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「Open SDV Initiative」の目指す未来とは? 現状と課題から求められる技術とミッションについて考える
2025年2月22日 16:00
- 2025年2月19日 実施
SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)時代の自動車ソフトウェア開発とモビリティ社会のこれからを探るオンライン講演会「第10回 オートモーティブ・ソフトウェア・フロンティア 2025 オンライン」(主催:インプレス、共催:名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所)が2月18日~20日に開催されている。
自動車メーカーや部品メーカー、ティア1、ティア2、OEM系ソフトウェアメーカー、半導体メーカー、組み込みソフトウェアメーカーなどで研究開発に携わるエンジニアを中心に、事前登録するだけでZoom/Vimeoから無料参加できるこのオンライン講演会では、SDVの概念が広く認識されるようになってきた昨今のソフトウェア開発の最前線で活躍する多彩な講演者が講演を実施。
開催2日目の2月19日にもさまざまな講演が行なわれたが、本稿ではOpen SDV Initiative 名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所 特任教授 二宮芳樹氏による招待講演「Open SDV Initiativeの目指すもの」で語られた内容について紹介する。
招待講演「Open SDV Initiativeの目指すもの」
これまでクルマの知能化・自動運転などに長年携わり、Open SDV Initiativeでは「AD/ADAS」(自動運転/先進運転支援システム)のWG(ワーキンググループ)でリーダーを務める二宮特任教授は、最初に前提となるSDVについて紹介。
日本語でソフトウェアで定義される車両という意味を持つSDVは販売後にソフトウェアの追加や更新を行なって機能拡張などを図れるクルマであり、「クルマのスマホ化」とも呼ばれている。SDVによってユーザーはクルマの購入後でも機能や価値が向上し、パーソナライズさせることが可能になるほか、メーカー側でもアプリなどを販売することで収益を上げることができることに加え、サードパーティの活用で車両の魅力を高めることもできるとした。
SDVは国際的に競争が加速しており、米国のテスラや中国の新興BEV(バッテリ電気自動車)メーカーが商品化を行なって先行している。日本では経済産業省が主導する「モビリティDX戦略」で「2030年にSDVのグローバル販売台数における日系シェア3割」を目標として設定。今後の課題としては、ビジネス面では余裕のあるハードウェアが求められることでコスト増につながるほか、スマホでも可能な機能については価値が見出されない。技術面では既存のソフトウェア開発スタイルでは工数が爆発的に増えてしまうことに加え、安全なソフトウェア更新技術も求められると指摘した。
SDV実現の取り組みでソフトウェア開発工数が爆発的に増える課題に対応するため、「ソフトアーキテクチャの改革」「ソフト開発環境の改革」が必要になるとの考えを示し、とくに「ソフトアーキテクチャの改革」では車両のハードに依存しないソフト開発を可能にするため、ソフトとハードを分離することで車両ごとのソフト個別開発から解放されると説明。これがOpen SDV Initiativeの取り組みにつながっていく。
ソフトとハードを分離するアーキテクチャの革新では、車両ハードをアプリやユーザーが効率よく安全に利用するための「ビークルOS」と実際に動作する「アプリケーション」を分割し、ビークルOSとアプリケーションを接続するAPI(Application Programming Interface)として「ビークルAPI」が必要になると指摘。APIを策定することで分担化が進んで開発効率が高まり、さらにAPIを標準化することでこの効率化が業界全体で加速していくと考えており、Open SDV InitiativeではAPI標準化に必要な具体案をまとめる活動を行なっているという。
2024年10月に発足したOpen SDV Initiativeにはマツダ、スズキという自動車メーカー2社に加え、ティア1部品メーカー7社、ソフトウェアベンダー25社など計48社が参加。車載制御システムやソフトウェアネットワークの標準化に取り組む「JASPAR」も一般社団法人として存在しているが、Open SDV Initiativeはサードパーティも参加して、自動車メーカー同士が競争領域としてしのぎを削っている自動運転もAPI策定の対象にしていることが特色となり、JASPARと相互補完する存在になることを目指しているという。
前出のようにビークルAPIの標準に資する仕様を提案することを目標としており、できる限り早く、サードパーティの会社も参入できるAPIを目指しているほか、すでに世の中に存在している他国のAPIを参考にしつつ、内容で必要な部分の追加、修正を行なって可能であれば連携することも視野に入れて提案したいと考えており、まずは2024年度末までに1次案を構築するべく活動している。
現時点ではセントリーモード、洗車モードなどの「ボディ系」、自動運転や自動駐車、バレーパーキングなどの「AD/ADAS系」、メーターをパーソラナイズする「HMI系」、カーナビやPOI情報、旅行情報などを提供する「情報提供系」、ドライブの記録やゲーム、自動運転中の車内エンタメなどの「エンタメ系」、ドライブレコーダーや安全運転診断、地図作成やインフラメンテ向けの活用などを行なう「プローブ系」、シェアリングカー管理やV2Xなどの「その他」という7項目のアプリにフォーカスしており、これに加えてアプリ自体のアイデアを「UXアイデア WG」で創出していくという。
APIコンセプトは時間の関係などもあって概要説明となった。情報がオープンになっている既存のSDVアーキテクチャを調べたところ、役割分担がわかりにくいとの意見があったことを受け、サードパーティが参入している観点からもビークルOS内にある「ビークルOSカーネル」と「ビークルライブラリ/ビークルミドルウェア」を分離表現するアーキテクチャ図を検討して、ビークルAPIについてもアプリケーションとライブラリ/ミドルウェア間に位置する「ビークルライブラリAPI」、アプリケーションとビークルOSカーネル、ビークルOSカーネルとライブラリ/ミドルウェア間に位置する「ビークルカーネルAPI」の2種類を合わせて呼称するものとなった。
AD/ADAS WGで取り組むAPI策定について
二宮特任教授がリーダーとして活動しているAD/ADAS WGのAPI策定では、「AD/ADASそのものをアプリとするAPI」にする必要があると説明。
AD/ADASでは外界認識を行なうセンサー類と車両を制御する車両アクチュエーターのほか、ドライバー状態などの情報も活用して必要な行動計画を策定するが、センサー類や車両アクチュエーターは車両ごとに異なる。この違いについてはビークルOSの段階で吸収して、APIは車両のハードに依存しない仕様とする。
さらにサードパーティが制作するアプリがAD/ADASアプリをライブラリとして利用できるようにするAPIも用意するという。
実際の制御でAPIが必要とする情報については、走行中の車線変更を例として紹介。
後方の検知に使うセンサーがカメラの場合とレーダーの場合、検知距離と相対速度の精度についてはレーダーが優位で、車線に対する位置/速度の精度、車種やウインカーの検知はカメラが優位となる。こうしたセンサーの違いを隠蔽して同じアプリで正しく制御するために、検知距離ではコンフィグ情報に性能仕様を入れ、精度が関連する部分には精度情報を付加。車種識別などについては識別可能カテゴリーを列挙して、同時に曖昧さの記述も重要になるという。
また、車両自体の違いも吸収する必要があり、制御するのが乗用車とバスでは発生するGや応答性が異なるため、制御が難しい車両特性や目標値の違いをコンフィグ情報に性能仕様を入れることが重要になる。
外界認識の結果を表現する座標系も重要な要素となり、AD/ADASでは近距離ある物体は「車両相対座表系」を使うが、離れた場所にある車両が駐車状態なのか、車線変更してくるのかといった判断には「道路座標系」を使う必要があり、こうした部分も提案していく予定と説明された。
今後については2024年度中の1次案構築に取り組んでおり、これに続いてAPIの物理仕様、アクセスの仕組みを構築していき、とくに「優先度制御」をどのようにするかが非常に重要だと説明。策定したAPIはAD/ADASのオープンソースソフトウェアである「Autoware(オートウェア)」とシミュレーション環境を使って有効性評価を実施。また、AD/ADAS向けのAPIをプローブやデータ活用ビジネス向けのAPIとしての拡張も実施予定とした。
最後に二宮特任教授は、Open SDV Initiativeは会費もなく、仕様はオープンで知財についてはメンバー間で無償利用可能なので、興味がある人はWebサイトなどにアクセスしてみてほしいと呼びかけ講演を終えた。