイヤコンセプト」に取り組んでおり、安全性能を高める「セーフティテクノロジー」、環境性能を高める「エナセーブテクノロジー」を部分的に搭載したタイヤを開発し、販売してきた。今後は100年に1度と言われるモータリゼーションの変革に対応するため、安全で環境に優しいサステナブルなタイヤ開発を、LCA(ライフサイクルアセスメント)を基軸としてさらに加速させていくとしている。

 具体的な施策としては、2029年までにスマートタイヤコンセプトの全技術を完成させ、必要とされる性能に対してセーフティテクノロジーとエナセーブテクノロジー、コアテクノロジーといったすべての技術から複数を適切に組み合わせたコンセプトタイヤを提案していく計画。さらに2030年には発売するすべての新製品をスマートタイヤコンセプトのいずれかの技術を搭載したタイヤにしていくと説明した。

2030年に発売する新製品にはスマートタイヤコンセプトのいずれかの技術を搭載

 原材料のバイオマス化では、住友ゴムは原材料に化石資源を使用しない世界初の石油外天然資源タイヤ「エナセーブ 100」を2013年に発売。この開発で培った技術をさらに進化、拡大させており、今後も原材料におけるバイオマス比率を高めるとともに、リサイクル原材料比率を同時に高めることでカーボンニュートラルの実現に貢献していくという。

 具体的な目標としては、2030年に製造するタイヤでバイオマスとリサイクルの原材料比率を合わせて40%に、これを2050年には100%にした「100%サステナブルタイヤ」の実現を目指していくと語った。

2050年に「100%サステナブルタイヤ」の実現を目指していく

 製造段階での取り組みでは、同社グループの全工場で排出するCO2をグローバルで2030年に2017年比50%減、2050年にカーボンニュートラルとする計画を推進しており、電力は省エネ化の努力に加え、コージェネレーションや太陽光発電の導入などを軸としてCO2削減を進めている。

 また、タイヤの加工工程で主に使用している蒸気エネルギーについては、現在使っている天然ガスからのエネルギー転換が必須であると述べ、ここに水素を活用することを検討しており、福島県にある白河工場で運用している高性能タイヤを製造するための「NEO-T01」と呼ぶ生産システムで8月から実証実験をスタートさせるという。燃料の水素に加えて電力を太陽光発電とする組み合わせを進め、2030年にはNEO-T01の全行程でグリーンエネルギー化を果たし、製造時のCO2排出をゼロにしたタイヤを目指していく。

 この技術は将来的に白河工場全体に導入を進め、さらに国内工場、海外工場へと順次展開して水素利用を進めていくことを検討しているという。また、山本氏は白河工場での水素利用の実証実験を通して、住友ゴムとしても東日本大震災からの復興の一翼を担っていきたいとしている。

2030年にCO2排出量を2017年比で半減させ、2050年にはカーボンニュートラルを目指す
タイヤ生産に水素ボイラーを利用する実証実験を8月から開始

 サステナビリティ商品自社基準の取り組みでは、今後発売する製品においては品質や性能はもちろんのこと、環境負荷の低減をはじめとしたサステナブル性能を兼ね備えることが必須になるとの考えを示し、CO2削減やバイオマス比率、リサイクル比率などを考慮したサステナビリティ商品自社基準を制定。「SRI Sustainable Products」の略称である「SSP」を冠する製品を、タイヤ、スポーツ、産業品の各事業に導入していく。

 このほか、近年注目を集めているプラスチックの取り扱いでは、住友ゴムでもタイヤラベルやさまざまな商品の包装材として各事業でプラスチックを使っており、今後はCO2削減の観点からも段階的に使用量の削減を実施。2030年にはグローバルでのプラスチック使用量を2019年比で40%削減する目標を設定して取り組んでいく。

 最後に山本氏は「このように当社は、社会や環境と共存しながら、経済的な価値のみではなく、社会的価値の向上にも取り組み、持続可能な社会の発展に貢献してまいります」とコメントしている。

タイヤ、スポーツ、産業品の各事業で「SSP(SRI Sustainable Products)」を冠する製品を導入していく
製品などにおけるプラスチック使用量を、2030年に2019年比で40%削減する

質疑応答

質疑応答でマイクを取る山本氏

 取材に参加した記者との質疑応答では、国内市場における新車用タイヤ、市販用タイヤの販売状況について問われ、山本氏が回答。「新車用では世界的な半導体不足があり、2月に起きた福島県沖地震の影響もあって、自動車メーカーの工場停止や稼働縮小が実際にありました。ただ、前年がコロナの影響で大幅に販売が落ち込んでいたことから、上期の販売としては前年度比増となっています。これから下期や通期でも2020年度からは上まわる見込みではありますが、半導体不足による世界的な新車販売台数の影響、また、世界各地で変異株によるコロナウイルスの再拡大が起きていて先行きは不透明です。新車用の販売はコロナ前の2019年には届かないだろうと予測しています」。

「市販用では、やはり国内の緊急事態宣言で影響を受けておりますが、上期については前年と比べて回復傾向です。また、日本では年初に降雪がありましたので、冬タイヤの増販があって販売増となっています。夏タイヤも気温上昇で出荷が進み、コロナの影響もありつつ自粛も緩和されて回復傾向にあります。グローバルでは北米の需要が旺盛で、メインとなっているSUV用タイヤ「ワイルドピーク」はお客さまから非常に好評をいただいており、供給が間に合わない状況になってご迷惑をおかけしてしまっております。欧州も前年を上まわる販売で好調です。中国もコロナが早く終息して、インターネットを活用したビジネスの伸びが非常に顕著です。全体的に上期は順調に推移したというところです」と述べ、半導体不足による車両生産の落ち込みが新車用タイヤの販売にも影響していることを説明した。

 このほか質疑応答内では、製品の海上輸送で利用するコンテナが世界的に不足している状況が続いており、今後も旺盛な需要が続くと予想される米国でのSUV用タイヤの輸出が追いつかないことから、米国工場における生産能力を増強する計画を進めていることなども紹介された。

住友ゴム工業株式会社 取締役常務執行役員 石田宏樹氏

 原材料高騰の影響については住友ゴム工業 取締役常務執行役員 石田宏樹氏が回答。石田氏は「第1四半期時点で通期見通しを出した時点での予想と比べても高騰しており、現状でも上がっているということで見通しの修正を行なっています。これからの6か月でもさらに高くなる可能性はありますが、足下の相場が直接反映されるということではなく、われわれの事業に反映されるまで、物によってそれぞれタイムラグがあります。例えば天然ゴムであれば3か月、石油系原材料では6か月程度のタイムラグが出てきますので、足下の原材料相場が大きく変わった場合、2022年にかけて影響が出ることになります」と説明している。