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NXP、SDVを実現する車両制御用のリアルタイム・プロセッサ「S32E/S32Z」を発表

2022年6月23日 発表

NXPのGreenBoxを利用したデモシステム、手前がバッテリーセル、中央がGreenBox、奥の2つがモーター

 オランダの半導体メーカー「NXP Semiconductor」の日本法人NXPジャパン(以下両社合わせてNXP)は、6月23日に東京都内の同社オフィスで記者説明会を開催し、ドイツで行なわれているEmbedded World 2022において同社が発表したソフトウエア定義自動車(SDV:Software Defined Vehicle)向けリアルタイム・プロセッサ・ファミリー「S32Z」「S32E」というS32車載プラットフォームに関する説明を行なった。

 NXPによれば、S32車載プラットフォームは電動車(xEV)の制御などの車両の制御を従来型のマイコンなどからソフトウエア定義に置き換えるときに利用される車載プロセッサで、ドメインやゾーンなどと呼ばれる車両の機能やエリアなどによってさまざまなカバー領域にも柔軟に対応することができる。

 NXPは、同社が自動車メーカーなどに提供している開発キット「GreenBox」とソフトウエア開発キットを利用して、モーターやバッテリーをソフトウエアで制御する様子をデモした。

ソフトウエアにより実現されるSDV化が自動車メーカーにとっての大きなトレンド

NXPジャパン株式会社 マーケティング統括本部 マイクロコントローラ部 部長 山本尚氏

 NXPジャパン マーケティング統括本部 マイクロコントローラ部 部長 山本尚氏は、同社が発表したS32車載プラットフォームに関しての説明を行なった。

 今の自動車産業はCASE(Connected、Autonomous、Shared/Service、Electric)という4つの言葉に象徴されるように、インターネット常時接続、自動化、シェアエコノミーの導入、そして電動化という100年に一度と言われるような大きな変革期に突入している。これまで自動車の電装系の制御を支えてきたマイクロコントローラも同様で、従来の固定機能を持つマイクロコントローラから汎用のプロセッサ(CPUやGPUなど)にソフトウエアを組み合わせて、複数の機能を1つのプロセッサで実現するような形でソフトウエアにより定義される自動車、SDV(Software Defined Vehicle)と呼ばれる形へと進化しようとしている。

 SDVになることで、ソフトウエアをアップグレードすることで機能を強化したり、何らかの不具合が見つかってもソフトウエアをアップデートすることで対処できたりする機能上のメリットがある。また、自動車の中にスパゲティのようにはいまわされているアナログのケーブルが持っている機能を、1つのケーブルで代替できるようになるデジタルのケーブル(例えば車載イーサネットなど)に置き換えると、コストも重量も大きく削減することが可能になる。

 このため、自動車メーカーはSDVへの移行を今後数年間で急速に行なっていくというのが、今の自動車産業の形となっている。山本氏は「2025年に向けて日本の自動車メーカーさまもそちらに急速にシフトすべく、今まさにさまざまなお話をさせていただいている」と述べ、日本の自動車メーカーもSDV化は不可避だと考えており、今さまざまな取り組みを行なっていると説明した。

SDVに向けた車載E/Eアーキテクチャの変革

 山本氏によれば、SDVの実装方法により「ドメイン(領域)・フォーカス」「ゾーン(区域)・フォーカス」の2つのやり方に分けることができるという。簡単にいってしまえば、ドメインは中央集権的な実装で、そのエリアにあるマイコンを1つや2つのコンピューターチップとソフトウエアで置き換える形になる。それに対してゾーンは地方分権的な形で、複数の機能は1つにまとめるが、パワートレーン、ブレーキ、ADASなどをそれぞれ別のチップが実現する仕組みになる。山本氏は「最初はゾーン・フォーカスになり、それが最終的にドメイン・フォーカスへと移行していくと考えられていた。しかし、実際はゾーン・フォーカスとドメイン・フォーカスを併用する形での実装が主流になりつつある」と述べ、どちらかの考え方というよりも両方の考え方をミックスした実装方法が一般的だと指摘した。

Hypervisorによる仮想化など新しい手法に対応してASIL-Dの機能安全を実現するS32E/S32Z

車載インフラストラクチャー

 そうした上で、車載のインフラプラットフォームには

①車両制御(パワートレーンや電装系全体の制御、ハンドル・アクセル・ブレーキなどの制御)
②車載ネットワーク(ゲートウェイ)
③ボディー&コンフォート(ドアの開閉、エアコン制御など)
④インフォテインメント・デジタルコックピット(ディスプレー表示などの制御)
⑤ADAS/自動運転系(自動運転やADASなどの制御)

の5つが大きくあり、今回NXPが発表したS32Z、S32EのS32ファミリーは①の車両制御を担当するリアルタイム・プロセッサになると説明した。なお、NXPの車載事業は主に①~③に注力しており、その理由は④~⑤は全車両に搭載されるのではなく、現状ではオプションとなっていることが多いということで、ほかにもボディー&コンフォート向けにはS32K、車載ネットワーク向けにはS32Gなどの製品をエンド・トゥ・エンド(はじめから終わりまでの意味)で提供していくことで、自動車メーカーが容易にSDVを設計できるようにしていきたいと説明した。

NXPはエンドトゥエンドでソリューションを提供
リアルタイムアプリケーション例

 車両制御向けの具体的な機能としては、ステアリング、ブレーキやアクセルといった制御(ドライバーが人間かAIかに関わらず何らかの指示を出したときに行なう操作のこと)、パワートレーンの制御(バッテリーの制御やモーターの制御、およびエネルギーの最適化など)をS32E、S32Zが担当することになる。

S32E、S32Zの機能

 山本氏によればS32E、S32Zの機能としては「ASIL-Dに対応した機能安全、ECUの統合、動作障害を回避するロックステップ動作のサポート、ソフトウエア定義により機能を実現、高性能なリアルタイム処理、ドメインとゾーンどちらにも対応」(山本氏)などが特徴としてあげられるという。

Hypervisorによる仮想化

 また、Hypervisorによる仮想化に対応しており、物理的には8つあるCPUコア(Arm Cortex-R52)のうち、ロックステップ動作(物理的にCPUコアが故障しても動作が続けられるように、半分のCPUコアだけをソフトウエアに開放して残りはリザーブしておくような使い方)に対応しているため4つが利用できるようになっているが、その上でHypervisor(ハードウエアと仮想マシンの間に入り、仮想マシンからの処理要求を振り分けたりするソフトウエア)が走る形になっており、ハードウエアとOSが分離して動作していることで、仮に1つのCPUコアに異常が発生しても残りのCPUコアで性能はダウングレードしながらも動作し続けるなどの使い方が可能になると山本氏は説明した。そのためにCortex-M33が搭載されており、常時CPUをモニタリングしており、問題があるとそのCPUコアを切り離して動作させる仕組みになっている。

ロードマップ
構造

 そうしたS32EとS32Zは16nmプロセスルールで製造され、それぞれ8つのArm Cortex-R52 CPU(600MHz〜1GHzで同載)が搭載されている。なお、S32Zとピン互換の廉価版としてS32Z1シリーズという製品も計画されており、CPUコアは4つになるが、よりローコストで提供される計画だ。また、山本氏によれば将来は5nmで製造される製品も計画されており、近い将来に投入される計画だと説明した。

 なお、S32EとS32Zの違いは主にパッケージで、S32EはS32Zのチップに加えて、EEPROM、タイマー、SAR-DC、5V I/Oなどのアナログ回路がチップ上で統合されている形になっている。

まとめ

Hypervisor上で動作する仮想マシンでCPUコア1つがエラーになっても動作し続けるデモなどが行なわれる

デモシステムの概要

 NXPはそうしたS32シリーズを利用したデモを行なった。デモに利用されたのはGreenBoxという開発キットで、Cortex-R52が8コアというS32E/S32Zと同じCPUコアを搭載したS32S247TVというS32シリーズのプロセッサが搭載されている。そのシステムにバッテリーとモーターを接続し、Hypervisor上でシステム全体をコントロールするコントローラや、バッテリーやモーターなどを制御する仮想マシンを動かし、CPUコア1つにエラーが発生しても、仮想マシン上の機能は問題なく動作する様子などがデモされた。

 なお、NXPではS32E/S32Z向けの開発キットとして「GreenBox 3」を発表しており、S32E/S32Z上でソフトウエア開発を行ないたい場合にはそちらを利用することができるようになる。

デモシステム、左側の緑がGreenBox
Hypervisorの動作モニター物理的なCPUが1つ停止しても仮想マシン上の機能は動き続けている