ニュース

シムドライブ、EV開発車第4号「SIM-HAL」発表

研究開発から事業化へ。モンスター田嶋氏が社長就任後初の成果発表

シムドライブの開発車第4号「SIM-HAL」が公開された
2014年3月31日開催

 シムドライブは3月31日、先行開発車事業第4号成果発表会を都内で開催し、新型車両の「SIM-HAL(シム・ハル)」を発表した。

 シムドライブは、慶應義塾大学 環境情報学部教授の清水浩氏が開発した2つの基幹技術を用いた電気自動車(EV)開発プロジェクトを行っている企業。2つの基幹技術とは、車輪側にモーターを配置して各車輪それぞれが駆動力を持つ「インホイールモーター」と、バッテリーやインバーターなどの走行コンポーネント一式を車体床下に収めた「コンポーネントビルトイン式フレーム」である。

 シムドライブはさまざまな企業や団体に対してプロジェクト参加を募り、2010年から毎年この先行開発車事業を展開している。4年目となる今年は、その第4号成果としてこのSIM-HALを発表。参加した各企業のさまざまな先進的な技術も搭載されている。

「SIM-HAL」
開発車第4号「SIM-HAL」がアンベール
4輪に新型インホイールモーターを装着する
スポーティなリアコンビネーションランプ
基本的にラゲッジスペース内部は開発事業第3号の「SIM-CEL」と同様
ドアパネルも流用のため、あえて違いを見せるようにということで、4ドア風な表面処理を施しているが、あくまでも表面処理のみ
左リアに急速充電口を設ける
SIM-HALのインテリア
ルーフの前方側にフラットパネルスピーカーを内蔵
メーターパネルには液晶ディスプレイを使用
「EVナビシステム」や音響システムはアルパインが担当

 清水氏が2009年に創業したシムドライブは、第3号成果の発表後に“モンスター田嶋”こと田嶋伸博氏が代表取締役社長に就任。今回は就任後初の成果発表となっている。

 発表会にはシムドライブの会長である福武總一郎氏も姿を見せ、冒頭でシムドライブの現状と今後の方向性について報告。これまでシムドライブが展開してきた先行開発から、実業としての新しいフェーズに入るよう舵を切るとしている。そのため、第4号まで続いてきた先行開発事業は一旦今回で終了。今後は田嶋氏が社長を務めるタジマモーターコーポレーションとビジネスパートナーとしてより強力にタッグを組み、インホイールモーターの分野で世界で最も先を行く企業として、さまざまな企業と連携を取りつつ最新鋭のEVの実用化に向けて事業を進めていくという。

シムドライブの福武總一郎会長(左)と田嶋伸博社長(右)
シムドライブの現状と今後の方向性について語る福武總一郎氏
田嶋伸博氏はEVのレース車両で「パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒルクライムレース」などにも参戦する現役プロドライバー

 事業としては、これまでの先行開発車4台を事業化すること、そして先行開発車に搭載したインホイールモーターを「コンバートEV」として事業展開していくとしている。ただし、これまでどおりEVの量産はしないとしている。また、神奈川県の新川崎にあった本社を5月から都内に移転し、R&Dセンターを静岡県磐田市に置くことも発表された。

 さらに、今回新しいシムドライブ製モーターが4種類発表された。SIM-HALに採用された17インチサイズのホイールに収まる「SS」、その積み厚を2倍にした「SSX」、さらにインホイールモーターをほぼそのままタイヤを装着する「SP」、そしてこのインホイールモーターを横に寝かせた水平レイアウトモーターである「UFX」の4機種だ。

新型インホイールモーターの「SS」。大径化でモーターを薄くすることに成功。ホイールリム幅内にブレーキまで収めることができるとしている
新型インホイールモーターの「SSX」。横幅はSSの倍となるが、既存の先行開発車のモーターも基本的にはこの程度の厚さがあった
ホイール一体型の新型インホイールモーター「SP」。ホイールとしての強度などの検証はこれから。表面はディッシュ形状となっているが、モーターハウジングの強度として、まだ数mm程度の薄肉化は可能ということで、デザイン処理も可能
「SP」は裏側にドラムブレーキが組み込まれている。このドラムブレーキはスズキ スイフトのものを流用し、スイフトに装着することも想定したモデルとなっている

 今回発表された先行開発第4号の「SIM-HAL」というネーミングは、「SIM-High Efficiency All Whell Link」の頭文字からとったもの。高効率で、駆動全輪を巧みにコントロールして遠くまで安全に快適に走行できることを示している。

 その車両開発だが、今回は参加機関が8社のみという状況でスタートしたため、開発資金、スタッフ数ともにこれまでとは大きく異なる非常に厳しい制約があるなかでの活動となった。ちなみに、参加機関は第1号「SIM-LEI」と第2号「SIM-WIL」がともに34社、第3号「SIM-CEL」が26社である。そのため、車両開発は基幹技術に集中するため、シャシーは「SIM-CEL」と同じものを使用。車体作業はタジマモーターコーポレーションに委託し、これまで続けてきた認証取得を見送る(つまりナンバーを装着しない)という省力開発でカバーし、それでもさらなる先行開発に資本集中。「本格EV社会を切り拓く、次世代コアモデル」を標榜する。

 ボディーサイズは4910×1835×1405mm(全長×全幅×全高)。乗車定員は2名。これに最高出力65kW、最大トルク620Nmのモーターを各ホイール内に収め、トータルで260kW/2480Nmのパワーを発生する。大きなトピックはインホイールモーターの大型化だ。これまでは15インチホイールに収まるサイズの慶應大学由来のアウターローター型インホイールモーターをマイナーチェンジさせて搭載してきたが、今回は「Super SIM-Drive(SS)」と名付けられた多極分数溝の特殊構造モーターを使用。サイズも17インチサイズに収まるサイズまで拡大。それによりモーター幅を抑え、市販ホイールを使用できるようになった(これまでは専用ホイールを採用していた)。最大トルクはSIM-CELまでのモーターより劣ることになったが、これはスペック重視から実用性重視というコンセプトの違いによるもの。

 ちなみに、前回は「スマートトランスポーテーション」という新しいエネルギー循環サービスの提案を行っていたが、今回はそれをさらに進めた「SIM-iACT(Augment Comfort of Transportation、もしくはAssisted and Connected Transportation)」構想の提案も行われた。これは無線によるネット連携で車両の充放電、および車両情報の活用を目指したもので、EVオーナーの不安を解消し、なおかつ利便性を向上させるというものだ。

 このほか、EVの航続距離問題を解決するレンジエクステンダーの開発を進めていることも発表された。これは慶應義塾大学と静岡理工科大学と研究開発しているバイオ燃料で発電するもの。世界標準化できるレンジエクステンダーである、という。

トヨタ自動車の86のほか、さまざまな車種をコンバートEVとして展開する計画
EVオーナーの不安を解消するためのレンジエクステンダーも開発中
バイオ燃料を利用し、環境とエネルギー問題に対応するシステムとなる予定
スマートトランスポーテーションの提案をさらに前進させた「SIM-iACT」の構想も発表された

(青山義明)