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クボタ、AIカメラやミリ波レーダーを搭載した「アグリロボコンバイン」の無人自動運転デモ走行を公開

2023年6月14日 実施

クボタが開発した無人状態でも自動運転で収穫作業を行なえる「アグリロボコンバイン DRH1200A-A」

田植え機、トラクター、コンバインと3種類の無人仕様を業界初ラインアップ

 クボタは6月14日、世界で初めて無人自動運転でコメや麦の収穫作業を行なえるコンバイン「アグリロボコンバイン DRH1200A-A」を発表し、千葉県内の畑でデモ走行を実施した。

 事前説明会では、クボタの作業機事業部長の谷和典氏が登壇し、「現在の日本の農業は、農家の高齢化や後継者不足による離農や、作業委託が進み、田園規模の拡大が急速に進んでいます。いわゆる“担い手農家”と呼ばれる人への農地集約が進み、人手不足や省力化、作業効率の向上による生産コストの低減など、さまざまな経営課題を抱えております。その解決策として、ICT(Information and Communication Technology)やロボット技術を活用した精密農業=スマート農業への取り組みが急務となっています」とあいさつ。

無人で収穫作業を行なえる「アグリロボコンバイン DRH1200A-A」

 続けて「当社ではスマート農機の第1弾として、GPSを搭載した“ファームパイロットシリーズ”と称し、2016年9月に直進アシスト機能付きの田植え機の発売を開始。これを皮切りにスマート農機の開発を積極的に行ない、“アグリロボシリーズ”と称した自動運転農機の市場投入も進めてきました。その中で唯一コンバインだけがオペレーターが乗った状態で自動運転が可能となる有人使用のみとなっておりましたが、この度ユーザーの監視下で無人自動運転が可能な「アグリロボコンバイン DRH1200A-A」を2024年1月に発売を開始いたします」と説明。

「アグリロボコンバイン DRH1200A-A」

 また、田植え機やトラクターよりも、コンバインのほうが開発や市場投入に時間を要したことについて谷氏は、「トラクターや田植え機は、ほ場に作物がない状態で作業を行なうのに対して、コンバインは常に目の前に作物がある状態で作業を行ないます。収穫する作物やほ場に対する機関適合性、また作物と障害物を識別する技術が必要となってきます。作物の中にいる人を検出することも大きな課題となっていました。しかし、これらの課題を解決し、農作業者の苦労を少しでも軽減したいという思いで開発・発売にいたりました。今回開発したアグリロボコンバイン DRH1200A-Aは、ICTとロボット技術を駆使して、誰でも簡単に、楽に、上手に、安心して刈り取り作業ができるコンバインなのです。また、自動運転コンバインは乗車するオペレーターの負担や乗車時間を大幅に軽減できることから、軽量化や省力化にも貢献できるものと考えているほか、一般市場にトラクター・田植え機・コンバインで無人仕様をラインアップするのはクボタだけです」と自社の先進性をアピールしてあいさつを締めくくった。

株式会社クボタ 作業機事業部長 谷和典氏

人やクルマを検知して、作物や鳥を検知しない技術を開発

 この日クボタが発表したアグリロボコンバイン DRH1200A-Aは、農林水産省が令和5年3月に改正した「ロボット農業の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」に準拠しているとのことで、稲と麦が無人自動運転の収穫対象で、大豆はまだ有人での自動運転対応となっている。このロボットコンバインについては、クボタ 機械研究開発第六部 第二チーム長 林 壮太郎氏より説明が行なわれた。

農林水産省が公表している農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドラインの概要と適用範囲

 主な特徴は、人検出用のAIカメラを搭載して、作物のあるほ場において人・障害物の検知を可能にしたことや、車両検出用のミリ波レーダーを搭載し、近くの車両も検出できる点。同時に人やクルマは検知しても、鳥などには反応しないように学習してあるという。

 また、これまでの無人コンバインは、車両が旋回できるスペースを確保する必要があり、有人作業でほ場の外周3~4周を刈り取ってから、中心部を自動で刈り取らせていたが、今回レーザーセンサーを搭載したことで、外周1周のみ有人で刈り取り作業を行なえば、それを記録して、最外周以外は自動で刈り取らせることが可能と、自動運転領域を拡大しさらなる軽労化を実現。現行機(WRH1200A2)では71%に対して今回開発したDRH1200Aは90%と自動運転領域を約20%拡大している。

株式会社クボタ 機械研究開発第六部 第二チーム長 林 壮太郎氏

 さらにレーザーセンサーは作物の高さを検知することが可能で、作物の高さや倒伏の状態(垂直から60°ほど倒れている作物にも対応)を検知して、適切な車速と先端の刈り取り部の高さに調整して、コンバインの熟練の運転作業者と同等の刈り取りを可能にしたという。そのほかにも、刈り取り詰まり自動除去機能を搭載。詰まりを検知すると少しだけ後退しつつ、自動で刈り取り部の逆回転を3回行ない詰まりを除去するなど、高い作業継続性を両立させている。

初心者は大型の農機具であぜの寸前までコンバインを進ませることは難しいが、アグリロボはすべて自動でやってくれる

 実際の稼働の流れは、ほ場の最外周(1周)を手動で刈り取り後、ルートの作成ともみ排出位置を設定。自動運転開始位置にコンバインを移動させて、オペレーターはコンバインから下り、ほ場付近から自動運転用リモコンで自動運転を開始。コンバインは刈り取りしながら、グレンタンクが満タンになるタイミングを予測し、最適なタイミングで指定した排出位置に自動で移動。移動後はユーザーがリモコン操作で行ない“もみ”を排出する。すべての作物を刈り取り後、コンバインは自動で排出位置に移動し、収穫作業は完了となる。

オペレーターは自動運転用リモコンで外から操作する
作業の流れ

 今回のロボットコンバインの開発にあたり、収穫作業時の人や障害物の検出における課題について林氏は、「作物の中に立っている人の検知、麦の収穫でほ場内に入ってくるもみ車の検出、逆に作物や鳥には反応しないの3点があります。そしてこれらを解決するために、AI学習によって作物中の人を認識する人検出用のAIカメラを前後左右の計4個、車両等の金属体を検出する車両検出用のミリ波レーダーを前後計2個搭載しました」と解説した。

運転席の左上に設置されている(上から)GPSセンサー、レーザーセンサー、AIカメラ、ミリ波レーダー
車体左側のAIカメラ
車体右側のAIカメラ
車体後方のミリ波レーダー(左)とAIカメラ(右)
製品構成
【クボタ】無人自動運転デモ走行「アグリロボコンバイン DRH1200A-A」(3分31秒)

人手不足の専業農業の未来のために期待したい

 この日クボタの発表会場として畑を提供していた染谷農場代表取締役社長の染谷茂氏は、実際にクボタの直進アシスト機能付きの田植え機やトラクターを使用しているほか、5月には無人で田植えを行なうアグリロボ田植え機のデモ運転も見ていて、「通常なら1人が運転、1人が苗の補充を行なうが、アグリロボなら補充を行なう1人だけで済むので、田植えは省力化につながる。ただ、コンバインはもともと1人で作業しているので、無人とはいえオペレーターとしてほ場のまわりで監視する必要があるから、なかなか省力化にはつながらないかもしれない。ただ、1日中コンバインに乗っていなくていいのだから、体は楽だし、作業する側からすれば助かることは間違いない。いろいろな機能も付いているから本当に進化しているんだなと感じた。今専業農家が130万人くらいいて、65歳以上が7割で、10年度はさらに増える。これが大きな課題で、農地をどう維持していくのか? AIやロボットにも期待している半面、価格の問題もあるけどね」と、期待と同時に課題もあるとコメントしてくれた。

染谷農場代表取締役社長の染谷茂氏

さまざまな質問が飛んだ質疑応答

 質疑応答では、価格が2000万円以上は高いのでは?との質問に谷氏は、「確かに高額だが、台数が増える中でセンサーなどの技術革新が進めば、コストも下がっていくと考えています」と回答。

 また、無人運転が可能になったことで、有人と比較して作業効率など数値で差を表すことは可能か? という問いに林氏は、「あくまで熟練者と同等なので、飛躍的に差が出る訳ではない」と回答。また、自動運転レベル3への課題や現状について聞かれると、「レベル3はもちろん見据えていて、現状の自動運転領域90%を100%にすることや、遠隔監視による自動運転の実現など鋭意開発中である」と答えた。また谷氏もレベル3については、「現状はまだほ場の中だけの話なので、遠隔監視できるようにすることも1つだし、ゆくゆくは納屋からほ場へ自動で行って自動で刈り取りしてくれるなど、そんな未来を見据えて開発していきたいと考えている。具体的にいつというのはまだないです」と付け加えた。

 販売台数の目標を聞かれたクボタ 農機国内営業部 製品企画課長 藤原一雄氏は、「年間50台を目標にしている。他メーカーも含めて100馬力クラスのコンバインは国内に500台ほどなので、1割ほどをまずは目指したい。また、将来的には3割くらいまでロボット農機具を広げたい」と目標を語った。

 アグリロボコンバインを導入するにはどのくらいのほ場面積があればメリットがありそうか? との質問に対して藤原氏は、「1枚あたり1丁のほ場を複数枚、複合的に計30~50丁くらいの農家さんが対象になるのではと考えている」と回答した。また、有人仕様と無人仕様の価格差230万円が自動運転に関わる装備の価格なのか? という質問には、「その認識で間違いないが、すでに現在持っている同型機に230万円追加すれば自動運転を追加できる訳ではない」と述べた。

株式会社クボタ 農機国内営業部 製品企画課長 藤原一雄氏
株式会社クボタ 機械事業本部 作業機事業部 収穫機技術部 藤田敏章氏
株式会社クボタ 機械研究開発第一部 第二チーム長 湯浅 純一氏

 ほ場に人が倒れて作物で見えない場合はAIカメラで検知できるのかという質問に湯浅氏は、「どうしてもカメラで見えないものは検出できないのが現状」と回答。

 最後に谷氏は、「私は昔、田植え機の技術開発にいたのですが、この数年でロボットマーケットの進化が極めて速かった。それと普及もすごく早い。開発して発売したころは、こんなに需要があるとは思わなかった。それと、技術に終わりはなくて、その時代でいいものができても、次の時代でもっといいものが出てくるもの。今は開発に若者がたくさんいるし、潜在ニーズはまだあると思うので開発の手をゆるめることなく、それで農家の課題を解決できるような製品を出していきたい」と締めくくった。

クボタのスマート農業を実践する無人自動運転農機具「アグリロボ」シリーズが勢ぞろいした。左からトラクター、コンバイン、田植え機

 この日は発表したアグリロボコンバインだけでなく、無人の自動運転が可能なアグリロボトラクターとアグリロボ田植え機も展示していて、同時デモ走行が実施された。通常は季節の異なるタイミングで稼働する農機具なので、珍しいコラボレーションが実現した。

【クボタ】スマート農機「アグリロボ」シリーズ、トラクター&田植機&コンバイン3機種一斉稼働(1分56秒)