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ボッシュ、オープンソースによるソフトウェア共通化の取り組みや最新情報などを解説する「SDV勉強会」
2025年12月15日 08:00
- 2025年12月12日 開催
ボッシュは12月12日、業界の壁を越えたコラボレーションが鍵となるSDV(ソフトウェアデファインドビークル)の実現に向けた各種取り組みや最新情報について、オープンソースソフトウェア関連のプロジェクトを運営する団体であるEclipse SDVの担当者も招いて解説する報道関係者向けの「SDV勉強会」を開催した。
勉強会ではボッシュの代表取締役社長であるクリスチャン・メッカー氏とボッシュモビリティ東アジア・東南アジア 技術統括部門でSDV技術担当を務める森田泰弘氏に加え、Eclipse Foundationのソフトウェアデファインドビークル向けエコシステム開発担当ディレクターを務めるアンスガー・リンドヴェーデル氏の3人が登壇してプレゼンテーションを行なった。
新技術の普及に「コネクティッド」「集中型アーキテクチャ」「SDV」が重要
最初に登場したメッカー社長は、新技術が生み出されてから市場投入されるまでのスパンは年々短くなっており、車両の電動化においては純粋なBEV(バッテリ電気自動車)からPHEV(プラグインハイブリッドカー)などさまざまな種類が展開されているが、全体としてはCO2の排出量を削減することが最終的なゴールになると指摘。それに続いて自動運転もトレンドとなっており、自動化のレベルを1~5と進化させるためにさまざまな技術が用いられ、ユーザーニーズを満たす試みが続いていると紹介。
また、ユーザー体験も重要な要素で、データ活用によって乗員と車両がコネクトすることで車内空間が自宅のリビングのようにすごせる場所になり、これらの技術はそれぞれ個別に実用化され、今後は横展開していくことが求められている。そのためには車両を常にアップデートするための「コネクティッド」、コネクティッドで手に入れたデータを一元管理する「集中型アーキテクチャ」、そして今回の勉強会のテーマとなっている、アップデートを車両に反映させる「SDV」の3点が重要になるとした。
世界各国にある多くの自動車メーカーでアップデートなどのデータを作成するにあたり、データの基準となる標準仕様が必要だとの考えが自動車業界で課題になっていると語り、標準仕様がある一方、各自動車メーカーで開発する技術では会社ごとのDNAが埋め込まれたものが車両に搭載され、使用されるなかで70%は標準化されたソフトウェアになり、標準仕様をコミュニティで共有できるようにすればコストを削減し、品質の向上を果たすことにもつながるとボッシュでは考えており、共有可能な標準仕様の策定に積極的に取り組んでいると説明している。
OS開発を「オープンコア」で協調的に進めるよう呼びかけ
続いて登壇した森田氏は、SDVの実現に向けたソフトウェア開発があるべき姿について解説を実施。
既存の自動車開発ではハードウェアとソフトウェアが密接に関係して、先に生み出されたハードをソフトで制御する体制となっているが、SDVではハードとソフトの分離が重要となり、新技術でハードが進化することに加え、アプリケーションソフトも進化を続けることで車両の機能などを高めていく。
分離を実現するためにはハードとソフトを仲介するOS(オペレーティングシステム)が必要で、現在各自動車メーカーが独自のOS開発に注力しているが、高度化を求めることで複雑化が進み、合わせてソフトウェアのコード数が爆発的に増大して技術が断片化していると森田氏は指摘。ティア1メーカーであるボッシュの視点で見ると、この状況が続くと1社の環境に合わせて開発した技術を他社に提供したいと考えた場合、異なるOSの仕様に対応するため新たな開発手順が発生してコストアップにつながってしまう。
このようなロスを省いて業界全体で効率化を図るため、協力して標準仕様のOSなどを策定する活動が始まっており、ボッシュも関連会社のETAS(イータス)も含めたグループ全体で取り組んでいるという。
ボッシュではSDVの実現に向けて必要となる標準化に向け、複数の実装の取り組みを1つの「オープンコア」にまとめる手法を提案。各自動車メーカーはアプリケーション部分に自社のDNAを注入して車両の差別化を図りつつ、領域ごとの実装をまとめるOSやミドルウェアなどを協調領域として標準化するため、勉強会にも参加しているEclipse Foundationの「S-CORE」や「AUTOSAR」「COVESA」「JasPar」「Open SDV Initiative」といったコンソーシアムに各自動車メーカーやサプライヤー、インテグレーターなどが参画して、協調的な開発を進めていくよう呼びかけている。
ソフトウェア開発では「協力して生み出す」第3の選択肢が有効
Eclipse Foundationのリンドヴェーデル氏によるプレゼンテーションでは、2004年に設立されて21年の歴史を持つEclipse Foundationは世界最大規模のオープンソースファウンデーションとして多岐にわたるプロジェクトを手がけており、世界中のコントリビューターが活動に参加して、信頼できるパートナーであることを念頭に置いて活動を続けていると説明。
そんなEclipse Foundationでは、自動車産業のとくにソフトウェア面で起きている課題を受け、2022年に11のメンバーが参加して「Eclipse SDV」を新たに設立。ソフトウェア開発者が不足する一方で自動車メーカー各社やサプライヤーの多くでエンジニアが必要な仕事が増え、エンジニアの人的リソースが不足していること、ソリューションを独自開発すると水平展開できるものがなくなってしまうこと、自動車業界は猛烈なスピードで進化を続けていることといった3点を具体的な課題として挙げた。
これまで自動車メーカーなどでは必要なソフトが出てきた際、自分たちで作るかどこかにあるものを買ってくるという2択となっていたが、メッカー社長のプレゼンテーションでも指摘されているように、使用されるソフトのうち70%は製品の差別化には結びつかない標準的な内容となる。各社の個性を生む残りの30%については独自開発を続けることが重要となる一方、標準的な内容については第3の選択肢として「協力して生み出す」という発想が有効になるという。
設立からの3年間でEclipse SDVは参加メンバーが増え、初期に中心となっていた欧州以外にも米国やアジア・太平洋地域の企業も名を連ねるようになったが、一方で日系の大手企業は参加しておらず、この状況に変化を与えるため、戦略的メンバーとして参加しているボッシュの協力を受けて日本で初となる企業担当者向けの説明イベントを開催した。
また、このイベントに合わせて高性能アーキテクチャー向けミドルウェア「Eclipse S-CORE」のバージョン0.5を発表。開発プロジェクトでの協調的な活動のなかで、参加メンバーからソフトウェアの効率性、スピードの改善が確認されていると説明。なお、Eclipse S-COREは欧州向けという位置付けではなく、グローバルプロジェクトとして発展させていく計画とのこと。実際に3週間後に米国・ラスベガスで開催される「CES2026」の会場で、グローバルに活躍する17社の企業がプロジェクトに参加することを公式発表する予定となっているという。
Eclipse FoundationとしてはEclipse S-COREを自動車業界向けのSDVにとどめることなく、真のオープンソーステクノロジーとして幅広く共有してもらう技術と位置付け、ハードウェアや「RISC-V」「RTOS」などもカバーして提供していきたいと説明する一方、標準化ではコミュニティ内で技術を幅広く共有していく考えがあるほか、日本標準、欧州標準、米国標準といった地域やグループ単位で行なうやり方もあると紹介。
しかし、Eclipse Foundationとしては地域限定の局所的な標準化に労力を割く必要はないとコミットしたいと語り、日本で進められているローカルな取り組みをグローバルな枠組みに上手く統合していく手助けができればと考えていると語られた。
グローバルのエコシステムを活用できる部分がEclipse SDVの長所
プレゼンテーション後に行なわれた質疑応答では、車載ソフトウェアの標準化に向けて取り組みを行なっているAUTOSARやJasPar、Open SDV Initiativeといった組織との関係性について質問され、これにリンドヴェーデル氏が回答。
今回の来日中にはJasPar参加企業のメンバーとも話す機会があり、JasParでもオープンソースの取り組みを進めていると語られたが、Eclipse SDVとしてもほかの団体と対立するような考えはなく、そもそもオープンソースは門戸を広く開いてコラボレーションを促進していくことが重視されている。
ただ、自分たちの活動はグローバルのエコシステムを活用できる部分が長所となっており、トヨタ自動車や日産自動車、本田技研工業などの日本メーカーはLinux Foundationに参画しているが、欧州や北米の企業がメンバーとなっているEclipse SDVにも参画することでさらなる進展が目指せるのではないかとコメント。
さらに森田氏も続けて見解を語り、Eclipse SDVは欧州発、JasParは日本発で、AGL(Automotive Grade Linux)はインフォテイメントドメインの標準化が起点となって始まり、JasParは当初はボディドメインからスタートしているが、歳月を経るうちに機能安全などの領域にも発展しているなどの変遷がある。
先だってもLinuxプラットフォームを活用する「SoDeV」アーキテクチャーでハイパーバイザーまで含めたセキュリティをカバーすると発表されたが、この内容はEclipse S-COREのアーキテクチャーと似ている部分があり、オープンソースを活用したソフトウェア開発はあらゆるドメインに波及していることから、もうお互いに独立して活動している場合ではなく、団体同士も協調していくべき状況になっていると説明。日本でJasParが進めている活動を日本だけに留めておくのは非常にもったいないことで、これをグローバルに広げ、取り組みが重複しないよう連携する団体間の橋渡しがしたいと語った。
















