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4WD(E-Four)が加わった新型プリウスを、2WD(FF)と乗り比べ

東京 お台場で開催されたミニ試乗会

2015年12月9日 開催

東京 お台場の特設駐車場で開催された新型プリウス ミニ試乗会

 ついに登場した4代目「プリウス」。この新型プリウスはトヨタ自動車の新しいもの作りの指針であるTNGA(Toyota New Global Architecture)を全面的に採用した1号車であり、一部のグレードでは40.8km/Lの燃費を達成したことでも大きな注目を集めている。

 3代目が大ベストセラー車となったプリウスだが、その3代目プリウスにも用意されていなかったのが4WD車。スタッドレスタイヤの性能向上もあり、北海道でも普通に3代目プリウスは見かけるが、4WDであれば冬の降雪地域での坂道発進に有利なほか、過度なスリップも起きないためクルマの安定性も高い。プリウスに待ち望まれていたバリエーションだろう。

 4代目プリウスではシリーズ初の4WD車を用意。4WD方式もモーターを別途リアに搭載するE-Fourを採用しており、日常の使い勝手の向上を意識したものとなっている。

4WDであることを示す「E-Four」のバッヂ。最低地上高は135mm、車高は1475mmと、4WDが2WDより5mmほど高くなっている

新開発のE-Fourシステム

 新型プリウスではTNGAによって全面的な新開発が行なわれており、リア2輪を駆動するE-Fourシステムも新開発のものが採用されている。これまでのハイブリッド用E-Fourでは、例えばハリアーでは50kW(68PS)のリアモーター(2FM)を搭載していたが、新型プリウスは5.3kW(7.2PS)のリアモーター(1MM)に小型化。同時にモーターの駆動軸+リダクションギヤの駆動軸+デファレンシャルギヤの駆動軸の3軸構成から、モーターとリダクションギヤの駆動軸を一体化させた2軸構成にすることで、システム全体を小型化している。これにより、モーターまわりの重量は45kg→25kgへ軽量化され、体積も減っている。

 また、新型プリウスではニッケル水素バッテリーとリチウムイオンバッテリーが適宜使い分けられているが、4WD車はすべてニッケル水素バッテリーを搭載。リチウムイオンバッテリーより15kg重くなってしまうものの、低温特性に優れたニッケル水素バッテリーを採用したとのことだ。

 これらにより、車重は同仕様の2WD車の70kg増にとどめており、JC08モード燃費も2WD車37.2km/L、4WD車34.0km/Lと低下するものの、3代目プリウスの2WD車が32.6km/Lだったことを考えると、トヨタの努力がうかがえる部分だ。

新型プリウスの特徴でもあるリア ダブルウィッシュボーンサスペンション
サスペンション中央部には、5.3kW(7.2PS)のリアモーター(1MM)がコンパクトに収まる
各種配置もコンパクトなものに変更
誘導モーターなので、永久磁石式のような引きずりロスがない
リダクションギヤやデフギヤ。ギヤを見れば分かるが、モーターからのトルクを増大している
こちらはデフギヤ。特別なロック機構などはなく、オープンデフとなる
モーターからの駆動軸によって後輪が駆動される

 新型プリウスの発表に合わせ、2WD車と4WD車のミニ試乗会が行なわれ、プロトタイプではあるものの両車の違いを体感することができた。

 お台場の駐車場に作られた乗り比べコースには、白いビニールシートが敷かれ、その上に洗剤を混ぜた水が撒がれていた。これにより、滑りやすい路面を再現していた。

 最初にプリウス Aの2WD車でチャレンジ。タイヤはもちろん夏タイヤで、195/65 R15の15インチ仕様車となる。4輪をビニールシートの上に乗せ、いざ発進。アクセルをおよそ2割ほど踏み込むとすぐに前輪の空転が始まる。ミニ試乗会が行なわれた駐車場が左下がりとなっているため、新型プリウスはずるずると左の方に流れていき、そのためステアリングを右に切り増すことに。その段階でVSC(Vehicle Stability Control、車両安定制御システム)が介入し、メーターパネルではスリップ表示灯(VSC警告灯)がピカピカしていた。

 一方、E-Fourを搭載した4WDのプリウスは、同程度のアクセル開度でスルスルっと発進していく。当たり前と言えば当たり前なのだが、2WDと4WDでは圧倒的な差があった。

 また、滑った際の安心感も4WDの方がある。FFの2WDの場合、空転して滑るのは前輪のみになり、とにかくどっちへ進むのか予測しづらい。前述したように駐車場路面の傾きから左へ進みがちなのだが、空転してグリップがほとんどなくなっているためステアリング操作によっては右へ向かうこともある(タイヤのジャイロ効果も感じる状態)。後輪はトルクゼロなので、前にほとんど進まず首振り運動しているような状態になる。

 E-Fourの4WDであれば、アクセルを踏み込み過ぎた場合は4輪ともグリップを失うため(もちろんすぐにVSCが介入してくる)、方向性をもった安定感のあるスライド状態になる。2WDのような首振り運動は起きにくくなっているようだ。ただ、後述するようにE-Fourが介入するのは70km/h程度まで。これは、リダクションギヤでモーターのトルクを増大しており、この辺りでモーターの回転数がピークに達するためだろう(逆に言うと、約70km/hまでアシストが必要と見積もり、適切な部品を選んでいる)。つまり、約70km/h以上ではFFと同じ走行状態となり、雪道のスポーツ走行を狙ったシステムではない。

 今回のような滑りやすい路面の発進に絞った比較は、2WD(FF)と4WD(E-Four)の違いがとても分かりやすいものとなり、雪国における日常生活の使い勝手の向上を実感できるものだった。

お台場の特設駐車場で試乗会を開催
タイヤは標準装着の夏タイヤ。15インチ仕様
ビニールシートに洗剤を塗って、滑りやすい路面を再現
比較試乗中の記者
2WDだとすぐにこのような状態に。運転が怖くて速度を上げる気にならない
2WDのコンビネーションメーター。スリップ表示灯がついている。ちなみにタイヤが空転しているので、速度計はあてにならない
4WDのコンビネーションメーター。4WDではマルチインフォメーションディスプレイ部に前後輪のトルク状態を表示する「4WD状態表示」画面を表示できる。滑りやすい路面のためか後輪に多くトルク配分されているのが分かる

 4WDシステムの開発を担当したトヨタ自動車 ユニットセンター ドライブトレーン設計部 ドライブラインユニット設計室 グループ長の生島嘉大氏に制御関係について聞いたところ、「基本的に4WDのプリウスでは、前80:後20で発進を行なっている。これは路面にかかわらず同じ」「制御は、前輪と後輪の回転差を見つつ、ステアリングの切れ角、アクセル開度、各種加速度に応じて後輪のトルクを制御している」とのことだ。前後輪のトルク配分は、前100:後0から前40:後60まで可変し、70km/hまで後輪のトルク制御が状況に合わせて行なわれる。

トヨタ自動車株式会社 ユニットセンター ドライブトレーン設計部 ドライブラインユニット設計室 グループ長 生島嘉大氏

 生島氏によると、「プリウスのE-Fourシステムは軽量化を優先した。モーターを従来の1/10程度の出力とすることで、マルチリンク式ダブルウィッシュボーンサスペンションに収めた。モーターもこれまでの永久磁石から誘導モーターにすることでロスを減らしている。効率化を追求した」と語り、発進加速を重視して開発することで必要な性能を効率よく得ているという。

 とくに誘導モーターをE-Fourに採用するのは初めてとのことで、非制御時は磁力(磁界)が発生しないため、永久磁石式と異なり抵抗が減ることになる。コストは誘導モーターのほうが一般的には高いため、プリウスでは何よりも効率が優先されているのが分かる部分だ。

 最後に、2WDプリウスと4WDプリウスの発進時の映像を掲載する。厳密にアクセル開度を揃えることはできていないが、滑りやすい路面における発進能力の違いはひと目で理解していただけると思う。

新型プリウス 2WD(FF) vs. 4WD(E-Four)

(編集部:谷川 潔/Photo:安田 剛)