ニュース
金属3Dプリンタ技術を活用する「群馬積層造形プラットフォーム」活動報告 ヘリテージパーツなどへ適用を目指す「探索マップ」発表
2023年5月18日 14:00
- 2023年5月17日 実施
新たな企業の参画で金属積層技術の応用幅が拡大
日本ミシュランタイヤ、共和産業、しげる工業、東亜工業といった群馬県の企業で作る「一般社団法人 群馬積層造形プラットフォーム(Gunma AM Platform:略称GAM)」は5月17日、設立約2年を迎えたことから、現状の技術報告と新たに参画した企業、これからの展開について説明会を実施した。
GAM代表理事(共和産業 代表取締役社長)の鈴木宏子氏は、GAMはモノ作りのための人材育成と群馬発の新しいテクノロジを発信するために立ち上げ、人材育成プログラムについては昨年4月にミシュランタイヤ太田サイト(群馬県太田市植木野町)内に開設した「ミシュラン AMアトリエ」にて、すでに多くの人材が育っていると報告。また、金属積層技術については。中小企業の場合コスト的に1社だけでは設備投資が難しく、まだまだ発展していない分野であると説明。さらに鈴木氏は「だからこそGAMの金属積層技術を使って価値のあるものを生み出せることを示していきたい」と意気込みを語る。
続いて日本ミシュランタイヤ 代表取締役社長 須藤元氏は、フランスでは以前からミシュランと協業関係にあるというフランスの国立産業技術センター「Cetim(セティム)」と「群馬県立ぐんま産業技術センター」が新たにGAMに参画したと紹介。
セティムは2022年6月にGAMに正式加入済みで、今回はシンガポールにある法人Cetim-Matorのゼネラルマネージャーであるポリーヌ・ル・ボルニュ氏があいさつを担当。今回のGAM参画について「セティムは1965年に機械工業分野の国立産業技術センターとして設立し、主に中小企業に対して最新技術のレクチャーとサポートを行なうことで、グローバルに機械工業分野の底上げを目指している。金属積層技術は複数の技術要素が必要で、人材育成、設備開発など莫大なコストがかかるので、GAMのような共同体での動きはとても重要。セティムはフランスでもさまざまなプロジェクトに参画しているが、これまで25年間培ってきた金属積層技術のノウハウをGAMへ提供しながら、より国際的な産業パートナーとして新たなニーズを発掘していきたい」と期待を述べた。
また、群馬県内の中小企業へ仕事を斡旋する群馬県立ぐんま産業技術センター所長の細谷肇氏は、「トポロジー最適化をはじめとしたシミュレーション技術、立体CAD技術など高い技術を持っていて、さらに製品ができた後の検査なども行なっているが、今回GAMに参画することで金属3Dプリンタを使えるようになり、設計から製造・検査まですべてを一連で行なえるようになった。県内へのサポートもより強化できる」と参画の狙いを語った。
さらに、この説明会が群馬県庁の中で行なわれた関係もあり、群馬県知事の山本一太氏も登壇し、去る4月29日~30日に主要7か国とEUの首脳が参加する「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」が群馬県で開催されたことに触れ、「このG7会議の開催は4県が立候補したが、群馬県にはグローバル企業のミシュランがある、デジタル技術を推進させているGAMのような取り組みを行なっているというのをアピールできたおかげで開催を勝ち取れた。県内の産業の活性化にもつながっている」と感謝を伝えた。
GAM設立から2年。ここまでの進捗を3社が報告
プレス製品を手掛ける「東亜工業」
トヨタ自動車やスバルのティア1メーカーで、車体の骨格やサスペンションなどのプレス製品を手掛ける東亜工業からは、代表取締役社長の飯塚慎一氏が登壇。GAMへは乗員の命を守るための技術を高めるために参画していて、「金属積層技術を早期に習得することで、新たな分野の開拓やエンジニアの人材育成を目指している」と語る。
この2年での成果としては、セティムとの共同開発が始まっていて、これまではプレスした後は「切る」「削る」といった加工しかなったが、金属積層技術によって「プラスする」ということが可能になり、飯塚氏は「これまでは考えられなかったようなモノが作れるようになる。まだ着手したばかりの新技術のため実用段階にはないが、トライ&エラーを繰り返しながら進めている。また、スタッフの育成にもつながるし、若手に技術の楽しさを伝えていくきっかけにもなる」と報告した。
金型による樹脂パーツを製造する「しげる工業」
続いて、スバルやダイハツ工業の自動車の内外装品やシートなどを手掛けている、しげる工業 取締役常務執行役員 開発本部本部長の熊谷泰典氏が登壇。主要製品はダッシュボードやドアパネル、センターコンソールなどの樹脂成形品で、金属積層技術で直接製品を作るのではなく、成形金型へ活用している。
熊谷氏によると樹脂成型品製造の理想は、「仕上がりの精度が均一になること」で、そのためには、金型に射出した高温の溶解樹脂を、素早く均等に冷却することが肝となり、均等に冷却できないと変形や反りが発生してしまうという。
例として四角い箱のような形状を製造する場合、従来の技術だと冷却用配管は外側から削って穴を開けるのみの単純なものしかできなかったが、金属積層技術を使うと金型の内部に縦横無尽に冷却用配管を細かく作ることができ、その結果「均一に冷却できるようになり反りや変形などの発生が減少しただけでなく、冷却が完了するまでの時間も約半分になった。量産性を含め今後活用できる高い技術であると感じている。今後は樹脂や条件を変えながらより高い効果を引き出していきたい」と熊谷氏はGAM参画後の現状を説明した。
次世代パワートレーン部品などを手掛ける共和産業
最後はGAM代表理事の鈴木宏子氏が、共和産業 代表取締役社長として登壇。共和産業は「多品種少量生産」を軸に、モータースポーツで使うような次世代の自動車用パワートレーン部品や試作品など、素材から加工まで一貫して手掛けている企業。
アメリカのNASCARレースに参戦している日本人ドライバー尾形明紀選手のサポートを行なっているつながりから、アメリカで「砂型鋳造」「インゴット削り出し」「3Dプリンタ」と部品製造に関する見積依頼があり、「金属の3Dプリンタ?」と当時まだ日本では金属積層技術は広まっておらず、慌てて探したところGAMを見つけ参画したと振り返った。
共和産業は、この2年間の活動を通して14名がGAMの人材育成プログラムを受講。講習はすでにフランスで実践しているメニューに、GAM独自の内容をプラスしているという。また、成果としてはシリンダーヘッドなど実用化レベルでのエンジンパーツの製造を実現。すでに自動車メーカーからは部品が供給されない旧車の補修パーツや、アフターパーツとして期待できるという。
また、共和産業は脳外科内視鏡手術用精密鉗子(超精密ピンセット)「TAKASAKI」を製造するなど医療分野にも進出していて、医療現場で使われている微細パーツは職人のハンドメイドが多く、職人の高齢化が進むと共に後継者不足により技術継承がままならない状況という。そこで職人の技をDX化し、金属積層技術を活用した精密医療器具の安定製造を目指すとしている。さらに、GAMでは金属パウダーを結合させて新たな素材を生み出すことも可能だと分かり、「さらなる挑戦を続けていく」と鈴木氏は語る。
今回の説明会では実際に金属3Dプリンタで製作したシリンダーヘッドを展示した共和産業。目視での確認は難しいが、約50時間ほどかけて何千もの金属を積層させることで完成するという。仮に「日産自動車のGT-Rに搭載されているRB26DETTのエンジンブロック(腰下)も製造可能なのか? しげる工業の冷却金型の技術を応用すれば、実物よりも理想的な冷却水路(ウォータージャケット)も可能ではないか?」と聞いてみたところ、鈴木氏は「技術的には可能です。むしろ当時よりも高性能なパーツとして製造することもできると思います。しかし、少しでも形状が異なれば自動車メーカーは純正部品としては扱えなくなるため最近増えているヘリテージパーツとしては売り込みが難しく、アフターパーツ的な扱いになると思います。そうなるとすでに海外ではそういったパーツに着手しているメーカーもあるため、日本で製造して海外へ輸出してメリットがあるのか? 国内の需要だけで利益が出せるのかなど、検討すべき要件がたくさんあります」と語ってくれた。
GAMの今後の活動指針「探索マップ」を作成
GAM代表理事の鈴木氏は「金属積層技術は欧米の方が進んではいるものの、まだまだ発展する余地があり、成熟したビジネスにはなっていない。また新しい価値が見つかると、同時に新しい課題も見えてくるため、GAMで進むべき道をビジュアル化して、研究開発と軌道修正を繰り返しながらも実用化を目指していきたい。金属積層技術はたくさんの知見や設備が必要になるので、企業の参加が増えるほどスピードを加速できるので、一緒に課題解決と新技術を共有したい。群馬県外からも、ぜひ参加していただきたい」と語る。
また、GAMとしての当面の目指す方向性としては、しげる工業が着手している「コンフォーマル冷却金型」の技術活用と、共和産業の「少量生産の自動車部品」への適用を挙げ、サロン会員、正会員、賛助会員らで知見を持ち寄り、あらゆる方向にフレキシブルに展開できるような「探索マップ」を作成し、新たな価値創造につなげたいとしている。