ニュース

マツダ、最軽量ロードスター「990S」に搭載された新技術「車両姿勢安定化制御」とは? 斎藤開発主査が解説

2021年10月24日 展示

新技術「車両姿勢安定化制御」が採用される新グレード「990S」

オープンデフのままでしなやかなコーナリングを実現!?

 マツダは10月24日、小型オープンスポーツカーである「ロードスター」(ND型)史上もっとも軽い特別仕様車「990S」を、日本限定設定ということもありロードスターオーナーの集まる「軽井沢ミーティング」にてサプライズ展示を行なった。また、イベント内でトークショーが開催され、990S開発主査の斎藤茂樹氏、商品本部の山口宗則氏がマイクを握った。

 まず斎藤氏は「2019年5月に主査となり、自分が初めて企画したモデルです」と990Sとの関係性を紹介。そしてロードスターの本質は、歴代の主査も追い求めていた「軽さ」であることから、この「軽さ」というのを改めてスポーツカーファンに確認してもらいたいという想いを込めて、すでに1tを切っている990kgの「S」グレードをベースに、もう1段進化させて「ピュアに楽しいクルマを届けたいと990Sを作った」とあいさつ。また斎藤氏は、「こういったファンイベントに足を運ぶことで、純粋に走りを楽しみたいというオーナーが大勢いることを教えてもらった」と明かした。

マツダ株式会社 商品本部 主査 斎藤茂樹氏

 外観で目に飛び込んでくるのが幌の色だが、カラーは「ネイビー」とのことで、斎藤氏は「軽快さを表現するのにはブルーが適していると考えてチョイスしました」と語り、合わせてエアコン吹き出し口のルーバー、フロアマットのロゴもブルーにしたという。さらに、今までは赤色とオレンジ色だったブレンボ製キャリパーを黒色にして、ブレンボのロゴも同じくブルーに。このように内外装にブルーの挿し色を採用したことで、「ボディ全体で軽快感を表現した」と斎藤氏は語った。

ネイビーの幌

 車両重量の990kgを車名に採用している「990S」は、ベースとなる「S」と同じ値ではあるものの、ホイールを純正よりも1本あたり800gほど軽いレイズ製に変更。4本で合計3.2Kgの軽量化を実現。さらに、ブレーキまわりではフロントにブレンボ製キャリパーを採用しつつ、リアはフロントの制動力アップに合わせてローターを1サイズアップするなど、重量が増加しているように思いがちだが、純正のフロントキャリパーが鉄製なのに対してブレンボはアルミ製となるため、前後ブレーキで合計700gの軽量化を達成していることも明かされた。

 斎藤氏は「よく(サスペンションの)バネ下1Kgの軽量は、(サスペンションの)バネ上10kgの軽量と同じぐらい効果があると言われていますが、今回バネ下を軽量したことで運動性能が向上したので、990Sではダンパーとバネをチューニングしました。また、EPAS(電動パワー・アシスト・ステアリング)もチューニングを行なった」と語る。

 さらに今回は「車両姿勢安定化制御(KPC)」という世界初となる技術を搭載していることも公表。具体的にはコーナリング中に0.3GぐらいのGがかかると、リアの内輪のブレーキを少しだけ効かせる仕組みで、ロードスターのリアサスペンションは、アンチジオメトリーサスペンションという構造のため、減速Gがかかるとサスペンションがボディを引き下げる動きをするといい、それにより接地感が増し、姿勢を安定させてくれるという。

 例えば左曲がりのコーナーであれば、コーナリング中は外側(右側)にGがかかり、左の後輪は浮き上がろうとするが、この「車両姿勢安定化制御」が働くことで、その浮き上がりを抑制してくれるという。開発中はちょっとでも違和感があったらあきらめようと思っていたそうだが、完成すると「あたかも電子制御サスペンションに乗っているかのように感じられ、まったく違和感がない」と斎藤氏は新技術採用の経緯を紹介してくれた。

開発チームは990Sを「キューキューマルエス」と呼んでいるという

 また、斎藤氏は「この機構はオープンデフのほうが適していて、スポーツ走行の際に装着するLSD(リミテッドスリップディファレンシャル)があると減速時にも両輪の回転数を合わせようと働いてしまうので、若干ギクシャクするシーンが生まれるが、オープンデフでは常にスムーズで、走りやすかった」と自身の比較走行の体験談を紹介。

「そもそも990Sは“家のまわりを普通に乗って楽しい”というのが最大のコンセプトにあり、ターンインのフィーリングを重要視していて、オープンデフならではの気持ちよさがある。990Sではダンパーの減衰力を限界まで下げたので、街乗りではもの凄くしなやかに足がよく動き乗り心地がいい。そう聞くとワインディングとかを楽しめるか心配になる人もいると思いますが、この車両姿勢安定化制御があれば問題なくコーナリングも楽しめる」と語った。

 斎藤氏は、この新技術「車両姿勢安定化制御」は、今後ロードスター全グレードに採用することも明かし、年内の発表、納車は来年を予定しているという。特別仕様車ではあるが、台数を限定せずに販売するという。また、ボディカラーに関しても若干の追加か変更があるとのことだが、この場では明かされなかった。ただし、すでにディーラーでは予約が可能というので、ディーラーでは価格も含めて情報がもらえるようだ。

軽量化のためマツダコネクトやカーナビはなく、ディスプレイラジオのみ装備

マツダ、NDロードスター史上もっとも軽い特別仕様車「990S」をサプライズ展示

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1360888.html

アラジンに出てくる「魔法の絨毯」みたいなコーナリングです

 続いて商品本部の山口宗則氏は「Sグレードは、車重が軽くて初代NA型にとても近いモデルなのですが、実はドライビングテクニックも要求される面もあります。逆に腕がある人が運転すると、とても気持ちよく走れるということでもあります。われわれ開発チームは、この純粋な運転を楽しめるSを信奉しているのですが、軽量化のためにマツダコネクトやナビも付いてないと、一番下のエントリーモデルのように見られてしまい、販売台数は他のグレードに劣ります。そこでどうにかロードスター本来の姿であるSが主役になれるようなモデルを作れないかと考えたのがこの990Sなんです」とあいさつ。

 軽量化のためにボンネットやダッシュボードのインシュレーター(防音材)も省き、まさに初代NAと似たような作りで、エンジンサウンドが室内に入り込んでくる騒がしさもある。しかし、「とにかく軽いからクラッチをつないだ瞬間に、誰でも『あっ、軽い』と体感できるのが魅力」と山口氏。

マツダ株式会社 商品本部 プロジェクトマネージャー 山口宗則氏

 また、新技術の車両姿勢安定化制御については、2017年から開発が始まっていたことを明かしつつ、最初に乗ったときの印象を「映画アラジンに出てくる魔法の絨毯のようで、ロールしないでコーナーを抜けていく姿が思い浮かんだ」と回顧した。さらに、「クルマ自体がコーナリングを感じて、自分で荷重をコントロールしている。例えるならスキー選手がスラロームで右足、左足と荷重を操っているのを、クルマ自体がやっているような。リアサスペンションが生き物になったような技術だと思う」と解説した。

 実際にテストコ―スにて社員も乗り比べたところ、車両姿勢安定化制御搭載車の場合は、横Gが抑制されることでロール量も減り、被っているヘルメットが左右に振られて窓枠にぶつかることがなくなったり、腰痛持ちの人もGの入力が少ないことで腰が痛くないという声もあったりしたという。

 この車両姿勢安定化制御は、DSCをOFFにすると一緒にOFFにできると明かされたが、ON/OFFの比較走行は危ないので、「サーキットやジムカーナ場などで自己責任の範疇で」とのこと。

ブラック本体×ブルー文字のブレンボ製キャリパー

 この990Sは日本のみの特別仕様となり、海外にも1.5リッターエンジンの設定はあるもののリアスタビの付いていないモデルがなく、またインシュレーターも必ず装着され騒音対策が施されているため、ここまで軽量なモデルは作れないという。

 そのほかに、同じような軽量モデルを2.0リッターでも出して欲しいという要望も多く出てきそうだが、タイヤ、ホイール、ブレーキ、冷却系、さらに増えたパワーを受け止めるためにパワープラントフレーム、ドライブシャフトも強化されるため重くなり、全体としては約50kgは重くなってしまうと予想され、これは助手席に人が乗るようなものなので、クルマとしての乗り味はまったく別物になってしまうという。もちろん軽快さはスポイルされるかもしれないが、パワー感はあるので、そういった別のベクトルに仕上がるだろうという。

 斎藤氏は「馬力と楽しさは比例しないが、軽さと楽しさは比例する。馬力を上げていけば、ボディなど強化しなければならないので必然的に重くなる。軽ければ軽いほどクルマは楽しいもの、運転を楽しむならこのロードスターが今はベストだと思う」と語る。また、主査として初めて仕上げた990Sついての総評を聞かれると、「まだ発売されていないので、ユーザーから評価してもらえてからの結果なので、ファンが喜んでくれれば最高です」と、まだプロジェクトは途中の段階であると締めくくった。