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ボッシュ、日本主導で開発中の「パレット ガレージ アシスト システム」駐車デモも披露したグループ年次記者会見2025

2025年6月19日 開催
フォルクスワーゲン「ID.Buzz」をベースとしたSAEレベル2の運転支援&自動運転の試験走行車両

 ボッシュは6月19日、日本におけるボッシュ・グループの2024年における業績や、日本で開発をリードする最新技術、社内で活用しているAIやVRなどの最新技術について説明する「ボッシュ・グループ 年次記者会見 2025」を神奈川県横浜市のボッシュ本社で開催した。

 また、記者会見後にはボッシュ・グループ各社が展開しているモビリティ事業に加え、産業機器や半導体、電動工具、新規開発事業などについて紹介する自社展示会も実施され、最新技術のデモ展示を実施。ドイツ本国に加えて日本でも市販化に向けて技術開発が進められている最新ADAS(先進運転支援システム)「パレット ガレージ アシスト システム」(PGA)の運転支援デモが行なわれた。

 このほか、同じく開発中で2024年秋から東京や横浜の公道を使って実証実験が行なわれているSAEレベル2の運転支援&自動運転の試験走行車両、グローバル本部として日本に設立され、2025年で10周年を迎える「モーターサイクル&パワースポーツ事業部」が手がける各製品を搭載した日本メーカー製のバイク4台を展示。ボッシュが手がける幅広いソリューションについて紹介された。

本社社屋前で展示された運転支援&自動運転の試験走行車両
車両の前後左右で計4個のカメラ、フロント3個、リア3個で計6個のミリ波レーダーを新設。それぞれの検知内容をAIでフュージョン解析して外界検出を行ない、基本的にはこれらの情報だけを使って自動運転などを行なう。できりだけシンプルな構成にして、量産化を視野に入れた技術となっている
フロントウィンドウの下側にカメラを配置。上下2つのうち下がID.Buzzの純正装着品となるが、今回の技術開発では純正カメラはOFFにして、上に追加した新しいカメラを使っている
リアスポイラー左側に後付け式のGPSアンテナを追加。これは自動運転の制御などには使わず、問題が発生した場合にどこで起きたかを正確に記録して開発に生かすために設置されている
ボッシュ製品を搭載した日本メーカー製のバイク4台
カワサキモータース「Z H2」と搭載するボッシュ製品の紹介
スズキ「GSX-S1000GT」と搭載するボッシュ製品の紹介
本田技研工業「Rebel 1100」と搭載するボッシュ製品の紹介
ヤマハ発動機「TRACER9 GT ABS」と搭載するボッシュ製品の紹介

日本での売上高は2022年から3年連続で過去最高を記録

ボッシュ株式会社 代表取締役社長 クリスチャン・メッカー氏

 年次記者会見で登壇したボッシュ 代表取締役社長 クリスチャン・メッカー氏は、会場となったボッシュ本社と同じ横浜市の牛久保にある横浜事務所に設置された「モーターサイクル&パワースポーツ事業部」が2025年で10周年を迎えたことを紹介。グローバル本部としてドイツ国外に本社を置くボッシュで唯一の事業部となっており、ここから全世界の2輪車メーカーに包括的なソリューションを提供して、2024年にはレーダーを活用した6種類の新しいアシスタンスシステムを世に送り出している。

 これらはライディングの楽しさを損なうことなく、ライダーがライダーのために開発した2輪車向けADASとなっており、ボッシュはこれからも、日本から世界中のバイカーに向けて、安全性を保ちつつ、エキサイティングで快適な走行を楽しめる機能を開発していくと語った。

 続いて2024年のボッシュ・グループにおけるグローバルと日本での業績について説明。2024年は世界経済の低迷などが大きく影響して引き続き厳しい年となり、グローバルでの売上高は対前年比1.4%減の903億ユーロとなった。

 一方、日本の第三者連結売上高は対前年比1.0%増となる約4280億円。2024年は日本における自動車生産台数が2023年から8.5%減少しているが、ボッシュの売上高はほぼ横ばいをキープして安定的な成長を遂げている。この結果、パンデミックの影響で一時的に落ち込んだボッシュの売上高は、日本において2022年から3年連続で過去最高を記録しているという。

ボッシュ・グループのグローバル売上高は、2024年は対前年比1.4%減の903億ユーロ
日本の売上高は対前年比1.0%増の約4280億円で、3年連続で過去最高を記録した

 日本市場におけるトピックとしては、2024年5月から移転した新しい日本本社と、同じ敷地内で9月に竣工した「ボッシュ ホール」(都筑区民文化センター)を挙げ、これは「日本市場へのコミットメントを示す、大きなマイルストーン」だと表現した。

 また、本社1階にオープンした「cafe 1886 at Bosch」は、オープン初日には朝から100人以上が行列を作っていたとのエピソードを紹介。オープンから5月末までの約9か月間で記録されたPOSの取引件数は5万件を超え、ボッシュの従業員だけでなく、幅広い来場者に利用されていると語った。

 横浜市との公民連携に加え、2025年からは横浜国立大学と産学連携の取り組みもスタート。ボッシュ・グループ内の産業機器テクノロジー事業セクターであるボッシュ・レックスロスが横浜国立大学と油圧工学の教育・研究における連携活動を始め、今秋にはボッシュ・レックスロスが横浜国立大学の機械工学系研究室に油圧テスト機器を無償提供する「フルードパワートレーニングラボ」を開設する予定となっている。

 また、ボッシュ・レックスロス CEOのステファン・ハーク博士が、2025年度後期に横浜国立大学 大学院 理工学府 機械工学教育分野の授業で、最新の油圧技術に関するレクチャーを提供することになっており、これらの取り組みで横浜国立大学の学生は最新の設備を使った質の高い油圧実習が可能になり、最新の技術動向が学べるという。

 油圧機器は自動車をはじめ、建設機械、産業機械、航空機、船舶、鉄道車両など幅広い分野で活用され、ものづくり産業を支える重要な役割を持っている。しかし、近年の高等教育市場ではIT・エレクトロニクス分野の学部・学科に重点が置かれ、大学や大学院で油圧工学について学ぶ機会が現象。同時に油圧工学について指導する教授や実験設備のリソースが不足するようになっている。

 これを受け、ボッシュ・レックスロスでは国内の大学と連携して、これからの日本のものづくり産業を支える人材不足に一石を投じることを決定。その第1歩が今回の横浜国立大学との連携だと説明し、ボッシュは今後も地域や教育機関、企業などとのさまざまなパートナーシップにより、日本社会の発展に貢献していくと述べた。

「パレット ガレージ アシスト システム」駐車デモも実施

ボッシュ株式会社 取締役副社長 西村直史氏

 続いて登壇したボッシュ 取締役副社長 西村直史氏は、日本のボッシュが主導して開発を進めている最新技術について紹介した。

 年次記者会見の会場となった新本社では研究開発も行なわれ、ADASや自動運転の技術開発に取り組んでいるが、その例として取り上げられたのが新本社の地下駐車場で進められている日本主導の開発プロジェクト「パレット ガレージ アシスト システム」(PGA)。

 新たな駐車支援システムであるPGAは、AIの画像認識でCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を利用。車両の前後とドアミラーに設置した近距離カメラによって周辺にある機械式駐車場を見つけ、従来からある駐車支援システムとは異なる制御を行なって機械式駐車場のパレットに自動駐車を行なう。

 スマートフォンやタブレットのアプリ、または車載端末で操作を行なうことで、乗車したまま、または車両から降りた無人状態で機械式駐車場への自動駐車、自動出庫を実施。これにより、慣れない機械式駐車場でもクルマをどこかにぶつけたりする恐れもなくスムーズに駐車したり、スーツケースなどの大きな荷物を車外に降ろしてドアロックをしてから駐車することなども可能になるという。

ボッシュ「パレット ガレージ アシスト」デモ動画(2分20秒)

 会見後に実施されたPGAのデモは、開発車両となっているプジョーの「508 SW HYBRID」を車幅制限が車両全幅から+60mmしかクリアランスがない機械式駐車場のパレットに自動駐車するというシチュエーションで実施。ボディの前後左右で計4個を設置したボッシュ製近距離カメラを使って路面などに設定された駐車スペースを検出。駐車スペースが平置きの駐車枠か機械式駐車場のパレットかの判定は前出のようにCNNモデルを活用しており、機械学習のトレーニングにはスタッフが日本各地にある機械式駐車場でさまざまなパレットを撮影した画像データを使ったり、撮影が難しい場合はCGで作成した3Dモデルを利用して判定精度を高めている。

 すでに普及してきている一般的な駐車支援システムとPGAの大きな違いは、機械式駐車場は前面ゲートの柱やパレットの外枠など、駐車スペースの周辺に障害物が多く、ぶつからないように回避する必要がある点。できる限り駐車スペースに真っ直ぐ後退できるよう、PGAでは駐車動作の最初にいったん後退。そこから大きくステアリングを切り込み、空いている駐車スペースも活用しながら機械式駐車場に入る前の段階で車体をパレットと直線上に並べ、ステアリングを細かく微調整しながらゆっくりとパレットに入っていった。

「パレット ガレージ アシスト システム」(PGA)の動作を開発車両のプジョー「508 SW HYBRID」のリアシートに座って体験できた(写真提供:ボッシュ)

 運転席に座った状態でPGAを作動させた場合、ブレーキ操作で走行スピードを調節してもPGAの作動はそのまま続き、ステアリングが操作された場合にはPGAの制御がキャンセルされる仕様となっている。

 開発車両に508 SW HYBRIDが選ばれたのは、PGAの作動に必要な電動パワーステアリング、バイワイヤータイプのシフトセレクターとブレーキ、電動パーキングブレーキなどのコンポーネントがそろっていたことが大きな理由だと説明された。

白線で仕切られた駐車スペースと違って障害物が多い機械式駐車場に入るため、周辺のスペースを広く使って早い段階で車体をパレットと直線上に並べていく(写真提供:ボッシュ)
スマートフォンやタブレットのアプリを使い、車外から無人状態でも操作可能(写真提供:ボッシュ)

 西村副社長のプレゼンテーションではPGAに加え、クルマの自動化に向けた取り組みとして2024年秋から東京・横浜周辺の公道で行なっているSAEレベル2の運転支援、自動運転の実証実験についても解説。

 日本で運転支援、自動運転の技術開発を行なうのは、左側通行での運転や坂道における車速の調整、都市部で見られるような複雑な道路構造と交通事情といった日本特有の交通事情が特徴的であり、システムのグローバル化に向けた主要拠点と位置付けている。

 すでに半年以上に渡って行なわれた公道試験によって日本の交通標識や大小さまざまなトラックを認識できるようになり、路上駐車の車両を避けた走行、複雑な交差点での判断などにも対応。大都市における典型的な走行シーンでの自動運転を実現している。

 市街地におけるSAEレベル2の安定した走行が可能となっており、試乗した日本の顧客からも高く評価されているという。さまざまなセンサーで計測するデータをまとめ、車両の周辺状況を正確に理解するプロセス全体をAIが一貫して担う「エンドトゥエンドAI」をベースにしたADASスタックの量産化に向けて引き続き実証実験を進めていくと述べている。

2024年秋から東京・横浜周辺の公道でSAEレベル2の運転支援、自動運転の実証実験を実施中

同じクルマで多彩な走りを実現する「ビークルモーションマネジメント」

ボッシュ株式会社 取締役副社長 松村宗夫氏

 また、ボッシュが注力しているSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)の実現に向けた開発状況については、ボッシュ 取締役副社長 松村宗夫氏から説明された。

 ボッシュでは近年、ブレーキ、ステアリング、パワートレーン、サスペンションといった車両制御に使われるさまざまなアクチュエーターを統合制御する包括的ソリューション「ビークルモーションマネジメント」の開発に注力。日本で開発中のコンセプト車両では、ドライバーの好みや走行シーンに応じてパーソナライズ化された運転を可能にするという。

 ソフトウェアの設定を変更するだけで、同じ車両が「アーバン」「スポーツ」「ラグジュアリー」といったさまざまなクルマを連想させる走行モードに変化。例えばアーバンモードでは、停止時の車体の揺り返しを自動的に制御して同乗者に優しいブレーキを実現する「コンフォートストップ機能」をサポートする。一方、休日に1人でワインディング路を颯爽とドライブするときなどをターゲットにしたスポーツモードでは、ステアリングとブレーキの応答性を高め、ロールやピッチといった車両挙動を抑制して俊敏なコーナーリングと車体の安定を両立させる。

サスペンションとブレーキの最適制御で快適性を高めるアーバンモード
サスペンションとステアリングの最適制御で走行性能を高めるスポーツモード

 このほか、Car Watchではボッシュの女満別テクニカルセンターで実施されたビークルモーションマネジメント体験会に参加したモータージャーナリストの山田弘樹氏による試乗記を掲載しているので、ビークルモーションマネジメントの詳細については同記事も参照していただきたい。

生成AIツール「AskBosch」を開発して日常的な業務でAI活用

ボッシュとの関わりについてメッカー社長が説明

 このほか、ボッシュでは例年テクノロジーに関する調査を実施しており、2025年にはAIをテーマに調査を実施。この内容とボッシュとの関わりについて、再び登壇したメッカー社長が説明した。

 グローバルと日本で行なった調査では、「10年後に最も影響力があるテクノロジー」としてAIが1位となった一方、「職場でAIに関する研修を受けたことがある」という人はグローバルで30%、日本ではわずか10%という結果となった。

AIは「10年後に最も影響力があるテクノロジー」と考えられている一方、「職場でAIに関する研修を受けたことがある」人はグローバルで30%、日本はわずか10%

 しかし、ボッシュは従来から独自の教育プログラムである「AIアカデミー」を実施して、日本を含む世界で6万5000人以上の従業員がAIのトレーニングを受けている。また、社内向けの生成AIツール「AskBosch」を開発して、2023年末から日本を含めた世界のボッシュで従業員が使用している。ボッシュの従業員はAskBoschを文章の要約や翻訳、テキストや画像などの生成、データ分析などに活用して、日常的な業務でAI活用が進んでいるという。

 2024年からは社内外でのAIの取り組みについて学ぶ従業員向けイベント「Bosch Japan AI Day」を開催。このイベントには外部ゲストを招いた基調講演、他社の事例を学ぶ展示エリアも用意して、従業員にAIを身近なものに感じてもらい、AIに関する知識の底上げや積極的なAI活用を目的に行なっていて、今年も開催を予定している。

独自の教育プログラムである「AIアカデミー」を6万5000人以上のボッシュ従業員が受講
社内向けの生成AIツール「AskBosch」を開発して日常的な業務で活用

 最後にメッカー社長は、「1911年に日本での事業を開始して以来、今年で114年目を迎えるボッシュは、今後も『Invented for life』というコーポレートスローガンのもと、自動車産業のみならず、産業機器や空調など、あらゆる事業分野で人々の生活を豊かにする取り組みにいっそう力を入れていきます」とコメントしてプレゼンテーションを締めくくった。

「Invented for life」のスローガンで人々の生活を豊かにする取り組みに力を入れていくとメッカー社長
メッカー社長は年次記者会見の終了後、降壇しようとする副社長2人を呼び止め、肩を組んで予定にはなかったフォトセッションの時間を用意してくれた

ボッシュ・グループ自社展示会

オーディトリアムで実施された「ボッシュ・グループ自社展示会」

 このほか今回のボッシュ・グループ 年次記者会見では、2024年5月から移転した新本社にこれまでバラバラだった各事業部が1つの社屋に集結したことを受け、各事業部やグループ会社が手がけている製品や技術について紹介する「ボッシュ・グループ自社展示会」を実施。年次記者会見でこの規模の展示を行なうのはこれが初めてとのこと。

「人とくるまのテクノロジー展2025横浜」の会場でも展示されたモジュール式eAxleシステムとなる「eAU100」(左)と「電動モーター」(右)
同じく「人とくるまのテクノロジー展2025横浜」で展示されていた「コックピット&ADASインテグレーションプラットフォーム」。1つの高性能ECUでADAS機能やデジタルメーター、カーナビなどを備えるインフォテイメントシステムなどを稼働させる
車載向けのパワー半導体として使われるSiC(シリコンカーバイド)200mmウェハー
2輪車向け製品の展示では第1世代ABSから2輪車向け運転支援ソリューション「ARAS」に対応する最新ABSなどが並べられた