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「スシテック東京2026」開幕 日産、いすゞ、Applied Intuitionが日本の自動運転とAIについて語る
2026年4月28日 11:51
- 2026年4月27日 開催
東京ビッグサイトでイノベーションの担い手が集まるイベント「SusHi Tech Tokyo 2026(スシテック東京)」が4月27日から開催中。初日のセッションでは「自動運転の主戦場は“ソフトウエア”へ ~乗用車を動かす頭脳の競争~」として日産自動車、いすゞ自動車、Applied Intuitionの担当者が登壇してディスカッションが行なわれた。
日産からはソフトウェア内製開発の総責任者である杉本一馬氏、いすゞは常務執行役員 SVP渉外担当役員 開発部門SVPの佐藤浩至氏から自動運転やSDVの考え方、戦略が説明された。また自動運転、OS、ツールなど次世代車両の開発に特化したフィジカルAI企業のApplied Intuitionからは共同創設者兼 CEO カサール・ユニス氏が、日本の自動運転やAIに対する考え方について提言が行なわれた。
AIの出現で進化のステップが変わってしまった
セッションは、最初にモデレータの読売新聞 越前谷知子氏が「10年前、自動運転の主役は高性能なセンサーやチップといったハードウェアだった。しかし今、機械が認識・判断・行動するための基盤はソフトウェアへとなりつつあり、SDVへの変革が起きている」と、業界の構造変化を指摘することから始まった。
これに対し、日産の杉本氏は現在の状況を「要素技術はすでにそろった」とし、かつては一歩ずつハードウェアを進化させる段階的な議論だったが、AIの出現によって進化のステップが変わってしまったという。
日産は現在、自動運転について2027年の量産市場投入に向けて開発を進めている。そこには、市街地走行を可能とするAI搭載車両の投入だけでなく、その技術を転用した「ロボタクシー」の展開も含まれている。
杉本氏によれば、レベル2の市販車も無人のロボタクシーも、同じAI、同じコントローラー、同じソフトウェアを使って実現できるフェーズに入っていて、「あとはこのそろった要素技術を高品質で安全に提供できるか、最終的な車両としての製品開発の段階にある」と述べた。
「物流という血流」を維持するための2027年レベル4実装
商用車メーカーであるいすゞの佐藤氏は、より切実な日本の社会課題を背景に挙げた。「2030年には日本の荷物の30%以上が運べなくなる」という深刻なドライバー不足。いすゞにとって、自動運転は単なる技術競争ではなく、日本の物流(血流)を維持するための「必須技術」と位置付けた。
いすゞは、2027年度に大型トラックと路線バスのレベル4(無人)自動運転の社会実装を経営課題として掲げている。そして、いすゞはApplied Intuition(大型トラック担当)やティアフォー(路線バス担当)といった、国内外のテックパートナーと共同開発を進めている。
商用車におけるSDVの価値について、佐藤氏は個々の顧客への最適化を挙げる。従来のトラック開発では、多種多様な使われ方に対し、たった1つの平均的な最適解で製品化するしかなかった。しかし、SDV化とOTA(Over-the-Air)の実現により、顧客ごとの走行データをクラウドで分析し、その車両に最適なソフトウェアを後から提供することが可能になる。これにより、稼働効率をさらに上げることができると考えているという。
日本がAIの「テクノロジーの消費側」に回らないためにすべきこと
Applied Intuitionのカサール氏は、自動運転やロボティクスを動かす知能をフィジカルAIとし、これが今後の国家の競争力を左右する「ソブリン(主権)的な問題」になると指摘した。
これまでのGoogleやFacebookのようなサービスはグローバルで一律の展開が可能だった。しかし、現実世界で物理的なマシンである自動車を動かすフィジカルAIは、各地域でエンジニアだけでなく、GPU、トレーニングクラスター、データセンターといった物理インフラを国内で確保し、そして何より「エンジニアの理解」が不可欠となる。
さらに、これらを持たない国は過去、GoogleやUberのようにアメリカの会社のテクノロジーを使うだけの「テクノロジーの消費側」に回るということも指摘した。
また、自動運転ソフトウェアの開発には膨大な資金とデータ、専門知識が必要なため、将来的にこのプラットフォームを提供できる企業は世界でも20社程度に収束すると予測。その中で、日本企業が単なる「テクノロジーの消費側」に回らないためには、「AIのケーパビリティをインハウス(内製)で持つこと」を優先順位の最優先である“ゼロ番”に置くべきだと提言した。
これは、中近東諸国がAIを「産業革命」と捉えて猛追している一方で、ヨーロッパは規制を重視しすぎて開発が後退しているという現状があるなかで、日本が立ち止まっている余裕がないということでもある。
そして、かつてのカーナビが何千ドルだったものが無償で手に入るようになった例を挙げ、自動運転ソフトウェアは今後5年から10年でずっと安価に手に入るものになるとの予測を示し、中国ではすでにこの傾向があることも指摘した。
そのため、価格がゼロになるようなとき、生き残るためのApplied Intuitionの戦略は、さまざまなものを作ってさまざまな業界に提供して、高価な開発コストを何百もの世界中のメーカーに提供、コストを分散させることだとした。
100%の評価と保証ができなくなることに対する日産の対策
開発プロセスの変革については、日産の杉本氏はこれまでの変化と、AIの出現によってさらに変えないといけない部分があると指摘。
特にSDVという観点からは、ソフトウェアの評価はその車両というハードウェア上で評価していた部分を、クラウドに上げてデジタルで評価するという変革を何年もしてきた。できるだけデジタルで評価をする環境は作ってきたが、ここにAIが乗ってくると世界観の変化があったと語る。
それは、これまでの自動車開発は、日産のプロパイロット 2.0など、設計したものを100%自分たちで評価して保証してから顧客に提供していた。しかし、AIが市街地自動運転を実現しようとすると「全ての走行パターンを事前に洗い出し、評価しきることはもはや不可能だ」と説明。
AIは再現性が低く従来のようなフィジカル(実車)での評価だけでは品質を保証できない。そのなかでどう品質を確保していくかが問題で、継続的に学習するAIのモデルを常に信頼できる状態を保つことが、次の世界に進むための大きなプロセスの変革になる。
そこで、日産では車両とクラウドをシームレスにつなぐ「Nissan Scalable Open Software Platform」の構築を進めている。
商用車の世界では一部の自動運転では効果薄、物流全体の再設計が必要
いすゞの佐藤氏は、商用車の分野では自動運転車の単体での完成度よりも、物流に関するさまざまな業種と連携した「システム全体での最適化」を強調した。
物流は幹線輸送だけでなく、ラストマイル、ミドルマイル、倉庫、クロスドックといった多くの要素で構成されている。ある一区間だけを無人化しても、システム全体がつながっていなければ、それほど大きな効果は得られないと指摘。
佐藤氏は「自動運転をきっかけに、物流システムそのものを再設計する必要がある。そこで重要になるのがデータ連携」と語り、トラック製造、ソフトウェア、倉庫管理といった異なる業界がデータを共有し、日本全体で安全かつ効率の高い物流・人流システムを再構築していくことが必要との考えを示した。
日本でイノベーションを加速させるには
こうした議論のなかで、日本で自動運転のイノベーションを加速するために必要な点を問われると、日産の杉本氏は「今は強いテックカンパニーとパートナーシップを組む、これ以外にアクセラレートできる方法はない」としながらも、「中長期的には日本の中にシステムを構築できる人材を育てなければならない」と言及。
Applied Intuitionのソフトウェアエンジニアの層の厚さを「うらやましい」としながらも、自分たちが学んで追いついていくことが必要とし、「アクセラレートできても、その後もまた頼らなければ続けられないような体制になってはいけない」と指摘。「日本は今、遅れている部分をしっかり認識した上で、どうすれば追いつけるのか、どうすれば追い越せるのか、そこを戦略的に人材育成に落としこんでいくことが重要」と述べた。
また、いすゞの佐藤氏は、技術的な課題よりも「社会にどう受け入れられるか」の社会受容性が重要だと説いた。
自動運転車は法規を遵守するため、走行速度などの点で周囲から疎まれる場面も出てくる。そこで、日本人が持つ「擬人化して可愛がる」特性に期待を寄せる。これは、その前にカサール氏が指摘した自動運転が人間より安全であることを数学的、統計的に真実だが、人間は自分たちよりも自動運転に対して感情面から厳しい評価軸を持ってしまうという指摘に対しての答えでもある。
さらに、いすゞが北海道で大規模な自動運転専用テストコースを作っているが、通常は開発現場は秘匿した場所となるが、あえて「オープンイノベーションの場」として開放するのも、一般の人々に自動運転の安全性を確認してもらい、社会受容性を高めていきたいからと説明した。
日本の長期的成功は、企業のリーダーがAIを取り込むこと
ディスカッションの最後に日本のリーダーたちへのアドバイスを求められたカサール氏は、「AIを急激にこの社会の中に適応していくということだと思う」とした。
さらに「企業のリーダーの方々がAIをワークフローの中に持ち、そしてワークフローを作る方はAIをその中に取り込むことによって皆さんが使っていく、これが長期的な日本の成功に非常に重要だと思う」とAIを取り込んだ仕事をしていくことの重要性を説き、今回のセッションは終了した。








