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パイオニア、白ナンバー社用車などの「アルコールチェック義務化」最新動向説明会 今現場では何が起きているのか?

2022年9月5日 実施

パイオニアが白ナンバー社用車などの「アルコールチェック義務化」に関する最新動向説明会を開催した

問題は「安全運転管理者」の業務拡大

 パイオニアは9月5日、企業向けのクラウド型運行管理サービス「ビークルアシスト」のオプションサービスとして、アルコール検知器連携機能を提供するにあたり、新たなルールができた背景や今どうような状況になっているのか、最新動向についての報道関係者向け説明会を実施した。

 パイオニア 常務執行役員 モビリティサービスカンパニーCEOの細井智氏は、2022年4月1日より白ナンバー(自家用車)を5台以上、もしくは定員11人以上の車両を1台以上使用する事業所ごとに選任する必要がある「安全運転管理者」の業務として、新たに「アルコールチェック業務」が追加されたのは、2021年6月に千葉県八街市で起きた児童5人を巻き込んだ交通事故に起因していることに触れ、「岸田政権が痛ましい事故を二度と起こさないようにと、早急に対応した結果である」と解説。

パイオニア株式会社 常務執行役員 モビリティサービスカンパニーCEO 兼 グループCISO 細井智氏

 しかし、安全運転管理者にはすでに「点呼/日常点検」「交通安全教育/安全運転始動」「運行計画の作成」「交替運転者の配置」「運転者の適正把握」「運転日誌の備付け」「異常気象時の措置」といった膨大な業務があるうえに、新たに「アルコールチェック」が追加されることになるという。

 ちなみに、法人の白ナンバー車両は、自社の荷物や人員を“無償”で運搬する車両を指し、例えば、営業担当者が外まわりに使う社用車や、自社製造の部品や商品を取引先へと運ぶ配送車両などのこと。また、緑ナンバーの車両は、“運賃をもらって”他社の荷物や人を運ぶ事業用車両のことで、運賃や配送料をもらって旅客や荷物を運搬することが目的で、緑ナンバーを取得するためにはさまざまな厳しい条件がある。なお、緑ナンバーの場合、すでにアルコールチェックは2011年5月に義務化されている。

2022年4月1日に法人の白ナンバーの車両に対してもアルコールチェックが義務化された
アルコールチェックを行なうのは安全運転管理者で業務の多さが問題視されている

 また、追加されるアルコールチェックに関しては、運転前後の確認と、その記録を1年間保存しておかなければならないルールが設けられる。行き先によっては早朝出発や深夜帰着もあるし、直行直帰の場合もある。そうなると安全運転管理者は24時間体制のような業務体系に陥ってしまうだけでなく、これまでの運行日誌にはアルコールチェックを記載する欄もないため、別の管理表を用意したりするなど、業務が増えるだけでなく煩雑化してしまう企業も多いという。

 そこでパイオニアは、2015年にクラウド型運行管理サービス「ビークルアシスト」を開発。DXを活用してクラウド化、ペーパーレス化など、安全運転管理者の日々の業務を軽減するためのサービス提供を開始。これまでに1000社以上への導入実績を持っている。しかし、ビークルアシストを導入しただけでは解決できない課題もまだあるという。

アルコールチェックの過酷さとは?

パイオニア株式会社 モビリティサービスカンパニー マーケティング課 課長 大野耕平氏

 続いてパイオニア モビリティサービスカンパニー マーケティング課の大野耕平課長より、アルコールチェックに関してさらに詳しい解説が行なわれた。

 先述した通り、アルコールチェックは会社で選任された安全運転管理者の業務として義務化されるもので、警視庁のホームページでも「安全運転管理者の業務の拡充」と明記して周知している。

アルコールチェックは安全運転管理者の業務として義務化される
アルコールチェックの内容と段階的な義務化の流れ

 まず、今年の4月から施工されたのが「運転前後の運手者の状態を目視等で確認することにより、運転者の酒気帯びの有無を確認すること」「酒気帯びの有無について記録し、記録を1年間保存すること」の2つ。

 ただし、運転前後といっても、さすがにクルマに乗る寸前や降りた直後とまで厳しいわけではなく、出社時や退勤時でもOKとなっている。また、安全運転管理者も別の仕事で外出したり、体調を崩して休むこともあるので、そういったときのために副安全運転管理者や、安全運転管理者の業務を補助する担当を選任しておけば代理で確認業務を遂行できるという。なお、ドライバー業務をしている人は代理者にはなれないので注意。

運転前後の確認についての留意事項
安全運転管理者不在時の留意事項

 また、運転者の確認については「対面が原則」となっていて、運転者の顔色、呼気の臭い、応答の声の調子などを直接確認することとなっている。もちろん、これも早朝出発、深夜帰着、直行直帰などの実情を考えると現実的ではないので、携帯型のアルコール検知器を携帯させ、カメラやモニターなどでの確認やテレビ電話を利用するなど、遠隔での確認もOKとなっている。しかし、遠隔確認の場合は「なりすまし」なども可能で、「正しく運用するには運転者自身のモラルに頼る部分が大きいという課題がある」と大野氏はいう。

目視等で確認に関する留意事項
対面で確認できない場合の留意事項

 酒気帯びに関する記録を1年間保持することも、安全運転管理者の業務負担増加に拍車をかける要因の1つ。2021年6月の交通事故に起因して、翌年4月に施行されたアルコールチェック義務化。安全のためにスピーディに法律が改定されるのはありがたいが、従来の運行日誌にはそもそもアルコールチェック記入欄が設けられていないため、別紙を用意するコストと、それを記入する手間が業務に加算される。また、その記録も紙で行なっているのであれば、これまで1枚だったものが2枚になるので収容場所も2倍使用することになるし、その重量も2倍になる。DX化でデータ化していれば、保管に関しては負担増は少ないが、入力する手間は増加する。

 記録内容も「確認者名(=安全運転管理者)」「運転者名」「運転者の業務に関わる自動車の登録番号または識別できる記号や番号」「確認の日時」「確認の方法(アルコール検知器の使用の有無、対面でない場合はその具体的方法)」「酒気帯びの有無」「指示事項」「その他、必要な事項」と、ドライバー1名に対してかなりのボリュームがあり、台数が増えればこの作業が倍増していくわけで、安全運転管理者の業務はさらに過酷になる。

1年間保存しておかなければならない確認内容について
アルコールチェック確認記録表の例

 先述した通り、アルコールチェックはあくまで追加された業務であり、安全運転管理者は、他に「点呼/日常点検」「交通安全教育/安全運転始動」「運行計画の作成」「交替運転者の配置」「運転者の適正把握」「運転日誌の備付け」「異常気象時の措置」といった業務がある。業務過多を理由に、実態と異なる偽りの内容が記入されたり記入漏れなどがあっては、安全運転管理者の設置や運行日誌の記録は意味をなさない。

 また、パイオニアが企業向けに行なったセミナーでのアンケートによると、そもそも安全運転管理者を選任していない企業や、選任はしているけれど業務内容をしっかり把握してない企業も散見するという。さらに、安全運転管理者はそれだけが業務ではなく、総務など別の業務との兼任となっている場合も多く、大野氏は「運行台数にもよるが、安全運転管理者の業務過多は確実に業界が抱えている課題の1つ」と注意喚起している。

パイオニアが実施したアンケートでの安全運転管理者の業務の1つ「交通安全教育」の実施状況。半分以上の企業が年1回の実施を履行できていなかったという

半導体不足で供給が追い付かないアルコール検知器の義務化問題

 加えて、2022年10月1日より施工が予定されているのが、「運転者の酒気帯びの有無の確認をアルコール検知器を用いて行なうこと」「アルコール検知器を常時有効に保持すること」の2点。

 アルコール検知器とは、呼気(吐く息)によって酒気帯びの有無を確認する装置で、飲酒運転の検問で使用されている機器を思い浮かべれば分かりやすいと思う。営業所などに設置する据え置き型や、持ち運びが可能なハンディタイプがあり、常に営業所を起点に出発帰着する業務スタイルなら、据え置き型を1つ用意すれば済むが、早朝深夜や直行直帰といった変則的な業務がある場合、ハンディタイプを車両に積むしかない。

中央自動車工業のハンディタイプのアルコール検知器。右がBluetooth搭載モデルで、左はBluetooth非搭載モデル。Bluetooth搭載モデルは拡張機能を多く利用できるため価格も高くなる

 ところが、世界中で半導体不足が問題になっている最中、いきなり10月からアルコール検知器の使用が義務化されたため注文が殺到。精密機器であるアルコール検知器にも半導体が使用されているので、供給が追い付かない事態に陥っている。実際にアルコール検知器を製造している中央自動車工業 営業開発部 営業推進グループの三井剛正氏は、「増産体制を構築しているものの、現状では今注文していつ納品できるかを回答するのが難しい状況」と語る。

中央自動車工業株式会社 営業開発部 営業推進グループ 三井剛正氏

 また、アルコール検知器の使用の義務付けと同時にルール化される「アルコール検知器を常時有効に保持すること」という内容。これはアルコール検知器のセンサー部分がとてもデリケートなために設けられたもので、三井氏によると「センサー部は衝撃にも弱いし、強いアルコールがかかっても故障の原因となる。またセンサー部は使用回数の上限もあり、利用頻度にもよるがだいたい1年~2年ぐらいで買い替える事例が多い」という。

 毎日きちんと電源が入ることや、本体やセンサーに損傷がないことなど、安全運転管理者は定期的に故障していないかを確認し、常に故障していないアルコール検知器を用意しておかなければならない。これも業務をさらに増大させる要因となる。特にハンディタイプは運手者が常に携帯するため、営業所などに戻ってきたタイミングでチェックするなど、運行スケジュールの合間をぬっての確認作業が必要になってくる。

アルコール検知器を常時有効に保持するとは?
アルコール検知器の使用義務化は予定通り施工できるのか、はたまた延期されるのか……

 すでにアルコールチェックが義務化されている緑ナンバーの車両を運用している企業の買い替え需要もあるなか、新たに白ナンバーの車両を運用している企業からの需要が急増したため、現在10月からの白ナンバー向けアルコール検知器使用義務化については、適用が延期される可能性も示唆されている。

安全運転管理者の業務軽減につながるビークルアシスト

2015年から提供しているビークルアシストは、すでに1000社以上に導入され、実際に社員の安全運転意識に変化があった企業も多いという

 パイオニアは9月5日に、企業向けのクラウド型運行管理サービス「ビークルアシスト」のオプションサービスとして、アルコール検知器連携機能「スリーゼロ for ビークルアシスト」の提供開始(2022年9月28日予定)を発表しているが、この「スリーゼロ」を手掛けているのは、AIoTクラウドという企業。もともとは家電メーカーのシャープでAI搭載家電を手掛けていた部署で、現在はダイナブック傘下にいる。

 AIoTクラウド代表取締役社長の石黒氏は、アルコールチェック管理サービス「スリーゼロ」について、アルコール検査結果がいつも「0.00」と3つの0が並ぶようにと、アルコールゼロ、検査漏れゼロ、飲酒事故ゼロと、同じく3つのゼロへの安全管理支援への願いを込めたネーミングであると紹介。

株式会社AIoTクラウド 代表取締役社長 石黒豊氏

 スリーゼロ for ビークルアシストでは、スマホのカメラで読み取り、データを送信すればビークルアシストの管理画面でそのデータを確認・管理が可能になる。主な特徴は、OCR(Optical character recognition:光学文字認識)機能により、検査数値を自動で読み取るなど利便性を高めつつ、31社43機種のアルコール検知器に対応しているので、1社のメーカーの製品に揃える必要がなく、アルコール検知器の買い足しに柔軟性を持たせられる点が挙げられる。試しに操作をしてみたところ、スマホのインカメラとアウトカメラの切り替えも自動で行なってくれるので作業はスムーズで、1分もかからず完了した。

まずはスマホでログイン
アルコールチェック行うボタンをクリック
アルコール検知器を使用しているところを撮影(デモなのでマスクを着用)
アルコール検知器に表示された画面を撮影
あとは結果を送信するのみ
1分もかからずに完了

 昨今「アルコールチェック義務化」というワードがクローズアップされがちだが、実態としては安全運転管理者の業務が増大し、現場が円滑に回らなくなることが危惧されている。特に安全運転管理者が1人しかおらずワンオペ(ワンオペレーション)で運用している場合、日報の不備やなりすましの見落としなど、業務が破綻して安全管理が滞れば重大事故が発生する可能性も高まる。

 もちろん、ビークルアシストやスリーゼロ for ビークルアシストを導入するにはコストがかかる。燃料が高騰している今、導入するのが難しい企業も少なくないと想定できるが、DX化に加え副安全運転管理者と安全運転管理補助者をうまく活用することで、より安全で安心な営業車の運用ができるようになり、結果的には企業にとってプラスになるはずだ。

DX化だけでなく、副安全運転管理者と安全運転管理補助者をうまく活用することが求められている
Pioneer アルコールチェックの業務負担を軽減! クラウド型運行管理サービス「ビークルアシスト」がアルコール検知器連携機能の提供を開始します(2022年9月末予定)(2分19秒)

 また、パイオニアでは9月15日に、「ビークルアシスト」「スリーゼロ for ビークルアシスト」を紹介する企業向けウェビナーを開催するので、興味のある人、安全運転管理者の業務に就いている人は、一度参加してみてはいかがだろう。「申し込みWebサイト」

9月15日に、「ビークルアシスト」「スリーゼロ for ビークルアシスト」を紹介する企業向けウェビナーが開催される