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トヨタ、KINTOの「GRヤリス“モリゾウセレクション”」は何がアップデートされるのか?

2021年6月7日 発表

トヨタ自動車株式会社 執行役員 佐藤恒治氏( Lexus International Co. President、GAZOO Racing Company President、Chief Branding Officer)

 トヨタ自動車が手がけるサブスクリプションサービス「KINTO」。このKINTOに新しい車種として「GRヤリス“モリゾウセレクション”」が加わることが6月7日発表された。同日、トヨタはオンライン説明会を開催。トヨタ自身が「人に寄り添って進化するクルマ」に挑戦することを掲げた、“モリゾウセレクション”の意義が語られた。

 オンライン説明会には、トヨタ自動車 執行役員 佐藤恒治氏とKINTO 代表取締役社長 小寺信也氏が出席。“モリゾウセレクション”で実現するという「アップデート」と「パーソナライズ」の片鱗が示された。

株式会社KINTO 代表取締役社長 小寺信也氏

トヨタ自身が作り上げたスポーツカー「GRヤリス」

モータースポーツを起点としたクルマ作り

 KINTOの新しいメニューに加わったGRヤリス “モリゾウセレクション”は、トヨタ自身が設計・製造する4WDスポーツカー。先代ヤリスでのWRC(世界ラリー選手権)の参戦ノウハウが注ぎ込まれている。近年のトヨタスポーツカーとしては、スポーツカーの復権を目指した「86」、大馬力スポーツカーとしての「GRスープラ」などが存在する。しかしながら、86はスバルとの共同開発で生産はスバル、GRスープラはBMWとの共同開発で生産はマグナというのはよく知られている話。今回は、アップデートがテーマとなる上、実験的な販売という意味合いも色濃くあるため、自社製造、しかも少量で生産可能なセル生産を採り入れているGRヤリスが選ばれた側面もあるだろう。

 トヨタ自動車の執行役員であり、Lexus International Co. President、GAZOO Racing Company President、Chief Branding Officerである佐藤恒治氏は、レクサスのトップであり、トヨタのレーシング活動を統括し、トヨタのブランド戦略を作り上げている。その佐藤氏が語ったのが、“モリゾウセレクション”には「モリゾウ(MORIZO)」というレーシングネームでレース活動を行なっている豊田章男社長の強い思いが込められているということ。

 レースの現場では、毎戦毎戦データを取りながら常にクルマをアップデートして戦い続けている。そのアップデートには基本的な部分もあるが、ドライバーの好みや特性に合わせて行なっている部分がある。この“モリゾウセレクション”では、そういった「アップデート」と「パーソナライズ」を実施し、「人に寄り添って進化するクルマ」に挑戦していくという。

 具体的に進化する部分については、「走る」「曲がる」「止まる」というクルマとしての基本的な部分。ここに関する部分を、ソフトウェアファーストのアジャイル開発で行なっていき、“モリゾウセレクション”サブスクリプションサービスで提供していくという。

 例として挙げられたのは、4WDの制御や加速(馬力や変速タイミング?)のほか、エアロのアップデートに関しても。お魚フィンと呼ばれる「エアロ スタビライジング フィン」など、トヨタの空力開発力は高いレベルにあり、それらハードウェア開発能力なども活かしてく意図がうかがえた。

 ただ、これらのサービスが提供されるのは約1年後の来春になる。このサービスイン時期の遅れについて、「認可の関係もあるのか?」と確認したところ、どちらかというとサービスメニューの作り込みに時間がかかるという。何をどのように提供していくのか完全に決まっていない状況での発表という印象を受けた。

KINTOをより多くの人に知ってもらうことから始まった挑戦

KINTOは売ってからがスタート。お客さまとつながっていけると語る小寺社長

 この「人に寄り添って進化するクルマ」という挑戦をKINTOで始めることについては、KINTO 代表取締役社長 小寺信也氏が説明。この挑戦については、2020年3月、GRヤリスでモリゾウ選手がS耐参戦を始めたときにはKINTOの知名度がまだ低く、なんとかKINTOの盛り上げをサポートしたいとう発想があり、モリゾウセレクションを作って知名度を高めたらどうかという話が出てきたという。

 そのモリゾウセレクションに「もっと本質的な何かをこのクルマに埋め込みたい」と考えていたときに、隣でS耐参戦車の進化が行なわれていて、「ぜひともこのクルマ(GRヤリス)を使ってトライをやってみよう」となったとのこと。

 また、KINTOのメリットはお客さまに最初から最後までつながっていることと言い、ディーラーなどもお客さまとはつながっているが、お客さまの引っ越しなどでつながりが切れてしまうこともあるし、クルマがディーラー以外で売却されてしまうこともある。KINTOであれば、お客さまのデータを集めてのパーソナライズなどがやりやすく、将来的には海外のKINTOユーザーのサポートもインターネット越しで行なえるようになるかもしれないと小寺社長は語る。

詳細は未定、すべてはこれから

アップデートで最新の技術を取り込んでいく

 このKINTOのオンライン説明会では、来春に何かアップデートを行なう、しかしながら詳細は未定ということが語られた。ただ、GRヤリスというクルマの特性上、まずは「走る」「曲がる」「止まる」のところに関係するアップデートが行なわれ、それはお客さまのクルマの使い方というパーソナルデータを用いたものになるということだ。

 セッティングの振り幅などはどのくらいになるか分からないが、クルマの新しい可能性、クルマ選びの選択肢が増える、という意味では楽しみな施策であることは間違いない。

 それよりも驚きは、トヨタがこれほど決まっていない施策を発表したこと。佐藤プレジデントは、何度か「アジャイル」という言葉を口にしていたが、何をメニューに採り入れていくかも「走りながら考える」という雰囲気を感じた。トヨタと言えば、「堅実」「安定」「安心」「冒険不要」というイメージだったが、今回の施策はクルマの動的性能を積極的に変更していけるクルマ作りをという、最先端の取り組みを行なう宣言だろう。

 現時点で、来春何が行なわれるのか未定のためなんとも判断しづらいのが正直なところだが、“モリゾウセレクション”をKINTOで契約すれば、「人に寄り添って進化するクルマ」に挑戦するという世界でも最先端のクルマ作りの取り組みに参加できるのは間違いない。

アップデートとパーソナライズ。この2軸でクルマを進化させていてく