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自工会 豊田章男会長、自動車業界は賃上げ率2.5%、納税額約10兆円、株主還元額約11兆円と「幅広いステークホルダーに持続的に還元」

2022年1月27日 開催

2022年最初の会見に登壇した日本自動車工業会 会長 豊田章男氏

2022年の5つの重点取り組み

 自工会(日本自動車工業会)は1月27日、2022年で初となる記者会見を
開催した。2022年初の記者会見には豊田章男会長(トヨタ自動車 代表取締役社長)、永塚誠一副会長、日髙祥博副会長(ヤマハ発動機 代表取締役社長 社長執行役員)、片山正則副会長(いすゞ自動車 代表取締役社長)、内田誠副会長(日産自動車 代表執行役社長兼最高経営責任者)、三部敏宏副会長(本田技研工業 代表取締役社長)、鈴木俊宏副会長(スズキ 代表取締役社長)と、四輪、二輪、商用車とすべての副会長が出席した。

 豊田会長は会見の冒頭、オミクロン株が社会に急拡大している状況を踏まえ、「医療従事者のみなさまをはじめ、経済社会を回し続けるために日々奔走されているすべての方々に心より感謝申し上げます」とお礼を述べたほか、「部品の供給不足やコロナ影響により、新車の納期が長くなっております。楽しみにお待ちされているお客さまに対しまして、ご迷惑をおかけしておりますことをお詫び申し上げます」と自動車の購入ユーザーにメッセージを伝え、「このような状況の中で生産対応してくださっているすべてのみなさまに深く感謝申し上げます」と、自動車業界にかかわる人たちに感謝の言葉を述べた。

会長、副会長が参加して会見を実施

 豊田章男会長は年明けのビッグイベントである東京オートサロンを細かく見て回り、「たくさんの仲間がつながり、支え合いながらやっているのが自動車産業だということ。そして何よりも、やっぱりクルマって楽しいということでした。どんなに時代が変わっても楽しい未来を作っていく。みんなでやれば、もっと楽しくできる。改めて大切な原点を肌で感じ、新年をスタートいたしました」との感想を持ったという。

 そして、新年一回目の理事会では、「私たちが目指しているのは、自動車を軸にみんなが幸せになる社会作りのお役に立つことです」という観点から、2022年の重点活動項目としては5つのテーマを設定した。

 2022年は「成長・雇用・分配への取り組み」「税制改正」「カーボンニュートラル」「CASE(自動運転・デジタル)」「自動車業界ファンづくり」に取り組んでいくという。

5つの重点テーマ

 とくに成長・雇用・分配への取り組みについては、「この中でもすべての背骨となるテーマが、成長と分配です。来月には春季労使交渉を控え、岸田総理も政策の中心に据えておられますので、本日はこの点について私の考えを申し上げたいと思います。自動車産業はこれまですべてのステークホルダーへの還元や分配を進めてまいりました。この中の2年間で雇用は22万人増やしております。平均年収が500万円とすると、家計に1兆1000億円のお金を回した計算になります。近年の平均賃上げ率は2.5%と、全産業トップの水準であり、自動車メーカーの12年間の累計納税額は10兆円、株主還元は11兆円です。従業員だけではなく、取引先、株主など、幅広いステークホルダーに持続的に還元をしてまいりました。これをさらに広げていくためには、そのパイを増やしていくこと、つまり成長が必要です。私は、成長とは一部が富を独占するのではなく、その果実が広く行きわたり、みんなが笑顔になるための必要なものだと思っております。その成長をどう実現するのか。バブル崩壊以降、日本の経済成長が停滞し、先が見えないデフレ社会の中で、金融資産や個人貯蓄、さまざまな保有が滞留しております。これを動かし、大きく回していくことが必要でないかと思っております」と紹介した。

コロナ禍での就業者数の変化
ステークホルダーへの還元

 その回していくための具体案としては、近年は15年超となっているクルマの保有年数を10年程度にすることを挙げ、「市場規模は現在の500万台から800万台にもなってまいります。これにより、自動車出荷額は7.2兆円増え、新たな雇用がうまれ、バリューチェーン全体にもお金が回ってまいります。税収も、消費税1%分に相当する2.5兆円の増収になります」と試算を示した。

自動車産業の成長と分配への取り組み
保有回転の効果

 もちろんこのようになるためには、保有や新車の購入に関するインセンティブの設定など税制への取り組みが大切になる。「税制改正」「カーボンニュートラル」にもふれ、現在自動車ユーザーが負担している総額8.6兆円の税負担の見直しが必要であるとしつつ、カーボンニュートラルに社会が移行することで減るであろう燃料関連の課税が、車体関連の課税に単に加わることのないよう、そして税制の方向性がカーボンニュートラル社会へ向かうよう要望した。

 そしてとくに強調していたのは、自動車産業は継続的に成長と分配に取り組んできたこと。毎年、研究開発費で約3兆円、設備投資費で約3兆円、株主還元で約1兆円、賃上げ率で毎年約2.5%。さらにカーボンニュートラル関連となる電池投資では、トヨタ・日産・ホンダで約3兆円の投資が行なわれている。このような取り組みを行なっていることを広く社会に理解してもらい、単に税金をかけやすいクルマに税金をかけるのではなく、自動車産業がより成長できるようサポートを訴えた形になる。

自動車ユーザーが納めている税金

自動車業界ファンづくり

「自動車業界ファンづくり」においては、日髙祥博副会長は二輪車業界が成長したことに感謝を述べ、自工会で行なっている「MOTOINFO(モーターサイクルインフォメーション)」の活動を積極的に行なっていくという。商用車においては片山正則副会長が語り、トラックと流通を支えるドライバーの理解を進めていくという。

 軽自動車においては鈴木俊宏副会長が「軽トラ市」について言及。なかなかイベントが開催しにくい状況ではあるものの、地域活性化、街おこしの意味もある「軽トラ市」の活動を進めていきたいと語った。

 また、このファンづくりに関して内田誠副会長から、会社の垣根を越えたタスクフォースが組まれていることが紹介された。若手によるフレッシュな意見も採り入れつつ進めていくという。

 具体的なイベントに関する言及はなかったが、クルマづくりの仲間を増やしていくには、国内の理解を超えてグローバルに訴求できるイベントでないと自工会としてやる意味はないだろう。

ソニーの自動車業界参入質問に対して

 ソニーが新たな試作車を発表するなど、技術展示会としてCESは世界的にも注目されているが、CESの大きな役割として小さなスタートアップ企業が数多く出展し、そこに多くの投資が集まり、企業の成長の場を提供していることにある。GoProなどはそうして大きくなった代表的な企業だ。世界的なクルマ関連企業が多く集まる日本が、どれだけの仲間を新たに加えてさらに成長できるか、そんな取り組みの発表を期待したい。

 また、ソニーのクルマ業界への参入(ソニー自身の発表では、バッテリEVの市場投入を本格的に検討していく、との表現)についても質問があったが、豊田会長は「自工会としてもソニーさんが本格的に自動車に入ってこられるのであれば自動車工業会にも入られるのかなと思って。お待ちしております」と歓迎の意を示した。