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住友ゴム、「VISION 2020」を受け継ぐ2025年までの新中期計画を山本悟社長が発表
全社プロジェクト「Be The Change」で売上収益1兆円以上、事業利益1000億円以上を目指す
2020年2月14日 18:58
- 2020年2月13日 開催
住友ゴム工業は2月13日、2019年12月期(2019年1月1日~12月31日)の決算内容について解説する決算説明会を開催。この中で、“2020年に目指す姿”として2012年に策定した長期ビジョン「VISION 2020」に続く新しい新中期計画について解説するプレゼンテーションを住友ゴム工業 代表取締役社長 山本悟氏が行なった。
山本社長はまず、2020年を目標年度として進めてきたVISION 2020の振り返りについて説明。主に海外市場での事業拡大を通じて“真のグローバルプレイヤー”になることを目指したVISION 2020では、数値目標として売上収益1兆円、事業利益1000億円を設定。「新市場への挑戦」「飽くなき技術革新」「新分野の創出」という3点を成長のキーワードとして全社を挙げて取り組んできた。
「新市場への挑戦」では2012年に中国で湖南工場を創業し、インドで販売会社を設立、2013年にブラジル工場を創業し、南アフリカ工場を取得、2014年にオーストラリアで販売会社を設立するなど生産と販売で拠点の拡充を実施。2015年6月にはVISION 2020で想定していなかった、グッドイヤーとのアライアンス解消という大きな変化によって欧米での自由度が増したことを受け、グローバルでの展開を加速させることになった。また、この2015年にはアライアンス解消に伴う米国工場の取得、欧州地域向けのタイヤ生産拠点となるトルコ工場が稼働している。欧州市場向けの施策では、2017年1月に英国のタイヤ販売会社であるミッチェルディーバーグループを買収して事業拡大を加速させた。
「飽くなき技術革新」では、2013年11月に世界初の100%石油外天然資源タイヤ「エナセーブ 100」を発売、2016年11月に新材料開発技術「ADVANCED 4D NANO DESIGN(アドバンスド フォーディー ナノデザイン)」を採用したフラグシップ低燃費タイヤ「エナセーブ NEXT II」を発売、2019年10月の東京モーターショー 2019では将来を見据えた「スマートタイヤコンセプト」の「性能持続技術」を盛り込んだ「エナセーブ NEXT III」を発表している。
「新分野の創出」では、海外自動車メーカーの新車装着タイヤへの納入拡大を図り、フォルクスワーゲン、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)、メルセデス・ベンツ、アウディ、ポルシェなどのメーカーでの採用が進み、新車用タイヤの販売本数は2012年から2019年の間に37%増加している。このほか、住宅用制振ユニット「MIRAIE」の販売が拡大し、医療用精密ゴム事業は国内販売が拡大したことに加え、2015年にスイスのロンストロフを買収したことで欧州地域でも事業を加速させているという。
こうした活動により、主に海外市場での販売拡大によって売上高が増加。しかし、営業利益については、2014年度に過去最高863億円を記録して以降は減益傾向となっている。この主な要因として山本社長は、「新興国通貨の想定以上の下落」「得意としている中国、中近東の市況悪化による販売減」「新設したブラジル、トルコの生産工場の増産投資が途上であること」「取得した米国、南アフリカの生産工場で先行投資の成果を十分に回収できていないこと」と分析。これらによって2020年に設定した目標は達成できない見込みとなったが、10年近くにわたる取り組みによって住友ゴムは活動領域を大きく広げ、グローバルでの生産、販売の展開を行なえるようになったと評価。今後は先行投資を行なった地域での成果最大化、新たな取り組みを通じた業績回復を図っていくとした。
全社プロジェクト「Be The Change」で経営基盤を強化
VISION 2020の最終年度となり、2019年3月に前任の池田育嗣氏から社長交代を行なって新体制に移行したことなどを受け、これまでの活動をベースとしつつ、将来の成長に向けた取り組みとして2025年を目標年度とする新中期計画を策定。この1月から全社を挙げた取り組みがすでに進められている。
新中期計画では財務数値目標として売上収益1兆円以上、事業利益1000億円以上、ROE(投下資本収益力)10%以上を設定。この目標は世界のタイヤ需要伸び率が年間2%程度、為替レートは対米ドル105円、対ユーロ120円を前提としている。
VISION 2020で進めてきたグローバル展開では売上高を向上させる一方、事業拡大に伴う先行投資などの負担増で収益面に課題を残すことになったことから、新たな目標達成に向けて経営基盤のさらなる強化を実施。VISION 2020で取り組んだ3つの成長のキーワードを基盤としつつ、目標達成に向けて経営基盤を強化する新たな全社プロジェクト「Be The Change」を2019年11月からスタート。まずは助走期間として実行力や“やりきる力”を身に付けて成長の壁を打破する「組織体質の強化活動」を行ない、部門の枠組みを越えて課題を解消し、利益創出につながる活動を具体化する「利益創出の活動」に取り組むとしている。
新中期計画の実現に向けた「バリュードライバー」として「高機能商品の開発・増販」「新たな価値の創出」「ESG経営の推進」の3点を設定。主力となるタイヤ事業の「高機能商品の開発・増販」では、需要が拡大しているSUV用タイヤをグローバルで増販。プレミアムカーでの新車装着を拡大し、欧米やアジアなどの重点市場で2025年までに2019年比150%以上の高機能タイヤ販売を目指していく。
開発面では低燃費性能や静粛性、耐摩耗性をさらに向上させるべく、材料開発や構造設計での「ダントツ技術」に磨きをかけ、市場ニーズや高まる要求性能に対応する新製品を開発。この実現に向け、日本に加えて米国、欧州のテクニカルセンターをさらに拡充していくとした。
生産面では米国工場、南アフリカ工場の生産安定化を図り、高機能タイヤの需要増加に対応するため、需要地に近い米国工場、トルコ工場に加え、日本やアジア地域の工場で高機能タイヤの生産能力増強を図っていく。また、生産ではAIやIoTなどのデジタル技術を活用し、設備の自動化を進めた「スマートファクトリー」を実現する新生産システムの構想も推進していく。これらの取り組みによって高機能な製品を高効率に生産し、省エネによる環境負荷低減、労働人口の減少に対応する生産現場の課題などにも対応していく。
ダンロップブランドを活用しているスポーツ事業では、主力のゴルフ事業で世界最大の市場となっている北米地域におけるマーケティング強化を実施。独自技術による新製品開発で販売を拡大する。注力しているテニス事業では、全豪オープンでの公式球採用やATPツアーでの使用率トップといった実績によって品質の高さをアピール。テニス自体の販売拡大に加え、これまでに培ってきたテニスラケットの開発技術をスカッシュやバドミントン、パデルなどにも応用。ラケットスポーツ事業として加速させていく。
成長事業に位置付けている制振事業では、日本国内で住宅用制振ユニットのMIRAIEをさらに推し進めていくほか、東南アジア市場を中心にビル用制振装置を拡販していく計画。医療用精密ゴム事業では2020年から医療製品の主要市場である欧州に本拠地を移転。欧州の大手製薬会社に積極的にアプローチしていく。
「新たな価値の創出」の面では、CASEやMaaSといったデジタル技術を活用する自動車業界の変革に対応していくため、東京モーターショー 2017で発表したスマートタイヤコンセプトを具現化。新しいモビリティ社会で求められるタイヤの価値を創出し、さらなる進化を目指していくとした。具体的には、タイヤをセンサーとして活用して空気圧や荷重、摩耗状況、路面状態を車両に伝える「センシングコア」をはじめ、従来から推進している性能持続技術、エアレスタイヤなどによって実現する「スマートタイヤ」で自動運転に対応。また、安全・安心を提供するソリューションとして、すでに事業化して新車装着されている「空気圧低下警報装置」とセンシングコアなどを融合させた新サービスの創出も行なっていくという。
SDGs(持続可能な開発目標)達成を目的とする「ESG経営の推進」では、400年以上に渡って住友グループで受け継がれてきた「住友事業精神」を基礎として、企業として経済的価値を追求するだけでなく、社会的価値の尊重にも取り組む。この目標を実現するために制定したCSR活動のガイドライン「GENKI」を活用して、今後も各事業領域で環境問題や社会課題の解決に向けて積極的に取り組んでいくとしている。
最後に山本社長は、住友ゴムは飽くなき技術革新や経営基盤の強化を進め、3つのバリュードライバーの取り組みを推し進めることにより、新中期計画で掲げた目標の達成に向けて全社を挙げて邁進していくと締めくくった。