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CEATEC 2025で語られた大阪・関西万博と「空飛ぶクルマ」の舞台裏
2025年10月20日 12:31
- 2025年10月17日 開催
デジタルイノベーションの総合展示会であるCEATEC 2025が、千葉県千葉市の幕張メッセで開催され、会期最終日の2025年10月17日に、「大阪・関西万博と空飛ぶクルマ~舞台裏に迫る! 次世代モビリティ最前線~」と題したコンファレンスが行なわれた。
10月13日に閉幕した大阪・関西万博では、eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)の離着陸場である「Vertiport」が日本で初めて設置され、会期中には、4つのグループによる空飛ぶクルマがデモフライトおよび展示を行なった。
今回のコンファレンスは、CEATEC 2025の「大阪・関西万博レガシーセッション」のひとつとして実施されたもので、実際に空飛ぶクルマを運航した1社であるANAホールディングスと、空飛ぶクルマを飛行させるには不可欠なVertiportの整備に取り組んだオリックスの2社が登壇。万博会期中に得られた実証成果や、舞台裏のストーリーを紹介。空飛ぶクルマをはじめとする次世代空モビリティの今後についても議論した。
ANAホールディングスは、大阪・関西万博において、Joby Aviationが開発したJoby S4のデモフライトを実施した。
Joby S4は、パイロット1人と、乗客4人が搭乗でき、最高航続速度は320km/h、航続距離は160kmを目標に開発が進められている。現在、5機の試作機が製造されており、米国ではFAA(米国連邦航空局)の型式認証取得に向けて最終フェーズにあるという。量産化すると年間数百機が作られる予定であり、トヨタ自動車が支援し、高品質で効率的なモノづくりが行なわれるという。
大阪・関西万博でのデモフライトは、海上部分の約150mの高度で、時速約200kmで飛行。約10~15分間、周回してみせた。
9月24日に航空局から認可が下り、会期後半の10月1日~13日まで、24回にわたって飛行。合計飛行時間は4時間以上に達したという。
ANAホールディングス 未来創造室モビリティ事業創造部エアモビリティ事業チーム事業開発/パートナーシップリード マネジャーの保理江裕己氏は、「大屋根リングからも飛行している様子が見えた。飛行期間中に、会場を訪れた人のうち、3分の1が見たと仮定すれば、約100万人が、空飛ぶクルマを見ることができた」とし、「お客様を乗せずにパイロットだけで飛行したが、10月3日からは、ミャクミャクが窓から覗き込むようなシールを貼った」とのエピソードも披露した。
大雨が降った夜中に、十数台の10tトラックによって機体を搬入し、組み立てを行なう一方で、総務省や航空局への申請、確認作業が同時並行で行なわれ、現地での最終準備の開始から約1か月で、飛行が可能な状態にしたという。
デモフライトを見学した来場者からは、1100件以上のコメントが集まり、「静かでびっくりした」という声が最も多く、さらに、「離陸も着陸も滑らかだった」「感動した」「速かった」「早く乗りたい」などの声が集まったそうだ。
ANAホールディングスでは、2016年に「Digital Design Lab」を設立し、2017年からエアモビリティの事業化の検討を開始。2023年4月にはモビリティ事業創造部を設置して、MaaSやAir Taxi、ドローンに関する事業化を模索している。Vertiportの設置に向けて、野村不動産やイオンモールとの連携も発表している。また、2025年8月には、Joby Aviationとエアタクシー事業に関わる合弁会社の設立で本格的な検討を開始したところだ。2020年代後半には、関西圏や関東圏などの都市圏でのエアタクシーサービスの開始を目指している。
「ANAホールディングスで目指している空飛ぶクルマは、『新しいヒコーキ』である。ドローンでも、ヘリコプターでも、自動車でもない。また、内燃機関で動くものではなく、電池とモーターで動き、プロペラは電動モーターで回す。垂直離着陸ができ、静かで、二酸化炭素がゼロで、滑走路が不要。地球や人にやさしい飛行機である」と語った。
騒音の影響はヘリコプターの100分の1で、ヘリコプターのような暖機運転が不要で、すぐに飛び上がることができるのも特徴だ。
「500mの高度での飛行時は、45.2dBと図書館の館内と同じ静かさ。街のなかでは歩いている人が、上空を飛んでいることに気がつかない静かさである。飛行機の120年の歴史のなかで、初めて都市部に、飛行機が日常的に入るパラダイムシフトが起きることになる」と位置づけた。
また、Joby S4が目指している160kmの飛行距離は、東京から静岡、軽井沢、日光をカバーできる。大阪であれば鳥取、四国、名古屋までをカバーできるという。
「ANAホールディングスでは、エアタクシーサービスの事業化を目指している。今は東京都心部から成田空港まで60~100分かかるが、空飛ぶクルマであれば、20分強で移動できる。大阪市内であれば、関西国際空港まで1時間かかるものが、10分強での移動が可能になる。スマホで予約して、スマートにエアタクシーに搭乗し、空港から最終目的地に飛んだあとは、地上交通とも連携し、シームレスに移動するといった世界が実現できる。将来的には、タクシーと同様の価格で利用できるようにし、生活に寄り添うことができる環境を作ることが必要である」などとした。
エアタクシーを実現するためには、機体、離着陸場、運航体制、法律/ルールの整備が不可欠である。
ANAホールディングスの保理江氏は、「運航体制については、ANAが蓄積した安全運航の知見を活かすことができ、パイロットや整備士の育成でもノウハウがある」とし、「街なかに小さな離着陸場が実現すれば利便性が高まる。日本においても、Vertiportの整備指針が打ち出されることになる。空飛ぶクルマの実現には、多くのパートナーとの連携が必要になる。様々な協業を通じて、空の移動革命に向けた取り組みを進めたい」と語った。
なお、Joby Aviationでは、2026年に、ドバイで運航サービスを開始する計画を発表している。
一方、大阪・関西万博において、Vertiportを整備したオリックスでは、開催期間中の2025年4月13日~10月13日まで運用。
オリックス 法人営業本部 国内事業推進部モビリティイノベーションチーム長の杉山良氏は、「2023年2月に、大阪・関西万博で、空飛ぶクルマのデモフライトを行なうことが発表され、2023年4月にはVertiportのレイアウトを提出した。まだ、Vertiportの整備指針が出ていない段階であり、運航する企業からの要望を聞きながらまとめていった。だが、万博協会からは、五月雨式にルールが追加され、それに対応するのにかなり苦労した。着工したのは2024年8月であり、かなりの時間を要してしまった」と、万博会場にVertiportの設置に至るまでの経緯を振り返った。
大阪・関西万博のVertiportでは、駐機場、着陸帯、格納庫のほか、充電器、受変電設備、風向風速計、気象測器などを設置。だが、ヘリポートには必要となる給油設備は不要だ。
また、大阪・関西万博では、発着枠や駐機場予約などのシステムも試験的に稼働させたほか、飛行中の機体のモニタリングシステムや、Vertiport内での異物を検知するシステムなども検証した。「着陸帯に異物があった場合には、カメラでズームし、AIで解析し、それがスマホの置き忘れであることなどが確認できる。これはNECの技術を使用している。また、高度200mの風の状況を把握するシステムも検証しており、これは三菱電機の技術である」という。
さらに、地上ポートにおける旅客取扱施設として、検証を行なってきたトレーラーハウスを活用することを想定していたが、建築確認申請が必要であったため見送ったことにも触れた。
オリックスでは、関西国際空港、伊丹空港、神戸空港の運営を行なっており、この事業を横展開できる新たな取り組みとして、2018年から、Vertiportの事業化に関する検討を開始。2021年には、大阪府の実証実験に参加し、オリックス本町ビル屋上と関西国際空港、神戸空港を着陸地点とした運航に関する事前調査を実施。2022年からはNEDO委託事業である「ReAMoプロジェクト」に参画し、空飛ぶクルマの離着陸場のオペレーション手法の確立に取り組んでいる。また、空飛ぶクルマ都市型ビジネス創造都市推進事業では、都市部のビル屋上に空飛ぶクルマの離着陸場を整備する際の課題と解決策を整理したという。さらに、2023年以降は官民協議会に参加しているほか、地上ポートにおける旅客取扱施設や旅客動線の調査などに関する関西地域での実証実験を開始。2025年の大阪・関西万博でのVertiportの設置、運用に続き、大阪府の調査事業である「空飛ぶクルマ観光魅力促進調査事業」にも取り組んでいるところだ。
「オリックスでは、飛行に関して重要なアセットを持っている関西・瀬戸内エリアでの事業展開を想定している。Joby S4の航続距離である160kmを前提にすると、大阪、岡山か高松、広島にハブを設けることで、全域をカバーできる。大阪エリアだけでも、20ポート程度を設置したい。各地域の企業や自治体と話をして、ポートの設置を呼び掛けているところである」と語った。
航空局では、2026年度中に、Vertiportの整備基準をまとめる予定であり、これをもとに、国内へのVertiportの設置が増えることになりそうだ。
オリックスの杉山氏は、「社会実装が目の前に迫っている。空港を起点としたネットワークではなく、ビルの屋上や公園の一部など、都市の中のVertiportの間を飛んでいく状況を作りたい。そのためには、地域の方々と、騒音や安全性、住民のプライバシーなどの課題についても話し合いをしっかりとしていく必要があり、都市部にVertiportを設置しても、騒音が少ないことも理解をしてもらう努力も大切だ」としなから、「オリックスが持つ既存事業のノウハウ、実証実績の成果、官民連携の実績、万博への対応などを通じて蓄積した知見をもとに、将来の事業展開につなげたい。オリックスは、Vertiportでトップランナーを走りたい。空飛ぶクルマにおける地上部分を任せてもらいたい」などとした。
【訂正】記事初出時の発言内容について、ANAホールディングスとオリックスから訂正がありました。記事についても内容を訂正させていただきます。





















