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ミシュラン新スタッドレスタイヤ「X-ICE SNOW+」発表会 低温でもゴムのしなやかさを失わない新開発コンパウンドが鍵

2026年5月12日 発表
ミシュラン新スタッドレスタイヤ「X-ICE SNOW+」発表会が行なわれた

 日本ミシュランタイヤは5月12日、スタッドレスタイヤの新製品「X-ICE SNOW+(エックスアイス スノープラス)」の発表会を実施した。

 登壇した日本ミシュランタイヤ代表取締役社長の須藤元氏は、「ミシュランは1982年、日本にスタッドレスタイヤを導入しました。それ以来40年以上にわたり、日本の冬と雪と真摯に向き合いながら性能を磨き続けています。また、冬のドライブはアイス、スノーの性能だけでは成り立ちません。アイス、スノー路面での深い安全性に加え、ドライやウェット路面での安定した走行性能、さらに快適性と環境性能が高いレベルでバランスをとってこそ、スタッドレスタイヤの真の価値を届けられる考えています」とスタッドレスタイヤの理念を紹介。

日本ミシュランタイヤ株式会社 代表取締役社長 須藤元氏

 続けて、「今日発表する新製品は、ミシュランが掲げる“トータルパフォーマンス”をさらに進化させた最新モデルです。アイス、スノーの性能に加え、ウェット性能、耐摩耗性能、低燃費性能といった複数の性能を高い次元でバランスよく発揮します。さらに“全てを持続可能に”の企業理念のもと、新品の性能だけでなく、摩耗後もその性能が最後まで長く続くことを目指しています。今日も安心して走れる。その状態が長く続くこと。それこそが、ミシュランが考える本当の安全性であり、タイヤ作りの哲学です」と新製品の性能バランスの高さをアピールした。

新スタッドレスタイヤ「X-ICE SNOW+」とは?

新スタッドレスタイヤ「X-ICE SNOW+」

 日本ミシュランタイヤ マーケティング部 ブランド戦略マネージャーの秋山孝之氏は、自身が20年前に入社し、当時は製品開発部に所属していて、「初めて書いた図面がX-ICEシリーズのプロトタイプだったこともあり、思い出深い製品の1つです」とあいさつ。

 続けて、「タイヤは1つの性能を高めると、別の性能が下がる、いわゆる性能のトレードオフを持つ製品のため、スタッドレスタイヤは冬の安全走行を優先する代わりに、ドライ、ウェットの安全性能、快適性、環境性、そして走行安定性能などが夏タイヤより劣る。これはすでに多くのユーザーにとって常識となっています」と現状の市場環境を紹介。

日本ミシュランタイヤ株式会社 マーケティング部 ブランド戦略マネージャーの秋山孝之氏

 さらに、自社で行なったスタッドレスタイヤ購入者アンケートの結果も公表し、求める性能の1位は「アイス・スノー性能」で、2位~5位は「ライフ」「快適性」「ドライ&ウェット性能」「燃費性能」の順。また、夏タイヤのアンケート結果と照らし合わせたところ、「アイス・スノー性能」の代わりに「高速安定性」が上位に入り、実は「ライフ」「快適性」「ドライ&ウェット性能」「燃費性能」の4つは、夏タイヤでもスタッドレスタイヤでも共通して求められている性能であることに注目したという。

ミシュランが実施したというアンケート結果

 秋山氏は、「この比較から見えてくるのは、スタッドレスタイヤはアイスの性能に依存度が極めて高いという事実です。多くの消費者は冬の安全性能を最優先する一方で、夏タイヤに求める性能はある程度妥協しているのではないかと考えられます」と分析。

 そこでミシュランは、このスタッドレスタイヤにおいて夏タイヤに求める性能を妥協していたユーザーに対し、新たな選択肢として“スノーフレークマーク”を刻印したオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」シリーズを国内に導入。

 ただし、オールシーズンタイヤはスタッドレスタイヤの代替品ではなく、日常的に積雪・凍結路面を走行する地域、具体的には北海道、東北、そして本州の日本海側、いわゆる“雪国”と呼ばれる地域では、冬の安全に特化したスタッドレスタイヤが今でも必要不可欠な存在と位置付けている。

雪国エリアではスタッドレスタイヤは必須。それ以外の地域ならオールシーズンタイヤという選択肢もありとなってきた

 スタッドレスタイヤしか選択肢のない雪国ユーザーに対してミシュランは、今後も冬の安全を確保するために、多くの性能を妥当し続けるのではなく、夏タイヤに求められる性能をトータルパフォーマンスとして追求してきたことで、今回の新製品「X-ICE SNOW+」を開発したという。

 新製品「X-ICE SNOW+」は、アイス・スノー路面での高い安全性能はそのままに、スタッドレスタイヤの弱点とされてきたウェット性能を大幅に向上。また、耐摩耗性能も向上したことで、経済性と環境性能が改善。さらに、転がり抵抗の低減に成功し、燃費改善も図れるといった3つのポイントがある。

 ただ秋山氏は、「X-ICE SNOW+のプラスがもたらす進化は、3つだけにとどまらず。最後まで続く性能を実現するため、摩耗後もサイプがしっかりと残るフルデプス(Full Depth)、そして摩耗しても特性が変わらないコンパウンドを採用しています。ピアノアコースティックテクノロジーを採用し、ノイズを軽減、静粛性も向上しています」と先代よりも大きく性能が飛躍している点をアピールした。

日本ミシュランタイヤ株式会社 研究開発本部 PC タイヤ新製品開発部 池田聡氏

 続いて、日本ミシュランタイヤ 研究開発本部 PC タイヤ新製品開発部の池田聡氏が登壇。製品性能と採用技術についての説明を実施。5角形の製品性能対比イメージによると、新製品の「X-ICE SNOW+」は、先代モデルX-ICE SNOWと比較して、アイスとスノーの性能を維持したままで、ウェット性能を約7.3%向上。また、約25%長く使える耐摩耗性能を実現。さらに、転がり抵抗は約5.6%低減に成功した。

製品性能 対比イメージ(X-ICE SNOW+&X-ICE SNOW)

 この性能を達成するために採用した技術は、新開発のフレックスアイス3.0 トレッドコンパウンドテクノロジーで、この革新的なコンパウンドは、フレックスアイスと名付けられているように、多くの物質が凍ってしまうような低温でもゴムのしなやかさを失わず、氷や雪の路面でもしっかりとしたグリップを発揮するという。

 また、従来のスタッドレスタイヤが苦手とした、ドライやウェット路面でのグリップも大幅に改善。さらに安全性能だけでなく、転がり抵抗のような環境性能も改善し、燃費性能にも貢献している。

 池田氏は、「このコンパウンドのおかげで、より長いシーズンにわたってゴムのしなやかさが続くとともに、最初の1kmから最後の1kmまで、安心感が持続できるコンパウンドに仕上がっています」と新コンパウンドの性能の高さを強調。

新コンパウンドや耐摩耗性を伸ばす内部構造の最適化、静粛性を高めるブロック配置、摩耗しても最後まで性能が維持できるトレッドパターンなど、さまざまな技術でX-ICE SNOW+は進化している

 そのほかにも、内部構造の最適化を行なうことで接地面を最大化し、トレッド面に均一な接地圧を実現すると同時に長いシーズン安心して使える「マックスタッチコンストラクション」、サイズの異なるブロックを適切に配置することで、人が不快と感じる周波数帯の音を効果的に軽減できる「ピアノアコースティックチューニングテクノロジー」、新品時から摩耗時まで、トレッドパターンが大きく変化しないフルデプスサイプを採用した「ロングラスティングトレッドデザイン」など、ミシュランの培ってきた技術によってX-ICE SNOWを進化させた。

 また、サイドウォールには雪の結晶をモチーフにした洗練したデザインで高級感を演出。さらに、オールシーズンタイヤとスタッドレスタイヤの明確な区別化をするために、通常のスノーフレークマークに加えて、アイスグリップシンボルも掲示している。

サイドウォールには雪の結晶をモチーフにしたデザインがあしらわれている

ミシュランのスタッドレスタイヤの歴史を振り返るトークショー

発表会ではトークショーも行なわれた

 発表会では、進行を日本ミシュランタイヤ 乗用車商用車事業部 マーケティング部ディレクターの梶恵子氏が務めつつ、「X-ICEシリーズ」の進化に深く携わってきたという研究開発本部PCタイヤ新製品開発部 研修・人材育成 今井正博氏、試験部 部長 古谷茂信氏、PCタイヤOE開発部エキスパートエンジニア 横川一隆氏に加え、トレッド材料開発部 材料開発エキスパートエンジニア河崎健一氏の計4人を迎え、ミシュランがどのようにして氷や雪も全ての冬道に安心感をより長く続けられる対応を磨き上げてきたのかを語り合った。

ミシュランは一体なぜスタッドレスタイヤを日本に導入したのか?

日本ミシュランタイヤ 乗用車商用車事業部 マーケティング部ディレクターの梶恵子氏

梶氏1982年にミシュランは他のメーカーに先駆けて日本へスタッドレスタイヤを導入しました。当時の日本といえば、スパイクタイヤ全盛期でしたよね?

今井氏:スパイクタイヤ全盛期に、スパイクなしで冬の路面を安全に走り、止まれるような革新的なスタッドレスタイヤを日本に初めて導入したのがわれわれミシュランになります。

梶氏スパイクタイヤはスノーやアイス路面でしっかりと走れる一方で、ドライ路面で使用するとアスファルトを削って“粉塵問題”を引き起こす懸念があり、当時は社会問題にまで発展したんですよね?

今井氏:そうですね。1991年に日本で事実上スパイクタイヤの使用を禁止する法律が制定されたことからも分かるように、スパイクタイヤには冬道の安全性と引き換えに環境問題を引き起こすという難点を抱えてました。しかし、「安全性か環境性か」ではなく、「安全性も環境性も」それを両立したタイヤが持続可能であると、当時からわれわれミシュランは信じていました。そして日本に安全性も環境性も両立したスタッドレスタイヤを導入したんです。

日本ミシュランタイヤ株式会社 研究開発本部PCタイヤ新製品開発部 研修・人材育成 今井正博氏

梶氏安全性と環境性の両立こそが、ミシュランの企業ビジョン全てを持続可能にする出発点なんですね。ところで、日本の開発チームはミシュランのスタッドレスタイヤの研究開発をリードしてきたとのことですが、なぜ日本のチームがリードすることになったのでしょうか?

今井氏:最大の理由は、日本の雪道は1度の走行でドライ、ウェット、スノー、アイス、シャーベットと刻一刻と変わるさまざまな路面に遭遇できることから、日本が開発の主ステージに選ばれたんです。

梶氏確かに北欧や北米だと、ずっとアイス路面、ずっとスノー路面を走行するシチュエーションが多いですが、刻一刻と路面の変化を経験できる環境は日本ぐらいでしょうか?

今井氏:そうですね。なので日本の路面に対応できるタイヤであれば、世界に通用する製品になるであろうという考えで、日本が研究開発拠点に選ばれています。

梶氏当時ゼロベースで研究開発を立ち上げるうえで、何か記憶に残る大変な出来事はありますか?

ミシュランのスタッドレスタイヤの歴史

今井氏:数えきれないほどありますが、強いて1つ挙げるとしたら、当時はまだ冬の路面がどういう特性なのか分かっていなかったし、そもそもどうやって冬の路面特性を把握すればいいのか? どうやって測定したらいいのか? 何も分からない状況で、-20℃のテストコースの中で、計測器を使ったりしながら、全て手作業で行なっていました。

梶氏そういった苦労の末X-ICEシリーズにつながるスタッドレスタイヤが誕生したんですね。

今井氏:寒さや深夜帯の作業など肉体的な苦労もありましたが、実は精神的な面でも色々ありまして……。というのも当時は、北米向け、北欧向け、日本向けというように仕様が分かれていたのですが、スタッドレスタイヤのプロジェクトでは、世界中全ての地域のニーズを1つの商品でまかなえる製品を開発するという至上命題が下っていたので、かなり精神的にも参りました。

梶氏具体的に日本のニーズと世界のほかの国々のニーズでは、どのように違いがあるのでしょうか?

今井氏:日本のニーズは圧倒的にスノー路面、アイス路面での安全性能です。しかし、スノーとアイスの性能を向上させると、通常路面のウェット性能や静粛性能が下がってしまいます。また、欧州や北米は長距離を走るニーズがありますので、耐摩耗性能や走行中の騒音性能なども妥協できませんし、特に欧州では冬であっても、日本とは比べ物にならない高速で走行する習慣もありますので、その部分も妥協できません。

トータルパフォーマンスというミシュランのタイヤ作りの哲学

梶氏世界中のニーズに応えるために全ての性能を妥協しない。ここから生まれたミシュランのタイヤ作りの哲学“トータルパフォーマンス”ですが、当時この哲学を現場で体現してきたのがテストドライバーの古谷さん。スタッドレスタイヤは進化に伴い、アイス性能が大きく向上していますが、トレードオフの関係を克服するために1番大変だったことは何でしょう?

古谷氏:スタッドレスタイヤだけでなく、どのタイヤもドライとウェットの性能を評価するため、高速域での反応試験を徹底的にやることですね。

日本ミシュランタイヤ株式会社 試験部 部長 古谷茂信氏

梶氏スタッドレスタイヤでも夏タイヤと同等の過酷な試験を行なうってことですか?

古谷氏:そうですね。ミシュランでは、スタッドレスタイヤも、夏タイヤ同等の試験を実施することが求められています。スノーとアイス路面だけでなく、ドライとウェット路面での高次元の操縦安定性も追求しています。具体的にはドライバーが運転している時に路面の変化や、タイヤのグリップ限界を感じやすくする。仮にタイヤのグリップ限界を超えたとしても、その挙動が予測しやすくコントロールしやすい=安心感を持って走行できるタイヤを目指しています。

もう1つのタイヤ作りの哲学「最後まで続く性能」

梶氏トータルパフォーマンスと並んで、ミシュランのタイヤ作りのもう1つの大事な哲学が“最後まで続く性能”ですが、X-ICE SNOWのパターン設計を担当した横川さん。夏タイヤと冬タイヤではパターンはどう違うのでしょうか?

横川氏:夏タイヤとスタッドレスタイヤはトレッドパターンが大きく違います。スタッドレスタイヤはブロックに“サイプ”と呼ばれる細かい溝が数多く入っています。この点が1番夏タイヤと違うところです。

梶氏一般的に溝が減れば性能が落ちると知られていますが、最後まで続く性能を実現するためには、具体的にどのような工夫をしたのでしょうか? また、日本ではスタッドレスタイヤの使用できる限度の目安として残溝50%という基準もありますよね?

日本ミシュランタイヤ株式会社 PCタイヤOE開発部エキスパートエンジニア 横川一隆氏

横川氏:その通りです。ただ日本では残溝50%を切った後の溝の浅くなった状態から、そのまま夏タイヤとして最後まで使い切るユーザーさんも多いです。ミシュランタイヤはこのサイプを溝底深くまでしっかり入れていますので、残溝50%付近でスタッドレスタイヤの使用限界付近でも十分な数のサイプが残っています。そのため、スタッドレスタイヤとしても夏タイヤとしても、最後まで安全性を確保できるという設計なのが大きな特徴かと思います。

梶氏スタッドレスタイヤの寿命末期の時点でもまだまだ安心感がある状態で、さらにその先、履き潰される人もしっかりウェット性能が確保できるのですね?

横川氏:実は残溝50%よりさらに浅くなると、幅が広くなるサイプを使用していて、ウェット性能も最後まで使用できる。スタッドレスタイヤとしてもサマータイヤとしても、どちらでも最後まで安全に使えるという訳です。

梶氏続いては材料については河崎さん。最後まで続く性能を実現するために、材料面で1番工夫されたことは何でしょう?

河崎氏:摩耗しても物性が変わらないゴムを開発しました。従来“バイコンパウンド”と呼ぶ2層の特性が異なるトレッドゴムを使うのがスタッドレスタイヤの主流でした。しかし、X-ICE SNOWでは基本的に一層のものを使って平らにしています。

 2層のゴムを使用するバイコンパウンドの場合、1層目の最初の残溝50%前までを冬のグリップ性能に大きく振ったゴムを使用して、2層目の残溝50%からは夏タイヤのように高速性能や、低燃費性能に振ったゴムを使用するのが一般的です。

 ところがミシュランタイヤでは、スタッドレスタイヤ=2層のバイコンパウンドという標識を覆し、最初から最後まで冬の性能だけでなく、夏タイヤに求められる高速性能などを発揮する新たなゴムを開発しました。

日本ミシュランタイヤ株式会社 トレッド材料開発部 材料開発エキスパートエンジニア河崎健一氏

梶氏1本のタイヤを最後までしっかり使い切れるので、結果的にタイヤの廃棄量削減、つまり環境負荷の低減にも貢献できますね。“全てを持続可能に”を企業ビジョンとして掲げる。私たちミシュランにとっては、この最後まで続く性能を目指して性能を高めることは非常に重要だと思うけれど、この辺りはいかがでしょう?

河崎氏:一般的に環境負荷の低減は、低燃費性能や耐摩耗性能を向上させることを想像する人が多いかと思います。でもミシュランでは「全てを持続可能に」という挑戦に関しては、走行性能や走行時における環境性能向上にとどまりません。タイヤの原材料調達でも、リサイクル材料や再生可能材料の使用量を増やし、資源効率面における環境負荷の低減も進めています。

梶氏この材料調達で具体的にどのようなリサイクル材料、そして再生可能材料を使用しているのか教えていただけますか?

河崎氏:ミシュランでは、米の籾殻からリサイクルしたシリカ材料を使用して低燃費性能やウェット性能を高めたり、天然由来で再生可能なひまわりから抽出したオイルを使用して、全体のグリップ性能を高めるなど、さまざまなリサイクル材料と再生可能材料を使用して開発しています。もちろんこうした材料は「X-ICE SNOW+」にも採用されていて、今後もこういった再生可能材料、リサイクル材料の使用率を高めていく予定です。