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自動車技術会、「第5回自動運転AIチャレンジ2022(シミュレーション)」表彰式 各チームの手法を解説するエキシビションも実施

2023年3月6日 開催

アドバンストコースの最優秀賞を受賞した名古屋大学大学院 MizuhoAOKIの青木瑞穂氏によるプレゼンテーションの様子

 自動車技術会は3月6日、人材育成プログラムとして開催した「第5回自動運転AIチャレンジ2022(シミュレーション)」の表彰式を開催した。

 自動運転AIチャレンジは、これからの自動車業界を牽引する技術者の発掘育成を目的とする新たな取り組みとして2019年にスタート。2022年度からは、自分たちで開発したプログラムを使って実際に自動走行モビリティを走らせる「インテグレーション」、デジタルツインで再現した都市を実際の交通ルールに則って走行する「シミュレーション」の2大会に分けて実施されている。

 今回のシミュレーション大会では自動運転ソフトウェアの「Autoware」を使い、デジタルツインに再現された東京都西新宿の市街地を走行する形式で、オンライン上のシミュレータで自動走行車両として再現されたレクサス(トヨタ自動車)「RX450h」による規定区間の走行タイムを競い合った。Autowareに触ったことがない初学者向けの「チャレンジコース」、熟練者向けの「アドバンストコース」に分けて競技が行なわれ、両コース合計で190チーム291人が参加している。

公益社団法人自動車技術会 規格担当理事 自動運転AIチャレンジ実行委員会 委員長 葛巻清吾氏

 表彰式に先立ってあいさつした自動車技術会 規格担当理事 自動運転AIチャレンジ実行委員会 委員長 葛巻清吾氏は、大会運営にあたって後援したスポンサー企業や企画運営に携わった関係者、大会で競い合った参加者に感謝を述べたあと「今大会では昨年の10月にリリースされたばかりの『AWSIM』というシミュレーターを使って行なわれましたので、いろいろ戸惑われた人も多いかと思います。しかし、この場に来ていただいている受賞者の皆さんはその状況でも優秀な成績を収められました。これから自動車技術会としては、この大会をどんどん盛り上げていきたいと考えていますし、徐々にではありますが定着してきているのかなと考えています。来年以降もこの大会を、『シミュレーション』と『インテグレーション』を交互に年1回ずつ開催していきたいと思っていますので、引き続き皆さんご支援のほどよろしくお願いいたします」とコメントした。

表彰式

表彰式の様子

 表彰式では欠席となったチャレンジコース 優秀賞(Amazonギフト券3万円)の「ms1」を除く5チームの参加者に表彰状と副賞の目録が手渡され、各コースで最優秀賞を手にしたチームには記念のトロフィなども授与された。

チャレンジコース 最優秀賞・日本自動車工業会会長賞(Amazonギフト券5万円)千葉工業大学 上田研 自律移動チーム
千葉工業大学 上田研 自律移動チームには日本自動車工業会会長賞のメダルも授与された
チャレンジコース 3位入賞(Amazonギフト券1万円)パナソニックオートモーティブシステムズ 遊戯王
アドバンストコース 最優秀賞・経済産業省製造産業局長賞(賞金30万円)名古屋大学大学院 MizuhoAOKI
名古屋大学大学院 MizuhoAOKIには経済産業省製造産業局長賞の表彰状も授与された
アドバンストコース 優秀賞(賞金20万円)名古屋大学大学院 RE:Wildchallengers
アドバンストコース 3位入賞(賞金10万円)LINE Fukuoka Yutaka JCT

チームごとにまったく異なるアプローチでシミュレーションを改善

名古屋大学大学院 MizuhoAOKIの青木瑞穂氏

 表彰式の終了後には、アドバンストコースの上位3チームの代表者が自分たちが採用した制御手法と問題解決に向けて着目したポイントなどを解説するエキシビションが行なわれた。

 どのチームもAutowareで制御する自動走行車両を同じコースで走らせるところは共通しているものの、アプローチはそれぞれまったく異なるものとなっており、デジタルツインで再現されたコースを走る車両の挙動も大きく違っていたことが印象的だった。

 最初に登壇した最優秀賞の名古屋大学大学院 MizuhoAOKIの青木瑞穂氏は、自動運転研究で名高い名古屋大学 鈴木研究室に所属し、インホイールモータによる車両制御を研究対象にしている人物。

 わずか3日で仕上げたという今回の競技データでも、まずは発表されたばかりのAWSIMの特性把握を行ない、AWSIMではステアリング操作を行なう「舵角指令」、加減速を行なう「加速度指令」の両方で追従遅れが非常に小さいことを突き止めたことで、制御の速度計画に急加速と急制動を組み込んでアベレージスピードを高め、タイム短縮を図っているという。

 また、人間の運転時に見られる「先読み運転」をAIによる未来予測と最適化の繰り返しで実現する「モデル予測制御」をステアリング操作を行なう経路追従に採用。さらに進行ルートを決める経路計画では、障害物を検知した場合に「追い越し」「手前で停止」「追従」のいずれかを選択するようにしてロスタイムを低減している。

まずは舞台となるAWSIMの特性把握を実施。ステアリング操作を行なう「舵角指令」、加減速を行なう「加速度指令」の両方で追従遅れが非常に小さいことが分かった
AWSIMの特性把握を受け、Autowareの設定で加速度と減速度をアップ。最高速度で走る時間を延ばしてタイム短縮を図った
「モデル予測制御」で正確な経路追及を実現
障害物を検知した場合に「追い越し」「手前で停止」「追従」のいずれかを選択するようにしてロスタイムを低減
名古屋大学大学院 RE:Wildchallengersの棚田晃世氏

 続いて登壇した優秀賞の名古屋大学大学院 RE:Wildchallengersの棚田晃世氏も、実は青木氏と同じ名古屋大学 鈴木研究室に所属しているが、日ごろは6脚ロボットの認識・計画について研究しているという。

 同じ研究室のHan Wen氏と2人で取り組んだ競技データの実装では、難所である「複雑車両回避」を「障害物との距離を考慮した回避アルゴリズム」、「後方車両を考慮した障害物回避」を「危険車両を認知して速度を制御」という2つの技術でクリアしている。

「複雑車両回避」では、自車の左側レーンに駐車車両が存在しつつ、走行レーンの前方で故障したトラックがハザードを出して止まっている状況となっており、大会参加時に用意されているデフォルトの制御データでは進行不能になってしまう。そこでチームでは両方の車両にぶつかることなく回避して進めるよう経路を修正するため「モデル予測経路」を利用。ベースとなる経路計画をできるだけ維持しつつ、道路上にある障害物などと衝突しない経路を新たに生成して進行可能にした。

「後方車両を考慮した障害物回避」のシーンでは、不均等な車間距離で走る複数の車両が存在する状況でも安全に障害物を回避するため、「停止状態に入ったか」「危険車両が存在するか」といったパラメーターを設定。危険車両が存在する場合のみ停止を継続するアルゴリズムを使って後続車との衝突を回避している。

名古屋大学大学院 RE:Wildchallengersは2つの技術で難所となるポイントをクリア
複数の車両を回避して走り続けるため、新たな経路修正の手法が必要になる
「モデル予測制御」で参照状態との誤差を修正。障害物を避けて進む新しい経路を生成している
自車右側を連続して通過する後方車両の車間距離が一定ではなく、広めに車間距離を取っている車両の前に自車が進み出して衝突するシーンが出てくる
停車からの再発進に「危険車両の存在」の有無を利用するアルゴリズムを採用
安全な再発進を重視したことでタイムロスが発生していることを今後の課題とした
LINE Fukuoka Yutaka JCT 加藤圭佑氏

 3位入賞のLINE Fukuoka Yutaka JCT 加藤圭佑氏はこれまでの2人とは違い、LINEの国内第2拠点であるLINE Fukuokaに勤務してサーバ内でコンテンツを高速処理する仕組みに携わっている人物。

 自身が愛車としているプジョー「e-208 GT Line」で福岡にある福岡高速の豊JCT(ジャンクション)を走行したとき、「レーンポジショニングアシスト」の制御でコーナーを曲がりきれなくなったことが自動運転に興味を持つきっかけになったという。

 加藤氏は自身の取り組みの特徴を「No Code」、つまり追加のコードを用意せず、既存のAutowareで用意されたパラメーターの修正のみで3位入賞を実現。「今回のシナリオに対するAutowareの走破性の高さを証明するものになるのではないか」と表現した。

 実際の作業では、まずデフォルトの設定でシミュレーションを行ない、問題が発生して車両が停止したときなどに「どんな理由から走り続けられなくなったのか」という点を洗い出す地道なトライアンドエラーの積み重ねによって最終的なコースクリアを達成。Autowareではデバッグ機能が充実しており、2台の停止車両を縫うように走る「複雑車両回避」では、デバッグメッセージに「横方向のマージンが十分ではなかった」と出力されたことから、横方向のマージンとして検索して3つのパラメーターを発見。安全のためそれぞれ多めに取られていたマージンをそれぞれ0.1mまで減らしてみると、障害物を回避して走り続けられる経路が生成され、ハードルをクリアできるようになった。

 作業解説の最後には、「こういった素人でも参加できるのがシミュレーターのいいところじゃないかと思います」と感想を語って締めくくっている。

加藤氏の場合は経路計画の「レーンフォローイング」のパラメーター調整のみを行なった
手はじめとしてAutowareについて理解するため、デフォルトで指定されている72km/hの最高速がどのように設定されているのか、リバースエンジニアリングで使われるソフトウェアの検索手法によって特定。「max_velocity」の文字で「20.0m/s」というパラメーターが出てきたことから、内部的には時速ではなく秒速で処理されていることを把握。このパラメーターを書き換えることで最高速設定を変更できたことで自信を持ち、大会への参加を決意した
コード内にある「車線の中央にいる車両は障害物とはみなさない」という設定により、デフォルトでは止まっている車両の1.0m後方で停車することになる。「今回はシミュレーターだから」という割り切りで設定を0.0mに書き換え、停止している車両を障害物として検知して追い越しできるよう修正した
「エラー場発生した理由を明確にアウトプットしてくれるのがAutowareのいいところ」と加藤氏は評価。エラーメッセージにより横方向のマージンが不十分だったことが原因だと示している
こちらもシミュレーターだからということで、各マージン設定を0.1mまで下げて問題発生を回避している
余談として、今回のシミュレーション環境は運用するハードウェアに高い負荷がかかることから、仮想環境でAutowareを動かしてみる実験も行なったとのこと
自動運転AIチャレンジ実行委員会 リーダー 加藤真平氏

 エキシビション終了後には自動運転AIチャレンジ実行委員会 リーダー 加藤真平氏が閉会のあいさつを実施。

 加藤氏は「このエキシビションを見させていただいて、研究をしている方々が2チームあって、最後には日ごろは自動運転などは研究していない他業界の人が参加していただいているということで、これは自動運転AIチャレンジの構想で、他業界の人とつながりを持つというところからも始まっていますので、その観点から見ても企画がうまく進んでいるのかなと感じます」。

「また、私たちも日ごろから課題だと感じているところを参加した皆さんから指摘いただいた感じで、例えば環境についてであったり、タイムアタック以外でも評価できたらいいんじゃないかというあたりです。自分たちでも考えていることですが、参加者の皆さんから意見としていただくと、それをやればもっと参加者が増えて活動が広がっていくんじゃないかと思えたので、そんなフィードバックを得ることができてわれわれとしてもよかったと思います」とコメントしている。

2023年度もインテグレーション大会、シミュレーション大会を開催予定
7月に開催される「人とクルマのテクノロジー展 2023 NAGOYA」でも自動運転AIチャレンジの展示やデモ、講演会などを開催する計画