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ホンダ新事業創出プログラム「イグニッション」第5弾、砂漠の砂で道路を作る「ライジングサンド」が1.36億円の資金を調達

2026年4月28日 発表
左から、パスアヘッド技術顧問 永田佳文氏、パスアヘッド代表取締役 CEO 伊賀将之氏、パスアヘッド事業顧問 守屋実氏

 本田技研工業の新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」発のスタートアップ第5弾で、高耐久な道路素材を提供してアフリカに持続可能な道路網を築くことで、人と社会の無限の可能性を広げることを目指す企業「PathAhead(パスアヘッド)」は4月28日、インキュベイトファンドをリード投資家とし、サイバーエージェント・キャピタル、本田技研工業を引受先に、総額1.36億円の資金を調達したと発表した。

 ホンダの新事業創出プログラム「イグニッション」は、個人の持つ独創的なアイデア・技術・デザインを発掘し、社会課題の解決と新しい価値の創造につなげる新事業創出プログラムで、2017年にホンダの従業員を対象に社内新事業を創出するプログラムとしてスタート。2020年にはより早い社会実装を実現するために、起業の選択肢を追加。さらに2023年には対象を社外にまで拡大して、社外のアイデアとホンダの技術や知見を組み合わせることで、革新的な価値創造を目指すプログラムへと進化してきた。

ホンダの新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」

 今回イグニッションの第5弾として「パスアヘッド」を立ち上げた伊賀将之氏は、2012年に本田技術研究所に入社。その後10年近く四輪ボディ、主に鋼板や骨格といった金属材料の研究開発に従事した人物。3月末に都内で行なわれた発表会にて、「転機となったのはクライアントのニーズや社会課題を材料というソリューションで、モビリティに特化しない、それ以外の新しいビジネスや、技術に役立つ材料品質を基礎的な部分から研究を始める“材料研究センター”に配属になった2023年だった」と振り返る。

パスアヘッド代表取締役 CEO 伊賀将之氏

 実はこの材料研究センターができる少し前、当時の若手中堅技術者が集められ、立場や職位も関係なく、みな平等で深くディスカッションする場“ワイガヤ”という場が開かれた際、「これから成長するのはアフリカではないか?」「砂漠の砂を利活用する技術がある」との意見が出て、伊賀氏は、「そこで私がこの2つを組み合わせて、砂漠の砂で道路を作れば、自由な移動の喜びが継続的にできるんじゃないかと考えました」と、今回のアイデアは自分だけではなく、ホンダの技術者の議論の中から生まれたものと紹介。

 また、「アスファルトやコンクリートの材料に使用する“砂”は、川の流れを変えてしまったり、山を切り崩すなど環境破壊につながることから、採掘に制限が設けられているため、価格が高騰していて、それらを技術で乗り切ろうと思い大きなチャレンジを決断しました」と事業の発端を説明する。

世界的に川砂が枯渇していることも今回のアイデアが生まれる発端のひとつ

 伊賀氏がこれまで手掛けてきた自動車の開発は、ホンダが築き上げてきたノウハウやマニュアルに対して、その差分を開発するだけのものだったが、土木のフィールドはホンダ自体も経験がなく、伊賀氏は「何から学んだらいいのか?」「どういった要件が必要なのか?」「どういったテストが必要なのか?」と、すべて手探り状態からスタートしたと振り返る。

 また、技術者は技術的なアプローチはできても、その技術を活用したビジネスをどうやって成長させるのかはほとんど経験がない。しかし、そこは「イグニッションスタジオ」というホンダの人材育成カリキュラムがあり、実際に伊賀氏も参加していろいろと学んだという。

ホンダでは人材育成カリキュラム「イグニッション スタジオ」も展開している

 さらに伊賀氏は積極的に現地も訪問。開発途上国の道路の現状はとても舗装率が低く、場所によってはぬかるみになると1台分進むのに何時間もかかり、激しい渋滞を引き起こす。ホンダのガーナ工場の前も同様で、雨が降ると泥沼化してしまい搬入搬出ができなくなるという。

 また、舗装路も寿命が短く1年ほどで凸凹になってしまい、トラックがスピードを出せず、これも渋滞を引き起こしてしまう。その結果、実は開発途上国の輸送コストは先進国の3倍以上もかかるといった課題も山積している。

道路の舗装率が低い途上国では、物流のコストが先進国の約3倍もかかるという。実際にガーナにあるホンダの工場の前も雨が降るとぬかるんでしまい、搬入搬出にかかる時間は増え、場合によってはトラックが工場にたどりつけない場合もあり、さまざまなロスが発生している

 途上国の舗装路がわずか1年で傷んでしまう理由について伊賀氏は、「これは材料に起因しています。アスファルトは95%が石で、大きい“粗骨材”と細かい“細骨材”が効率よく充填され、石垣のように噛み込むことで自動車が乗っても大丈夫な強固な構造になっています。しかし、開発途上国では低品質な材料で施工しているため寿命が短いのです」と解説。

途上国の舗装は低品質なため寿命が短いのが課題

 そこで伊賀氏は、砂漠の砂から人工骨材を製造することを発案するが、砂漠の砂は細かくて丸くて石垣のように噛み込めないので、そのままでは使えない。そのため伊賀氏らは、砂の粒のサイズを大きくする“造粒”という世界初の技術を開発。砂漠の砂を“造粒”して粒を大きくしつつ、非常に高耐久な人工の石“人工骨材”は、高強度で均一なので工業製品のように扱えるのが特徴という。

独自技術で砂漠の砂を造粒して人工骨材を作ることに成功
左から「原材料(砂漠砂)」「ライジングサンド(細骨材)」「ライジングサンド(粗骨材)」

 また、“人工骨材”は、道路だけでなくコンクリートにも砂利として使えるし、道路の下に敷く路盤剤としても活用でき、さらに粒のサイズを大きくしていけば構造躯体としても使えるなど、とても汎用性があるという。

人工骨材「ライジングサンド」はさまざまな用途に利用できる

 すでに道路を模した構造物にダンプトラック級の荷重をかけるホイールトラッキング試験では、今の日本の良質な天然骨材と比べて耐久値が2.5倍以上あることが確認でき、現状の約10年という耐久性を20年以上にできるとしている。同時に川砂や砕石が必要なくなることから環境にも非常にえ配慮できる材料という。また原材料が砂漠の砂ということで、調達面でも競合他社より優れていると説明する。

人工骨材「ライジングサンド」を使って作る道路は、現在の道路の約2.5倍の耐久性があるという
人工骨材を使用したアスファルト混合物
天然骨材を使用したアスファルト混合物

 パスアヘッドは今後、舗装率が低く砂漠があり、かつビジネスを始めやすいケニア、タンザニア、南アフリカでの事業展開を予定していて、すでにケニアの都市道路局とはMOU(基本合意)を結んでいるほか、地元のコンストラクターにも「認可が取れれば買うよ」といったコメントをもらっているという。

ケニア、タンザニア、南アフリカは、道路の舗装率が低く、国を挙げて道路の舗装に投資を行なっていて、大きな予算を割いている

 2028年には量産を開始し、2034年には430億の売上を目標に掲げ、それまでにラボではまだ数kgの生産量だが、tレベルで作れる量産技術の確立と、リアルフィールドに敷いて耐久性の実証実験の実施を目指すとしている。

人工骨材「ライジングサンド」は競合他社と比較しても「高耐久&低コスト」となるほか、現地に工場を建て、砂漠の砂を加工することから“地産地消”も可能とさまざまな面で優位性があるとしている

IGNITIONプロジェクトは今後も活動を広げていく

 3月に行なわれたパスアヘッドの発表会にて、IGNITIONプロジェクト統括の藤井欽也氏は、「ホンダは創業以来“社会や人の役に立ちたい”という思いでモノ作りを続けていますが、そのような思いのもとイグニッションでは、ホンダの従業員の独創的なアイデア・技術・デザインを活用して、社会課題の解決と新しい顧客価値の創造につなげることを目的に開始しました。2017年に研究所のプログラムとして開始して、2021年に起業・独立をゴールに置いた現在の形で全社展開を図っています。2025年に発表した“ウミエル”を含め、これまでに4社が起業しています」とプログラムの概要を説明。

IGNITIONプロジェクト統括 藤井欽也氏

 続けて、「また、イグニッションのノウハウをえ広く社内に浸透させるために、全従業員を対象とした学びの場として、“イグニッションスタジオ”というものを推進していて、社内外から事業開発や起業経験者の方々を招いて、講演やワークショップを行なっています。これらの活動で、新事業開発に必要なマインドとケーパビリティ(技能)を強化することで、事業開発スキルを備え、内発的動機に基づいて行動できる人材を育成しています」と、技術とともにしっかりと人材も育成しているとアピール。

イグニッションプログラム第1弾「あしらせ」
イグニッションプログラム第2弾「ストリーモ」
イグニッションプログラム第3弾「スマチャリ」
イグニッションプログラム第4弾「ウミエル」

 これらイグニッションで展開している技術は、ホンダの新事業の中にも活用されていて、2025年度に事業化を発表した、手放しで乗れるパーソナルモビリティ“ユニワン”は、狙う市場を定めてからビジネスモデルを構築。従来のアプローチとは対照的に、不確実な未来を前提に試行錯誤しながら市場を創出。スタートアップ的なアプローチのもと、多様な企業とのコラボレーションを図りながら、ユニワンの価値を提供できるフィールドへ展開中。現在はエンターテイメント領域やアジャイル労働の領域で活用されている。

手放しで乗れるパーソナルモビリティ「ユニワン」は、イグニッションブログラム発の事業ではないが、同様に活躍するフィールドを自動車業界とは異なる領域へ拡大している

パスアヘッドを応援する企業も続々と増えている

インキュベイトファンド代表パートナー 赤浦徹氏

「Zero to Impact」をキャッチコピーに掲げ、スタートアップへの投資・支援を通じて産業創出を目指す独立系ベンチャーキャピタルであるインキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹氏は、「弊社は現在1800億円を運用し、これまでに900社に投資をしてきました。会社は探すものではなく作るもので、パスアヘッドも設立前にコミットして出資しております。そして伊賀さんの砂漠の砂でアフリカに道路を作る。こんなに素晴らしい事業はほかにない。また、ホンダさんがアメリカにあるドライブモードという会社を2019年に買収した際から縁があり、今でも関係が継続していて、イグニッションプログラム第4弾の“ウミエル”にも投資させていただいております。ホンダのスピリットを持ち、世界を変えていこうという伊賀さんと一緒にチャレンジできることを楽しみにしております」とコメントしていた。

サイバーエージェント・キャピタル代表取締役社長の近藤裕文氏

 また、サイバーエージェント・キャピタル代表取締役社長の近藤裕文氏は、「われわれは“CHANGE THE WORLD FROM ASIA”と“起業家ファースト”を軸に、日本やアメリカ、東南アジアでVC(ベンチャーキャピタル)事業を展開していて、過去には人手不足を解消するアプリ“タイミー”などにも投資してた経緯があります。今回はインフラという領域にはまだまだチャンスがあると感じていて、最近はAIへの投資が盛んになっていますが、インフラ事業は現地に滞在して、実際に事業を磨いていく必要があるし、ホンダで培った技術とホンダスピリットを持つ伊賀さんが世界を変えていくことを想像できたので投資を決めました。日本の企業、さらに世界の企業と一緒になってブラッシュアップできると思いますし、そのプラットフォームを弊社は持っていますので、応援したいと思った次第です」と思いを述べていた。

ライジングサンドの名称は、日が昇る“ライジングサン”と、砂“サンド”を掛け合わせた造語。伊賀氏は「朝日のようにこの事業がどんどん昇っていくことを願って命名した」という