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ドライブレコーダー付きミラーなどで知られるジェンテックス ニール・ベームCTOに製品戦略について聞く

ジェンテックスでChief Technology Officerを務めるニール・ベーム(Neil Boehm)氏。Gentexの製品戦略についてうかがった

フルディスプレイミラーで知られるジェンテックスの製品戦略

 FDM(フルディスプレイミラー)や自動防眩リアビューミラーなど高度なミラー製品で知られるGentex(ジェンテックス)。近年ではトヨタ車への採用が進んでいるドライブレコーダー付きルームミラーや、ボーイング 787やエアバス A350の窓に採用されている電子シェードが同社の代表的な製品になる。

 そのジェンテックスでCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)を務めるニール・ベーム(Neil Boehm)氏に話を聞く機会を得た。日本車にも多く採用されているジェンテックス製品の現状や今後の動向などをお届けする。

Gentex In-Cabin Monitoring & Sensing
ジェンテックスの代表的な製品となるドライブレコーダー付きミラー

──ジェンテックスは、フルディスプレイミラーや自動防眩リアビューミラーなど高度なミラー製品で知られています。2023年は世界的にコロナ禍も終わり、クルマの出荷も増えています。全体的な市場環境を現在どう捉えていますか?

ニール・ベームCTO:私たちの技術はハイブリッド車やEVなど、すべての車種にフィットしており、特にフルディスプレイミラーなどの製品については2023年に大きな成長を遂げました。私たちの製品は、パワートレーンにかかわらず利用されているもので、バッテリEV市場の減速などの影響を受けにくいものとなっています。

──クルマの生産などでは半導体不足が強く言われた2023年でした。ジェンテックスの製品は高度な機能を持った製品となっており、多くの製品で半導体が使われていると思われます。ジェンテックスでは半導体不足のような問題はなかったのでしょうか? もし、そのような問題がなかったとしたら、どのような対策を行なっていたのでしょうか?

ニール・ベームCTO:私たちもそう(半導体不足)でした。しかしながら、私たちは垂直統合型の企業です。そのため30%のエンジニアは、製品のリデザイン(再設計)に従事していました。たとえばトヨタ自動車向け製品ですが、トヨタ自動車と協力し、一緒になって「この部品が手に入らない、ではここを再設計して、再度検証して、新しい規範を作り上げる」といったことを、(半導体不足だった)2021年から2023年にかけて行なってきました。

──トヨタを取材している中で印象的だったのは、2023年にジェンテックスがトヨタのサプライヤーとして賞を受賞していたことでした。御社自身は、どのようなところが評価されたと考えていますか?

ニール・ベームCTO:トヨタ自動車とは20年以上一緒に仕事をしてきました。私たちは本当に幸運だったと思います。トヨタからいただいた最も大きな賞は、2021年の技術賞です。フルディスプレイミラー、ドライブレコーダー付きミラーが外国のサプライヤーとしてトヨタに評価されたことは大きな栄誉でした。私たちにとって非常に大きなことです。私たちはそれを誇りに思っており、重要なことです。

 私たちは品質や多様性ついても賞をいただいており、トヨタ自動車からは毎年評価していただいています。

──日本ではとくにドライブレコーダーが人気の商品となっています。ただ、取り付けの問題に悩むユーザーが多く、トヨタ車にドライブレコーダー付きリアミラーが装備されたのは、大きな話題となりました。

ニール・ベームCTO:フルディスプレイミラーにドライブレコーダーを組み込んだ製品は2020年発売でした。その後、通常の自動防眩ミラーにドライブレコーダーを組み込んだものも発売しており、これが大きなものとなっています。また、私にとって思い出深いトピックは、レクサスLSの(日本の)ラインオフイベントで、弊社の社長がフルディスプレイミラー製品について賞をいただいたことです。このような大きな賞は私たちにとってとても重要なものでした。

──ジェンテックスの将来の方向性について教えてください。2024年のCESでジェンテックスはアダスカイ(ADASKY)との戦略的パートナーシップによるサーマル製品を展示しました。戦略的なパートナーシップはサーマル技術が大きな要素となっていると思われますが、ジェンテックスがサーマル技術を使った製品を出すのは、どのような狙いがあるですか?

ニール・ベームCTO:完全な自動運転車が登場するには、可能な限り安全性を確保する必要があります。そのため、いくつか検知にかかわる要件を考えました。

 標準的なCMOSイメージセンサーカメラでは不可能な状況でも、赤外線を使ったサーマルカメラと組み合わせれば対応できると考えています。サーマルカメラであれば、LiDARシステムよりも費用対効果が高いと思います。

アダスカイのシステムによる赤外線サーマルカメラの見え方

画像認識によりオブジェクト認識が行なわれ、車間距離の認識が行なわれている

 明るい場所(明暗差の大きい場所)や霧の多い場所でも、赤外線サーマルカメラを使えば見えるのです。ですからのこのテクノロジはよい技術であり、ドライバーアシスト機能や一般的な安全性をサポートするものでもあると考えています。

 また、後方視界に赤外線サーマルカメラを活用することも検討しています。バックするときのバックライトは後方を確認できるほど明るくはありません。赤外線サーマルカメラであれば後方にある物体を見ることができるのです。潜在的な用途は後方にもあると考えています。

──赤外線サーマルカメラの最大の特徴はどんなところですか?

ニール・ベームCTO:私たちの使っている赤外線サーマルカメラは、LWIR(Long Wave Infra Red、遠赤外線)カメラになります。すべての人やものは遠赤外線(熱)を出しており、(ライトを当てる必要のない)パッシブシステムです。そこがコストベネフィットにもなります。

ラスベガスの街中で実際に撮影したLWIRによる見え方と、CMOSイメージセンサー(通常のカメラ)による見え方の比較

道路の認識をしたところ

──日本でも後退時の事故は大きな問題になっています。とくに後退時の事故は子供などを巻き込むことがあり、悲しい事故となることが多くなっています。

ニール・ベームCTO:よく知っています。後退をするというのは普通のことで、そこに関係する事故も数多く起きています。(光学式の)バックカメラがあるからといって、夜間でも見えるとは限りません。私が住んでいるところは田舎なので、後退時は(光学式の)バックカメラだけではよく見えないのです。

──さまざまなものが見えるようになる技術があるのは素晴らしいことだと思います。とくに日本では、2023年の交通事故死者数は8年ぶりに増加して2678人になり、68人増と大幅に増えました。これだけ増えるのは2000年以来のことで、今後安全技術は多くのクルマでさらなる進歩が求められると考えています。その際に、コストは重要な要素になると思います。

ニール・ベームCTO:(コストエフェクティブな)LWIRで、多くのものが見えるようになることは、非常に大切だと考えています。

 このLWIRを使った赤外線サーマルカメラは軍事技術がベースになっています。赤外線サーマルカメラではシステムによる熱が発生し、それがノイズとなります。これまでのミリタリ向けのサーマルカメラでは、それらの熱によるノイズを校正するためシャッターシステムなど非常に高価なシステムを使用していました。シャッターを閉じた状態と開いた状態とを計測してノイズを取り除く高価で大きなシステムです。

 しかし私たちの技術は、画像処理システムにAIなどを使うことでシャッターレスとすることができ、小型となり、コストを下げることができています。

──ジェンテックスはeSightの買収を発表しましたが、この技術はクルマ関係にもかかわってくるですか?

ニール・ベームCTO:すぐにはありません。目的がまったく異なっています。eSightは弱視の人を助けるものです。加齢黄斑変性で目の中心の視力が弱くなる病気に対応するもので、人がかけるメガネになります。

ジェンテックスが新たに取り組むeSight製品。“見る”ことをコア技術とするジェンテックスの方向性の1つ

 目の前にカメラとディスプレイがあり、カメラで外の映像を撮影し、それをディスプレイに映し出します。そうすることで、視力が弱くなる部分を助けます。視力を上げることで、人々が通常の生活をできるようにします。外観はサングラスのように見えます。

 車載用カメラのディスプレイで私たちが得た知見をほかの市場で活用し、生活の問題を解決することは、私たちの戦略の一部なのです。つまり、自動車でつちかった技術を使って、人々がよりよい生活の質を得るための問題を解決することが重要なのです。

──ジェンテックスの新しい方向性については、フルディスプレイミラーやLWIRによる赤外線サーマルカメラ、eSightの買収による弱視の改善など、見ることや検知する(センシング)に注力しているように思えます。今後もその方向性を伸ばしていくのですか?

ニール・ベームCTO:私たちは50年間、煙探知機を扱ってきました。現在もやっていますが商業ビルだけになります。ジェンテックスは優れた煙探知機で知られていますが、それはホテルのような大きな建物だけです。

 2024年は創業50周年になり、コンシューマ市場へ向けて住宅用煙感知器製品を発売することになりました。キッチン、ガレージ、子供部屋など、場所に応じてさまざまな機能を備えた製品で、CESで初めてデモを行ないました。

 2024年の第2四半期から第3四半期にかけて、コンシューマ市場に投入することをとても楽しみにしています。


 ニール・ベームCTOも語っているように、ジェンテックスはクルマの高度なミラー製品から、LWIRを使った赤外線サーマルカメラなど“見る”製品ラインアップを拡充している。CES2024では、ボーイング 787の自動防眩ウィンドウ技術を応用した、大型バニティミラーにもなる電子バイザーなども展示しており、さまざまな部分で電子化が進むクルマにおける存在感も高まっている。

 今回、LWIRを使った赤外線サーマルカメラを搭載したクルマなども体験したが、夜間おける“見る”性能は高く、レベル2クラスのADASへの応用、ベームCTOの指摘するバックカメラへの応用なども期待したいところ。

 とくにコロナ禍明けにより交通事故死者数は増加傾向にあり、クルマにはさらなる安全性が求められている。その技術の1つとして、LWIRを使った赤外線サーマルカメラは重要なソリューションとして選ばれていくことになるだろう。