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日産、SDVプラットフォーム「Nissan Scalable Open Software Platform」を発表
AWSとの連携で次世代プロパイロットやSDV開発を加速
2025年12月2日 17:47
- 2025年12月2日 発表
日産自動車は12月2日、同社の先進運転支援技術「プロパイロット」の次世代版となる「次世代プロパイロット」の概要を2025年9月に発表し、2027年度に発売予定の市販車へ採用を想定しているが、その次世代プロパイロットの機能をクラウド側で支える「Nissan Scalable Open Software Platform」に関する発表を行なった。
日産によれば、Nissan Scalable Open Software Platformは、クラウドサービス事業者のAWS(Amazon Web Services)のサービス上で稼働しており、以前社内で構築していた社内システムと比較して車両ソフトウエアのテストにかかる時間が75%削減されたと日産は説明している。
このNissan Scalable Open Software Platformなどの概要は、AWSが12月1日から米国ネバダ州ラスベガス市で開催している同社の年次イベント「AWS re:Invent 2025」で、日産自動車 ソフトウエア デファインド ビークル開発本部 ソフトウエア開発部部長 杉本一馬氏が行なった講演の中で明らかにされた。
ADAS/自動運転の開発、SDVなどの開発には、多数のソフトウエアコードが必要になり、開発時間の短縮が課題に
日産自動車のプロパイロットは、ノート、セレナやスカイラインといった同社の主力製品に搭載されている先進運転支援技術(ADAS)。現行製品となるプロパイロット2.0は、カメラ、レーダー、ソナーといった各種センサーと高精度3次元地図を組み合わせて先進運転支援を実現しており、このうちスカイラインが搭載するプロパイロット2.0に関しては、高速道路でハンズオフ(手放し)が可能になると話題になったことは記憶に新しいだろう。
運転支援機能は、より安全な自動車を実現するために必要な技術になっているほか、将来の完全自動運転を実現するための中間地点的なもので、自動車メーカーにとってADAS技術を開発することは非常に重要になっている。日産はAWSとADASやSDVを開発する環境構築を2023年から協業しており、今回正式に発表したカタチだ。
今回日産が明らかにしたのは、プロパイロットやその先にあるSDV(Software Defined Vehicle、ソフトウエアと汎用プロセッサーの組み合わせで実現される自動車のこと)を開発するにあたって必要となるソフトウエアの開発環境。
ADASやその延長線上にある完全自動運転、そしてSDVは、PCやスマートフォンなどに利用しているSoC(System on a Chip、1チップでコンピュータの機能を実現できる半導体のこと)とソフトウエアを組み合わせて実現される。例えば、Qualcomm社の「Snapdragon Cockpit/Ride Elite」、NVIDIAの「DRIVE」、ルネサス エレクトロニクスの「R-Car」などがその代表例で、例えばQualcommのSnapdragon Cockpit/Ride Eliteは、QualcommがPC/スマートフォン向けに提供しているSoCであるSnapdragonの技術を車載向けにして、車載グレード(稼働保証温度や耐久性などを自動車向けにしたもの)に対応させた製品となる。
今後のより進化したADAS、自動運転技術、そしてSDVはSoCとソフトウエアの組み合わせで動作するが、自動車メーカーにとっての重要な事は、そのSoCの上で動くソフトウエアを開発することだ。
ソフトウエアは、コードと呼ばれるプログラムを構成する要素が書かれた文字列を作成し、それをコンパイラーと呼ばれるSoCが理解できる言葉に翻訳するツールを利用してバイナリーというソフトウエアの実行プログラムを作成する。プログラムを書くプログラマーは、何かバグ(コンピュータの世界ではソフトウエアの問題を“バグ”と呼ぶ)を見つけるたびに、コードを確認して修正する必要がある。SDVではそのコードが数万行から数百万行という途方もない規模になっていることもあり、安定したソフトウエアを開発するためには効率よくコードを編集する必要があるのだ。
現在多くの自動車メーカーが、このソフトウエアの開発を自社内で行なっており、数万行から数百万行にも及ぶようなコードの編集に時間がかかるようになっていることが課題として浮上している。このため、それを効率よく行なう方法が追求されており、各社とも頭を悩ませている状況だ。
ADAS/自動運転、SDV向けソフトウエアの開発基盤となる「Nissan Scalable Open Software Platform」を発表
そこで日産が協力を仰いだのが、クラウドサービス事業者のAWS。AWSは、EC(電子商取引)の最大手として知られるAmazon社のIT部門としてスタートし、ITインフラをAmazon自身だけでなく、外部の企業に提供するビジネスを行なっている。こうした形のITインフラは、IT業界では「クラウド」と呼ばれており、今では一般的なサービスになっている。なお、AWSがどのような事業を行なっているのかは、以下の記事に詳しいのでご参照いただきたい。
今回日産がAWSと協業したのは、AWSが提供する各種のソフトウエアサービスを利用してソフトウエアを効率よく開発する仕組みになる。
日産自動車 ソフトウエア デファインド ビークル開発本部 ソフトウエア開発部部長 杉本一馬氏は「われわれが構築したADAS/自動運転、そしてSDV向けの開発基盤を"Nissan Scalable Open Software Platform"と呼んでおり、今回その名称と詳細に関して発表したい」と述べ、日産のSDV向けソフトウエア開発環境を「Nissan Scalable Open Software Platform」と呼び、車両ソフトウエア開発を実行する作業環境「Nissan Scalable Open SDK」、車両データを集約し活用するデータ基盤環境「Nissan Scalable Open Data」、デジタルツインを実現するための車両側 OS「Nissan Scalable Open OS」という3つで構成していることを明らかにした。
なお、名称などに略称や愛称などはないそうで、基本的には社内の命名会議が今の名称の方が、どんなものかグローバルに伝わりやすいだろうと判断して決めたと杉本氏は説明していた。なお、日産のSDV車両のOS名称はこれまで明らかにされてこなかったが、それが「Nissan Scalable Open OS」であることが初めて明らかになったことになる。
このうち車両側OSを除く2つ(Nissan Scalable Open SDK、Nissan Scalable Open Data)がAWS上で構築されており、その中でも特に今回はNissan Scalable Open SDKについての説明が行なわれ、AWSジャパン 自動車事業本部 プリンシパル ソリューションアーキテクト 梶本一夫氏が日産の具体的な取り組みに関して説明した。
梶本氏によれば、一般的にソフトウエア開発ではCI(Continuous Integration)プロセスと呼ばれる継続的な統合開発が行なわれる。開発中にはバグが見つかったり試験してみたらうまく動かなかったりとさまざまな事が起こるが、今回日産はAWSが提供するAWS Step Functions、AWS Lambdaというクラウドベースで提供されるツールを利用してソフトウエアの開発を行なうことを決めたのだという。自動車の開発で一般的に行なわれている、モデルベース開発(シミュレーションの中で車両のモデルを作成して開発する手法)やコードベース開発(ソフトウエアのコードを利用して開発する手法)にはシミュレーションの時間なども含めて膨大な時間がかかる。
これらの開発を、従来はオンプレミス(自社運用のITのこと、自社で用意する開発リソースを利用して開発すること、それをAWSのような外部の事業者に委託することをクラウドと呼んでいる)で行なっていたが、それをクラウドのAWS上に移管したことで、より計算リソースなどが必要になったらその時だけAWSのリソースを借りて行ない、必要がなくなると解放する。使い方によって、自社内に設置していたサーバーやワークステーションだけで演算していた時に比べて、75%作業にかかる時間を減らせたほか、コストも削減できることが分かったという。
また、ワークベンチポータルという統一されたユーザーインターフェースを提供しつつ、日本以外にいる開発者のニーズにもこたえられるような開発ツールを提供することを可能にしたという。
この他にも、クラウド上で動かすようなコンテナと呼ばれるアプリケーションソフトウエアの開発でも、AWSの管理ツールを利用して簡単に開発ができる環境を整えている。それにより、車両からアップロードされるデータの処理などが、従来よりも効率よく行なえるようになったという。特に車両OS側にも同じようなコンテナを投入できるような仕組みを整えることで、容易にクラウド側と車両側で同じソフトウエアが行ったり来たりできるようになり、仮想環境でのシミュレーションと実車に乗せてのテストを相互に行なう「デジタルツイン」な開発環境が実現可能となる。
Nissan Scalable Open Software Platformの開発成果は、次世代プロパイロットや未来のSDVに活用される
現状はNissan Scalable Open Software Platformに関しては、導入が決まったところで、詳細などはこれから詰めていくことになるという。しかし、杉本氏によれば「Nissan Scalable Open Software Platformを導入することは、SDVの開発には重要なマイルストーンになると考えている」と述べ、SDVの開発には開発基盤を整えることが何よりも重要で、そのためAWSと2023年から一緒に構築することに取り組んできたと説明した。
またSDV開発は、全社的な取り組みだと述べ、杉本氏の上司にあたる日産自動車 執行職 R&AE戦略 ソフトウエアデファインドビークル開発本部 吉澤隆氏のリーダーシップのもと、他社との重要な競争領域にあたると考えて投資が行なわれており、今回のNissan Scalable Open Software Platformに関しても開発投資への一環として行なわれたのだと説明した。これにより、自動車業界が向かう方向性に合わせて、新しいソフトウエアを開発するだけで、新しい機能を実装したりすることが可能になる、その柔軟性を実現することが、Nissan Scalable Open Software Platformの重要な目的だと杉本氏は説明する。
杉本氏によれば、Nissan Scalable Open Software Platformはすでに一部(Nissan Scalable Open Data)が、2027年度に導入予定の次世代プロパイロットの開発に使われているほか、2020年代のどこかのタイミングで投入される見通しのフルSDVの開発に本格的に3つすべてが使われる計画になっているという。
現時点ではそのSDVがどんな車両になるのか見えているわけではないが、こうした開発環境ができあがることで、SDVの投入時期を早めたり、逆に遅めたりなどが柔軟な開発が可能になることが考えられる。日産にとっては、今後の車両開発における方向性のオプションが増えたという意味で、大きな意味があると言えるだろう。















