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Unityが産業分野に注力 2024年以降のダイムラーのクルマのすべてにUnityで作ったHMIを搭載

2023年5月30日 開催

Unityで作成したHMIのデモンストレーション。メーター表示の中央には現在走行中の様子が滑らかな3Dで表示される

 Unity Technologiesの日本法人、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは5月30日、産業分野での事業戦略の発表やデジタルツインの事例を報道向けに紹介した。自動車業界では2024年以降、ダイムラーのすべてのクルマに「Unity」で作られたHMI(Human Machine Interface)を搭載することなどが紹介された。

産業分野に注力、自動車や製造などにも採用

 Unity Technologiesはゲームエンジン「Unity」を開発する会社として知られているが、今回の発表はこれまでのゲームやエンターテインメント分野に加え、産業分野において、デジタルツイン技術の活用とイノベーションにも注力していくという。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社 執行役員産業営業本部長 松本靖麿氏

 戦略発表会では、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 執行役員産業営業本部長の松本靖麿氏がUnityについて説明。まずはUnityが「デジタル制作のデフォルトメディアになると見込んでいる」とし、産業分野にも利用が進んでいることを強調した。

各産業分野での現状と課題

 続けて、建設、インフラ、製造、自動車、小売など各産業分野においての適用事例を紹介。自動車分野ではメルセデスベンツのHMIとIVI(in-Vehicle Infotainment system)を例とし、2024年以降、ダイムラーのすべてのクルマにUnityで作られたHMI(Human Machine Interface)を搭載することに合意したことが紹介された。

自動車業界
製造分野
メルセデス・ベンツの例では、2024年以降、ダイムラーのすべてのクルマにUnityで作られたHMIを搭載する
ルノーの例

 製造分野としては、ルノーの工場の事例を紹介。生産ラインの事前シミュレーション、産業用ロボットの起動プログラム、オペレーターの安全確保を可能にすることで、プロセスをサポートした。

 さらに松本氏は「われわれのアプリケーション群は、クリエイターがリアルタイムの3次元および2次元の体験の構築を通じて、クリエイターのビジョンを狙い通り実現できるように支援をする。クリエイターによって制作されたコンテンツはゲーム機器だけではなく、スマートフォン、タブレット、PC、AR、VRとさまざまなデバイスを通じて実行が可能となり、Unityのリアルタイムエンジンは、ゲーム業界だけにとどまらず航空宇宙、医療、自動車などの産業分野でも広く活用できることが知られている。多くの分野において、Unityのテクノロジーを活用することができることを、世界中のクリエイターが証明してくれている」と語った。

 そして、今後の産業分野へ注力の具体的な体制として、各分野に精通したアカウント担当とソリューションエンジニアを配置した。受託開発チームは人員を大幅に増加させ、日本に30名程度が在籍、グローバルチームと連携して顧客からの需要に対応。サポートも産業分野専任のチームとして導入サポートとプレミアムサポートを提供する。

産業分野への体制
体制とパートナーシップ

 パートナーシップについても、現在の体制に加え、各産業分野に特化したリセラーとの協業を拡大するとともに、テクノロジーパートナーシップとして、コンサルティング会社やシステムインテグレーション会社、センサーシミュレーション分野の企業との連携や協業を加速させるとした。

 さらに、産業分野に特化した統合パッケージ製品「Unity Industry」を4月3日から販売開始。松本氏は、それに加えて「受託開発、コンサルティング、カスタムトレーニング、上位のサポートサービスを組み合わせ、お客さまのデジタル事業を加速し、デジタルトランスフォーメーションを支援していく」と説明した。

産業分野に特化した統合パッケージ製品「Unity Industry」
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンが提供する各種サービス

デジタルツインの成熟度を1から5まで定義、

 デジタルツインの活用例について、オンラインで参加したUnity Technologies シニアディレクター オブ アクセラレートソリューションズのジョン・ビビアーノ氏が紹介。Unityではデジタルツインの成熟度としてレベル1から5まで定義付けているとし、レベル5の例としてヒョンデの工場を紹介した。

Unity Technologies シニアディレクター オブ アクセラレートソリューションズ ジョン・ビビアーノ氏

 Unityの定義付けでは、レベル1は「バーチャルツイン」としてデジタル空間内で現実世界の対象物を再現することし、レベル2はリアルタイムデータなどを含めた「コネクテッドツイン」、レベル3がデータを活用して予測まで含めた「プレディクティブツイン」、レベル4が将来のシナリオを想定するなどした「プレスクリプティブツイン」、最も上のレベル5が問題解決のための意思決定を自動的に行なう「オートノマスツイン」とした。

デジタルツイン成熟度のレベル1から5
シンガポールのヒョンデの工場はレベル5

 ビビアーノ氏は、レベル5の例として、ヒョンデのシンガポールにある7階建ての自動組み立て施設を紹介した。「世界初となるスマートファクトリーと統合されたレベル5のオートノマス自律型ツイン」とし、工場のメインラインは無人搬送車を使い自律化、デジタルツイン内のロボットは現実と同じ位置に存在する。工場のオペレーションをリアルタイム3Dで監視し、ライブデータの活用を、製造実行システム、基幹業務システム、ロボット制御システム、物流システム、倉庫システムなど領域に広げた結果、ヒョンデは製造プロセスを最適化するシミュレーションを行ない、コストを削減できたとしている。

3D技術を活用したHMIや、製造ロボットのデジタルツインのデモ

 会場では、実際にUnityを活用したデモンストレーションが行なわれ、UnityのReal Time 3D技術を活用したHMIでは、メーター類だけでなく車載インフォテイメントや地図、空調などの操作といったMHIの例を紹介した。これはメルセデス・ベンツ車に搭載されるものというわけではないが、周囲のクルマや道路、環境の様子をメーターパネル内に表示する際にも、極めて滑らかで微細な表現を行なっていた。

走行の様子の情報をより多く表示。周囲の景色や状況をより細かに3Dで表示できる
空調の操作パネル。噴き出した空気に含まれる粒子の表現は3Dのデータで再現し、ここにも3Dのエンジンを活用している

 空調の操作パネルでも、実際に空気が噴き出してくる様子をイメージした表示を行なった。これは、単に粒子が流れていくアニメーションを表示するのではなく、3D空間に粒子が存在するデータを用いて、個々の粒子が移動する座標をもとに、3Dを表現しているのだという。また、シートヒーターの動作の様子も色を付けて細かく表現されており、上質で滑らかな表示となっていた。

 ROS(Robot Operating Sysytem)を用いたロボットアームのシミュレーションは、トヨタシステムズが展示。シミュレーション側をUnityを使ったデジタルツイン環境として表示しており、リアルに存在するロボットアームと同じ動きをさせ、連携の様子を確認できるようにした。

ROSを用いたロボットアームのシミュレーション
デジタルツインのシミュレーション側は、3Dデータから表示しているので、背景は自由に組み合わせられる

 そのほか、ソニーがUnityを使ってコンテンツ開発が可能な裸眼で立体視できるディスプレイを展示した。

裸眼で立体視できるディスプレイとデータを送るPC
写真では分からないが、裸眼で見ると滑らかな立体映像が表示されているのが分かる