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TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team 春名雄一郎CEO、「今シーズンのうちの強さと弱さが凝縮された2日間になっている」

驚異的な追い上げを見せた18号車 勝田貴元/アーロン・ジョンストン(トヨタ GRヤリス ラリー1ハイブリッド)

 WRC最終戦ラリージャパンのDAY2(2日目)が11月17日、愛知県各所で行なわれた。2日目は本格的な山岳ステージの始まりとなり、SS2 Isegami's Tunnelからスタート。このSS2では、18号車 勝田貴元/アーロン・ジョンストン(トヨタ GRヤリス ラリー1ハイブリッド)は、速いタイムを記録していたものの、アクシデントで右フロントを損傷。ハイブリッドのEVモード走行でゴールし、大きくタイムを失うこととなった。

 同じ箇所では、フォードやヒョンデもトラブル。こちらはリタイヤすることとなり、ラリージャパンの2日目は波乱の幕開けとなった。

 ここで総合トップに立ったのは33号車 エルフィン・エバンス/スコット・マーティン(トヨタ GRヤリス ラリー1ハイブリッド)。エルフィン・エバンス選手は、トップを譲ることなく2日目を終えた。

 また、上位で速さを見せていた11号車 ティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ(ヒョンデ i20 N ラリー1ハイブリッド)は午後のSS6でリタイヤ。トヨタ勢がトップ3を独占することとなった。

 いったんは最後尾近くまで後退した勝田貴元選手は、午後のSS5、SS6、SS7でステージトップタイムを3連続して獲得。驚異的な速さで追い上げ、9位まで順位を回復した。

 豊田スタジアムのスーパーSSであるSS8開始直前、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(以下、TGR-WRT) CEO 春名雄一郎氏にお話をうかがうことができた。

TGR-WRT 春名雄一郎CEO、「今シーズンのうちの強さと弱さが凝縮された2日間になっている」

SS8に向け整備の進むTGR-WRTのピット

 SS8の直前ではあるものの、2日間のラリージャパンを振り返ってもらったが、春名氏が最初に述べたのは豊田スタジアムという特別なコースを用意してくれた主催者への感謝の言葉だった。「このようなよいスタジアムの中で(ラリーを)やらしてもらって本当にありがとうございます。意外と面白いなと言ったら怒られるのですが、思い切り今シーズンのうちの強さと弱さが凝縮された2日間になっています。最初のSS(1日目のSS1)、スタジアムのSSで……要するに速くないところを露呈してしまいました。実は今シーズン、最初のSSというのは大体市内であるとか、華やかな場所でやらしてもらったりするのですが、大体出遅れることがあり、そこが課題だと思っています。その課題のまま、今シーズンを終えると」と、スタジアムへの感謝とともに、チームの立ち上がりに課題があったことを教えてくれた。

 しかしながら、TGR-WRTは課題を持ちつつもドライバーチャンピオン、コドライバーチャンピオン、マニュファクチャラーズチャンピオンの3冠を達成している。とくにチームの総合力であるマニュファクチャラーズチャンピオンは、TGR-WRTにとっては3年連続で4回目、トヨタとしては通算7回目の獲得となった。

 その強さについて春名氏は、「ラリーというのは、最後の最後まで残っていることが大切です。もちろんそこにはスピードも大切だと思うのですが、最後まで走りきることがすごい大切です。ドライバーは当然リスクを背負いながら、ただ不用意なプレッシャーを我々は与えることなく結構ドライバーの力量に任せている。それによって最後まで生存している率が高く、そういうのがなんとなく今日の(2日目の)結果に表われていると思っています」と、さまざまな変化のある公道を走るラリーにおいて、走り続けることの大切さを語り、トヨタ勢がトップ3を占める2日目の状況について分析する。

 2日目、最初のSS2のアクシデントによって大きく遅れつつも、午後は3連続トップタイムを出して急速にポジションを回復している勝田貴元選手については、「貴元くんについては、今日の一番最初のSS、セクタータイムがかなり速かった。正直、速かったのでどこかでと思ったら、意外と早くという感じなのですが。そこからクルマをメカニックがしっかり直した。この短い時間で直したというのは、ちゃんと力というか、チームとしての責任を果たしている。その後しっかり速さを見せるというのは、彼自身の成長点だと思います。今年は、多分去年に比べてトータルのポイントでいうと結果がよく見えていない。それは今年から、最初から、何というか安全なところに置いているのではなくて、プッシュしていこうと。やった結果、リスクを取った結果、そこをコントロールしきれなければ、やっぱり行ってしまうことは課題なので、これをちょっとずつアップしていければ。速さは間違いなくある、そのうちいいところにいるのではないか」と評価。今シーズンの勝田貴元選手は速さを追求しつつ成長しており、それが日本人で初めてヨーロッパラウンドのWRCで表彰台を獲得する結果につながったという。

 豊田スタジアムのスーパーSSにおけるライバルチームとの速さの違いについては、「(クルマの)姿勢とかでいうと、意外といい動きをしている。その意味でドライバーはちゃんと仕事をしている。クルマを作るときの哲学的なことを言ってしまって申し訳ないのですが、速いクルマを作るのか、信頼性があるのを作るのかという観点でいくと、それはもちろん両立しているほうがいいと思う。どちらかを妥協しなければならないときに、うちは信頼性を取っている。例えばビス一つをとっても、強度を取るのか軽さを取るのか。うちのクルマは最後までゴールに帰ってくることを第1のプライオリティにしている。その辺りが、(スタジアムの)ストップ&ゴーのレイアウトはでは結構しんどいところがあります」と、コースによるクルマ作りの有利不利が見えてしまっている部分ではないかと分析した。

 ただ、春名氏自身も「それはずっと言い訳にしているとアレなので、がんばって改善はしていきたいと思っています」としつつ、「ラリーが終わったらどこにいるのか、もうちょっと言うとシーズンが終わったらどこにいるのかが大切です。もちろん目先目先のステージが速いことに越したことはないのですが、我々はどちらかというと全体を見た中の最後、いわゆる勝てるクルマ、いいクルマを目指しています」と、クルマ作りの方向性に関する自信を見せた。

 実際、春名氏のインタビューを終えた後行なわれた豊田スタジアムのSS8では、勝田貴元選手が2番手のステージタイムを記録。GRヤリス ラリー1ハイブリッドのカイゼンと速さを実証した。

 2日目を終えて、トップ3はトヨタ勢が独占。勝田選手も驚異的な速さでポジションを回復しつつあり、土曜日、日曜日もダイナミックなラリーとなりそうだ。中京地区の土曜日の天気は曇り、日曜日の天気は晴れと予報されており、公道を走る世界最速のドライバーとコドライバー、そしてクルマの戦いを存分に見ることができるだろう。