ニュース
神戸大学が総合優勝した「学生フォーミュラ日本大会2021」オンライン表彰式レポート
2021年10月4日 15:02
- 2021年9月30日 開催
大学、専門学校に在籍する学生がチームを組み、約1年という期間をかけてフォーミュラスタイルの小型レーシングカーを開発、製作することでもの作りの本質やプロセスを学び、その経験からもの作りの厳しさ、面白さ、よろこびを実感することを開催理念にあげる競技会が「学生フォーミュラ」だ。アメリカで始まり世界各国に広まったこの競技会、日本では公益社団法人 自動車技術会が主催している。
学生フォーミュラ日本大会は多くの海外チームも参加し、毎年9月に静岡県の「エコパ(小笠山総合運動公園)」にて開催していた。しかし、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で開催は中止となった。
2021年は通常開催を目指していたが、状況が改善せず2年続けての中止も検討されたが、主催の自動車技術会や関連業界、関係者の働きにより、人が集まることなくオンラインで進行できる静的審査のみを行なう開催となった。内燃機エンジン車のICVクラスが61チーム、電動車のEVクラスも12チームと多くの学校が参加。
なお、学生フォーミュラは世界大会なので他の国でも競技会は行なわれているが、昨年は中止かオンラインでの開催だった。今年も状況は厳しいのでオンライン開催が多いが、一部では静的審査のみをオンラインで開催し、動的審査は実地開催という国もあったと言う。また欧州など国境を越えることが物理的に容易な地域であっても「欧州大会」ではなく、国ごとの開催になっていたようだ。
この大会は2021年9月に無事終了。そして9月30日、公益社団法人 自動車技術会は学生フォーミュラ日本大会2021の表彰式をオンラインにて開催した。表彰式には大会実行委員長の水谷泰哲氏(トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 先進技術統括部)ほか審査員も出席した。
各賞発表の前に実行委員長の水谷氏があいさつを行なった。水谷氏は「新型コロナウイルス感染症の影響により現地開催が中止となりましたが、学生フォーミュラという取り組みを通じた人材育成の機会を絶やすことなく実施していくことを考え、初めての試みとなるオンライン開催に踏み切りました。皆さまには経験したことのない環境への挑戦となった大会だったと思います。表彰式もオンラインで行ないますが、今年の大会での学びや想いを分かち合い、来年の大会へ気持ちをつなげていただければ幸いです」と語った。
学生フォーミュラでは製造コスト、プレゼンテーション、デザインを審査する「静的審査」と車両を走らせる動的審査(アクセラレーション、スキッドパッド、オートクロス、エンデュランス、効率)という審査が行なわれるが、水谷氏のコメントにあったように、今年はオンライン上で進めることができる静的審査のみで競うことになった。総合成績上位、及び各賞受賞校は以下のとおり。
学生フォーミュラ日本大会2021/総合表彰
総合優秀賞 1位:神戸大学
総合優秀賞2位:大阪大学
総合優秀賞3位:京都大学
経済産業大臣賞:神戸大学
国土交通大臣賞:名古屋大学EV
静岡県知事賞:神戸大学
掛川市長賞:名古屋工業大学
袋井市長賞:名古屋工業大学
日本自動車部品工業会会長賞:名古屋工業大学
ICV総合優秀賞:神戸大学
EV総合優秀賞:名古屋大学EV
日本自動車自動車工業会会長賞:名古屋大学/神戸大学/日本自動車大学校/埼玉大学/千葉大学/山梨大学/名城大学/東京都市大学/工学院大学/岐阜大学/静岡工科自動車大学校/新潟大学/山陽小野田市立山口東京理科大学/東京農工大学/九州工業大学/日本大学理工学部/広島工業大学/帝京大学/群馬大学/東京大学/久留米工業大学/トヨタ名古屋自動車大学校/明星大学/ホンダテクニカルカレッジ関西/北海道大学/豊橋技術科学大学EV/ものつくり大学EV/トヨタ東京自動車大学校EV/神奈川大学EV(計29チーム)
学生フォーミュラ日本大会2021/種目別表彰
デザイン賞 1位:名古屋工業大学
デザイン賞 2位:京都大学
デザイン賞 3位:千葉大学
デザイン賞 3位:名古屋大学EV
コスト賞 1位:大阪大学
コスト賞 2位:神戸大学
コスト賞 3位:同志社大学
プレゼンテーション賞 1位:岐阜大学
プレゼンテーション賞 2位:神戸大学
プレゼンテーション賞 3位:東京大学
学生フォーミュラ日本大会2021/特別表彰
ルーキー賞 ICVクラス:福井工業大学
ルーキー賞 EVクラス:ものつくり大学EV
最軽量化賞 ICV:静岡工科自動車大学校
最軽量化賞 EV:豊橋技術科学大学EV
CAE特別賞 1位:京都大学
CAE特別賞 2位:名古屋大学EV
CAE特別賞 3位:豊橋技術科学大学EV
ベスト三面図賞:豊橋技術科学大学EV
ベストエアロ賞:京都大学
ベストコンポジット賞:京都大学
エルゴノミクス賞 1位:京都大学
エルゴノミクス賞 2位:名古屋大学EV
エルゴノミクス賞 3位:神戸大学
ベスト車検賞 1位:名古屋工業大学
ベスト車検賞 2位:新潟大学
ベスト車検賞 3位:日本自動車大学校
EV総合優秀賞は名古屋大学 EV Formula Team FEM
オンライン表彰式では総合表彰の上位チームが参加。それぞれ順に受賞の感想を語ったので内容を発表順に紹介しよう。
まずはEV総合優秀賞を受賞した名古屋大学 EV Formula Team FEMから赤尾拓海さんがコメントをした。なお、同チームは学生フォーミュラ日本大会でEVクラス4連覇となった。
赤尾さんは「今回の大会では例年得意としていた審査で得点を取れず、総合成績で順位を下げてしまったところは反省が必要です。しかし、EVクラスで優勝することができたことは素直によかったと受け止めています。先輩方の取り組み方をうまく引き継ぎ、審査に真摯に取り組めたことが結果につながったと考えています。来年は審査が伸びなかった点を修正します。また速い車両を作り動的審査でも好成績を出してEV車で初となる総合優勝を目指します」とコメントした。
総合3位は京都大学 学生フォーミュラプロジェクトKART
京都大学は2019年開催で18位だったが今回は一気に順位を上げて3位となった。これについて丸山さんは「順位の大幅アップは素直にうれしいです」と語った。続けて「ただ、各スコアを見てみると前回より得点が下がってしまったところもあります。そういう面では改善が必要な場所がまだあると感じています。また、来年開催されるであろう動的審査に向けては車両の熟成をおこない、目標として掲げている総合優勝へ向けて活動していきたいと考えています」とコメントをした。
総合2位は大阪大学フォーミュラレーシングクラブ
2021年度プロジェクトリーダーの今村さんからは「総合優勝を目指していたので2位には悔しい思いもありますが上位入賞ですので悔しいという以上にうれしく思っています。今年度は活動に制限が多かったのですがメンバー全員がそれぞれに役割を進めてくれました。それがこの順位になれた要因と考えています。来年に向けては静的審査、動的審査ともに上位を獲得して総合優勝を目指します」というコメントだった。
総合優勝は神戸大学 学生フォーミュラチーム
神戸大学にとって初の総合優勝。村田さんは「たくさんの方々の力添えをいただいたおかげで初の総合優勝を獲ることができました。今回のプロジェクトは最初から最後までコロナ禍という特殊な環境下での活動になりましたが、これを最高のかたちで締めくくることができ、とてもうれしく思います。来年度は動的審査を含めて総合優勝を狙っていきたいと思います」と語った。強豪校が多いなかで総合優勝をもぎ取った要因については「静的審査の準備は大部分がオンラインでの活動になりましたが、オンライン会議の環境を十分活用しメンバー間のコミュニケーションをしっかり取ることを行なってきました。学生フォーミュラはチームで挑むものなので、こうした取り組み方が結果につながったと考えています」とコメントした。
プレゼンテーション審査1位は岐阜大学 フォーミュラレーシング
総合表彰に続いては部門ごとの1位チームが紹介された。まずはプレゼンテーション審査で1位になった岐阜大学 フォーミュラレーシングだ。
この結果については「チーム内だけでなくOBやOGの方々など大勢の人にプレゼンテーション審査の練習映像を見てもらいました。そして直すべき点やご意見をもらいながら修正していったことが本番で効果を発揮したと思っています。来年も引き続ききプレゼンテーション審査1位を狙うことと同時に、今年大きく点数を伸ばすことができたデザイン審査についてもさらに伸ばせるよう努力していきたいと考えています」と語った。
デザイン審査1位は名古屋工業大学フォーミュラプロジェクト
最後に紹介されたのはデザイン部門1位の名古屋工業大学 フォーミュラプロジェクト。表彰式にはプロジェクトリーダーの吉田さんが出席した。
前回大会では動的審査内の3つの部門で1位を獲ったチームだったが、なんとデザイン部門では落差のある18位という結果に終わっていた。しかし、今年は大きくジャンプアップしての1位獲得となった。
その要因について吉田さんは「今年の車両は前回大会で好成績を残した車両をベースに開発したものです。事前検討のレベルの高さは維持しつつ、今回は開発プロセスにおける“検証”の完成度を高めることを重視しながら活動してきました。また、私たちのチームでは“工学的技能の獲得”をコンセプトにしていますので、こんことに基づき、チーム全員でいい製品を開発していこうという姿勢を持っていたことが今回の結果につながったと考えています」と語った。
審査リーダーからの講評
各賞の発表に続いてはプレゼンテーション審査、コストと製造審査、デザイン審査の各審査リーダーが登場しての講評となった。最初はプレゼンテーション審査リーダーの増田貴彦氏がコメントをした。
増田氏は受賞校、及び配信を見ている参加チームに向けて以下のように発言した。「今年のプレゼン審査では、前回提案した内容を振り返っていただいたうえで、今回をどう展開していくかのシナリオをキチンと作ってもらうことが審査側のリクエストでした。このコンセプトを理解できなかったチームはこの時点で大きな差がついていたことをお伝えしておきます。審査の内容ですがわれわれが待っているのは“一緒に事業展開をしよう、協力したい”と思わせてくれるオリジナリティ溢れるアイデアが盛りこまれた事業計画(学生フォーミュラは学生チームが車両開発を行なう企業という設定で、自社の車両を審査側の企業に売り込むための活動を行なう)です。プレゼンテーション審査1位になった岐阜大学の内容はオリジナリティ溢れるものでした。EVクラスについて、EVはこれからの時代に則した有効なコンテンツではありますが、今年参加されたチームの皆さんには、そのポテンシャルを十分に生かせてないという印象でした。せっかくの素材ですので有効活用する企画を期待しております。このプレゼン審査とは皆さまの熱い想いを審査委員にうまく伝える場です。内容がいいことももちろんですが、限られた時間のなか、ルールを守りながら効果的にプレゼンを進めていくことがとても大切です。来年の開催でも皆さまの学生らしい生き生きとしたオリジナリティ溢れるプレゼンテーションを楽しみにしています」というものだ。
つぎはコストと製造審査リーダーを務めた鈴木氏が登場。鈴木氏は「コストレポートではプライススコアとディスカッションスコア、シナリオスコアという項目があります。このうちシナリオスコアとは、会社に入って問題解決(下記画像にある課題)の提案書を提出した想定でのもと、提案書の内容を審査していますが、皆さんは自動車の設計、開発を行なう会社の技術者なので技術者としてのレベルであるレポートが必要です。この点を理解できないチームではここで大きな点差がついた面もあります。そして今回は紙のレポートなどを電子データに切り替えたり、データを階層化することなどルールを一部変更していましたが、これは審査をしやすくするためだけでなく、チームにとってもレポート提出前のチェックが容易に行なえるなどのメリットがあるものだったのではないかと思います。EVクラスのコストについてはリアルの世界でも補助金があるので、これを審査に導入してよりリアルに近いものにしています。導入したルール上のインセンティブ(今回は8000ドル)はコスト計算書に記載された額から引かれるので、コスト高になるEV車とICV車の差を埋めるものです。ただ、元の金額が高額すぎた場合の効果はあまりありません。EV車でもコストを抑えた場合、得点へ効果が出やすくなります。最後に加点の取れるコストレポートの作り方のお話しをします。ここでは実際に作れる部品図があることが前提です。機械部品についてはこれができていますが、ワイヤーハーネスなどに関してはできていないことが多く見られますので、こうした部品についてもキチンと単品図を書くことと、各工程の組み立て図、工程図、行程表なども用意していただきたいと思います」と学生に向けて審査のポイントを解説した。
最後はデザイン審査リーダーの長谷川氏からの講評となった。長谷川氏は「オンライン開催であっても公平でわかりやすい審査を行なうため、われわれジャッジサイドは従来より早い時期から審査方法の検討を始めていました。そして車両を画面に映していただき、細部まで見せてもらいながら質疑応答するスタイルで行なうことにしました。また、従来にはなかったデザイン画像やデザインビデオなどの資料提出も決めていました。ところが予想以上に人との接触が厳しい状況になってしまったため、実車の中継は実現できませんでした。それでもデザイン審査全般としては概ね期待どおりに進行ができたと思っています。このデザイン審査とは“思考の競技”です。自分たちで考えていくことがなにより大事です。できあがった車両が素晴らしくてもそれがどこか一流チームの設計図を元に部品を発注し、組み立てただけではデザインとして評価しません。ただ、今回はデザインレポートや質疑のみと“絵に描いた餅”を語られる状況だったことが厳しいところでした。これは学生の皆さんも同じ気持ちだったようで完成している車両を見せたいと思っていることが審査を通じて十分伝わって来ました。ここが今回の審査でいちばん難しかったところですが、有効だったのがデザインビデオです。これは各チームの総合力をイメージするのに大いに役に立ちました。そうしたことからデザインビデオは来年も採用させていただきたいと思っています。さて、今回の印象ですがこれは名古屋工業大学と京都大学が飛び抜けていました。とくに名古屋工業大学は、われわれジャッジがなにを求めているかをしっかり考えて回答を用意してきてくれていたことが好印象でした。なお、15位くらいまでのチームは基本的なV字プロセス(以下に資料画像を掲載)の開発ができていたように見受けられました。この点も評価したい部分です。さらにブラッシュアップして来年また挑戦していただきたいと思っています。最後にお願いですが、今後参加される皆さんの力で学生フォーミュラ日本大会自体のレベルをおおいに高めていただき、海外チームが参加したがるハイレベルな日本大会に育ててください」と語った。
シーズンの締めくくりに大会委員長/学生フォーミュラ会議議長の松薗義明氏がコメント
今シーズンの締めとして大会委員長の松薗氏がコメントをした。松薗氏は
「学生フォーミュラはもの作りを通じた人材育成のプログラムとして2003年にスタートしました。その後、多くの優秀な人材を産業界に輩出させていただいているものです。しかしながら昨年は大会そのものが中止になり、今年もオンラインのみでの開催になったこともあり、なかなかやり切れない気持ちを持っていた方は多いかと思います。そのようななかでも最後までモチベーションを高く持ち、挑戦すること、そして学ぶことを諦めずに参加いただいたチームの皆さま、それからこれを支えていただいたスタッフ、先生方を含め関係者の方々に、本大会の委員長として改めて感謝させていただきたいと思います。今後も自動車技術会として産学官の後押しのもと、将来、技術者として社会で活躍していくための実践的な経験が積める貴重な機会として大会を発展させていきたいと考えております。来年は第20回目という節目のタイミングとなります。皆さま引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします」と結んだ。