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自工会 豊田章男会長、「カーボンニュートラルにおいても自動車産業550万人の底力をもっとあてにしていただきたい」

2021年6月3日 発表

日本自動車工業会 会長 豊田章男氏

2023年の東京モーターショーについて言及

 6月3日、自工会(日本自動車工業会)は豊田章男会長、日髙祥博副会長、片山正則副会長、永塚誠一副会長出席によるオンライン記者会見を開催した。4月の自工会会見では、2021年の東京モーターショー開催中止が発表されたが、6月の会見では2023年の東京モーターショー開催について言及。リアルなイベントとして開催を検討していることが明かされた。

自工会 豊田章男会長あいさつ

 豊田でございます。早いもので、2021年も折り返し地点に入り、コロナ危機が本格化してから1年以上が経ちました。この間、数々の危機を乗り越える中で実感しておりますのは、私が自工会会長としてやってきたこの3年間はすべてつながっているということです。私が2度目の会長に就任しましたのは2018年5月でした。当時の自動車業界はCASE革命により、100年に一度の大変革期に突入し始めたころだったと思います。

 未来のモビリティ社会において、日本の自動車産業はこれからも主役でいられるのか。これが私たちに突きつけられた命題であり、その象徴が、来場者数が減少し続けていた東京モーターショーだったと思います。そこで私は、全く新しい未来のモビリティショーを企画してはどうかと提案させていただきました。

 私が伝えたミッションはただ一つ。未来のモビリティと、今のクルマの楽しさをお客さまに体感いただき、笑顔になっていただくことでした。それを受け取った現場のメンバーが知恵を出し合い、多くの新しい企画が動き出しました。

 大きくやり方を変えたことで、当初は反発もありましたが、多くの人たちの努力により、目標の100万人を上回る。130万人ものお客さまに笑顔になっていただくことができました。意志を持って行動を起こせば、現実は変えられる。私も含め東京モーターショーに関わった多くの人たちがそう実感したと思います。

 そしてこの動きが、自工会の組織改革へとつながってまいりました。会長が変わっても、自動車産業と日本の役に立つというミッションを持ち続け、実践できる組織にしたい。その思いで改革に取り組み始めました。その矢先にコロナ危機が襲ってまいりました。

 自工会は、早速自分たちの出番だ、と動くことができたと思います。すぐにほかの団体に声をかけ、危機を乗り越えるために、自動車5団体が一つになりました。日本のもの作りを支える人材を守り抜くこと。そして経済復興の牽引役になること。

 この2つのミッションを共有した現場のメンバーが動き出しました。そしてこうした動きは、エネルギーや輸送なども含めたクルマを走らせる550万人へとつながっていったと思います。またこの1年間、私たちが乗り越えてきた危機はコロナだけではありません。

 度重なる自然災害や半導体工場の火災など、どれをとっても日本経済に大きな影響を与える出来事ばかりでした。危機に立ち向かう現場を訪れるたびに感じることがあります。それは自分たちの利益のために動いている人は誰一人いないということです。

 そこにいるのは、日本のもの作りを守るために必死で働く現場の人たちです。

 私は自工会会長として進むべき方向を示しただけです。その思いに共感してくれた多くの仲間が、企業や業界の垣根を越えて頑張り続けた結果、20年度の自動車販売・生産は想定よりも早く回復し、自動車産業は49兆円の経済波及効果を生み出すことができました。

 雇用を守るだけではなく、12万人もの新たな雇用も生み出しました。この3年間私が実感したことは、自動車は一人一人がミッションドリブンで動く、現場に支えられた産業であるということです。だからこそ、旗を振り続けることで、現実を変えていけたのだと思います。

 そして次のチャレンジはカーボンニュートラルです。そこで必要なことは、数値目標や規制を掲げるだけではなく、何としてもカーボンニュートラルを実現するという意志と情熱と行動だと思っております。私たちはみんなで一緒に強くなってきた産業です。

 中小・零細と言われる数多くの企業には、日本のもの作りを支える人材がいて、まだ日の目を見ていない優れた技術がたくさんあります。私たちは誰一人取り残さず、そしてこれまでの蓄積を活かして、技術の選択肢を広げ、未来につなげていく道を選びたいと思っております。

 簡単な道のりではありませんが、このミッションを掲げ、現場の努力を未来につなげていくことが自工会会長としての私の役割だと考えております。

 コロナ危機において自動車産業は、経済復興のペースメーカーとして一定の役割を果たしたと思います。カーボンニュートラルにおいても自動車産業550万人の底力をもっとあてにしていただきたいと思っております。これからも私たちのチャレンジを応援いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

自工会 日髙祥博副会長あいさつ

日本自動車工業会 副会長 日髙祥博氏

 初めに新型コロナウイルス感染拡大という困難な状況の中でご尽力いただいております医療従事者のみなさま、エッセンシャルワーカーのみなさまにこの場をお借りして感謝を申し上げます。誠にありがとうございます。

 さて、豊田会長からのごあいさつにもございましたが、コロナ禍というこれまで想像することができなかった状況の中、生まれ変わっていく日本自動車工業会で、副会長として、また二輪車の代表として、昨年9月より走り始めました。

 副会長を拝命いたしましたおり、自工会では二輪車の価値を広げるための世界標準やルール作り、啓発活動に取り組んできましたが、ともすると守りの姿勢になりがちだったと感じていること。これからは、来るべき電動化も念頭に、世界標準策定や二輪ファンの拡大をリードしていく攻めの組織になっていきたいとお話をさせていただきました。

 まだ1年足らずですが、二輪委員会もチームとして組織改革の狙いを具現化すべく新たな取り組みを進めております。これからも業界各社のメンバーとともにチームとして精一杯取り組んでまいりますので、よろしくお願い申し上げます。

自工会 片山正則副会長あいさつ

日本自動車工業会 副会長 片山正則氏

 副会長を務めさせていただいております、いすゞ自動車の片山でございます。一言ごあいさつを申し上げます。昨年度は新型コロナウイルス感染症と闘いながら自動車産業が団結して雇用と経済の維持に取り組み続けた、誰もが経験したことがないとても厳しい、難しい1年でございました。そしてその厳しさは、今現在も続いております。

 コロナ禍において奮闘いただいております医療従事者のみなさま、また人々の生活を支えていただいているトラック事業者・バス事業者のみなさま、それを支えております関係者のみなさま方、心より感謝を申し上げます。

 自動車工業会の変革を含めた昨年度を振り返りますと100年に一度の大変革期の中、自動車工業会を含めた自動車5団体の加盟メンバー全員が新型コロナウイルスの影響も含めた危機感を共有し、自動車産業全体を支え続けていくために新しい体制で邁進した1年であったというふうに考えております。

 さまざまな社会課題に対する責務を果たすべく、個社の利害を超えた取り組みを進めるための自工会改革であり、豊田会長のリーダーシップのもと、着実に歩みを進めることができているというふうに感じております。

 これは会員各社が圧倒的な当事者意識を持って取り組めていることの成果であるというふうに認識しております。大型車目線で申しますと、トラックやバスなどの商用車は、国民生活を支える重要な社会インフラの役目を担っており、コロナ禍においても、物流、人流に関わる事業者の方々、また、プロドライバーのみなさまが最前線で経済活動や日常生活を支えてくださっています。

 この支える力をより発展させるために、決して簡単ではございませんが、カーボンニュートラル社会に向けた大型車における政府目標の達成に全力でのチャレンジを継続し、大型車メーカーだけでなく、全会員メーカーの力を結集し、さまざまな社会活動の社会問題の解決に取り組んでまいります。何卒、今後もよろしくお願い申し上げます。

質疑応答など

 質疑応答では、内閣府の成長戦略会議で示された2030年までに1000基程度の水素ステーション設置、急速充電設備の3万基設置に関しての意見などが求められた。

 この質問に対し豊田会長は「ぜひとも、これは設置することだけを目標にしてほしくないなというふうに思います」とコメント。目標はあくまでカーボンニュートラルとした上で、BEVやFCEVはインフラとセットで語られるものであり、まずは政府がインフラを成長戦略に取り入れてくれたことに感謝。しかしながら、数だけではなく、利用頻度なども気にしないと「結果として使い勝手がわるいということになりかねない」という。

 そのために、「もうちょっと自動車業界をあてにしていただきたい」とし、現在のBEVやFCEVに積まれたコネクテッド技術によって利用頻度は見えているので、そうした情報を活用してほしいという。

 政府の成長戦略については、「決める人、そしてエネルギーを供給する人、運ぶ人、そして使う人、すべてがカーボンニュートラルを実現するんだという一つのゴールに向けて足並みを揃えてやっていくことが必要なのではないか」と業界の力を全面的に提供するとの意思を示した。

 また、自動車業界のトップとしてコロナ禍の状況をどう見ているかとの質問には、業界のトップとしてではなく、一人の人間として、一人の大人として、子供たちに目を向けてほしいと語る。

「この1年、子供たちは外で満足に遊ぶこともできておりません。校歌も歌えないんです。修学旅行もなくなってしまいました。そんな日々を送っております。その子供たちこそが日本の未来を作っていくんじゃないでしょうか? その未来を作る子供たちが、人間形成において大切な時期を制約の中で過ごして、大人になっていくことは決して望ましいことではないというふうに大人の1人として思っております。これは我々、私も含めた大人の責任だと思います。我々大人はこうして発言の機会もあり、不平不満を言えますが、子供たちはそういう機会すら与えられません。今の子供たちが歳を重ねたときに、あのころの大人たちは一体何をやってたんだと言われないように行動をすることこそ、今の大人に求められているんじゃないのかなあというふうに思っております。この1年で街の風景も私たちの暮らしも大きく変わりました。仕事を失われた方、そして給料が満足に支払えなかった。いろんな現実がございます。コロナ前の状態がいつどのように戻ってくるのか、それは誰も見通すことはできないと思いますが、こういうときだからこそ、私たち大人は苦しんでいる人たちの心に寄り添い、みんなが前を向いていけるような言動リーダーシップ、そして丁寧な説明というのが必要なんじゃないのかなというふうに思っております。以上です」。

 そのほか、2023年の東京モーターショーについても言及。2021年の東京モーターショーはキャンセルとなったが、6月3日の理事会において2023年の東京モーターショーは開催することを決定。開催テーマは、2050年のカーボンニュートラルを見据えた「グリーン&デジタル」となり、人を中心に考えたものになるという。2023年の東京モーターショーについても、前回同様に業界の垣根を越えた形でやっていき、「リアルに久しぶりに人が集まれるビッグイベントになるんじゃないのかな」と、リアルイベントになることを明確にしていた。