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レクサス、走りの「味磨き活動」でクルマの乗り味を深化 土台作りを行なった開発用改造LSに試乗

2024年1月のレクサスUX一部改良で追加されたラジエーターサポートブレース

レクサスの「味磨き活動」

 トヨタ自動車のプレミアムブランドとして展開されているレクサス、トヨタならではの信頼性やていねいなクルマ作りに加え、レクサスならではの静かさや美しい塗装、そして特別な内装などコストをかけることで、トヨタとは異なる世界観を持つブランドとして世界的に展開している。

 日本でもレクサスを代表する「LS」をはじめ、世界的にヒットしているSUVタイプの「RX」「GX」、アジアで人気の高いLサイズミニバン「LM」など多くのラインアップをそろえ、2024年は小さな高級車である「LBX」をリリースするなどユーザー層を広げつつある。

2024年1月のレクサスUX一部改良で追加されたロアバックパネル下端のガゼット

 とくにレクサス「RC」や「LC」以降の美しいデザインは、クルマとしての高度なパッケージを実現したことで新しい時代のレクサス車を印象づけ、プレミアムブランドとして一段上のステージに上がった感がある。

 そのレクサス開発陣が現在取り組んでいるのが、走りの「味磨き活動」。走りのレベルを上げることでレクサスならではの乗り味を実現し、レクサス車に共通する共通するテイストを実現していこうというもの。

 もちろんこれまでも新しい車種を開発するタイミング、改良を行なうタイミングに、車種ごとの走りの性能を向上はさせてきた。クルマの重要な指標となるボディのねじり剛性も現行LSでは世界トップクラスのKt値を実現しているが、レクサス開発陣はそれだけのねじり剛性を実現しても得られないものがあるという。

 これまではねじり剛性や着力点剛性などを見てきたが、走りの「味磨き活動」で走り込みや他社比較を行なうことによって見えてきた部分があり、すでに改良モデルにはいくつかの要素を採り入れはじめており、今後のモデルでは要素を増やしながら順次採り入れていくという。

「すっきりと奥深い走り」の実現

 レクサスが走りの味で実現したい目標として挙げているのが、「対話のできるクルマ」であること。そのための走り味として「すっきりと奥深い走り」の実現を目指しており、それには体幹であるボディの作り込みが必要になると分析している。レクサス開発陣は、ボディの作り込みを「土台」の強化と表現。従来のねじり剛性や着力点剛性だけでないところに着目することで、体幹の強化となる土台のポテンシャル向上を図ろうとしている。

 体幹の強化につながる新たな着目点は、ボディ先端、フロア前、フロア後、ボディ後端の4か所。この4か所の強度を上げていくことが、走りの味に与える影響が大きいことを、「味磨き活動」やさまざまなクルマの分析によって確認できているという。

 レクサスでもこれらの部分については、これまで静粛性という観点から分析&強化を行なってきたものの、走り味という観点からは着目していなかったとのこと。「味磨き活動」により、この部分の強化を行なっていくことの効果が明確となり、今後のレクサス車ではボディ先端、フロア前、フロア後、ボディ後端に特別な設計を施していく。

 すでに一部のレクサス車では「すっきりと奥深い走り」を実現するための部分的な要素を入れ始めている。たとえば、2023年12月に改良新型が発表された「UX」では、リリースに「上質ですっきりと奥深い『走りの味の深化』を果たし」という言葉が出てくる。これを実現したのが、「走りの味の深化では、ラジエーターサポートブレース追加やロアバックパネル下端のガゼット追加等により、クルマの素性を徹底的に鍛え、ドライブフィールをより高めるとともに、操縦安定性や上質な乗り心地を追求しました」という説明に現われている、「ラジエーターサポートブレース追加」(ボディ先端)、「ロアバックパネル下端のガゼット追加」(ボディ後端)へのアイテム追加。

 ラジエーターサポートブレースでは、フロントメンバーから上方へ伸びて上部構造と締結するアームが追加され、ロアバックパネル下端のガゼットでは、リア後端のパネルへ鋼板パッチが追加されている。

 また、レクサス「LM」のリリースでは、「フロントにはラジエーターサポートサイドブレース、リヤサイドメンバーにリヤクォーターブレースを追加し、より雑味の取れたすっきりと奥深い味わいのある走りを実現しました」と記されているように、「アルファード」と比較してラジエーターサポートサイドブレース(ボディ先端)、リヤクォーターブレース(ボディ後端)が異なる構造になっている。よくご存じの方は「あれ?」と思われるように、アルファードに比べて走りを重視した「ヴェルファイア」ではラジエーターサポートサイドブレースが追加されており、1アイテムを導入したのがヴェルファイア、2アイテムを導入したのがLMという状況で、同じLクラスミニバンでも方向性の異なる作り込みがなされている。兄弟車と見られがちだが、ボディ骨格部品から異なる作りが行なわれており、これができるのが現在のトヨタの強みとも言える。

 ちなみにUX、LMともボディ先端はラジエーターサポートブレース(LMではラジエーターサポートサイドブレース)とアーム状の部品追加が行なわれているが、ボディ後端はロアバックパネル下端のガゼットとリヤクォーターブレースと部品の形状が異なっている。これは、車種形状の違いによるものと思われ、車種ごとに最適な対策を施している。ただ、自分自身UXのラジエーターサポートブレースと、LMのラジエーターサポートサイドブレースは、用語が異なることから同じ思想の元に対策されたものとは理解しておらず、将来的には同じ目的のものであるなら、ユーザーからの理解のしやすさを考えると部品名の統一などが必要ではないだろうか?

レクサスLMに装備されているラジエーターサポートサイドブレース
レクサスLMに装備されているリヤクォーターブレース

 開発陣に、開発時点での名前を聞いたらボディ先端については「ラジサポ縦柱(たてばしら)」とのこと。見た目まんまな表現だが、いずれも見た目は現わしているものの、その目的については想像できない。クルマに詳しい人でも「ああ、ラジエータのサポート部材なんだな」と思いがちなネーミングだ。

 量産車については、ボディ先端やボディ後端の強化は始まっているが、フロア前やフロア後の強化は行なわれていない。これは、「この部分の設計変更は大変なため」(レクサス開発者)とのこと。とくにフロア前のトンネル部に対する強化はエアコンの補機類などとの場所の取り合いになっており、フルモデルチェンジでなければ採り入れるのは難しいとのことだった。

 現行の「LS」は2023年10月に一部改良され、ボディ先端となるラジエーターサポートブレースを追加しているものの、フロア前後やボディ後端への取り組みはこれから。レクサス車全体で、改良やモデルチェンジのタイミングで順次採り入れていくことになるのだろう。

「味磨き活動」の知見を採り入れた改造LSに試乗

 では、「味磨き活動」の知見によってボディ前端、フロア前、フロア後、ボディ後端が適切に強化された次世代レクサスはどのような乗り味になるのだろう。今回、TTC-S(Toyota Technical Center Shimoyama)の第3周回路を、ボディ前端に加え、フロア前、フロア後、ボディ後端を強化した、ハイブリッド4WDモデルの改造LSを比較試乗する機会を得た。

 この改造LSでは、フロア前の強化にはバルクヘッド近くというより現在のLSの構造上のためかBピラー位置のフロアを強化。フロア後部はフロアトンネルに添った板状のもので強化し、ボディ後端は凹型のリインフォースでバンパー裏側をからリアバルクヘッドへ向けて強化。撮影が一切できなかったため、説明が難しいが、現行のLSの形状に添う形で強化を図ったものに試乗した。当然、このまま市販できる訳はないが、クルマのどこをどう強化したらどのような変化が現われるのかを実験するためのクルマになっている。

 開発陣によるとLSが選ばれたのは、レクサスの中でフラグシップであり大きく重いクルマのため。将来のレクサス車全体への波及を見すえている。

 現行のLSは、ねじり剛性などはグローバルのプレミアムカーと比べてもトップクラスであるものの、特に低速域などではリアまわりの動きに甘い部分を感じることがある。違いが微小かもしれないため個人的にはその辺りに注目して改造LSと現行LSの比較試乗を行なったが、タイヤの一転がりから違いが分かるほど劇的な変化が起きていた。

 TTC-Sの周回路に入るためには、駐車場でクルマをくるっと回す必要があるのだが、そのような低速域からでも違いは現われる。ステアリングを素直に気持ちよく切ることができ、低速でのアクセル操作に「すっきり感」が現われる。「軽い」「敏感」というより「すっきり」という言葉のほうが適切な感じで、ステアリングとアクセルによる低速域のスピードコントロールが気持ちよい。

 このステアリングとアクセル操作の気持ちよさはテストコースに入って速度を上げても(といっても最高で100km/h程度)同様で、ステアリングを切れば切った分だけクルマのノーズが入り、気持ちよくコーナーを駆け抜けていく。

 一般的にクルマの挙動は、ステアリングを切ることでフロントタイヤに横滑り角が生じ、フロントタイヤで対応するコーナリングフォースが立ち上がり、それがボディの滑り角を通じてリアタイヤでもコーナリングフォースが立ち上がっていく。この一連の流れを非常にスムーズに感じるし、スムーズだから気持ちよさも感じる。

 もちろん現行のLSでも高速・高荷重域ではねじり剛性がトップクラスのボディのおかげもあって不満はないのだが、低速域や荷重抜けが起きる路面(TTC-Sではそのような路面をわざと設定してある)ではリアの追従にちょっとした遅れを感じる。改造LSでは、すっとステアリングを入れるとすぐに向きが変わり始めるため、運転も楽に感じる。

 この差は心理的にも大きく働き、全長5235mm、ホイールベース3125mmという長大なLSのサイズ感を、2まわりほどコンパクトに感じるほど。リアの応答遅れを感じることなく向きが変わっていくのは驚きだった。

 現行のLSにおいては、長大なホイールベースからくるリアの応答遅れを解消するためにDRS(ダイナミックリヤステアリング)というデバイスが用意されているが、今回試乗した現行LS、改造LSともDRSは装備していない個体になる。アクティブスタビライザーもOFFとなっており、クルマとしての基本の作りを比較する仕様になっているとのこと。そのようなこともあって全部入り改造LSのよさが際立つものとなっていた。

 実際の市販車に「味磨き活動」の技術がフル実装されるにあたっては、DRSやアクティブスタビライザーなどの電子デバイスも搭載されるが、もともとのボディのできがよいとそれらの補正量も当然ながら小さくてすむ。補正のための動きも小さくてよいことから、必然的にレスポンスも上がってくる。「味磨き活動」によるボディ強化が行なわれることで、すべてがよい方向に回っていく。

 この「味磨き活動」によるボディ強化は、荒れた路面でも好印象だし、単に直線を走っていても好印象だった。TTC-Sの周回路には1か所の排水口と2か所の荒れた路面エリアが設定されているが、この通過時にも大きな差を感じる。S字の切り返し部に設けられた排水口では、現行LSにややラインのずれを感じるのに対し、改造LSでは乾いた感覚とともにずれを感じることなく通過していく。これは荒れた路面の高速(80km/h)通過も同様で、現行LSと改造LSではステアリングやシートに伝わってくる振動の湿度が異なっている。現行LSがややまとわりつくような振動があるのに対して、改造LSの振動は乾いた感じで明確な振動となっている。その結果、荒れた路面に対して行なう微少なステアリング修正も、路面が適切に判断できることから迷いなくできる。あまり頭を使う必要もないことから疲れも小さく、それが独特のすっきりしたハンドリング感覚につながっているのだろう。

ボディ前端、フロア前、フロア後、ボディ後端の強化を数値化

 ボディ前端、フロア前、フロア後、ボディ後端を適切に強化するだけで、どうしてこれほどのステアリングのすっきり感と、向き換えのスムーズさ、気持ちよさを感じるのだろう。

 レクサス「LX」や「GX」のようなフレーム車を除くと、一般的な乗用車はプレスされた鋼板を箱形に組んだモノコック構造となっている。その構造もがちがちの剛体にするというより、前半部と後半部は万が一の衝突事故から乗員の命を守るためにクラッシャブルゾーンとなっており、中央部のセーフティゾーンと合わせて3つの箱をうまくつなげたものと言ってよいだろう。その前半部と後半部にサスペンションが取り付けられ、さまざまな力がかかる中でクルマは走っている。

 今回の「味磨き活動」によるボディ前端の強化は、乱暴に書いてしまうとその前半部であるサスペンションの付け根にホチキスの針のようなものを上から鉛直に打ち込み、ボディ後端の強化は後ろから水平に打ち込むようなもの。LSのフロントサスペンションはマルチリンクサスだが、サスペンション基部を上下方向に強化したことで、より正確な上下動が実現できているのだろう。一方リアまわりは、後ろから水平に四角く強化されたことで横方向のブレが小さくなり、ステアリングの舵角変化によってもたらされるリアまわりの横滑り角付加までの時間が短くなる。つまり、ステアリング操作による向き変えがすぐに行なわれるようになる。

 フロア前、フロア後の強化は、ボディ前半部と後半部の中央部に対する境界面強化になる。ボディ前半から入ってくる力を、バルクヘッドとフロアトンネルの接続部を強化することでスムーズに後ろに流していく。それらが相まって、レクサスの目指す「すっきりと奥深い走り」を実現している。

 実は、この4点セットが入った改造LS以外に、ボディ先端、フロア後、ボディ後端が強化された改造NXにも試乗した。レクサスの新世代を飾った新型NXは、FFベースのGA-Kプラットフォームをベースに強化を図っており、2023年2月の年次改良ではボディ先端部の強化が、2024年3月の年次改良でボディ後端部の強化を実施。すでに4アイテム中、2アイテムの強化が市販車でなされている。

 改造NXでは、市販車に加えてフロア後の強化を実施。フロア前の強化を行なっていないのは、この部分にエアコンユニットなど多くの補機類などがあるためで、変更が難しいという。先述したが、このフロアまわりの部分の強化は一部改良やフルモデルチェンジでなければ手が入れにくく、2点強化、3点強化、4点強化と順次走りの味作りが進んでいく。

2023年3月のNX一部改良によって装備されたボディ先端の強化部分
2024年3月のNX一部改良によって装備されたボディ後端の強化部分

 NXの採用しているTNGAプラットフォームは、RXやLMにも採用されているFFベースのGA-Kプラットフォームで、比較試乗したクルマはハイブリッドの4WD車両。タイヤは20インチを装着している。

 トヨタのGA-Kプラットフォームは非常にできがよく、パフォーマンスカバレージも広い。NXはGA-Kを採用するクルマの中でも比較的小型なポジションにあり、シャシーとしての許容力に優れている。

 さらに比較対象となるクルマは、ボディ先端、ボディ後端の強化対策がほどこされた市販モデルとなるため、そもそもの走りの能力が高い。実質的にフロア後部の強化の差を見る試乗となったが、それだけでも走りに違いがあったのは驚かされた。

 とくに改造NXで印象的だったのは、その違いの方向性が改造LSとそろっていたこと。「すっきり」とした感触が高まっており、排水口通過時にボディが振られたときの収束も速い。ガチガチに強化と言うより、ステアリングを切り増す際の姿勢変化、外乱があったときの揺れの収束などが、素早く進行する。そのため、運転そのものが楽になり、不安感も減るのを感じることができた。

 レクサス開発陣では、この4か所の強化による乗り味の変化を数値化することにも取り組んでいる。ボディ先端、ボディ後端はある程度具現化できているようで、フロア前、フロア後については指標を検討中としている。どういった入力のときに、どういう特性やモードがどのくらい変化しているのかということを見ており、「味磨き活動」によってレクサスならではの乗り味を統一的に実現しようとしている。

 今回比較試乗した改造LS、改造NXともサスペンションセッティングは市販仕様のまま。ボディのみが必要な強化を行なっている状態になっている。つまり、ボディが強化されているということは、ある入力に対してさらにサスペンションの設定を弱い方向に振ることが可能になるため、追い込んでいけば乗り心地もよい方向に持って行けるし、クルマとしてのふところが広がる。

 レクサス開発陣はもちろんそれを意識しており、走りの「味磨き活動」を進めていくことで「すっきりと奥深い走り」を高めていこうとしている。なお、今回はモノコック構造のGA-L、GA-K車両の比較試乗を紹介したが、レクサス開発陣によるとフレーム車でも同様の効果は出ているとのこと。今後のレクサス車の味作りには注目していきたい。

 現行のレクサスUXやNX、LMはボディ先端、ボディ後端の強化による味作りがすでに行なわれており、レクサスディーラーなどで最新のレクサス車を体感してみてほしい。