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アストンマーティン、チーフクリエイティブオフィサーのマレク・ライヒマン氏がデザインについて語る
2023年9月22日 17:16
- 2023年9月20日 開催
アストンマーティンは9月20日、今週末に開催されるF1日本GPを前にデザインセミナーを開催した。登壇したのはチーフクリエイティブオフィサーのマレク・ライヒマン氏と、アストンマーティン・アラムコ・コグニザントF1チームアンバサダーのペドロ・デラ・ロサ氏だ。
デザインセミナーを担当したライヒマン氏は、アストンマーティンの歴史とDNA、そして各車両のデザインと全体的な考え方について解説を行ない、「アストンマーティンのルーツはレースにあります。1913年にアストンヒルクライムレースに出るため、ライオネル・マーティンの奥さまがアストン・マーティンという社名を思いついたのです。(共同創設者の)バムフォード・マーティンとならなかった理由は、アストンヒルレースに参加するということで、そのアストンを頭に持ってくれば電話帳の先頭に掲載される、と考えてその名をつけたのです。2人でクルマを徹底的に軽量化した結果、レースに出て成功しました。そして1920年代から現在までグリーンのカラーを継承しています。最初期は“小屋”のような工場から始まっていて、現在までの110年の歴史の中でわれわれは11万台しかクルマを生産しておりません。例えばトヨタだったらわずか3日間で生産できる数です。従ってわが社のクルマは希少性があるともいえます」と語る。
そしてアストンマーティンの初めての現代的なクルマといえば、航空機を製造するのと同じようにアルミを溶接ではなく接着剤を使用することで軽量化を果たした、「DB9」がそれに当たるという。
次に重要な機種が「One-77」で、初のカーボンファイバーモノコック・タブを使ったシャシーを採用。通常デザイナーとしては外側のA面と、見えない内側のB面を作るわけだが、このモデルは両方ともA面とみなしていて、例えば日本の庭園の石が全体の10%しか見えないのと同じように見える部分以外のところにも徹底的にこだわったのだという。その革新性と手作りのクラフトによって、製造されたのはわずか77台だ。
一方、アストンマーティンの歴史の中で重要なのは、1964年の映画から始まったジェームズ・ボンドとの関係となり、「彼は数年間BMWと浮気するというミスを起こしたのですが、DBSで戻ってきてくれたことでやはり歴史の一部、パートナーとして有機的な関係だといえる」のだという。
ただし当時のブランドの方向性は同じベクトルに向かっていたそうで、今後の安定化を図っていくために商品のポートフォリオを増やすことで、まるでオーケストラのようにそのベクトルを広げていったという。そしてそれぞれのパートを受け持った最新モデルたちの説明に入っていく。
アストンの各モデルを解説
DB12:アストンマーティンらしいフェイスを持っていて、その形はアストンヒルクライムの形状と同じ。エレガントで上品で、スポーツカーらしい馬力も技術もある。シャシーだけに集中するのではなくインテリアもアップグレードされている。
DB12 Volante:DB12のオープンモデルで、クーペと同時開発した。トランクドアの高さを考えてしっかりと幌が入るように設計された。
VANTAGE:最もシンプルなラインを持っている。ホイールの上側とルーフラインという2本のラインによって定義づけられていて、止まっていても動きが感じられ、常に発進する準備を整えるデザインとしている。
VANTAGE V12:最も大きなエンジンを最も短いシャシーに詰め込むことで、強烈なキャラクターを獲得している。
DBR22:非常に興味深い機種で、創立100周年を記念して作ったスピードスターモデル。ワンオフで作ったものだが、やはり他の方からも欲しいとの要望があって、結局22台を製造した一種のオマージュでもある。100%カーボンファイバー製で、インテリアは3Dプリンターを使ったコンポーネントを採用するなど最先端の技術を取り入れた。
DBS770:770馬力のエンジンを搭載した非常にパワフルなクルマ。
DBX707:パワフルなSUVモデルだが、大型のグリルを持つことでひと目見るだけでアストンマーティンと分かる。
VALOUR:創立110周年を記念したクルマ。1970年代、1980年代初期のパワフルなマッスルカーをイメージした。あのマスタングは実はイタリアでデザインされていたので、ちょっとそのイメージもある。リアウィンドウはほとんどなく、リアカメラを使って視界を確保している。このクルマはラフスケッチからたった12か月で開発されているのが特徴で、それは今までの自動車業界では考えられないことだが、技術がそれを克服。V12のマニュアルミッションモデルで、ギヤシフトしただけでクルマとの一体感が味わえる、素晴らしい体験ができるという。
VALKYRIE:F1に参戦していた1960年代の後、初めてF1に戻ったことに関係していて、限界を超えるという試みを体現したモデル。軽量化の原理とエアロダイナミクスの理解が必要で、合計で150台を製造した。NAのV12エンジンをリアに搭載するとともに大きなダウンフォースを得ていて、公道走行も可能。コクピット内ではF1に限りなく近いフィーリングを得ることができる。他のアストンマーティン車と違って、ジェット機と同じコンセプトで製造されており、そこもF1と似たところ。公道を走るということで380km/hという速度域でもワイパーを作動させることが必要となり、そこはスペースシャトルのワイパーを設計したエンジニアにお願いして作ったという。
VALHALLA:VALKYRIEに比べると少し重く、普通の度合いに近くなったモデル。サイドシルが低く乗り降りがしやすい。初採用のプラグインハイブリッドモデルで4輪駆動。オールカーボンタブ、オールカーボンボディとなっている。
デザインのDNAとは
アストンマーティンのデザインのDNAとしては、黄金比に基づいたものであれば必ず美しいと感じてもらえる、というのが基本だ。計算式があり、それは3分の1対3分の2というバランス。例えば渦巻き貝やバイオリンもその比率であり、自動車デザイナーとしては必ずこの黄金比のルールに従うよう心がけているという。
また、「ダッシュtoアクスルは自動車デザイナーとしてはよく話題に上がるもので、Aピラーを延長したラインがホイールの位置になり、ドアの後端とホイールアーチまでの距離も同様です。そして2ドアのモデルの方が、ワォッと言うように美しいと感じられるはずです」。
「ホイールtoボディやグラスtoハンチ(クルマの腰やお尻の幅)も同様で、こちらも3分の1対3分の2となっています。アストンマーティンは必ずこのプロポーションになっています。デザイナーの頭の中はデザインスケッチを書く前にこのプロポーションを頭の中に3Dでイメージしているわけです」と解説した。
手作業によるモデリング
さらにライヒマン氏は話を続けていく。「これが『One-77』のデザインの原型、フロントとリアを合わせたハンドスケッチです。デザイナーとしてはコンピュータを使わない、手によるスケッチが最も重要なものです。組み立ても手作業の部分が多いです。製造の段階ではハンドスティッチやカーボンファイバーの繊維のレイアウトもそうです。F1カーも手作業で組み立てています。われわれがそうして制作してきた11万台のうち、95~96%がまだ走行可能です。つまりアストンマーティンは永遠に保存されるために作られているのです」。
「ウルトララグジュアリーの考え方も変わってきていて、消費者としてよりパーソナルで差別化したクルマを求めているわけで、限定生産のクルマが重要になってきています。一方の量産車も同様で、パーソナライズ、カスタム化もできます。そこでは本物の素材を使うことが重要で、見た目が木材であればやはり木材を使うということです」。
「またバッヂの話ですが、これは伝統的な方法で作っています。樹脂ではなく、金属、ガラス、エナメルなど本物の素材を使ってバーミングハムの宝石メーカーが手作業で作っています。日本が大好きだからかもしれませんが、日本刀の作り方と同様にカーボンファーバーを折りたたんで機械加工することでユニークな仕上げをしたパーツを採用しています」とコメント。。
セミナーの最後に、ライヒマン氏は「今お話ししたように、われわれにとっても終わりのない旅を続けているわけで、未来に対しても電動化に対しても着々と進めております。そして美しさは変わることはありません」と締め括った。