試乗記

ラグジュアリーなレクサスの新型ミニバン「LM」を堪能 バツグンに居心地のいい後席だけでなく走りにも注目

レクサスのミニバン「LM」に試乗

短いながらもステアリングを握った印象は?

 この秋、レクサスにもいよいよミニバンが登場する。Luxury Mover、LMだ。新型アルファード/ヴェルファイアと同じGA-Kプラットフォームを使い、ディメンションは5125×1890×1955mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース3000mmという大きなミニバンだ。スピンドルシェープの特徴的なグリルから始まってリアエンドの造詣に至るまでレクサスらしいこだわりが詰まっている。

 パワートレーンは2.4リッターターボ+ハイブリッド。リアはeAxleの4WDで接地荷重に応じて駆動力を配分するダイレクト4を採用する。

 出力は公表されていないがRXでは460Nmのエンジンにフロントに292Nm、リアに169Nmのモーターを搭載している。約2.4tの重量があるミニバン、LMでは設定が異なると思われるが走らせた限りではかなりゆとりのある出力に感じた。

 試乗車の装着タイヤはミシュラン・プライマシーSUV+。サイズは225/55R19でクセのない全方位でバランスのとれているのが特徴だ。

新型LM(プロトタイプ)のボディサイズは5125×1890×1955mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm。「素に戻れる移動空間」をコンセプトとし、すべての乗員が自然体でくつろげる乗り味と居住空間を作り上げることを目指して開発がされた
押し出しの強いスピンドル形状を用いたグリルにボディカラーを用いることでボディとの一体感を持たせるとともに、周辺部品との境界の段差を減らしてボディとより融合した構成とすることで、空力性能や冷却性能、操安性にも寄与
輝くホイールに装着されるタイヤはミシュラン「プライマシー SUV+」(225/55R19)
パワートレーンの詳細なスペックはまだ公表されていないが、日本へは直列4気筒2.4リッターターボとハイブリッドシステム「eAxle」搭載モデルが導入される予定

 運転席のショートインプレッションではレクサスらしい滑らかな操舵感を持ちながらミニバンらしい落ち着いた姿勢安定性が好ましく感じられた。ステアリングには適度な重さと微小な動きにもしっとりと反応するセンターフィール、それにロールする姿勢も落ち着いたものになっている。重心位置の高さのネガを上まわる味つけだ。

 興味深いのは周波数感応型の可変減衰力のショックアブソーバーでリアコンフォートモード付きとなっている。このモードだとロールは大きくなるが、路面からの細かい突き上げは小さくフワリとした乗り心地になる。そしてスポーツモードを選ぶとメリハリ感のある動きで、自分で運転するときはこちらの方が好ましく、がっちりした安定感は後席でも感じられる。

 ブレーキも素晴らしい。微妙なコントロールが可能でパッセンジャーに負担をかけない。滑らかなブレーキはドライバーにも優しいのだ。

 ADAS系もおこたりなく、全車速クルーズコントロールも低速から機能させることができ、運転支援装備は危険時にプレブレーキ制御するなどLMにふさわしいものが装備される。

世界に広がる日本の“おもてなし”

 そして日本に導入されるLMは500h。4人乗りのショーファードリブンモデルだ。後席は広大なレッグルームと大きなコンフォートシートが2人分そろえられ、運転席とは横長のガラス窓がある分厚いパーティションで仕切られる。このパーティションはアルミとマグネシウムの軽量部材でボディフレームにじか付けされており、剛性感の向上にも役立っている。

“素に戻れる時間”を提供すべく、人間中心の考え方に基づいた精緻なつくり込みが行なわれたインテリア。前席にはモダンで広がりのある空間の中にレクサスのコクピット思想「Tazuna Concept」を採用し、シンプルなインパネとコンソールにより運転に集中できる環境を実現。大型独立シートが鎮座する4座仕様の後席はパーソナル感とプライバシー性が高められ、リラックスできる空間が追求された

 そのガラス窓は、開閉はもちろんだがスイッチ1つで曇りガラスにもなり、後席は静謐な部屋になる。ドライバーからは後席の会話はほとんど聞き取れない。静粛性はレクサスが始まったときからのメインテーマでもあり、LMでは高周波から低周波まで各領域での音が抑えられ、特に後席の音へのこだわりは徹底していた。

 そのパーティションには48インチの2分割可能なワイドモニターが備わり、用意された映像やWi-Fiでつないだ資料などをオンラインで見ることも可能。静かでフラットなキャビンは快適な会議室にもなる。

前席と後席を隔てる48インチ大型ワイドディスプレイを備えたパーティション

 リラックスしたいときはシートバックをほぼ180度まで倒してオットマンを使うとフルフラットのベッドにもなる。まさにファーストクラス!

 上から降ろすタイプのサイドシェードを上げると、サイドウィンドウのラインが水平になっていることが分かる。これも景色の見え方にこだわった車酔いが少ないデザインと説明があった。

 大型のセンターコンソールの手ざわりもよく、細かいところを見れば見るほどレクサスのこだわりを感じられる。「神は細部に宿る」ということわざを地で行った職人の技術だ。

シートを倒してオットマンを使うと、そこはまるでファーストクラスのような空間に。なお、レクサスとして初めてアームレストとオットマンにもシートヒーターが採用されている

 空調で特徴的なのは温度を設定温度に保つだけでなく、たとえば暑い日にキャビンに入るとディスプレイ下のレジスターから自動的に風量を上げた冷気が体にたまった熱気を冷ましてくれる。

 まだまだ後席のこだわりがある。スライドドアのスイッチがルーフに付いているのは隣の人のドアを開閉できる配慮だった。もちろん定番の冷蔵庫や靴置きにも使えるボックスもおこたりはない。

おもてなし装備もぬかりなく設定
ルーフにスライドドアのスイッチを配置

 至れり尽くせりの後席に少し注文を付けるとしたらもう少し横に広いとさらに気持ちがよさそうだ。人によってはルーフも含めてすべてのシェードを下ろすと高いセンターコンソールで少し閉塞感を抱きそうだ。

 さて1500万円とも2000万円とも伝えられる価格のLMだが、すぐに受注の山になるのは想像に難くない。また注目されるのはLMは欧州にも導入されることだ。日本で育った独特のミニバン文化が世界に広がってゆく。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛