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ラリージャパン2023最新情報、豊田スタジアムと岡崎中央総合公園のスーパーSSが見どころ

2023年7月24日 開催

ラリージャパン2023実行委員会事務局 高島圭太氏

11月16日~19日に「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」開催

 ラリージャパン2023実行委員会事務局は7月24日、愛知県の岡崎市、豊田市、新城市、設楽町、岐阜県の中津川市、恵那市を舞台として11月16日~19日の期間に行なわれるWRC(世界ラリー選手権)第13戦「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」の大会内容についての最新情報を報告した。

 WRCの日本戦は2004年に北海道で初開催され、2010年で一時中断となり、2020年の再開が正式決定していたものの、コロナ禍の影響によって2020年、2021年の開催がキャンセル。2022年に12年ぶりの再開を果たし、2023年シーズンも開催に向けて準備が進められている。

エストニアでのラリーを終えたばかりのTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamもオンライン会議で参加した

大会コンセプトは「ENJOY!RALLY JAPAN」

 ラリージャパン2023実行委員会事務局 高島圭太氏がラリージャパン2023の概要を説明。高島氏はラリージャパン2023の目指す姿として、「競技者、観戦者すべての人にとって安全・安心な大会」「ラリーファン、モータースポーツファン目線の大会」「未来へつなぐサスティナブルな大会」という3つの目標を掲げていることを紹介。開催意義としては「市民の誇り」「山間地の振興」「産業の振興」「交通安全の推進」「青少年の健全育成」「SDGsの推進」という6点を挙げた。

ラリージャパン2023の目指す姿
開催意義として6点を紹介
大会コンセプトは「ENJOY!RALLY JAPAN」

 競技は愛知県と岐阜県の5市1町の山間地に設定されたSS(スペシャルステージ)に加え、新たな取り組みとして豊田市の「豊田スタジアム」で2台のマシンが同時スタートしてタイム計測するスーパーSSを実施。ラリーマシンの競技走行をより多くの人に見てもらえるようにする。なお、豊田スタジアムでの開催については現状で敷かれている芝生を取り外し、アスファルト舗装を施してコースを設営するという。

愛知県と岐阜県の5市1町で4日間にわたり開催される
新たな取り組みとして「豊田スタジアム」と「岡崎中央総合公園」でスーパーSSを実施

 また、サスティナブルな大会に向けた具体策として、サスティナブルフォーラムを開催して環境対策の取り組みを発信する場を用意するほか、スタジアム内で使われる電力の一部に太陽光発電や水素燃料電池といった再生可能エネルギーを使い、さらにグリーン証書の購入も行なって100%グリーン電力による開催を目指しているという。このほか、装飾品やグッズにリサイクル品などの環境配慮素材を積極活用し、ペーパーレス化、ゴミの最小化といった細かなところでも取り組みも積み重ねていく

WRCでもハイブリッドシステムや非化石燃料などを使うなど、モータースポーツシーンでもサスティナビリティへの取り組みが進められている
ラリージャパン2023におけるサスティナブルな大会運営の具体策

豊田スタジアムで11月16日~18日にスーパーSSを実施

特定非営利活動法人M.O.S.C.O 高橋浩司氏

 競技事務局を務めるM.O.S.C.Oの高橋浩司氏は、WRCとラリージャパンの基礎知識について解説。

 ラリー競技の最高峰となるWRCは欧州をメイン開催され、そのほかには中南米、アフリカに加え、アジアでは日本が唯一の開催国となっており、11月16日~19日に実施されるラリージャパン2023はシーズン最終戦として開催される。

ラリージャパン2023はWRCのシーズン最終戦として開催

 WRCでは通常、競技がスタートする1週間前からサービスパークの設営が始まり、月曜日には各チームの参加確認、最上位クラス以外のプライベートチームを対象としたテスト走行などを実施。火曜日、水曜日はコースの下見や確認などを行なう「レッキ」が進められ、水曜日には公式車検も実施。競技の開幕前日となる木曜日には、午前中にシェイクダウンテスト、午後にセレモニアルスタート、またはスーパーSSの1回目で競技がスタートするケースもあるという。金曜日~日曜日にラリーの本番が行なわれ、日曜日の最終ステージはエクストラポイントが与えられる「パワーステージ」となり、最後に表彰式が行なわれるという流れで進んでいく。

 しかし、シーズン最終戦のラリージャパンでは、季節的に日照時間が短くなることなどを考慮してレッキを月曜日~水曜日の3日間実施しているところがほかと大きく異なる特徴となる。このため、ほかでは月曜日に行なわれる参加確認とプライベートテストは1日前倒しで日曜日に行なわれている。

WRCの一般的な流れ。ラリージャパンでは月曜日にもレッキを行ない、月曜の参加確認などは日曜日に前倒しされる

 また、通常WRCでは競技の基本となるSSの総距離を300~350kmと規定しているが、2022年のラリージャパンでは300kmまでわずかに届かず、FIA(国際自動車連盟)に特認申請を出して開催することになった。今年度についても6月に愛知県で水害の被害が発生した影響を受け、SSに予定していた一部区間で倒壊などが起きていることから現在も調整を進めているところだが、300km以上の総距離を確保してラリーが行なえるよう取り組んでいるという。

2022年開催ではSSの総距離が300kmに届かなかったが、今回は300km以上を確保するため調整中

 用語解説では「レッキ」(ペースノートを作成する下見走行)や「リエゾン」(競技走行を行なわない移動区間)といったラリーでおなじみの言葉に加え、目新しい「TWZ(タイヤウォーミングゾーン)」という単語について解説。FIAによって新たにレギュレーションで規定されたTWZは、TC(タイムコントロール)とSSスタート地点の間に最低500m以上設けることが必要になった区間で、競技車両はこのTWZでウェービングや急加速、急減速などを行ない、タイヤを温めて表面温度やタイヤ内圧の調整を行なうことになる。

ラリージャパン2023ではTCとSSスタート地点の間に「TWZ(タイヤウォーミングゾーン)」が登場する

 今シーズンのWRCでは、第8戦までの結果でドライバー選手権はTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのカッレ・ロバンペラ選手が首位、同チームのエルフィン・エバンス選手が2位となっており、日本人選手の勝田貴元選手はドライバー選手権で8位となっている。マニュファクチャラー選手権でもTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamが2位に57ポイント差でトップとなっている。なお、マニュファクチャラー選手権では各チーム3台のマシンをノミネートして、ラリーの結果で上位2台の獲得ポイントをチームのポイントとして加算できる仕組みとなっている。

ドライバー選手権、マニュファクチャラー選手権ともにTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamが大きくリードする展開となっている

 車両規定は「Rally1カー」と呼ばれる最上位クラスのマシンで争われる「RC1」を筆頭に、以前は「R5」と呼ばれていた「Groupe Rally 2」マシンによる「RC2」、2輪駆動マシンの「RGT Cars」による「RGT」、以下「RC3」「RC4」「RC5」と、パワートレーンや改造範囲によって6つに分けられている。

 ラリーのメインイベントとなるWRCクラスで使用されるRally1カーは、GRE(Global Race Engine)と呼ばれる直列4気筒 1.6リッター直噴ターボエンジン(380PS以上)とコンパクトダイナミクス製ハイブリッドユニットを組み合わせたパワートレーンを採用。システム合計で500PS以上を発生して4輪を駆動させ、ボディには競技専用となるスペースフレーム・シャシーの使用も可能となっている。

 WRCクラスにはTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamに加え、M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAMとHYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAMの計3チームが参戦。トヨタ自動車「ヤリス」、フォード「プーマ」、ヒョンデ「i20」をベースとしたマシンでマニュファクチャラー選手権を戦っている。

WRCの車両規定。エンジン排気量や改造範囲によって6つに分かれている
Rally1カーのパワートレーン概要。コンパクトダイナミクス製ハイブリッドユニットを車両後方にレイアウトする
WRCクラスにはTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team、M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAMとHYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAMの3チームが参戦

 タイヤはRally1カーなどの4WD車にピレリがワンメイク供給を実施。1回の大会でRC1はシェイクダウンまで含めて28本まで、そのほかでは26本まで使用可能と規定されている。また、RC4やRC5といった2WDマシンには、2022年大会ではダンロップ(住友ゴム工業)や横浜ゴムがタイヤ供給を行なっていたという。

 このほか燃料は、2022年シーズンからP1 Racing fuelsが供給する炭化水素ベースの脱化石燃料の供給をスタート。Rally1カーなどを走らせる「プライオリティドライバー」には使用が義務付けられ、それ以外のドライバーについては指定給油所で市販燃料の給油も可能というレギュレーションとなっている。FIAではこの脱化石燃料の使用により、2022年は2021年比で推計512tのCO2を削減したと発表している。

2WD以外のマシンでピレリのタイヤを装着する
ハイブリッドシステムに加え、非化石燃料の使用でサスティナビリティを追求

 中京地区での初開催となった2022年に続く2年目のラリージャパン2023では、山間地に設定したSSを一部変更。新要素としては前出でもあるように、豊田スタジアムで11月16日~18日にスーパーSSを実施することに加え、11月18日には岡崎中央総合公園でもスーパーSSを開催。また、2022年には封鎖中の競技区間に一般車が進入するトラブルが発生してしまったことを踏まえ、今回はオフィシャルやマーシャルなどを1000人以上まで増やすことを計画しているという。

オフィシャルやマーシャルを1000人以上にまで増やす計画

WRC、F1、WECを1つの国で開催している国は数少ないとJAF 岡本氏

一般社団法人日本自動車連盟 モータースポーツ部 主管 岡本博司氏

 また、日本国内における4輪モータースポーツを統括するJAF(日本自動車連盟)の立場から、日本自動車連盟 モータースポーツ部 主管 岡本博司氏が日本のモータースポーツにおけるラリージャパンの意義について解説を行なった。

 創立から今年で60周年を迎えたJAFでは、設立当初の1963年に鈴鹿サーキットで開催された「第1回日本グランプリ自動車レース」を公認したところからモータースポーツとの関わりがスタートしており、このレース公認に合わせてJAF内に「スポーツ委員会」が組織され、日本国内で行なわれる4輪レースなどの規定の制定、規則の施行などを行なってきている。

 FIAによる世界選手権は、1976年に富士スピードウェイで行なわれた「F1世界選手権 イン・ジャパン」が日本初開催となり、この6年後の1982年には同じく富士スピードウェイで「世界耐久選手権」が開催されることにもつながり、日本のモータースポーツファンも国内にいながら世界的なマシンやドライバーの走りを目の当たりにできる時代が到来したと岡本氏は分析。

 ラリーでは2001年の「インターナショナルラリーイン北海道」が国際格式のラリーとして日本で初めて開催され、2004年にはWRCの1戦として「ラリージャパン」も行なわれ、こうした大きなレースやラリーを観戦することをきっかけに、レーシングドライバーや競技車両の開発者といった道を目指した人も少なくないと述べ、JAFとしても日本国内で世界選手権が継続的に開催されることを支援して、ラリーに限らずさまざまな競技の国際化を推進。これによって日本に限らずアジア・太平洋地域でのモータースポーツ発展につなげていきたいとした。

 また、ラリージャパンを含め、F1、WECといった世界選手権競技を1つの国で開催している国は数少なく、JAFではこれからも支援を続けていきたいと語っている。

「GR YARIS Rally1 HYBRID」も市販車と同じ車両接近通報装置を装着

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team 、WRCエンジン・プロジェクト・マネージャー 青木徳生氏

 休憩を挟んだ後半では、7月20日~23日に開催されたWRC 第8戦ラリー・エストニアでの競技を終えたばかりのTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamから、WRCエンジン・プロジェクト・マネージャー 青木徳生氏、デピュティテクニカルディレクター 近藤慶一氏の2人もオンライン会議システムを利用して参加してくれた。

 まずはRally1カーに搭載されているGREについて青木氏が解説を行ない、WRCのレギュレーションでは空気の吸入を制限するため36mmのリストリクターが装着され、ターボチャージャーの過給圧も1.5barまでに制限してエンジン出力が出すぎないよう調整されているという。

 脱化石燃料の使用については2021年4月に導入に向けた方針が発表され、同年の秋ごろからテスト使用をスタート。冬ごろから次のシーズンが始まる直前までかけて評価・適合作業を進め、実際に使用を開始したのは2022年1月のラリー・モンテカルロからになった。

 この脱化石燃料はFIAから「ドロップイン燃料」だと説明された、エンジンに変更を行なわずそのまま使用できる燃料となっており、実際に従来燃料に合わせて組み上げたエンジンに変更を行なうことなく使えているという。

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team デピュティテクニカルディレクター 近藤慶一氏

 ハイブリッドシステムについては近藤氏から説明され、モータージェネレータ、制御ユニット、バッテリ、インバータなどを一体化したハイブリッドユニットはドライバーの後方にマウント。リアデフに駆動力を伝える形で利用しており、これについてはフォード、ヒョンデといった他チームも同様になるという。

 回生発電はレギュレーションによって「ブレーキに規定以上の踏力を与えていて、かつアクセル開度も規定以下のストロークになっている場合に回生してもよい」と定められているとのこと。一方、どれぐらいの回生発電を行なうかについてはチーム戦略で決まってくる部分になる。エンジンを止めたままのEV走行も可能で、サービスパークの周辺や一部のリエゾン区間ではEV走行するよう求められているという。

 また、市販のバッテリEVやハイブリッドカーはモーター走行時に接近警報音が出る仕組みとなっているが、「TOYOTA GR YARIS Rally1 HYBRID」でも今シーズンから市販車と同様に国際規格に沿った車両接近通報装置を装着。これはトヨタの市販車と同じサウンドが出るようになっているそうだ。

 このほか安全対策として、ハイブリッドシステムを搭載するRally1カーにはフロントウィンドウ上部と両サイドのウインドウにランプを設置。これがグリーンに発光しているときはハイブリッドシステムが正常に働いていることを示し、クラッシュなどの衝撃でハイブリッドユニットに異常が検知されるとレッドに光が切り替わり、走行などが禁止される規定になっている。

 ラリーによって異なるものの、バンパーやフェンダーといった外装の交換パーツは基本的に車両1台あたり毎戦2~3セット持っていくという。実際に6月にケニアで行なわれた第6戦サファリ・ラリーでは連日激しい損傷に見舞われ、用意した交換パーツをほぼすべて使い切るような結果になったそうだ。

「微力ながらモータースポーツの定着に協力させていただきたい」とフォーラムエイト 武井氏

株式会社フォーラムエイト 代表取締役副社長 武井千雅子氏

 ラリージャパンのタイトルパートナーを務めているフォーラムエイトの代表取締役副社長 武井千雅子氏は「われわれは交通の安全・安心をテーマに掲げて経営を進めてきました。WRCの大会が日本で開催されると耳にして、私たちも何かの形でご協力できるのではないかと相談させていただいたときに、たまたまタイトルパートナーの席が空いておりました。われわれは中小企業で微力ではありますが、安全や安心、サスティナブルな部分、地方での魅力ある街づくりといった発信などの部分が私たちの会社が持つテーマと合うと感じ、微力ながらモータースポーツの定着に協力させていただきたいと考え、タイトルパートナーを務めさせていただいております」。

「近年はモータースポーツ離れという言葉も聞かれますが、微力ながら『日本のラリーが世界で一番いいよね』と言っていただけるようなものにして、自動車産業や周辺に付随する産業が再び復活して、『日本って凄いよね』と言ってもらえるようになればと、私たちも全力を尽くしますのでよろしくお願いいたします」とコメントしている。