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ヴァレオがCES2023で提案する「スマートポール」 優れたモビリティ技術をスマートシティ構築に活用

ヴァレオがCES2023で提案する「スマートポール」。自動車向けの技術が活用されている

スマートシティにヴァレオの技術を

 ヴァレオは1月3日、1月5日から米国ネバダ州ラスベガスで開催される技術見本市「CES2023」の報道公開を行なった。ヴァレオは自動車OEM向けに、電動化技術、センサー技術、サーマル技術、ライティング技術製品などを提供する世界的なサプライヤーで、CES2023においてもさまざまな技術展示を行なっている。

 サプライヤーの技術はあまり表に出てこないが、ヴァレオは世界初のレベル3自動運転車であるホンダ「レジェンド」に自動運転のキーパーツであるカメラやLiDAR、センサー、コントロールソフトウェアを提供しており、2021年にはホンダより優良感謝賞 開発賞を受賞しているほど。技術の高さがうかがえる部分だ。

ヴァレオCTO ジョフレ・ブコ氏

 そのヴァレオが提案するのは、自動車の優れたもモビリティ技術をスマートシティの構築へと転用していくこと。その例として、「スマートポール(Smart Pole)」というちょっと変わった提案が行なわれていた。

 ヴァレオのブースを訪れると、まず目に入るのが柔らかいラインでデザインされた街路灯になる。EVに充電ケーブルがつながっているので充電器のようでもあるが、よく見てもどのような技術展示であるのか分からない。あまりにも分からなすぎるのでヴァレオのCTO(最高技術責任者)であるジョフレ・ブコ(Geoffrey Bouquot's)氏にコンセプトなどを含めて教えていただいた。

 ジョフレ・ブコCTOによると、ヴァレオとしてはクルマなどに使われている優れたモビリティ技術をスマートシティ、スマート社会の構築に役立てていきたいという。

自動車のセンサーが多用されるスマートポール

 たとえば、このスマートポールにはクルマに使われているウルトラソニックセンサー(超音波センサー、ソナーとも)が下部に埋め込まれており、歩行者の接近を検知。歩行者のいる位置のみをLEDモジュールで照らしていく。歩行者のいる位置のみを照らすため、当然省電力だ。

 さらに、このスマートポールには、ヴァレオのカメラ、サーマルカメラ、レーザースキャナであるSCALA LiDARが埋め込まれており、スマートポール付近の歩行者の存在や距離などを正確に計測・モニタリングできる。スマートポールを交差点付近に設置すれば、信号を変えるイベントを発生することができたり、道路に飛び出したりしないような警告を行なうこともできる。ある意味、高度な人流管理ができてしまう提案でもあるが、人のミスを防ぐ、効率化を図るためのデバイスを容易に構築できる提案でもある。

人の立ち位置によって光る位置が変わる
SCALA LiDARとサーマルカメラ
サラウンドカメラ
超音波センサー、この位置の色が違うのはバイオマテリアルを使っているからとのこと

 さらに、このスマートポールにはEVへの充電器も組み込まれており、EVへの充電も可能に。ただ、よく見ると表示するLCDなどが備わっておらず、確認するとヴァレオのライティング技術で表示するのだという。このライティング技術は、最近のクルマでは見かけるようになってきた、サイドミラー下部のプロジェクションライトを使うこと。なんとか写真は撮ってみたが、薄い写真しか撮れず「夜に来ると見やすいよ」と言われてしまった。

 ジョフレ・ブコCTOは、こうしたクルマの技術を転用することでスマートシティの構築に寄与できるという。なにより、クルマのセンサーやライトなどはすでに開発済みのもの。新たなハードウェアの開発費はかからず、「アフォーダブル(手ごろな価格)に提供できる」という。確かにクルマ向けに量産されているものであれば、10年10万kmレベルの耐久性や耐光性を備えており、通常の量産品よりも稼働温度範囲も広い。しかも、大量生産されているので価格も抑えられ、現在はEV向けに低消費電力化が進んでいるので、稼働エネルギーコストも低い。

 さらによいのは、寿命を終えたクルマから取り出せば生産コストもかからないこと。なんらかの中古部品(センサー)のサプライネットワークは必要かもしれないが、そうした可能性も含めジョフレ・ブコCTOはヴァレオの持つモビリティ技術を活用することがアフォーダブルであると語ってくれた。

EV充電器を内蔵
充電表示はミラー下部に組み込まれることの多いプロジェクションライトを使用
スマートポールの各種センサーによるデータ

Zutacoreと協業したデータセンター用冷却システム

DELL EMCのデータセンターサーバー。ラックの下部に組み込まれているのが、ヴァレオの技術を使った熱交換システム

 次にジョフレ・ブコCTOが紹介してくれたのが、データセンターへのモビリティ技術の転用。具体的には、サーマル(熱)技術の転用だ。多くのPCには冷却のための空冷ファンが備えられているように、高性能なPCともいえるサーバーでは演算装置であるCPUの冷却が不可欠になっている。データセンターは、このサーバーを高密度に集積したもので、常に問題になっているのがCPUなどから発生する熱をどのように冷却するかだ。

 一般的にはファンを使った空冷となるのだが、高密度に配置されるデータセンター用のサーバーでは、安定した冷却が可能な液冷や水冷などのソリューションニーズも高い。ヴァレオは、そうしたCPUなどの冷却ユニットを持つZutacoreと協業し、液冷のデータセンターサーバー冷却ソリューションを提供している。

 この冷却技術は、冷却ユニットに電気絶縁性を持つ液体を媒質に用いること。この液体をCPUまで導き、そこで気体になることによって生じる気化熱などでCPUを冷却する。気体になった絶縁性の媒質は、サーバーラック下部にある熱交換器によって冷やされ液体へと戻るという。ここまで書けばピンと来る人もいるかもしれないが、これは冷蔵庫やエアコンの仕組みと同様だ。CPUまわりの冷却ユニットはZutacore由来の、熱交換ユニットはサーマルを得意とするヴァレオ由来の技術となっており、24時間365日故障することのゆるされないミッションクリティカルなデータセンター向けの冷却ソリューションになっている。

1Uのラックマウントサーバーが4ユニット入っていた
1Uサーバーの中。青が液体、赤が気体のラインでデュアルCPUの構成
Zutacore由来のCPU冷却ユニット
サーバーラック下部に設置されている熱交換ユニット。左のラジエータ部で放熱を行ないながら中央のヴァレオ由来の技術で気体になった媒質を液体へと戻す

 ただ実際、故障はゆるされないとはいえ、データセンターサーバーは故障することを前提として作られており、故障したラックサーバーは容易に交換できる作りになっている(1つが故障しても、複数のユニットによって仕事を止めない仕様)。とはいえ、故障率が低い方がオペレーションコストが安くなり、安定して冷却できればさらに故障率も低くなる。記者自身、かつてはパソコン雑誌編集部のサーバーを運用しており、大量のHDDの熱でサーバーが飛んでしまうので(だいだい半年に1回程度)、市販の扇風機をサーバーの前に置くという乱暴な対策を行なっていた。ひさびさにラックサーバーなどを見たが、あまりにスマートな冷却ソリューションに驚いたしだいた。

 ヴァレオによると、この液冷システムは空冷よりエネルギー消費を1/5にすることができ、特定のボリュームに対し5倍のコンピューティングパワーを引き出せるという。CPUは高負荷によって発熱し、発熱することで性能低下する(熱で電気抵抗が増えてしまう)ため、5倍のコンピューティングパワーとは高負荷領域で性能が低下しにくいということなのだろう。

 いずれにしろ、スマートポール、Zutacoreとのサーバー冷却システムとも、10年10万kmといわれる自動車部品の信頼性、量産性などが活かされており、ジョフレ・ブコCTOはヴァレオのモビリティ技術を新たな社会の構築に役立てたいとのことだった。