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NVIDIA、AIミニカー「JetRacer」を使ったトヨタ技術会「自動運転ミニカーバトル」紹介

2022年1月11日 公開

トヨタ技術会の紹介

 NVIDIAは、トヨタ自動車の有志技術団体であるトヨタ技術会が開催したRCカーコンテスト「自動運転ミニカーバトル」における、自律マシンのためのAIプラットフォーム「NVIDIA Jetson」の活用事例を同社公式Webサイトで紹介した。

 同イベントには約400名のトヨタ技術会会員が参加、NVIDIA Jetsonを搭載したロボカーも多く登場し、画像認識やAIといった技術を楽しみながら学ぶ取り組みについて会員のコメントなどを紹介している。

Jetson Channel Vol 16 | 「JETSON ゲストトーク トヨタ技術会」

 トヨタ技術会は、技術分野の発展に寄与することを目的とした、トヨタ自動車の有志技術団体。1974年に発足し、会員数は約2万7000名にのぼる。この団体では、プログラミングをはじめ、画像認識やAIといった技術を楽しく学ぶことを狙いとし、「自動運転ミニカーバトル」と称したイベントを2019年から毎年開催している。

 イベントは「プログラミング部門」「無制限部門」の2部門制で、プログラミング部門はトヨタ技術会オリジナルの超音波センサーを用いた自律走行マシン、無制限部門は参加者がレギュレーション内で自由に制作したマシンで規定コースでのタイムを競う。

「自動運転ミニカーバトル」は6月に参加者が決まり、講習会や走行練習を経て、予選を勝ち抜いたチームが10月の本戦に進む。約半年の期間で参加者のスキルアップをサポートするため、プログラミングや機械学習、ディープラーニングに関する講習会が定期的に開催される。

写真提供:トヨタ技術会(2021年12月時点の資料)

 イベントの規模は毎年拡大しており、2021年度は過去最多の計126チーム(約430名)が参加。このうち、予選を勝ち進んだ27チームが10月末に愛知で行なわれたレース本戦に出場。2021年度はタイムアタック制で上位勝ち抜けとし、準決勝よりバトル形式で対戦するルールが設定された。イベントにはトヨタ技術会会員のほかに、特別ゲストとして社外からタミヤ、FABOからのチームも参戦して、その高いスキルで無制限部門の戦いを盛り上げた。

写真提供:トヨタ技術会

 無制限部門で多くのチームが活用したのが、NVIDIAがオープンソースで公開するロボットカーのリファレンスモデル「JetRacer」。2020年度の「自動運転ミニカーバトル」の優勝者であり、2021年度も本戦に参戦したトヨタ技術会の田中裕貴氏もJetRacerを採用した。

 NVIDIAは本戦前の特別プログラムとして、JetRacerの開発にも携わったNVIDIA本社 Jetsonのテクニカル プロダクト マーケティング 矢戸知得氏のオンライン講演も実施。JetRacerの誕生秘話の公開や質疑応答が行なわれた。

 走行コースは「プログラミング部門」「無制限部門」2部門のどちらも、缶を壁材にして制作され、ショートカット部には色の異なる缶を設けるなど、細かな細工が施された。

 田中氏は、2021年度のコースの特長を踏まえたうえで、ハード、ソフト共に2020年度よりパワーアップを目指した。JetRacerに搭載されるコンピュータも「Jetson Nano」から「Jetson Xavier NX」にバージョンアップすることで自己位置推定とディープラーニングによるステアリングを共存させたほか、大幅な学習速度のアップを実現。また走行性能に関わる部分では、Formula E用のシャーシを採用し、急なUターンを攻略するなどの工夫もこらした。

 ソフトウェアとしては、入力カメラでコースの写真を数回に分けて約1250枚撮影し、Jetson内で学習させ、Resnet18の学習モデルを作成することでステアリング値として出力。また、トラッキングカメラによる位置情報の入力により、コースの場所にあわせて複数の速度セットも用意し、ステアリング値に合わせてスロットル値を設定した。何時間も走行させながら転移学習を重ね、さらに速度セットの調整も繰り返すことで走行タイムを縮めていくことに成功した。

トヨタ技術会の田中裕貴氏

 JetRacerを採用した理由として、導入の手軽さや学習のしやすさ、カスタマイズ性などを挙げた田中氏は「チームメンバーの中には、まず回路のつなぎ方から学ぶ人もいましたが、組み立て方からソフト準備、動作チェックなどはNVIDIAのGithubで公開されているので、それを読みながら日々進めることができます。JetRacerは、NVIDIA Jetsonという非常に強力なコンピュータを搭載しているので、撮影した画像から自分でアノテーションを作成し、Jetson上で学習させ、どこにもデータを移動せずにそのまま推論して走らせることができます。その手軽さが何よりもの魅力です。与えられた画像に対する最適なステアリング値を学習するので、操作が下手でも速く走れるようになるのも大きなポイントでした。実際、私の場合はJetRacerの走行タイムは手動での走行タイムより圧倒的に速い結果となりました」とコメント。

 また、イベントを振り返り田中氏は「AIカーの制作を通じて、AIがどういうものかを実感しながら学んでいくことができます。特にJetRacerだと自分で学習データを用意し、学習させ、その結果をすぐに目の前で見ることができるので、どのようなノイズがあるとダメで、どのように学習データを作ればいいかというのがどんどんわかるようになります。学びにつながり、実際、去年参加したメンバーでは仕事に活用しているメンバーもいました。また、イベントを通じて社外の方含め、技術者の輪が広がりました」とコメントした。

2021年度の「自動運転ミニカーバトル」企画委員である前田秀旭氏

 2021年度の「自動運転ミニカーバトル」企画委員である前田秀旭氏は「参加者からは、プログラミングやAIを学び、実装する経験ができて本当によかったという声が寄せられました。学んだ知識を業務改善や新しい業務のチャレンジに活かしている方も多いようです。AIを学習するコミュニティは数多くありますが、今回のような企画と運営がひとつの参考になり、業界がどんどん盛り上がりを見せるとうれしいです」とコメントしている。