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中・高校生による手作りBEVコンテスト「エコ1チャレンジカップ 2023」開催 1位の金賞は「長野県松本工業高等学校 松工原動機部」

2023年8月26日 開催

中学生と高校生のチームが手作りBEVで競い合う「エコ1チャレンジカップ 2023」開催

 東京都多摩市の東急自動車学校で8月26日、中学生と高校生を対象とした手作りBEV(バッテリ電気自動車)のコンテスト「エコ1チャレンジカップ 2023 ~中・高校生による手作り電気自動車コンテスト~」が開催された。

 自動車技術会 関東支部、東京都市大学、日産自動車が共催するこの大会では、「ものづくりの楽しさと重要性の認識」「環境とエネルギー問題の認識と体験」「創造性に富む人材の育成」を目的として実施。バッテリに蓄えた電気を効率的に使い、自動車の基本性能である「走る・曲がる・止まる」を競いながら、エネルギーの尊さと技術の重要性を楽しみながら体験する内容となっている。

 参加の中心は中学生と高校生のチームとなっており、高等専門学校ではメンバーの主体を3年生以下として、ドライバーが3年生以下の場合のみ高校生チームと同等と規定。今年度は15校19チームが参加して競い合った。

競技中の走行シーン

 競技車両は「3輪以上で停止時に自立する構造」を基本として、実行委員会が用意する市販品のバッテリ2個(それぞれ12V、3Ah以下)を使うことが定められている。車両に搭載できるバッテリは1個のみで、大会当日の練習走行、競技本番で使い分けることを想定。モーターには特に制限はないが、市販車両の改造は認められない。

 車両のデザイン性も評価対象となり、独創性と先進性(低コスト・高機能・材料置換・構造・エコ)を中心に評価。また、「競技車両の外側、コクピット内に危険につながる不要な突起物があってはならない」「ドライバーが容易に自力で車外へ脱出できる構造であること」「安全な走行できる視界を確保し、後方確認用に2個以上のバックミラーを装備する」「警音器(ベル、クラクションなど)を装備する」といった安全性についても規定されている。

各チームで実行委員会から支給される市販品のバッテリ2個を使用。人を乗せて走るBEVの動力源としてはかなりコンパクトな印象だ
ドライバー交代の前にバトン代わりの非接触型ICカードをテーブル上に設置されたカードリーダーに読み込ませ
次のドライバーがICカードの入った腕章を受け取り、コースインしていく
カードリーダーでのデータ読み込みをタイムスタンプとしてラップタイムを記録。データの管理、記録は東京都市大学の講師が自作したソフトウェアを使っており、会場内にいる各チームにデータをリアルタイム配信

 こうしたレギュレーションに沿って各チームが用意する競技車両を使い、東急自動車学校の「4輪教習コース」を規定時間内に10周するまでのタイムを競うレース。バッテリ切れなどのトラブルで完走できなかった場合は、走り切れた周回数が多いチームが上位となり、さらに同一周回数では走行時間が短いチームが上位になるというルールを採用。周回するたびにホームストレートに設置されたチェックポイントでドライバー交代を行ない、非接触型のICカードをバトン代わりに利用して、カードリーダーにカードを読み込ませることでラップタイムを計測するシステムとなっている。

 限られたコーススペースでトラブルが起きにくいよう走行してもらうため、同時にコースインする車両は4台までに制限。さらにスタートも1台ずつ時間差で行ない、走行が終わって空いたチームのドライバー交代スペースに次のチームが入って順次スタートするという独自性のあるスタイルで競技が進められた。

東急自動車学校の「4輪教習コース」を10周して競技を実施。コースの一角にはパイロンを使って鋭角なコーナーやスラロームを設け、ハンドリング性能も試される。ホームストレートには4か所のチェックポイントを設置
競技のスタートシーン。と言っても4チームが同時にコースインすることはなく、コース前方側のチームの車両が1周走り切ってドライバー交代を終えたあと、少し間を開けて走り出す独自性のあるスタイルを採用している
学生たちが手作りした3輪、4輪のBEVで競技を実施。完走が目標というようなゆっくりペースからコーナーでも軽快に駆け抜けていく車両など、走行スタイルにはかなりバラツキがあった
大会当日は午後の部で20分ほどゲリラ豪雨に見舞われる時間帯があり、このタイミングでコースインしていた4チームのうち、3チームがコース上で車両が止まってリタイアになる不運もあった

1位の金賞は「長野県松本工業高等学校 松工原動機部」が獲得

1位の金賞に輝いた「長野県松本工業高等学校 松工原動機部」

 全参加チームの競技走行終了後、東急自動車学校の校舎1階で表彰式が行なわれた。この大会では競技の上位3チームを金賞、銀賞、銅賞として表彰することに加え、実行委員会の選考によってアイデア賞、技術賞、デザイン賞、チームワーク賞など多彩な賞を用意して、全チームが何かしらの賞を受賞する形式で実施されている。

 競技の結果、1位となる金賞は「長野県松本工業高等学校 松工原動機部」が獲得。2位の銀賞は「和光学園 和光中学校 和光中学技術部(和光電力ww)」、3位の銅賞は「豊島学院高校 昭和鉄道高校 豊島学院電気研究部」がそれぞれ受賞し、主催、協賛の各企業から寄せられたさまざまな賞品がプレゼントされた。

2位の銀賞は「和光学園 和光中学校 和光中学技術部(和光電力ww)」
3位の銅賞は「豊島学院高校 昭和鉄道高校 豊島学院電気研究部」
アイデア賞を獲得した「公文国際学園 中等部・高等部 科学技術研究部(KKG-J #02)」
技術賞を獲得した「わせがく高等学校 西船橋キャンパス」
デザイン賞を獲得した「東京都立総合工科高等学校 チーム走攻」
チームワーク賞を獲得した「青山学院中等部 チームAGRT(シブヤ4-4-25)」。同チームには日産ボランティア賞も贈られダブル受賞となった
自技会賞は「土浦日本大学中等教育学校 TNUSS」「東京都市大学附属中学校・高等学校 東京都市大学附属中高自動車部中学B」「和光学園 和光中学校 和光中学技術部(Dog32)」「長野県須坂創成高等学校 SSC」の4チームが獲得
ものづくり奨励賞を獲得した「青山学院中等部 チームAGRT(ブルーカート)」。賞品として「来年のマシンで使ってほしい」と超ジュラルミンのプレートも贈られた
日産賞は「東京都市大学附属中学校・高等学校 東京都市大学附属中高自動車部中学A」「東京都立小金井工業高等学校 小金井工科 疾駆する永続維持」「東京都立多摩科学技術高等学校 多摩科技 無線工作部(TS-V)」「川崎市立川崎総合科学高等学校 KST モータースポーツ部」の4チームが獲得
都市大・都市大校友会賞は「公文国際学園 中等部・高等部 科学技術研究部(KKG-E #02)」「千葉日本大学第一中学校・高等学校 千葉日物理部」「東京都立多摩科学技術高等学校 多摩科技 無線工作部(TS-X)」の3チームが獲得

「結果を残そうと一生懸命に頑張る経験は中高生の皆さんにとってよい体験になったのではないか」と自技会 関東支部 大塚支部長

公益社団法人自動車技術会 関東支部 支部長 大塚裕之氏

 表彰式の冒頭では、大会の会長を務めた自動車技術会 関東支部 支部長 大塚裕之氏が開催のあいさつを行ない、「この大会は未来に続くスマートドライブをテーマにして、文部科学省ほか4団体の後援、そしてこの場を提供いただいている東急自動車学校など6団体の協賛により開催されました。そして本当にたくさんのボランティアの人に支えられて成立した大会だと思っております。この場を借りて御礼申し上げます。この大会はもの作りの楽しさや環境問題、エネルギーなどについて学び、学生の創意工夫や知的挑戦をうながし、その体験をつうじて独創性に富む人材を育てることであります」。

「参加した中高生の皆さん、今日までのもの作りは本当に楽しかったけれども大変だったかとも思います。狙いどおりの結果が得られたチームもあるでしょうし、不本意な結果に終わってしまったところもあるんじゃないかと思いますが、今回のコンテスト、競技で結果を残そうと一生懸命に頑張るという経験は中高生の皆さんにとってとてもよい体験になったのではないかと思います。来年の皆さん、あるいは皆さんの後輩が、さらにグレードアップしたマシンを携えてきてくださることを期待しています」と語った。

「もっと楽しくするためにどうすればいいのかみんなで考え続けてほしい」と日産 坂本副社長

日産自動車株式会社 取締役 執行役副社長 坂本秀行氏

 また、大会副会長を務めた日産自動車 取締役 執行役副社長 坂本秀行氏が大会の講評を実施。「今日はいろいろと、シビアなレースになったチーム、楽しいレースになったチームといろいろ皆さんの成果が出て楽しめたことと思います。会場に来て見ていると、レースの直前までボルトを締めたりチューニングしていたりと粘り強く取り組んでいる姿を見ることができて頼もしく感じました。車両の走りも凄くよくて、優勝された松本工業高等学校のラップタイムを見ても凄いなと感じます。私も会社に入って44年になりますが、一貫して自動車のエンジニアをやっています。皆さんが今日経験した、クルマを作って動かすというあたりを仕事でずっと続けていますが、こういった『みんなで何かを作っていく作業は楽しいな』という思いを記憶に留めてほしいなと思いますし、もっと楽しくするためにはどうすればいいのかをみんなで考え続けてほしいと思います」。

「ほかのチームがどんなことをしているのか、今年よい結果を出したチームはこんな感じだったというあたりで、相手が何をしてくるのかと考えて、それに負けないようにするためにはどうすればいいのかと想像する作業もなかなかに楽しいと思いますので、そんな風に全体で盛り上げていただきたいと考えています」。

「そして今日、この東急自動車学校に場所を提供していただいて、彼らも本来なら、土曜日ですし仕事をしていなければならないところを使わせてもらって、これについてはみんなでぜひ感謝したいと思います。また、こういった大きなイベントを準備するには大変な努力が必要で、裏方として準備してくれたボランティアスタッフの方々にみんなで感謝しなければいけないことで、これを絶対に忘れないようにしてほしいと思います」。

「毎年見させてもらっているとだんだんよくなっていて、とくにクルマがよくなってきています。頭を使って頑張って、みんなで楽しみつつ、来年もさらにもう1歩上がった姿に会うことができるよう楽しみにしています」とコメントした。

大会の公式動画を撮影するドローン。日産の生産現場でも利用され、サーモグラフィー映像でプレス機などの異常摩耗も検知可能となっており、大会当日もコースの各所を飛びまわっていた

 このほか、大会の運営には日産の社員約60人がボランティアスタッフとして参加。参加車両が受ける公式車検の検査役やコースマーシャル、記録用の公式動画を撮影するドローンの操作などを幅広く担当している。とくにドローンは日産の生産現場でも利用されているもので、動画や静止画の撮影に加え、プレス機などの異常摩耗による発熱なども検知できるよう、サーモグラフィー映像も記録できるようになっている。さらに入り組んだ工場内で運用されることから、卓越した操作技術を身につけたスタッフが運用しているという。

 日産社員のボランティア参加について、坂本氏は「社員たちも日常的な業務では、オフィスにこもって図面を引いたり実験をしたりという作業を、同じような顔ぶれのなかで続けているわけです。そうなると人との接点が限定的になって、常識が自分の常識、仕事の常識に固定化されていくじゃないですか。そこで中学生、高校生といった若い人とふれ合う機会は、彼らにとっても貴重な時間になると思っています」。

「あと、われわれも日常的な業務で社会の役に立っているというつもりですが、子供たちの学びに自分たちの知識が役に立つって感じられるのはいいですよね、ボランティアという形で社会といろいろな関わりを持つことで、人間力を磨くといったところをぜひやってもらいたいです」とコメント。

 大会の今後については「同じように学生向けの大会として行なわれている『学生フォーミュラ』は本格的でハイレベルな内容になっていて、大学生同士の真剣勝負で審査側も厳格にやっていますが、中学生や高校生には勉強してもらわないといけないし、このエコ1については参加している子供たちが楽しければそれでいいんじゃないですかね。でも、われわれは意図していないですが、開催を続けていることで各チームの取り組み内容もどんどんレベルが上がっていますよ。それぞれ自分たちのスペースで出走直前まで車両を調整していたり、走っている車両の動きも今年はさらによいですね」。

「電気自動車でやっているのは、彼ら(中高生)にやってもらうなら電気以外に選択肢がないんですよ。電気自動車だから簡単ということはなくて、本格的にやると電気自動車も本当はとっても難しいんです。でも、こういった取りかかりの部分として電気自動車はいい素材です。あんまり大人の期待感を押し付けちゃいけないですね。とにかく、楽しく参加してもらえるようサポートして、知識をあげられたらと思います」と、取材に足を運んだ報道関係者に対して語った。

エコ1チャレンジカップ 2022 ドローン映像(4分12秒)