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ボッシュ、上質なフィーリングや高効率な回生発電などを実現する「デカップルドパワーブレーキ」人とくるまのテクノロジー展 2024 横浜で日本初公開
2024年5月24日 08:05
- 2024年5月22日~24日 開催
- 入場無料(登録制)
神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で、自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA」が5月22日~24日の会期で行なわれている。入場料は無料(登録制)。
展示ホール・394にあるボッシュブースでは、日本初公開となる「デカップルドパワーブレーキ」を展示。また、展示の主軸をSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)として、SDVの最新動向やソフトウェア開発、先進運転支援システム、モーション、エネルギーなどの関連技術でボッシュが手がける幅広いソリューションについて紹介している。
このほか、開催2日目の5月23日には、ボッシュ 取締役副社長 クリスチャン・メッカー氏と米マイクロソフトコーポレーション モビリティサービスライン プリンシパルアーキテクト 吉見英朗氏の2人が登壇する生成AI活用に関するプレゼンテーションが実施され、さらに会期を通して全20テーマ(37セッション)のプレゼンテーションが予定されている。
「デカップルドパワーブレーキ」(日本初公開)
デカップルドパワーブレーキは、ブレーキの本体と言えるブレーキキャリパーと運転席にあるブレーキペダルを分離したブレーキシステム。すでにあるブレーキ バイ ワイヤとは異なり、運転席にあるブレーキペダルからのリンクはデカップルドパワーブレーキまでつながっており、この内部にある「シミュレーター」と呼ばれる機械でドライバーが意図する制動力を検出して電気信号に変換。同時にスプリングを使ってペダル操作に対する反力を発生させる。基本的な構造は、ボッシュで「iBooster」と呼ばれる電動油圧ブレーキを発展させたもので、コントロールユニット、アクチュエーター、シミュレーター、リザーバータンクなどで構成されている。
デカップルドパワーブレーキを導入するメリットとしては、まず基本的なところとして、ABSが作動したときに通常はブレーキペダルに対して発生する反力をペダルから切り離すことが可能となり、振動のないより上質なブレーキフィーリングを実現できる。さらにBEV(バッテリ電気自動車)やHEV(ハイブリッドカー)といった電動化された車両でブレーキペダルを踏み込んだ際、状況に応じてブレーキキャリパーを使わず、すべて回生発電で制動力を発生させ、エネルギー効率を高める制御も実現できるようになる。
また、自動車メーカーが推し進める車両運動性能の統合制御を実現していくため、パワーステアリングやサスペンションシステムとブレーキを連動させることも重要となり、ブレーキの制御についても電気信号に置き換えてECUによる制御に組み入れていく技術が求められ、この要望を実現する装置としても位置付けられている。
一般的なブレーキ バイ ワイヤとは異なり、デカップルドパワーブレーキではシミュレーターまでペダルのリンクが接続されていることで、システムの不具合によってペダル踏力を電気信号に変換できない事態になった場合でも、通常のiBoosterと同様の振る舞いでブレーキを作動させることができる構造になっている。
乗用車発のADAS活用で建設機械の安全性を高め、自動化にもつなげていく
ボッシュエンジニアリングは、大小さまざまな顧客が抱える要望をボッシュの技術やソリューションを活用して解消していくボッシュの子会社。
今回の展示では、ボッシュで「オフロード」と位置付けられるパワーショベルやブルドーザーといった建設機械に、乗用車で広く普及しているカメラシステムやセンサー類に専用チューニングを施して流用。オフセットしている運転席やアームなどの関係で死角も多い建設機械の安全性を高める「後付けマルチカメラシステム」などを提供していることをアピールしている。
建設機械が運用される現場は車道、歩道と分けられていないことも多く、思わぬところに人がいたり障害物が置かれているようなケースも珍しくないことから、乗用車で大きく進化しているADAS(先進運転支援システム)の需要は高いという。一方、サイズの大小はあっても形状には一定の法則性がある乗用車とは異なり、建設機械は用途に合わせてさまざまな形状のバリエーションがあることから、建設機械では後付けのシステムを使い、対象ごとに最適化を進めて搭載することが基本になっている。
このほか、危険な場所で利用されるケースもある建設機械だけに、自動運転や遠隔操縦といったニーズも高まっており、ボッシュエンジニアリングではこうした面の開発にも注力して取り組んでいると説明された。
SDVを支える「セーフガーデッド・アクチュエーター・インターフェース」
同じくボッシュの子会社であるETAS(イータス)の展示スペースでは、SDVを推進するにあたって前提となるクルマの機能安全について解説が行なわれている。
デモではクルマのワイパーを作動させる制御について例として挙げ、従来型のレガシー製品では担当領域ごとに制御するコントロールユニットが分けられ、処理するソフトウェアは読み出しが主体となっていることから安全性は保たれる一方、新しい機能やアイデアを実現するためにはユニットごと入れ替えるといった物理的な処置が必要となっていた。
これに対し、ボッシュが目指しているSDVの時代では、例えばLinuxベースのプラットフォームでワイパーの制御を含めて車両の各種機能をまとめて制御する。ここに新たな機能として「ADAS用カメラの部分だけ拭き取るようワイパーを作動させる」といった動きを追加する場合、通信によるOTA(Over The Air)アップデートなどの手法で機能を制御に書き込んでいくことになるが、外部からのアクセスに対応するプラットフォームは機能の追加による不具合の発生やサイバー攻撃を受けるといったリスクに直面する不安が出てくる。
こうした問題を回避して安全性を確保する方策として、必要最低限の機能をまとめてプラットフォームからの干渉を防ぐ「セーフティガード」を用意することが重要になると説明。セーフティガードを活用して車両の安全性を確保しつつ、機能に拡張性を与えていくことが「セーフガーデッド・アクチュエーター・インターフェース」の概念だと紹介された。
事故データの公平な活用を見据えた「クラッシュ データ リトリーバル」
2000年から新車搭載が開始され、現在はグローバルで24の自動車メーカーに採用されているボッシュのCDR(クラッシュ データ リトリーバル)は、交通事故が発生したときに、事故発生から約5秒間さかのぼって車速やブレーキペダル操作、アクセルペダル開度、エンジン回転数、ステアリング操舵角、ヨーレートなど最大約100種類の情報を時系列で記録して、“クルマのブラックボックス”とも呼ばれる装置。
ボッシュでは事故発生時のデータをすべての人が公平に活用できることが重要であるとの認識から、CDRのデータを読み出して事故情報をCDRレポートとして出力する「CDRツール」を用意しており、独自のトレーニングに合格した人を対象とする「CDRアナリスト」「CDRテクニシャン」の認定制度も設立。CDRを活用することでより効率的で透明性の高い事故調査が行なえるような環境作りにも貢献しているという。
「生成AIで危機的な状況の反応を大きく改善できる」とメッカー副社長
5月23日に行なわれたプレゼンテーションでは、メッカー副社長がボッシュとマイクロソフトが2月に発表した提携の意義について説明した。
メッカー副社長は、世界的にAIの活用が進んでいるが、自動車では外部認識の領域のみでAIを活用されているが、GTP(Generative Pre-trained Transformer)のような生成AIを採用すれば、より快適で安全な走行を実現できるとの見解を示した。
現時点では、歩行者や車両、走行車線などを検出するアルゴリズムにAIを使っているが、それぞれの背景やそのときの状況とは無関係に、ただ線や箱といった物体として認識するだけで、外界の認識としても極めて限定的な内容にとどまっていると嘆き、外界認識は車両の行動プランニングや機能連携のベースとなる要素だけに、外界認識が不完全であることはADASの性能発揮に大きく影響を与え、危険な状況になっているにも関わらず、誤った認識によって車両が本来の狙いとは異なる挙動を示すことにもつながりかねないと説明。
そこでボッシュとマイクロソフトの両社は、自動車において生成AIを活用する道を模索し、生成AIが道路環境の安全性を高めていく新たな可能性に向けて協力していくと決定。成熟した基礎モデルを使うことで、例えば走行中の車線前方に死角からボールが転がり出てきた状況では、総合的な状況解釈を行ない、その次に子供が飛び出してくる危険性を予期して、危機的な状況における機能面の反応を大きく改善することが期待できるとした。
「ボッシュのようなパートナーがクルマへのAI搭載に不可欠」と吉見氏
続いて解説を行なったマイクロソフトの吉見氏は、実際にどうやって自動車技術に生成AIを活用していくかについて解説。
メッカー副社長が説明したように、生成AIを活用すればADASの機能性を大きく高めることは確かに可能だが、それはあくまでクラウドベースの分析を行なった場合で、車載システムで同様の性能を実現するにはさまざまなブレイクスルーが必要になると説明。
ボッシュのようにさまざまな知見を持ち、豊富なデータと高い能力を備えるパートナーの協力がクルマへのAI搭載に不可欠だと語り、ボッシュは車載技術での包括的な知見に加え、クルマに特化した生成AIの専門知識を持っており、さらに自動運転を実現するためにはレーダーやLiDARなどで集めた膨大なデータを学習させて車載向けの生成AIを作り上げることも必要となるため、マイクロソフトとしては最先端の生成AIをボッシュに提供しながら、いっしょに開発を進めていると現状を紹介した。
これから両社で協力していくことにより、クラウドベースのLLM(大規模言語モデル)の基盤モデルを、クルマに組み込むアプリケーションとして使用可能なシナリオに沿った小さなモデルの開発が可能になっていくとの予測を示している。
また、LLMの基盤モデルを車載した場合に実現できる付加価値として、ADASの進化や自動運転の実現に向けた3種類のユースケースについて解説。まず、車両が走行していく軌道を決定する「プランニング」では、LLMの基盤モデルとボッシュが持つ大規模な車両軌跡のデータベースの知見を組み合わせることにより、高いレベルでのプランニングが実現できるとの見解を述べた。
続いて自動運転の実現で求められるカメラ、レーダー、LiDARのデータを組み合わせる「フュージョン」ではボッシュが持つ大規模なデータベースを活かすことにより、斬新なアプローチでフュージョンを実現できると説明。3つめとなる「パーセプション」(認識)でも、生成AIを活用して、ロバスト性を高めながらセンサーの配置、操作の変更などにフレキシブルに対応して実現していくと語った。
最後に吉見氏は、「ボッシュとマイクロソフトは、オープンで適応性が高く、継続的に拡張可能なエコシステムの実現を目指してまいります」と締めくくった。
クルマ酔いをソフトウェアの力で解決する「コンフォートストップ」
このほかメッカー副社長は、クルマを運転するなかで日常的な問題となる「クルマ酔い」をソフトウェアの力で解決するソリューションの「コンフォートストップ」を紹介。
走行中の車両を停止させる際には制動力によって揺れが発生し、これがクルマ酔いを誘発させる。しかし、コンフォートストップをONにすると車両の振動が最小化され、まるでクルマが停止していないかのような感覚を実現していると強調。
車両の動きを統合制御するソフトウェアの統合パッケージ「ビークルモーションマネジメント」では、コンフォートストップ以外にもあらゆるシチュエーションで有効となる運転機能を、ソフトウェアとハードウェアの連携によって実現。コンフォートストップは今回のイベント会場で日本初公開したデカップルドパワーブレーキを活用する機能となっている。
コンフォートストップのように、SDVの取り組みによってスタンドアローンの新たなソフトウェア機能が開発できるようになっており、これによってソフトウェアビジネスの創出が可能になるとメッカー副社長は締めくくった。