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アイシン、AIベンチャーIdeinのエッジAIカメラ「AI Cast」のハードウエアを製造 モビリティや駐車場監視なども想定

2023年2月7日 発表

アイシンがハードウエアを製造しているAIベンチャーであるIdeinのエッジAIカメラ「AI Cast」

 アイシンは、AIベンチャーのIdein(イデイン)が2月7日に開催した記者会見に参加し、両社が共同で開発したエッジAIカメラ「AI Cast(アイキャスト)」のハードウエア製造を担当することを明らかにした。

 このAI Castには、イスラエルのAI半導体ベンチャー企業Hailo(ハイロ)が開発した26TOPs(※1TOPsは1秒間に1兆回の四則演算ができる単位)の性能を実現したエッジAI処理チップ「Hailo-8(ハイローエイト)」を採用しており、比較的少ない消費電力で高いエッジAI処理を行ない、Ideinが提供していた従来製品に比べて100倍以上の性能を実現するという。

アイシンがAI開発で協業しているIdeinと共同開発したエッジAIカメラを製造

アイシンの企業概要

 アイシンといえば、トヨタグループのティアワン部品メーカーで、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーにパワートレーン、ADASシステム、車体などの自動車部品を納入している日本を代表する自動車部品メーカーの1つ。

株式会社アイシン 先進開発部 徳山現氏

 今回発表された新しいエッジAIカメラのAI Castは、アイシンの中でも挑戦的な製品を開発する先進開発部と呼ばれる部署でIdeinと共同開発してきたもので、アイシン 先進開発部 徳山現氏は「アイシンはハードウエアの開発と製造を担当している。また、われわれの部署は新規事業に取り組んでおり、さまざまなAI技術の開発を行なっている」と述べ、今回のプロジェクトがアイシンにとって、新しい事業を創造するという意味があると説明した。

アイシンでは先進的なAIアプリケーションの開発を行なっている

 さらに徳山氏によると「アイシンではドライバーモニタリングシステム、自動バレーパーキング、自動運転バスの乗客を見守る乗客見守りシステム、対話型AIエージェントとなる“Saya”などのAI先端技術の開発を行なっており、社会的な各種課題をAIで解決していきたいと考えている」と述べ、自動車向けも含めて複数のAI技術の開発を行なっていて、その延長線上に今回の製品があると説明した。

AI Castハードウエアの概要

 今回Ideinとアイシンが発表したAI Castには、1920×1080ドット(FHD)の解像度を持つカメラが内蔵されているほか、画像認識エンジンとしてHailoのHailo-8というAIプロセッサーを採用している。徳山氏は「Hailo-8は26TOPsという高い性能を持っており、画像認識の多くをエッジだけで処理できる。これは従来の製品に比べて実測性能で100倍以上になっている。従来製品に比べて圧倒的に高い性能を実現していることが特徴だ」と述べている。

AI Castの将来の展望

 徳山氏によれば、まずはIdeinの既存の顧客であるリテールや商業施設などへの展開を考えているが、将来はMaaSのようなモビリティ分野や駐車場の監視といったアイシンの強みがある用途にも拡大していきたいとのことだった。

AI Castは従来品の100倍の性能で小売店のDXを加速していく

エッジAIカメラ「AI Cast」を手に持つIdein株式会社 代表取締役CEO 中村晃一氏

 アイシンが製造を担当するAI Castを開発して販売を行なうのはAIベンチャーのIdeinだ。Idein 代表取締役CEOの中村晃一氏は「これまでAIの処理の多くはクラウド側で行なわれてきた。しかし、人間が使っているスマートフォンなどのデバイス数は増えていないが、IoTはそれを超えて増えていることによるデータセンターや回線への負荷集中、自動運転など超低遅延需要の増加、プライバシーへの高まりといった理由により、クラウドからエッジへと回帰が起こりつつある」と述べ、続けて「AIを演算する場所がクラウド(インターネットの向こう側にあるサーバー群)からエッジ(スマートフォンや自動車など端末側)に移りつつあるのが今のトレンドだ」と説明した。

Ideinの企業概要、Actcastというソリューションをすでに展開している

 中村氏によればIdeinはそうしたトレンドをフォローすべく設立されたソフトウエアベンチャー企業で、エッジでAIを処理するソフトウエアなどを開発して提供しており、Raspberry Piというハードウエア上で動くエッジAIのソフトウエアソリューション「Actcast(アクトキャスト)」などを提供している。また、アイシンとはAI開発で協業しており、自動車向けや今回のような製品に向けたソフトウエア開発も行なっているという。

Ideinが提供するソリューション
Raspberry Piベースのハードウエアに向けたソフトウエアを提供している

 また、同社のソリューションはファミリーマート、そごう・西武などの小売業にも採用されており、小売店の店頭などにAIカメラを設置して、収集した画像データから顧客のプライバシーに配慮した情報だけを収集し、それを利用して商品の配置を換えるといった用途に活用されていると中村氏は言う。

ファミリーマートの事例
そごう・西武の事例
京セラコミュニケーションシステムの事例

 今回Ideinとアイシンが開発した新しいAI Castはその進化版となり、より強力なAI処理プロセッサーを内蔵することで、処理能力が上がっていることが大きな特徴になるという。中村氏によれば「画像分類の実効能力は9.3TOPsあり、1秒間に1327枚のイメージを処理できる性能を実現しており、従来のRaspberry Piベースの製品に比べて100倍以上の性能を実現している」と説明した。

従来製品に比べて100倍の性能を発揮
AI Castなら高機能・高精度なAIモデルが実行可能となる
AI Cast デモ (Instance Segmentation)

 また、動画で両製品の違いをデモンストレーションし、従来の製品では小さな解像度(192×192ドット)の動画で検出可能な物体は1つ、検出方法も位置と大きさだけだったのに対して、新しい製品では解像度(640×640ドット)と高精細になり、さらに検出できる物体の種類も80種類に増え、検出方法は位置と大きさに加えて形状も検出できるようになったと説明した。

 中村氏によれば、こうしたAI Castは小売業のエッジAIとして活用されることが期待できるほか、将来的にはスマートシティのような交通量の解析やインフラ監視といった用途などに活用していきたいと説明した。

イスラエルの半導体ベンチャーHailo、2.5Wで26TOPsという高い電力効率のAIプロセッサーを提供

Hailo Japan合同会社 社長 内田裕之氏

 Hailo Japanの社長 内田裕之氏は、Hailoが両社に提供するAIプロセッサーHailo-8に関して説明を行なった。内田氏によれば、同社は2017年にイスラエルで創業した半導体ベンチャーで、エッジAIのプロセッサーを開発してすでに大量出荷を行なっているという。

Hailoの概要
Hailo-8は2.5Wで26TOPsを実現
伸縮可能なアーキテクチャを採用

 その最初の製品がHailo-8になる。Hailoは消費電力が2.5Wで26TOPsを実現し、低消費電力かつ低遅延がセールスポイントだという。また内田氏によれば、Hailoでは1チップの17×17 FCBGAの小型パッケージとして単体で提供するほか、M.2やMini PCI Expressなどのモジュール形状、さらには複数のチップ(4/5/6チップ)をPCI Expressの拡張カード形状で提供されているとのことで、26TOPsから複数チップを使えば156TOPsまで高い柔軟性を実現できると説明した。

「AI Cast」の仕様(※開発中のため変更になる場合もあり)

動作環境:温度マイナス10~40℃、湿度 20~80%RH
有効画素数:1920×1080 画素
画角:水平62.2度、垂直48.8度
AI機能例:混雑状況把握、人数カウント(入店数計測)、デジタルサイネージ等の視認計測、属性検知など(ほかにも顧客のニーズに合わせたAI機能を提供可能)
マイク・スピーカー:なし(※USBデバイス接続により拡張可能)
防水機能:なし(屋内用)
無線通信:Wi-Fi(2.4GHz/5GHz IEEE 802.11b/g/n/ac)、Bluetooth 5.0,BLE
LAN通信:あり(100base-T)
電源:PoE給電またはDC電源5V/4A(最大値)
外部接続:USB×1(Type-A)
寸法:76×58.5×103mm(幅×奥行き×高さ)
質量:約180g
販売スケジュール:2023年2月中旬 販売予約開始(予定)
商品内容:AI Cast(本体)、電源アダプター、取扱説明書