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“Born in Japan”新型「アルファード」「ヴェルファイア」に込めた「徹底した相手目線」の開発についてトヨタ車体 菅間隆博氏が解説

2024年5月23日 開催

トヨタ車体株式会社 TYZ ZH 兼 トヨタ自動車株式会社 CV Company CVZ ZH 主査 菅間隆博氏

 神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で、自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA」が5月22日~24日に開催された。会期中はパシフィコ横浜の展示ホールなどで参加企業がさまざまな製品展示を行ない、それ以外にも自動車技術に関連する各種講演、ワークショップなどが実施された。

 本稿では開催2日目の5月23日に実施された「新車開発講演:新型アルファード・ヴェルファイア 開発ストーリー」の内容について紹介する。

事業移管で「もっといいクルマづくり」を実践

 講演を行なったのは、4代目「アルファード」「ヴェルファイア」の開発を担当したトヨタ車体 TYZ ZH 兼 トヨタ自動車 CV Company CVZ ZH 主査 菅間隆博氏。菅間氏は1996年にトヨタ車体に入社して20年以上に渡ってシート設計を手がけてきた人物。2018年になって製品企画に移動するまでミニバン、SUV、バス、セダン、ウェルキャブなど、トヨタ車体が手がける多彩な車種のシート設計を行なってきたという。

 トヨタ自動車のグループ企業であるトヨタ車体は、トヨタグループ17社のなかでミニバンや商用車、SUVを中心に企画、開発、生産を行なう完成車メーカー。2016年4月にトヨタが行なったカンパニー制の採用を受け、トヨタ車体は商用車(Commercial Vehicle)を中心に扱うCV Companyに組み込まれて車両生産以外の事業も手がけるようになり、CV系車種を扱うバン事業がトヨタから移管されている。

 これにより、従来はトヨタで企画した車両の開発、生産を行なっていた事業形態から、トヨタ車体が主体となり、企画段階から責任を持って担当車両の開発を一手に担う体制に変化。企画段階から技術の開発や工場で生産するメンバーも新型車のために知恵を出し合う体制になったことで、「もっといいクルマづくり」が実践できるようになっている。

 バン事業移管後には、2022年1月に「ノア」「ヴォクシー」、2022年11月に「イノーバ」を発売して、菅間氏が参加した4代目アルファード/ヴェルファイアでは新たなTNGAプラットフォーム(GA-K)のミニバン向け開発にも取り組み高い評価を得ているという。

「快適な移動の幸せ」が4代目の車両コンセプト

 車両解説ではアルファード/ヴェルファイアの歴史をふり返り、2002年にデビューした初代アルファードはFFボディの広々したキャビンと高級感がファミリー層のファンを獲得。2008年に登場した2代目ではアグレッシブな外観を与えたヴェルファイアの誕生で若者からも人気を得た。2015年登場の3代目ではVIPグレードに位置付けられる「Executive Lounge」をラインアップしたことで法人需要など獲得して“ミニバンのショーファーカー”という新たなムーブメントを起こした。20年以上の歴史で高級ミニバンの地位を確立して日本の都市部などでも見かけない日はないほど定着しているほか、アジアを中心にグローバルでも高い需要を誇るモデルに成長している。

 4代目アルファード/ヴェルファイアでは“真のショーファーカー”を目指して開発を実施。「快適な移動の幸せ」を車両コンセプトとして定め、使う人すべてがお互いを思いやり、感謝し合える空間を実現するための技術を投入。トヨタが掲げる「幸せの量産」という考えを、フラグシップミニバンだからこそできる幸せ作りとして取り組んだという。

 この実現に向けて3つのポイントについて進化を実施。まず最初に「堂々スタイル&パッケージ」については、日本国内での使いやすさにこだわり、駐車場の要件の1つとなっている「全長5.0m、全幅1.85m以下」というサイズを維持しつつ、無駄を徹底的に排除することによってサイド部分に従来型の倍近い抑揚を与えつつ、これまで以上となる室内空間の広さを両立している。

 全長については45mm拡大した4995mmになっているが、これはすべてフロントオーバーハング部分に費やされ、これによって衝突安全性能に対応しつつ、フロントノーズの上端をハイピークにした「逆スラントフェイス」を実現。一方でホイールベースやリアオーバーハングは従来どおりの数値ながら、デザイン検討と並行して機能的なトリム類の配置、シート形状の工夫などをミリ単位で煮詰めることにより、従来型以上の乗員空間を確保している。

 外観デザインは力強さと上質感を融合させた「Forceful×IMPACT LUXURY」をデザインコンセプトに設定。躍動感のある大きな塊というイメージを描き、特徴的なフロントマスクからサイドにつながっていく大胆なボリューム変化と抑揚により、突進していく闘牛のような躍動感を表現している。

 インテリアでは、ルーフ中央を前後に貫いていくコンソールパネルからカラーサイドトリムにつながるひと筆書きのような配色切り替えによってプライベートジェットのような上質な空間を演出。前後方向で色の比率を調整することにより、視覚的に後席空間が広く感じられる工夫も施されている。これらを実現するため、ルーフトリムは2分割構造を採用している。

「森の中の静けさ」をヒントにした快適な車内空間

 2点目の「高級セダンに匹敵する快適動的性能」では車内の制振性、静粛性を徹底追求。真のショーファーカーを目指すため、2列目以降のシートの乗り心地を高めることに開発で一番力を入れて取り組んだという。

 TNGA GA-Kに刷新されたプラットフォームは、各ピラーの環状骨格化、フロア下に設置した「床下Vブレース」といった構造の採用によってボディ剛性を従来型から50%向上。さらにボディからシートをフローティングさせて振動を遮断する防振構造を用いており、人が不快に感じる10~15Hzのレベルにおける振動を従来型から3分の1に低減。欧州メーカーの高級セダン並みの乗り心地を実現している。

 静粛性の面では「森の中の静けさ」をヒントにして、人が不快に感じるロードノイズや風切り音といった突出した騒音をバランスよく下げることに注力。単純に音を消していくと防音室のように閉塞感や耳鳴りで不快な空間になってしまうため、森の中にいるようにバランスの取れた心地よい静けさを目指して音圧バランスを調整しており、4代目の車内では1/fゆらぎ分布に近い周波数帯を実現。また、男性の声、女性の声がそれぞれ聞き取りやすくなるような気流のコントロールも行なっている。

 3点目は「すべてのお客様が使いやすいおもてなし装備」。ルーフ中央に設置された新装備の「スーパーロングオーバーヘッドコンソール」には、照明、スライドドア開閉、ドアウィンドウ、サンシェードなどを操作する集中スイッチに加え、空調機能の温度設定や吹き出し口、収納ボックス、カラーイルミなどを薄型コンパクトに集約する。また、スーパーロングオーバーヘッドコンソールに機能が集約されて空いた両サイドのスペースを使い、新幹線のように上から下にスライドして好みの位置でストップできる「下降式電動サンシェード」も採用している。

 Executive Loungeのセカンドシートでは480mmのパワーロングスライドを実現したほか、ヒーターで温められる範囲の拡大、空気袋を使ったマッサージ機能の搭載などによって快適性を向上させている。

 アームレスト前方には大型タッチパネルを備えるスマートフォンのような「リヤマルチオペレーションパネル」を装備。シートリクライニングやサンシェードの上下動、エアコンの温度設定などをタッチ操作で調整でき、Bluetooth接続の脱着式としてどのような着座姿勢でも使えるようにしている。

こだわりの1点目は「徹底した相手目線」

 このような技術、装備によって「快適な移動の幸せ」を追求した4代目アルファード/ヴェルファイアでは、時代の流れを受けて先進運転支援システムやコネクティッド機能などのソフトウェアも重要な位置付けとなり、実際に電子装備はトヨタのラインアップモデル内でもトップクラスとなっている。

 これを受けて開発内容もこれまでと比較して大きく変化しているが、一方で菅間氏は「電子装備の数が増えてクルマが進化しても、お使いいただくのはやはり人であり、われわれはお客さまに寄り添いながら、人中心の愚直なクルマ造りを意識して取り組みました」と語り、開発でこだわったポイントを解説していった。

 こだわりの1点目は「徹底した相手目線」。これは車両コンセプトである「快適な移動の幸せ」にもつうじる部分で、日本人がもの作りで大切にしてきたおもてなしの心と同じ考え方であり、開発で悩んだり迷ったときにはこの「徹底した相手目線」という言葉に立ち返って考えを整理したという。

 具体的な策としては、最初に関係者全員が参加する「おもてなし検討塾」を開校。誰かに指示されて業務として取り組むのではなく、購入者が喜ぶようなアイデアを各自の立場に捕らわれることなく持ち寄り、新しいひらめきのきっかけを作っていく「構造検討ワーキンググループ」的な場になり、自分たちで用意した手作りの新装備アイデアを披露して議論し、相手目線で徹底的に検討していった。

「おもてなし検討塾」の活動からはさまざまなアイデアが新機能として採用されているが、講演ではここまでにも紹介してきた真のショーファーカーとして生み出された装備を中心に解説された。

 まず例として挙げられたのは、先代モデルに搭載された電動スライドドアの開閉スイッチについて。操作スイッチは運転席に加えて助手席からも操作しやすいよう、ルームミラー後方のオーバヘッドコンソールに配置されていたが、送迎車としてホテルなどのエントランスに入り、スイッチを押してスライドドアを開けようとした動作を見て、ホテルのドアマンが呼ばれたのかと考えクルマに駆け寄ってくるハプニングが起きていたという。

 この問題から、クルマを外から見ている人の目にどのように映るのかという点に配慮が欠けていたと反省。4代目ではオーバヘッドコンソールに加え、運転席側のドアトリムにも電動スライドドアの開閉スイッチを増設し、車外の人に配慮しつつ、ドライバーが操作しやすい「おもてなしスイッチ」としている。

 新たに採用されたスーパーロングオーバーヘッドコンソールも車外にいる人に向けた配慮が活かされている装備。お見送りを受けるようなシーンで、自分が座っている反対側のサンシェードやドアウィンドウを開けようとしたときに、シートベルトで体が固定されて遠くにある開閉スイッチに手が届かず、あいさつができず申し訳ない気分になったという声を受け、ルーフ中央で左右どちらのシートからでも手が届くスーパーロングオーバーヘッドコンソールにサンシェードやドアウィンドウなどの開閉スイッチを設置している。

 これと同様に、従来はルーフの両サイドに設置されていたリアエアコンの吹き出し口をスーパーロングオーバーヘッドコンソールに移設。寝ている子供にエアコンの風が直接当たっていることが心配になったというシーンで、シートに座ったままルーバーを動かして風が当たらないようにすることも可能なレイアウトに改善。「おもてなしの心でミニバン後席の新しい景色を作ることができた」と自信を見せている。

 また、前後の細かい位置調整をモーターで気軽にできる2列目の電動スライドシートも構造面で大きな変更を実施。多人数乗車する際、座り心地のよい2列目でVIPにくつろいでもらい、同行する秘書や部下などは3列目のシートに座ることになるが、従来型では3列目に先に乗り込んでおこうとしても、電動スライドに時間がかかってVIPを待たせることになって冷や汗をかくシーンもあったという。

 このような問題が起きないよう、4代目では電動スライドと併用できる「マニュアルウォークイン」の構造を新設。これまでの電動スライドシートはシートベースに設置された台形ねじに沿ってシート側のナットが回転することで前後動しており、手動操作は不可能な構造になっていた。そこで新開発したパワーロングスライド機構では、モーターから先に電磁クラッチを設定して、電動スライドのスイッチ操作を行なったときだけモーターとシートレールに設置された駆動ギヤが接続される仕組みに変更。ロック解除によるマニュアル操作と電動スライドを両立させた世界初のシート構造となっている。

 このほかにもパワーロングスライド機構では、座っている人に不安を感じさせないよう、着座時は電動スライドの速度を低速な40mm/sに抑え、空席時には速度を2.5倍の100mm/sに高速化させ、すばやいシートアレンジを可能にする可変制御が行なわれる。

 従来型の特徴的な装備となっていた2列目シートの格納式テーブルだが、展開したままではシートから立ち上がることができず、乗降のたびに収納する手間を嫌って使わなくなる人も多いとの意見が出されたことから、4代目では使っている状態のままシートから立ち上がれるよう、テーブルを前方に90度回転できる機構を追加して乗降寸法を確保。さらにテーブルの天板を2枚重ねの構造に改め、クルマから降りる前に身だしなみをチェックできるよう防汚処理付きのバニティミラーを設置。リッドのヒンジには適度な節度感を与え、スマホやタブレットを立てかけてリモート会議できるような配慮も行なっている。

こだわりの2点目は「高級セダンに匹敵する後席乗心地」

 こだわりの2点目は「高級セダンに匹敵する後席乗心地」。すでに解説されているように、4代目アルファード/ヴェルファイアでは多彩な技術の積み重ねで後席の振動レベルを3分の1に低減しているが、ミニバンにおけるシートのブルブル感は菅間氏がトヨタ車体に入社した25年以上前の段階からずっと課題になり続けてきたという。

 この問題の根本的な解決を目指し、トヨタ車体では振動解析の技術を高めるため、テストコースの改修時にタイミングを合わせ、評価路の一部に凹凸路面を新設。これと同時に路面プロファイルの3Dスキャンも実施して、実車を使った評価と合わせて実車相当レベルのシミュレーションを進化させていった。

 このデータ解析の積み重ねにより、振動メカニズムの発生要因となるフロアのねじれなど特定。トポロジー解析も組み合わせてボディ構造の最適化を図っているという。ボディ剛性を高める技術としては、前出の環状骨格構造、床下Vブレースのほか、従来型ではロッカーの上にあったスライドドアのレールを断面内に埋め込む「ロッカーストレート構造」も導入している。

 ボディ剛性の向上で振動そのものを抑制したことに加え、新車開発で利用シーンが増えてきた構造用接着剤でも、通常の高剛性接着剤と合わせて高減衰性接着剤も使用。2種類を求められる部位ごとに使い分け、総延長50m以上に塗布することで振動をさらに抑えている。

 シートレールのアッパーレールと座面のクッションフレームの接続部位に設置された防振ゴムは、マンションなどで使われている免震構造を参考にして開発を行ない、ブッシュ構造を取り入れることでシートレールから伝わってくる振動を遮断している。

 新旧モデルを同じコース、同じスピードで実際に走行させるテストを行ない、2列目シートで発生する振動を比較した動画も披露された。液体を入れたグラスの液面が傾く角度が4代目は小さくなっていること、目隠しをして着座する乗員の頭部移動が小さくなっていることなどをアピール。振動レベルの低減によって乗員の体の移動も少なくなっていると説明された。

走りを磨いて「新生ヴェルファイア」に進化

 こだわりの3点目は「ヴェルファイアの復権」。実は先代モデルの後半になってヴェルファイアの販売比率は激減。数値的な推移を見て、開発陣もヴェルファイアが廃止されてしまうのは既定路線なのだろうと考えていたが、最終的な商品化を決定する会議で、当時社長を務めていた豊田章男氏が「ヴェルファイアのお客さまこそこだわりを持ったお客さまで、その気持ちを大事にしてほしい」という言葉が出たという。

 実際にユーザー調査としてヴェルファイアのオーナーズクラブで行なわれているミーティングに参加して意識調査を行なったところ、「ミニバンでも走りにこだわりたい」「アルファードは数が多すぎてイヤ」「いつまでも若々しくいたい」といった言葉が聞かれ、個性を重視するユーザーが多いことが判明。2008年に登場してユーザーと一緒に成長して、アルファードとは異なる唯一無二の相棒になっていると菅間氏は語った。

 このような調査結果も踏まえ、4代目では方針を変更。内外装のデザインだけでなく、性能面まで踏み込んでアルファードとヴェルファイアの差別化を実施。パワートレーンでは高出力な2.4リッター直列4気筒ターボエンジンを8速ATと組み合わせてラインアップ。このパワーを受け止めるべく、エンジンルームに「フロントパフォーマンスブレース」を追加して、19インチのタイヤ&ホイールを装着する足まわりではスプリングとショックアブソーバーに専用チューニングを施している。

 これにより、真のショーファーカーとしての上質な走りに加え、ドライビングプレチャーを感じさせる気持ちのよいハンドリング性能を手に入れた「新生ヴェルファイア」に進化している。

 外観デザインではダークカラーメッキ加飾を与えて「大人のクールさ」を演出し、個性的な「サンセットブラウン」の専用インテリアカラーに用意。これらの施策によって30%以上の販売比率を実現していく計画となっている。

 菅間氏は4代目アルファード/ヴェルファイアの開発を通して「ユーザーの声を直接聞くこと、実際に体験すること、現地現物の大切さについてあらためて再確認した」とコメント。アイデアがどこかから転がり込んでくるような都合のよいことはなく、自ら行動して汗をかいたことで初めて見えてくると学んだという。また、人に寄り添ったクルマ作りこそ日本のもの作りそのものであり、強みになっていることを再確認したと述べた。

 最後に「アルファード/ヴェルファイアは日本で生まれ、育てていただいた『Born in Japan』のクルマです。日本のもの作りのよさを継承しながら、今後も皆さまと共に進化を続けていきたいと思っています」と語り、公演を締めくくっている。

 なお、この講演内容は人とくるまのテクノロジー展のオンライン会場で5月29日~6月14日の期間に見逃し配信の実施を予定している。