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GRヤリスを大幅進化、2025年は「原点のニュル活動」であったのに対し、2026年は「モータースポーツ起点のクルマづくり」の本格化

2026年のニュル仕様として参戦する109号車 GRヤリス。3つの大きなアップデートが組み込まれている

 5月16日15時(日本時間16日22時)、ニュルブルクリンク24時間レースの決勝レースが始まった。このニュル24時間に、2025年に続けて参戦するのがトヨタ自動車とルーキーレーシングが組んだ「TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing」(以下、TGRR)。GAZOO Racingとしての初参加は2007年だが、コロナ禍もあって2019年以降はニュルに参加していなかったが、2025年にTGRRとして6年ぶりに復帰した。

 2025年にスーパー耐久で鍛えたGRヤリス DATを持ち込んだTGRRは、市販車のままのパワートレーンで見事完走。トヨタの信頼性と高性能をモリゾウ選手として参加した豊田章男会長ら、ルーキーレーシングメンバーが世界へ発信した。

ニュル仕様のGRヤリスを担当するトヨタ自動車株式会社 GAZOO Racing Company GR統括部 ZR GR4主任 久富圭氏(左)と同 カンパニープレジデント 高橋智也氏(右)

 この参加時に豊田章男会長は、「今回の(2025年の)ニュルの活動を、原点をみんなに知ってもらいたい」と語っており、TGRRとなって改めてニュルブルクリンク24時間レース参加とは何なのかをメンバーに知ってほしいと伝えていた。

 スーパー耐久で鍛え上げた人とクルマは、見事に市販車のままのパワートレーンでニュルブルクリンク24時間を完走。原点を知ってもらう活動において、一つの結果を出した。

市販車を鍛えるのではなく、本格的な「モータースポーツ起点のクルマづくり」へ

ニュルブルクリンク24時間レースのスターティンググリッドにおけるGRヤリス

 このGAZOO Racingの活動として掲げられているのが、人とクルマを鍛えるための「走る、壊す、直す」のプロセス。モリゾウこと豊田章男会長による逆さGRヤリス公開のエピソードを含め、モータースポーツなど極限の環境に挑むことでクルマを鍛えていく。

 2025年の活動では、その後センサー類を確認してみたら一部トラブルはあったというものの、熱い6月のレースにもかかわらず無事に完走した。そのため、2026年ではニュル仕様GRヤリスの開発者であるGAZOO Racing Company GR統括部 ZR GR4主任 久富圭氏のやりたいようにやることができる環境が生まれ、2026年のGRヤリスは大幅に手が加わった状態でニュルブルクリンク24時間レースに登場した。

 ある意味、市販車を鍛えるところから大きくジャンプアップしはじめており、「走る、壊す、直す」のプロセスを大きく昇華しようとしている。

 久富氏によると、ニュル2026年仕様のGRヤリスでは主に3つの箇所を進化させたという。

 一つ目が、エンジンのパワーアップ。これは部品の変更と制御の変更からなっており、ニュルにある「非常に長いストレート」で有効な対策だという。ニュル2025年仕様のGRヤリスにおいて、「去年の時点で250キロ」(久富氏)の最高速が出ており、2026年仕様のGRヤリスではそれ以上を狙う。

 どこの部品を変更したのか、どの箇所の制御を変更したのかについては明かしていただけなかったが、GRヤリスはターボ車でもあり出力向上にはタービンの制御の変更、燃焼室の変更、吸排気の変更などさまざまな手を打ちやすい。久富氏は吸気系の変更であるようなことを示唆していたが、いずれ明らかになるときもあるだろう。

 2つ目が空力面の改善。先ほど久富氏が指摘していたように、ニュルブルクリンク24時間レースでは高速域での改良がタイムに反映されやすいようだ。すぐに目に付く場所では、リアウィングが新しい形状に変更されており、2025仕様のものに比べてスタイリッシュになっている。

分かりやすいアップデート箇所がリアウィング。新形状となっており、市販化も可能かもしれない
シンプルな面で構成されており、軽量化のためカーボン素材が採用されている
今回のGRヤリスにおいて振り切った開発がされたリアディフューザー。ドラッグを増やさずにダウンフォースを向上させる効果が高い。形状はCFDで最適解を求めていった

 以前のものは、両側からリアウィングを支えるものだったのに対し、新しいリアウィングでの支えは中央左右にあり、上からウィングを吊るタイプの天吊り形状。より多くのエアを流せるような形状のため、より多くのダウンフォースを得ることができるほか、リアウィング底面に支柱がないことから底面の空気の乱れが小さく、より効率的にダウンフォースを発生できる形状になっている。

 また、この2026年仕様のGRヤリスではコンパクトカーであるヤリスと比較して結構巨大なディフューザーが付けられている。今回の効率的なダウンフォース発生のため底面をフラット化。後輪車軸近辺からディフューザーは始まっており、ディフューザーとの接触面積を稼ぐために曲面形状となっている。

 フロントまわりもカナードが取り付けられたり、2025年仕様のGRヤリスと形が変わっていたりと手が入れられていた。

フロントまわりの空力も改善。2025年仕様から形状が変更されている

 久富氏は、これら空力対策をするに当たって「CFD(Computational Fluid Dynamics、数値流体解析)を何回も回した。社内の協力していただける方と会話をしながらCFDを回した。その後にいいという形を見つけて、風洞試験も回して、小さいPDCAを回しながらものづくりにこだわってやってきました」(久富氏)という。今回の開発においては、社内の協力者を見つけるのがポイントで、彼らの協力があってできたものだという。

 その際に役に立ったのが、2025年のニュルブルクリンク挑戦。昨年の挑戦の際にメディアに取り上げられることが多く、協力してくれる人に自分の仕事を理解してもらいやすくなったという。改めてメディア対応の大切さを知りましたと笑いながら語っていた。

 そうした多くの協力者によって成し遂げたのが、ドラッグは変わらずに60%のダウンフォース向上を得たこと。ダウンフォース向上はタイヤのグリップ向上につながり、より安定して高速で走れることになる。

 3つ目は、フロントサスペンションのジオメトリ変更とトレッド拡大。GRヤリスでは、フロントにエンジンとトランスミッションを搭載することから、フロントの荷重が高い。ニュル仕様のGRヤリスは、ニュルブルクリンク24時間レースの1スティントを燃料の関係から8周するのだが、リアタイヤは3スティントくらい持つのに対して、フロントタイヤは1スティントごとに交換しているという。

 その理由はフロント荷重の高さからタイヤの摩耗が進むこと。実際、荷重としては64%が前にかかっており、その分タイヤの摩耗が進むほか、基本的な特性がアンダーステアになっている。その荷重をしっかり支えるためにサスペンションのジオメトリ変更を行なったほか、フロントのトレッドを片側15mm拡大。両側で30mmの拡大としている。

 GRヤリスは、フロントにGA-Bプラットフォームを、リアにGA-Cプラットフォームを採用しており、もともとリア側が1クラス大きいクルマのプラットフォームを採用しているために許容度が高い構造になっている。フロントのトレッドを拡大することで、より落ち着きのあるクルマにしたかったということになる。

 フロントサスペンションまわりでは、フロントのアブソーバーの減衰圧やストロークの最適化も行なっている。ニュル仕様のGRヤリスでは、アップダウンの激しいニュルブルクリンクの特性に合わせて、きちんと足が動く方向にセッティングされている。2025年仕様のGRヤリスの成果は市販車にフィードバックされており、先ごろ「GRヤリス モリゾウRR」として商品化。そのしなやかな足は高い評価を得ている部分だ。

 2026仕様のGRヤリスでは、さらにそのセッティングを煮詰めており、アブソーバーとスプリングの分担率の見直しを行なっているという。ここは直前までセッティングを行なっていた部分で、ヨーロッパにいる中嶋一貴氏にも依頼。中嶋一貴氏はこれまでのGRヤリスにも乗り込んでおり、GRヤリスの変化をよく知る人物で、中嶋氏のコメントも参考に煮詰めたとのことだった。

次世代のクルマ作り要素があるのは、将来の新車種のため?

 ここまでのアップデート内容を聞いている限り、空力付加物の増加など車重が増える方向のアップデートが多いことが分かる。報道陣からは、車重についての質問も出て、久富氏は6kg増加してしまったと答えた。

 しかしながら、この6kgは多くの人の協力によってなされたものだという。素直にアップデートするともっと重くなったものを、例えばセンサーケーブルを軽いものに変更することで軽量化。そのような取り組みを各所の協力で行なっているという。

 そうして取り組んだ個々の軽量化の結果をニュル24時間の場で試すことで会社に持ち帰り、次の世代のクルマ作りに活かしていけるという。

 ただ、ここまでの3つのアップデートを説明されてすぐに思い浮かぶのは、これをすぐに市販車に適用するのは難しいなということ。リアウィングであれば可能だが、リアディフューザーは市販車としては難しい形状で、この知見を市販車に持ち込むのはなかなか難しいように思える。

 また、フロントトレッドの拡大を伴うジオメトリ変更はプラットフォームにもかかわる変更で、GA-Bのワイド版とも言えるものになるだろう。市販車を「鍛える」という活動から大きく踏み出している。

 フロントワイドトレッドになっていることから、より大きなサイズのクルマ、例えば「新型セリカに向けての先行開発なのか?」と久富氏に聞いたところ、「GRヤリスを主眼に置いてやるのであれば、確かにそこまで手を出すべきではないのかなという考えにもなったんですけれども、そういった制約が多い中で答えを出そうとしたときにやってみたのが昨年の1つの結果(完走)だと思っています。今年はさらに挑戦する年とさせていただけるのであれば、車両というカテゴリを超えてでもやらせていただいて、こういう結果になるんだという解を出すことで、今後フロントヘビーなクルマができあがったとき、一つの例としてはバッテリEVだとかが進んだときでも一つあるかなとは思います。もちろん大きいエンジンを積んだときもそうなんですけど。ここまで気をつけなきゃいけないねとか、こういう経緯が過去あったねってところで、知見を会社としても残すのも一つの有意義なテストになるんじゃないかなと思ってトライさせてもらってます」という答えが返ってきた。

 これはGRのクルマ作りが次のステップへ踏み出していることを示しており、2025年に完走という結果を出したことで将来のクルマへの先行開発を始めたようにも聞こえる。「モータースポーツ起点のクルマづくり」が本格化したとも言えるのだろうか?

 この点をGRカンパニープレジデントの高橋智也氏に確認したところ、「今回、久富は振り切ってクルマを作っている。その振り切りぶりを見てほしい」という。まだ30代の開発者である久富氏が振り切ったクルマを作ることは、「モータースポーツ起点のクルマづくり」であり「モータースポーツ起点の人づくり」なのかもしれない。

 ちなみに、この3つの大きなアップデートを組み込むにあたって検討した期間は、昨年のニュルブルクリンク24時間レースが終わってからの数か月。一旦できたクルマをばらして、1.5か月かかって組み上げている。12月にはクルマが組み上がりシェイクダウンを開始。そこから4回のテストを行なって、ニュルに挑んだとのことだ。

 久富氏自身は、2026年のニュルの目標を、「一番根底にある完走は今年も変わらない。しっかりと完走をする、データもしっかりと取る・持ち帰ることが第一かなと思っています。それにプラスして、今年挑戦した部分は、懐を深くして、去年よりもさらに上の限界域で走っても怖くないようなクルマ、安心して走れる、何周でも行きたくなるようなクルマというのを作ることができるとベストなのかなと思ってやってます。なので、(ドライバーから)そういったコメントが出てきたら満点かなと思っています」と、完走はもちろん、走った際の安心感の向上を挙げていた。