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KINTO、購入済みのクルマが持つ先進安全装備などを最新状態にアップデートさせる新サービス「KINTO FACTORY」オンライン説明会

2021年12月21日 開催

株式会社KINTO 代表取締役社長 小寺信也氏

 トヨタ車のサブスクリプションサービスを展開するKINTOは12月21日、2022年1月下旬から開始する新サービス「KINTO FACTORY」について解説するオンライン説明会を開催した。

 KINTO FACTORYは、「アクア」「プリウス」「プリウスα」「アルファード」「ヴェルファイア」とレクサス「UX」「NX」を対象に、車両の先進安全機能などを追加・改良する「アップグレード」、経年劣化などによって傷んだ内外装のリフレッシュやアイテム交換を行なう「リフォーム」といったメニューを提供する新しいサービス。

 対象モデルの詳細な情報や価格などはサービス開始に合わせて公開されるKINTO FACTORYの専用Webサイトで明らかにされる予定だが、対象モデルとなっていればKINTOのサブスクで手に入れた車両だけではなく、トヨタの販売店などで購入した車両もサービスを受けられるとのこと。このほかサービス内容の詳細は関連記事「トヨタとKINTOの新サービス『KINTO FACTORY』発表 『アクア』『プリウス』など7車種にアップデートやリフォームを提供」を参照していただきたい。

「納得感のあるリーズナブルさが多くの支持を得ている」

 オンライン説明会ではKINTO 代表取締役社長 小寺信也氏から、これまでKINTOが歩んできた3年間についての振り返りに続き、2022年からの新たな取り組みとなるKINTO FACTORYについて解説された。

 小寺氏はKINTOが誕生した理由について、トヨタ自動車の豊田章男社長から言われた「新しいクルマの売り方を考えろ」という言葉が契機となっており、この背景には、自動車業界が100年に1度の大変革期を迎える中で、新車販売の現場はディーラーの担当者とユーザーが何度もやり取りを重ねる旧態依然とした状況が続いており、普及してきているeコマースやデジタルマーケティングによって小売業の形態が根本から変わりつつある時流から取り残されないよう、新車販売でも大胆な変革が必要だという危機感があったという。

 また、同じくユーザーの意識も「所有から利活用へ」とシフトが進んでおり、ユーザーのカーライフをより豊かなものにするためには従来からの売り切り型だけではなく、もっと気軽にクルマを楽しめる新しいサービスを作り上げることが必要だとの考えもあり、2019年3月にクルマのサブスクであるKINTOがスタートした。

 開始直後の2019年は9か月累計で申し込み軒数が約1200件と苦戦したものの、契約プランの追加、対象車種の拡大などの施策によって2020年12月には累計約1万2000件まで一気に申し込み数が増加。2021年11月現在では累計約2万8000件まで利用が拡大しているという。

KINTOは「新しいクルマの売り方を考えろ」というトヨタ自動車の豊田章男社長から始まった
自動車販売における変革の必要性、ユーザーが求める気軽にクルマを楽しめるサービスといったニーズを実現する存在としてKINTOは誕生した
2021年11月現在で累計申し込み数は約2万8000件まで拡大

 好調の要因としては、まずKINTOのユーザーは「これまでトヨタ車に乗っていなかった人」も多く、これまではクルマを保有していなかった人、他メーカーからの乗り替えといった人を合わせると全体の6割以上になるという。これについて小寺氏は「サブスクというKINTOの新しい提案が、潜在化した需要を掘り起こすことができたと実感しています」と語った。

 また、トヨタの弱みとなってきた若年層のユーザー獲得も実現。ユーザー構成は20代~30代が4割以上となっており、これは菅田将暉さんを起用したTV-CMなどによる訴求に注力してきた結果と分析している。

 さらに2020年から追加した「5年プラン」「7年プラン」も全体の底上げに寄与。最新となる11月の契約状況ではスタート時からある「3年プラン」が従来水準を維持しながら、長期の7年プランがそれを大きく上まわる結果となっており、好調を牽引する具体例としては、新型「アクア」の7年プランをボーナス払いも含めて利用すると、車両本体価格に加えて税金、保険、メンテナンス費などを含めても月々の支払いが2万円を切る金額になると解説。ほかにも7年プランでは1万円台/月の車種を多数用意しているとアピールし、「納得感のあるリーズナブルさが多くの支持を得ているのではないか」との考えを述べた。

KINTOユーザーの6割以上が「これまでトヨタ車に乗っていなかった人」
20代~30代の若いユーザーが4割以上となっている
2020年5月に追加された長期の契約プランも好評を得ている
長期プランでは月々の支払いが2万円を切る車種も多数用意

「付加価値を継続して提供できるのはKINTOだからこそ」

 今年度には「お客さまにクルマをお届けしたあとも付加価値を継続してご提供したい」とのテーマを掲げて取り組みを実施。サブスクでクルマを提供しているKINTOでは「むしろ売ってからがスタート」という意識を持って事業を行なっているという。

 具体的には、さまざまな企業と提携して多彩なモビリティサービスを提供するWebサイト「モビリティマーケット」(モビマ)を4月からスタート。6か月が経過した現在では、提携企業は約20社から約50社に、提供プログラムは約15件から約110件に増えており、キャンピングカーのレンタルやSUVでのオフロード走行体験などが好評を得ているという。

2021年のテーマは「お客さまにクルマをお届けしたあとも付加価値を継続してご提供したい」
さまざまなモビリティサービスを提供する「モビリティマーケット」(モビマ)を4月からスタート。提携企業や提供プログラムも順調に増えている

 9月にはKINTOで契約した車両を仲間でシェアするための専用アプリ「わりかんKINTO」の提供を開始。このアプリでは走行距離に応じて発生するポイントを用意して、モビマと連携させて利用できる機能も開発している。

 また、6月に取り扱い車種として追加した「GRヤリス“モリゾウセレクション”」はKINTOとトヨタが開発した「人に寄り添って進化するクルマ」となっており、技術革新に合わせて最新のソフトウエアを反映する「アップデート」、ドライバーの運転データを基に、ユーザー1人ひとりに合わせたソフトウエア設定を提案する「パーソナライズ」という2種類のサービスを実施予定。このパーソナライズ実施に向け、11月に契約者を対象とした体験イベントを開催。コース走行のデータやユーザーの好みに合わせて車両のソフトウエアをその場で書き換え、リアルタイムにクルマを進化・最適化させるプログラムを体験してもらい、参加者からは「早くサービス化してほしい」との反響を多数得ているという。

 小寺氏は「クルマをお届けしたあとも付加価値を継続して提供できるのはKINTOだからこそできるサービスです。ご紹介した取り組みはまだまだ走り始めたばかりの小さなものですが、さらなる展開に向けて引き続き努力していきたい」と語った。

グループでKINTO車両をシェアするためのアプリ「わりかんKINTO」も提供中
「GRヤリス“モリゾウセレクション”」は「アップデート」「パーソナライズ」などのサービスで「人に寄り添って進化するクルマ」となる

「解約金フリープラン」の導入で支払い方法を拡充

 今後に向けた展開では「支払い方法の拡充」「クルマの進化への挑戦」の2つを柱として設定。

 支払い方法の拡充では12月14日から開始した「解約金フリープラン」を紹介。KINTOのサービス開始以降、多くの人から支払い方法についての意見が寄せられており、その中には将来のライフイベントを想定したり、将来の不透明さからクルマを利用する契約期間をよりフレキシブルにしてほしいとの声が多かったという。

 解約金フリープランはこの要望を商品化したもので、従来からある「初期費用フリープラン」から支払い方法を選べるようになり、初期費用フリープランでは名称どおり初期費用は0円で3年、5年、7年の契約期間を選択。期間の途中で解約する場合は所定の中途解約金が発生していた。解約金フリープランでは契約時に所定の申込金を支払うことで、まずは3年契約で利用がスタート。最長7年までの再契約が可能となっており、途中で利用を止めても中途解約金が0円となっている。このほか、解約金フリープランの詳細については関連記事「KINTO、クルマのサブスクに『解約金フリープラン』導入 月額利用料約5か月分相当の申込金で中途解約金をゼロに」を参照していただきたい。

 また、解約金フリープランについては「KINTOではこれまで、頭金0円でWebサイトで契約を完結できることで、お客さまがカーライフを始めるにあたっての費用や手間、ストレスを軽減させる『入口部分の整備』に重点を置いてきました。今回は解約金0円、お乗りいただいているクルマの再契約といった選択肢を新たに増やすことで、カーライフをスタートさせたあとの『出口部分の自由度』をさらに高めております」とした。

新たな支払い方法として12月14日にスタートした「解約金フリープラン」では、契約時に所定の申込金を支払うことで中途解約金が0円になる
解約金フリープランは、ユーザーがカーライフをスタートさせたあとの「出口部分の自由度」を高める支払い方法となる

「ユーザーからクルマがより深く愛される世界を目指す」

新サービスの「KINTO FACTORY」を2022年1月下旬スタート

 柱の2つ目となるクルマの進化への挑戦は、KINTO単体ではなくトヨタとタッグを組んだ新たな取り組みになると説明。これまではクルマを購入すると、手に入れた車両の価値は時間経過と共に低下していき、一方でクルマに関する技術は特に安全装備、電動化などの面で顕著に進化していき、クルマを保有する期間が長期と相まって、革新的な技術がユーザーに届きにくくなっているのが現状となっている。

 この問題を解消する“新たなクルマ世界観”として生み出されたのが同日発表したKINTO FACTORYのテーマで、ユーザーが購入したクルマに、技術革新に合わせたソフトウエアやハードウエア、アイテム類をタイムリーに反映する「アップデート」を実施。クルマが常に最新状態に進化していくイメージとなっている。

 具体例としてはトヨタ車でも数多く採用されている衝突被害軽減ブレーキについて取り上げ、初期のころは自車の前方を走行する車両が対象となっていたが、そこから昼間の歩行者も対応可能となり、さらに夜間の歩行者や自転車なども検知できるよう進化を続けている。今後も緩やかなコーナーや交差点などに検知対象を拡大するといった技術の進歩が見込まれているが、これまでは新しい機能の恩恵を受けるためにはクルマごと買い替える必要があった。しかし、KINTO FACTORYではソフトウエアの書き換えなどによって最新技術に対応させていくことを目指しているという。

従来はクルマを購入すると直後から価値が下がり始め、逆に技術の進歩から遅れていくようになっていた
アップデートを行なって最新の安全技術を手に入れ、車両の価値を維持するのが“新たなクルマ世界観”
ソフトウエアとハードウエアを進化させることで、同じクルマに乗り続けながらも先進機能の恩恵を受けられるようにすることを目指す

 また、KINTOではクルマの進化に向けた手段として、KINTO FACTORYで取り組むアップグレードとリフォームに加え、GRヤリス“モリゾウセレクション”でも実施を予定しているパーソナライズを含めた3つの方法を想定。これを実現することにより、クルマを手に入れたあとに価値が落ちることなく、新車に買い替えるコストも低減して「ユーザーの幸せの量産にもつながる」とした。

 この実現に向けた取り組みとして2022年1月下旬に始まるKINTO FACTORYでは、KINTOはトヨタが開発・商品化した最新技術をユーザーに届けるプラットフォーマーとなり、メニューに応じてトヨタの販売店などに施行を委託したり、OTA(Over The Air)アップデートによって車両の進化を実現していく。

 サービス開始当初のメニューとしては、アップグレードでは「パーキングサポートブレーキ」「ブラインドスポットモニター」といった先進安全装備の後付けを想定。リフォームでは「シート表皮の張り替え」「クッション部分の交換」「本革ステアリングへの交換」「上級品へのアップグレード」などを用意する。このほかにも多数のメニューを用意するほか、将来的にはさまざまな進化を提供できるようメニューの拡充を図っていくという。

 メニューの購入や支払いは、当初は購入ごとに行なうスタイルになるが、将来的には継続的な利用を想定するサブスクでの提供も行ないたいと小寺氏は述べ、さらにパーソナライズの商品化についても「なるべく早い時期にお届けできるようにしたい」と意欲を口にした。また、新サービスは“チャレンジングな取り組み”との位置付けから開始当初は一部地域での取り扱いに限定。スモールスタートからユーザーの利用状況などを踏まえて範囲を拡大していく予定となっている。

KINTOで想定する「進化をユーザーに届ける方法」は、アップグレード、リフォーム、パーソナライズの3つ
KINTO FACTORYはトヨタ自動車とユーザーを結びつけるプラットフォーマーとして機能する
サービス開始当初は、アップグレードでは「パーキングサポートブレーキ」「ブラインドスポットモニター」、リフォームでは「シート表皮の張り替え」「クッション部分の交換」「本革ステアリングへの交換」などを提供
サービスの概要。当初は東京都と静岡県にあるトヨタ系ディーラーが施行店舗となり、利用状況などに応じて順次拡大予定
サービス開始に合わせてオープンする専用Webサイトで、ネットショッピング感覚でサービスを購入できる
特に進化を続ける先進安全装備に対応するアップグレードについて、将来的にサブスクの導入を見込んでいる

 将来的な展望では、クルマの開発では従来のハードウエア主体の考え方からソフトウエアを中核とするスタイルに変化を遂げ、「ソフトウエア・ファースト」の時代へのシフトを進めており、ソフトウエア単体で提供するオンライン販売、サブスクがさらに普及していくのではないかと小寺氏は分析。KINTO FACTORYはそういったソフトウエア・ファーストでの販売における第一歩となり、豊田社長が口にした「新しいクルマの売り方を考えろ」との言葉を実践する手段としてさらに加速させていくと述べた。

 KINTO FACTORYによってクルマが人に寄り添って進化することで、ユーザーからそのクルマがより深く愛される世界を目指しており、ソフトウエア・ファーストの売り方を通じてこそこの世界が実現できると説明。KINTOはトヨタが将来に向かって取り組む新たなサービスをアジャイル(素早い、機敏な)に実現していくプラットフォームで、ここまで説明してきたソフトウエアビジネスの発展を中核を全面的に担っていきたいと考えていると語ってプレゼンテーションを締めくくった。

ハードウエア主体の考え方から、今後は「ソフトウエア・ファースト」の時代にシフトしていくと小寺氏
ソフトウエア・ファーストの売り方でユーザーからクルマがより深く愛される世界を目指す

質疑応答

質疑応答で参加した報道関係者からの質問に答える小寺氏

 小寺氏によるプレゼンテーションに続いて行なわれた質疑応答では、メーカーとしてはアップグレードして1台のクルマに長く乗ってもらうより、新車に買い替えてもらった方が収益につながるのではないかとの問いかけについて、小寺氏は「大変本質的なご質問で、『そんなサービスをすると新車が売れなくなるじゃないか』という声は社内にもたくさんあります。ただ、逆転の発想で、すでに新車の保有期間はほぼ10年となっています。これが短くなることはちょっと考えにくくて、クルマの価格もこれから先進安全装備や自動運転といった機能の追加によっておそらく高くなっていくので、さらに保有期間が延びていくのではないかと」。

「その一方で技術革新はどんどん進んでいろいろといい技術が生まれてくるので、逆にこれをお客さまにお届けしなければいけないのではないかと考え、KINTO FACTORYのサービスをスタートさせることになりました。もしかすると新車販売に影響するかもしれませんが、それはあまり考えず、この方がお客さまにとって付加価値が高い、『幸せになれるのではないか』ということでやっています」と回答。

 新たなサービスで課題になるとすればどのような部分だと考えているかとの質問に対しては、「アップグレードにしてもリフォームにしても、コンセプトが非常に新しいものです。サブスクリプションの『KINTO ONE』でも同じでしたが、これまでのクルマの買い方、クルマの持ち方と大きく違うので、お客さまになかなかご理解いただけないという点が非常に大変でした。Webサイトや販売店の店頭でスタッフの説明を聞いていただくと『なかなかいいじゃないか』と必ず言っていただけるのですが、そこに行き着くまでにものすごく時間がかかるというあたりが一番大きなチャレンジになると思います」。

「明日からたくさんの売上が立って収益が出るようなモデルではなく、5年、10年と掛けて育てていくような気長な取り組みとしてわれわれは考えています。行き着くところはSDGs的な地球環境保護の『作る責任』『使う責任』といったところで、そこを目指して今のクルマにおける作り方、売り方を変えていかなければならないのではないかということがわれわれの真の目的です。そのためにはサブスクでアセット(資産)としてお付き合いしていくことが一番簡単なやり方で、お客さまに対しても継続的に付加価値を提供して、クルマの価値をできる限り落とさず、せっかく生産したクルマを長く、健康な状態で使っていただきたい。最後の最後にはクルマを回収して、スクラップにした時も使えるものはリサイクルするというところまでいければいいなと思っています」と答えた。

 サブスクでのソフトウエアアップデートは米テスラも手がけているが、テスラとの違いについては「テスラさんが行なっているものと類似するサービスではありますが、われわれには販売店のサービスネットワークを持っている強みがあります。ソフトウエアの書き換えだけではなく、例えば安全装備で使うセンサーを追加する、カメラを追加するといったハードウエアまで組み合わせてアップデートできるところがありますので、少し違うやり方を導入していきたいと思っています」と述べた。

 また、トヨタでもすでに2020年9月からプリクラッシュセーフティのソフトウエアアップデートにより、車両に加えて昼間歩行者などの検知を可能にするサービスを行なっているが、これとの違いについて問われ、小寺氏は「プリクラッシュセーフティのリプログラミングも販売店さんで行なわれていますが、このサービス開始時にはKINTO FACTORYのコンセプトはまったくありませんでした。あとからわれわれが考えてやり始めたもので、お客さまの混乱を招かないよう、どこかで合流して一本化すべきだと考えております」と説明している。