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チーム三菱ラリーアート増岡総監督、田口勝彦選手、小出一登選手が、戦闘力の向上したトライトンで挑む「AXCR2025」への抱負を語る

2025年7月3日 開催
AXCR2025に参戦するチーム三菱ラリーアートが撮影会を実施した

 三菱自動車工業が技術支援する「チーム三菱ラリーアート」は、8月8日~16日にタイを舞台に開催される「アジアクロスカントリー2025(AXCR2025)」への参戦に先駆け、メディア向けに撮影会を実施した。

 AXCRは今年が第30回という節目の年になるFIA公認のクロスカントリーラリーで、今年の大会はアセアンで最大規模となる。また2025年シーズンは、山岳部やジャングル、海岸、プランテーションなどを主に走破するコースになっていて、競技ではタイを出発点として、途中、マレーシア、シンガポール共和国、中華人民共和国(雲南省)、ラオス人民共和国、ベトナム社会主義共和国、カンボジア王国、ミャンマー連邦共和国などを通過するルートが用意されている。

三菱自動車トライトン。撮影車はノーマル車両をベースにした展示車。競技車とは仕様が異なる
ボディには競技車と同じデザインが施されている

 コースは全体的に荒れた路面で、暑さも厳しいため、クルマの走破性や耐久性、信頼性が求められるとともに、ドライブするクルーのスキルやチームの総合力が試される。そういった状況の中、三菱自動車は参戦を通じ、市販車の高性能化の技術検証や人材の育成などを行なっていく。

AXCR2025のスケジュール

 AXCR2025に挑むチーム三菱ラリーアートは、タイの「タントスポーツ」が運営し、車両は三菱のピックアップトラック「トライトン」を使用。そして三菱自動車から増岡浩氏が総監督として参画。さらに開発部門のエンジニアが参戦車両の開発を行なうとともに、競技期間中は、チームに帯同してテクニカルサポートを行なう体制となっている。

 ドライバーとコドライバーの布陣は2022年の大会で総合優勝を果たしたチャヤポン・ヨータ選手(ドライバー/タイ)とピーラポン・ソムバットウォン選手(コドライバー/タイ)を筆頭に、2024年大会で5位に入賞した田口勝彦選手(ドライバー)と保井隆宏選手(コドライバー)のペア。そして三菱自動車の社員ドライバーとして小出一登選手(ドライバー)と千葉栄二選手(コドライバー)となる。

チーム三菱ラリーアートの戦績
2025年の参戦内容

増岡総監督、田口選手、小出選手が語るAXCR2025への抱負

 撮影会では、増岡総監督、田口選手、小出選手が出席するインタビュー取材も行なわれ、順番に今年の参戦への抱負を語った。

AXCR2025撮影会に参加した田口選手(右)、増岡総監督(中)、小出選手(左)

 増岡総監督は、アジア地区が三菱自動車にとって主戦場であり、そこで人気のあるトライトンを走らせることでのデータ収集やラリーを通じた学びはクルマ作りに生かせるものが多いと語る。

 参戦初年度のAXCR2022では総合優勝できたが、現行型のトライトンに車両が切り替わったAXCR2023はミスコースやトラブルに見舞われ総合3位となってしまったと説明。そして2024年はリベンジを誓って参戦をし、4日目のステージでは総合1位まで順位を上げたが、翌日にトラブルが発生し、リタイアとなってしまった。そのような非常に悔しい思いをしただけに、「今年こそ王座奪還に向けて頑張ろうということで、チーム一丸となって準備を進めています」とコメント。

2022年以来、取り逃していた総合優勝の座に返り咲くためチーム一丸となって準備を進めていると語った

 増岡総監督はチームの現状についても説明。3週間ほど前により実戦に近い耐久試験をタイで行なってきたと明かし、「今年の大会は従来よりも日程が長く、走行距離も約500km長いため、クルマやクルーにとって今までになく厳しい戦いになることが予想される。そういった中で優勝に向けたサポートをしていくため、去年までは4台体制で挑んでいたところを3台に絞った」と説明。台数は1台減っているが、チーム体制は昨年と同様なので、1台減らす選択はより手厚くサポートするための判断ということだ。

 なお、今年の参戦車両「トライトン 2025ラリー仕様」は、ベースはタイ向けの市販車で、エンジンはトルク向上のための改良が施されている。そして1号車と2号車には競技専用のトランスミッションが搭載される。サスペンションは専用ダンパーに、ブレーキは競技用の大型のものに交換されている。

 さらにボディは、ボンネットやドアなど取り外しができる部分は軽量化のためにカーボン製を採用。そしてもう1つ大きな改造点としては、軽量化と重心を中心に収めるために、デッキの後方を切断して全長を短くしている。

 増岡総監督は「チームも4年目を迎えてだいぶ成熟してきました。それだけに今年はすごくスタートを迎えるのが楽しみです。ラリー本番は8月中旬になりますけれども、我々もインターネットやSNSを使っての情報を毎日お届けしますので、それを見ていただき、ぜひ応援していただければと思っています。今年もよろしくお願いします」と
語った。

増岡総監督はトライトン 2025ラリー仕様についても少し説明。展示車は日本仕様の市販車。トライトンはデッキ部分が長いが競技車はボディに貼ってあるRALLIARTの「T」のあたりから後を切断し、軽量化を図っている
チームのナンバー2ドライバーを務める田口勝彦選手

 田口選手も昨年までの順位に不満を感じていて、それがどういった理由で起きたのかを検証するために、当時の大会が終了してからもう一度、小出選手と一緒にラリーで走ったコースと同じコースをゆっくりと全距離を走破してきたと語った。

 そして、そこで分かったのはクルマ側の計器で表示される距離とGPSで表示される距離が違っていたことだった。クルマ側で測る走行距離は、タイヤの回転を計測しているのだが、荒れた路面の走行はホイールスピンも多発するので、空転する分、距離が多めに出てしまう傾向となる。もちろん、このようなことは織り込み済みなのでGPSでの計測を併用しているが、GPSも木が生い茂る道や山の中に入ると表示のずれが大きく出てしまった。また驚いたことに、GPS機器のメーカーによっても表示される距離が違うそうだ。

 さらにラリーでは「コマ地図」とよぶ簡単なルートマップが、すべてのクルーに渡されて、そこには例えば「十字路の先に池がある」といった情報が書かれている。そのためクルーは「十字路」と「池」を探しながら走るのだが、その条件に当てはまる景色がなかなか出てこない。そこで一旦戻って再度確認すると、そのからくりが判明。オーガナイザーがマップを作ったときは「池」があったのだが、ラリーが開催される時期はそれが干上がっていた。しかも、池といっても日本にあるような水深があるものではないので、水がなくなってしまうと池であった痕跡が全くなくなってしまうのだ。

 正確に走行していたつもりなのに、ミスコースが多く発生していた理由がこうした複合的な要因であることが判明しただけに、田口選手は「今年はミスコースをなくせば、本来の速さでより上位を狙える」と力強く語ってくれた。

1mほどの水深がある川の渡河もあるのでエンジンの吸気用にシュノーケルを装備する
反対側にはガードパイプがついているが、これはジャングルを走るときに道端の木の枝がフロントウインドウを直接叩かないようにするための装備となる。これがないとウインドウが簡単に割れてしまうそうだ。反対側はシュノーケルが同様の役目を果たしている
3号車をドライブする小出選手。体調管理のためにジムに通って体を鍛え、現地でも食事や水に気をつけるなど、長丁場のラリーを乗り切るため自身に対しての取り組みも行なっているという

 三菱自動車の社員ドライバーである小出選手がドライブする3号車は、1号車と2号車の後を追うポジションで走行し、前走車に何かトラブルがあったときに、適時サポートをする「クイックサポート」という役割を持った車両だ。

 昨年のクイックサポートカーは、ほぼ市販状態のままだったため、他の車両についていくのに苦労したという。しかし今年は1号車、2号車に近い戦闘力を持ったクルマになるので、昨年までの経験を生かし、さらにチームに貢献できるようにしていくと語った。

 なお、1号車と2号車は競技用のMT(マニュアルトランスミッション)搭載車だが、3号車はAT(オートマチックトランスミッション)車だ。この理由については、例えば泥沼にはまった車両を救出する際には、アクセルとブレーキを協調させた繊細なペダルワークが求められるが、その際に両足でペダル操作できるAT(2ペダル)の方が適しているという。

 また、田口選手の2号車はコーナリング性能を上げるためにスタビライザーを装着しているが(市販車のトライトンはスタビライザー非装着)、小出選手の3号車はスタビライザーなしのままとなっている。小出選手によると、「クイックサポートカーは特に荒れた路面に入っていくこともあるため、スタビライザーで左右のサスペンションをつないで動きを規制するよりも、4輪のしっかりとそれぞれの動きをする方が役目に適している」と理由を教えてくれた。

 このように戦闘力の高いクルマを手に入れた小出選手は、「今年は田口選手に近い位置でしっかりとサポートできるように頑張り、チームの総合優勝奪還に向けて精一杯サポートしたいと思います」と抱負を語った。

小出選手の乗る3号車はAT車。チーム車両がスタックした際の牽引時はMTよりATの方が適しているそうだ
サポートのために道から外れて走ることもある。そこで4輪のタイヤがそれぞれで、路面をしっかりと追従できるように、3号車のみスタビライザーをつけてない仕様となっている