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ジャイアーノことトヨタ中嶋裕樹副社長、ル・マン24時間で欧州メディアに対しトヨタレーシングがル・マンに挑む意義を語る 「持続的な改善こそが、レースにおいて最も重要な役割」

富士24時間レースではジャイアーノとして登場したが、ル・マン24時間レースではトヨタレーシングを率いるリーダーとして欧州メディアの質問に答えたトヨタ自動車株式会社 代表取締役副社長兼CTO 中嶋裕樹氏

 トヨタ自動車は、6月13日~14日にかけて行なわれている第94回ル・マン24時間レースに参戦している。2026年からトヨタレーシングという形での参戦となり、中嶋裕樹副社長兼CTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)をリーダーに必勝を期してル・マン24時間レースにのぞんでいる。

 6月13日、富士24時間レースでジャイアーノとして華麗に登場した中嶋裕樹副社長は、ル・マン24時間レースでは赤と白のトヨタレーシングウェアに身を包み、欧州メディアとの記者会見を行なった。

欧州メディアとの会見はトヨタモーターヨーロッパ社長兼CEO 中田佳宏氏(左)、同 CTO 安井慎一氏(右)とともに行なわれた

──トヨタレーシングのモータースポーツにおけるゴールは何でしょうか?

中嶋裕樹副社長:ご存知かもしれませんが、モータースポーツのエンジニアは常に限界に挑んでいます。そのため、クルマを壊しては直し、また壊しては直すのです。ですから、その環境は極めて過酷です。それはトレーニングの環境であり、人材育成の環境なのです。しかし、そこは人が成長する場所でもあります。ですから、最も重要なのは、いかにして人を育てるかということです。それが私たちのコンセプトです。

 モータースポーツは厳しい締め切りのもとで運営されています。そのため、例えば何らかの故障が発生した場合、次のレースの終わりまでに修理しなければなりません。不運にもその原因が判明したとしても、それはその時点での弱点となります。しかし、それを修理して直せば、次のステップへと挑戦することができます。そして最終的には、また別の弱点が見つかるのです。つまり、このような持続的な改善こそが、レースにおいて最も重要な役割なのです。これが私たちのコンセプトです。

 ご存知のとおり、私たちには「トヨタスタンダード」があります。私たちはトヨタ自動車の現在のエネルギー挙動の状況を説明しようとしています。私たちにはトヨタスタンダードという強力な武器がありますが、これらの基準は数年前に固定されたものです。そのため、基本配置における現在のエネルギー挙動は、トヨタスタンダード(TS)のみに焦点を当てています。何かを消去できるのであれば、トヨタスタンダードで計算してください。これで大丈夫、これでオッケー、今のところは。

──水素レースプログラムの最終ゴールは何ですか?また、将来的には水素燃焼のパフォーマンスモデルが登場する可能性はありますか?

中嶋裕樹副社長:私たちの目標は将来の水素社会を実現することです。現在の状況において、水素社会を実現するために最も重要な部分は、水素の消費量です。現時点で、私たちトヨタは商用車を持っています。ご存知のように、私たちは大型トラックにFCを導入するため、いすゞトラックや日野トラックと提携しています。

 だからこそ水素の総消費量を拡大することは非常に容易なのです。その意味で、水素ステーションの視点から見れば、自らのビジネスを運営することは非常に容易です。それが私たちの現状です。しかし、将来的には、トヨタは乗用車メーカーです。ですから、将来はできる限り水素乗用車に注力したいと考えています。しかし、水素には2つの要素があります。1つはFCEV、もう1つは水素エンジンです。それには一長一短があります。

 FCEVの場合、水素効率の面で非常に有効です。その意味で水素補給は非常に容易です。しかし、現時点ではその価格が非常に高い状態です。そのため私たちはできる限りコストを下げる努力をしなければなりません。一方で、水素エンジンはエンジン構造そのものが同じであるため、導入が非常に容易です。例えば、燃料の位置や条件を変更します。あるいは追加のタンクや配管システムが必要になりますが、現在存在するエンジンそのものを活用することができます。

 同時に、(水素エンジンは)現在のエンジンモデルを水素エンジンモデルへと容易に置き換えることができます。これがメリットです。しかし現時点では、燃料消費レベルがFCEVに比べてはるかに劣っています。正直なところ、現時点ではそのような一長一短があります。しかし、私たちはこれら2つのタイプのエンジン、つまりエンジン(ガソリンエンジン等)と水素エンジン、そしてFCEVの開発に向けた努力を続けていきたいと考えています。

 私たちは水素エンジンを改善することに強い自信を持っています。ですから近い将来、競合他社にパワーのある扱いやすい水素エンジンを提供したいと考えています。そして、同じエンジンを使い、同じトラックで戦うことができる。これが私の夢です。いずれにせよ、水素社会、つまりモビリティの領域を実現するために、私たちはFCEVと水素エンジンを用いてこのようなアプローチを行なっているのです。

──ハース・フォーミュラ1チームにトヨタの名前があります。トヨタにとって、単にマシンにスポンサーシップを持つための手段なのでしょうか? あるいはトヨタがチームに対して本物の貢献、技術的な貢献を行っているのでしょうか?

中嶋裕樹副社長:ご存知のように、私たちは2009年にF1を離れることを決定しました。トヨタの会長である豊田章男(当時は社長)の見解であり、決定したのです。しかし、若い世代のドライバーの視点から見ると、日本からF1に挑戦するチャンスがありません。その意味で、若者たちがF1レースに挑戦する可能性をできる限り拡大したいと考えました。私たちはハースと提携することに決めたのです。これが一つの方向性です。

 どのようにして人を育てるか。ご存知のように、私たちのドライバーである平川(平川亮選手)は、すでにハースF1チームのリザーブドライバーとなっています。ですから、彼はF1レースに挑戦する絶好のチャンスを得ています。それが、トヨタとハースのF1提携における最も重要な要素です。

 私たちが「ピープル・プロダクト・パイプライン」と呼ぶものがあります。プロダクト、人。パイプラインにおいて、私たちは例えばシミュレータなどの当社の技術を活用することで、ハースチームに貢献したいと考えています。もしかしたら、私たちのシミュレータシステムを彼らに提供することになるかもしれません。

 そして同時に、私たちはシステム内にいくつかのAI技術を持っていますので、この技術をF1に提供する予定です。

 現時点では決定していませんが、これは私たちの技術を最も過酷なレース条件であるF1レースに活用する絶好の機会です。これが私たちの挑戦です。

 プロダクトの領域はまだ決定していません。現時点では、そのようなエンジンやシャシーシステムを提供する十分な能力がありません。しかし、プロダクトについて、私はエンジニアですので、できるだけそのような過酷な条件に挑戦したいと考えていますが、「ピープル、プロダクト、パイプライン」が意味するのは、人、そしてパイプラインの領域がハースへの貢献における最も重要な要素であるということです。それが私のポイントです。ありがとうございました。

──トヨタがグローバルラインナップのためにマルチエネルギーの選択肢を検討しているのであれば、ヨーロッパ市場向けにはどれが優先される(プライオリティとなる)のでしょうか? 主にBEV(バッテリEV)に移行したいというヨーロッパの期待とは一致していないように見えますが。

中嶋裕樹副社長:ヨーロッパは非常に巨大な要素です。それぞれの国のエネルギーミックスによります。それぞれの地域によります。ですから、最終的にはお客さまが選択します。お客さまがどれを選ぶかを決定するのです。

 トヨタの場合、バッテリEVの法制化などのレギュレーション(規制)の基準を満たすためには、このようになります(と、手で曲線を示す)。しかし、現実はこのようにはなっていません(と、手で曲線を示す)。

 ですから、エンジニアリングの観点からは、私たちはこれら2つのタイプのシナリオを捉えなければなりません。

 しかし、ビジネスの観点からは、私たちはこれを捉えなければなりません。
 では、そのような格差(ディファレンシエーション)の領域をどのように解決するか。レギュレーションは法制化です。将来的に、最終的には政府も、もし私たちがより厳しい、厳格なレギュレーションを活用できても、お客さまはそこまで厳しい条件を望まないということを認識するでしょう。

 お客さまの要件によります。

 ですから、私たちは現実の市場に焦点を当てなければなりません。バッテリEVの場合、もちろんバッテリEVを提供します。そして、実用的なバッテリEVとしてPHEV(プラグインハイブリッド)を提供します。

 いくつかの国に対しては、バイオ燃料を備えたハイブリッドシステムを提供します。国ごとのケースを想定するのは非常に困難です。

 私たちはグローバル企業ですので、グローバルな解決策を提供します。同時に、私たちはフルラインアップのメーカーですので、いくつかのクルマはバッテリ、小型車であればバッテリEVが非常に手頃な価格になります。また、ある車は長距離を走るためにハイブリッドシステムの方がはるかに優れています。お客様のユーティリティ(用途)により、人々の選択によります。それが私の理解です。

──昨日、耐久レースの新しいレギュレーションに関するニュースを見ました。あなたの立場と、将来的に耐久レースへの参加を確定させるための主なポイントが何であるかを知りたいです。

中嶋裕樹副社長:ありがとうございます。昨日の情報ですが、正直言って驚きました。なぜなら、彼らは2030年から2033年にかけて導入することを決定したからです。しかし、それは大丈夫です、私たちは開発できます。

 ただ、このレギュレーションの最も重要な要素は、エンジン開発の自由な領域(フリーエリア)があることだと思います。排気量の制限がありません。もちろん、出力は固定されています。しかし、どのようにして新しいエンジンを導入することに挑戦できるか。これは挑戦的なポイントであります。

 これからACOやFIAと話し合っていきたいと考えています。しかし、最も重要な要素は、やはりエンジンだと思います。私たちの焦点です。現時点では、いくつかのタイプのエンジンを選ぶことができます。ハイブリッド付きの小型エンジンがよいのか、それとも大排気量の大型エンジンがよいのか? それは分かりませんが、選ぶことはできます。ですから、これからは個々のシステムを開発する努力をしなければならず、いくつかのタイプのエンジンを選択できるようになります。私たちはすでにいくつかのタイプのエンジンを持っています。では、どのようなエンジンがそのようなレースに適しているのか。これから、理解していきたいと考えています。

──関連した質問をさせてください。もしエンジンを選べるとしたら、4気筒ターボ、V10、V12、どれがよいですか?

中嶋裕樹副社長:V12です!(笑)V12です!(笑)

 V12の方がよいですね。まあ、いずれにせよ、重量だけでなく、例えば24時間レースですからね。とにかく、彼らは水素の重量を減らしようとしています。ということは、そのようなレースにどのように貢献できるか。一つの方向性は、ハイブリッドシステムを活用していかに燃料効率を向上させるかということだと思います。一方で、カーボンニュートラル燃料を選ぶこともできます。

 水素については、基本的にFIAはすでにカーボンニュートラル燃料を採用しています。しかし将来的には、もし彼らが100%カーボンニュートラル燃料を利用できるようになれば、例えばハイブリッドシステムは必要ありません。例えば、純粋なエンジンに焦点を当てます。つまり、エンジンを選択する柔軟性、開発の観点、エンジニアリングの観点から、外部エンジンの選択肢を選ぶことができます。これはよい機会ですよね、レースを通じて私たちの新しいエンジン技術を一般にアピールする。それが私のポイントです。

 もちろんハイブリッドシステムを導入したいと考えていますが、同時に最も重要な要素はカーボン(炭素)です。では、どのようにしてカーボンニュートラルを達成するか、これが重要なポイントです。その意味で、私たちにはいくつかのタイプの解決策があります。一つはハイブリッドシステム、一つはバッテリ、もう一つは何と言いますか、現在のエンジン、あるいは新しいエンジンでのカーボンニュートラル燃料です。コアな技術です。

──私はここ2年間、上海と北京のモーターショーを訪れる幸運に恵まれました。例えば中国のパートナーと共同開発した「bZ3X」があります。これもヨーロッパに届く(導入される)可能性があるのでしょうか?

中嶋裕樹副社長:それはよい質問ですね。私たちの中国製品について説明したいと思います。元々、私たちはGAC(広州汽車集団)と協力しました。GACですね。私たちはbZ3Xを導入しました。これは、正直に言うとGACのオリジナルのバッテリEVです。そこにトヨタのデザインを加えました。それだけです。

 そして私たちはbZ7をGACと共同開発しました。私たちは協力しています。およそ、現在の当社のバッテリEVと比較して、70%から80%はトヨタの部品を活用しています。

 ですから、この車両を運転すればほかの中国のバッテリEVとは異なるソフトウェア構造になっています。なぜなら、私たちはトヨタの哲学をできるだけ導入し、トヨタの部品を活用し、トヨタの評価方法を活用しているからです。

 最終的に私たちは強い自信を持って、これはトヨタのクルマだと言うことができます。もちろんGACとの共同開発です。しかし、次の世代、詳細な情報は開示できませんが、私たちはすでにGACからの次世代車両の開発を開始しています。これは完全に完全に共同開発です。

 これを私はトヨタの資産だと言うことができます。しかし現時点では、中国市場では彼らはより大きなサイズの車両を求めています。正しい言葉ではありませんが、走行性能を最重要視していないところがあります。一部のお客さまは走行性能を強く求めていますが、要求の大部分は非走行領域です。

 例えば、リビングルームのようなエコシステム。彼らは走行性能を最重要視していません。なぜなら彼らは自動運転を活用するからです。例えばテレビを見るため、映画を見るため、あるいはカラオケをするため、ですよね?

 つまり、これが中国のリアルな状況ですので、彼らは大きなサイズのリビングルームというコンセプトを求めています。ですから、走行部分だけでなく、何と言いますか、助手席におけるプリンセスシート、知っていますか?

──はい。

中嶋裕樹副社長:プリンセスシートです。つまり、奥さんやパートナーのための助手席ですが、これが彼らにとって最も重要なシートなのです、なぜなら車両の予算はパートナーから提供されるからです。ですから、これがプリンセスシートです。

 例えば、彼らはゼログラビティ(無重力)シートを活用していますよね。他のヨーロッパ市場やUS市場、あるいは他のアジア市場との違いを生み出すために。ですから、彼らには独自の文化があり、独自のカーカルチャーがあります。彼らはすでに独自のカーカルチャーを持っています。私たちは彼らの要件を満たさなければなりません。

 サイズはより大きく、大きいほどよい。「排気量」のことは気にしません、課税システム(自動車税)の関係がありますから。1.5リッターの方がよい。1.5リッターエンジンで、より大きい、オッケー。これがリアルな状況です。

 例えば現在タイで生産している「ハイラックス」があります。現在、私たちはヨーロッパを含む多くの国に輸出しています。南米やヨーロッパなど。タイから日本へも。生産システムは、量産システムです。中国から他の国へ輸出する可能性もあります。トヨタのプラットフォームとして。

 先ほど申し上げたように、現時点では大きな要求は完全に異なっています。ですから、例えばヨーロッパ市場であれば、小さな排気量でより大きなボディのクルマを購入するために、投資(開発)を戻す必要があります。それは大丈夫です、私たちはそれを提供できます。

 しかし、文化が完全に異なります。正直に言って、私たちは追加のエンジン資源を必要としています。なぜなら、以前は私たちは中国にUS市場と同じ車両を提供していました。中国への導入は非常に容易でした。しかし、今ではUS市場向けの車両と、中国市場向けの車両を開発しなければなりません、そういうことです。

自動運転車やバイオ燃料などについても語った中嶋裕樹副社長

 欧州メディアの質問内容は、そのほか自動運転の考え方や、バイオ燃料に関するものなど、多様な方向性のものとなっていた。中嶋副社長はそれぞれの質問に対して、自身の見解、トヨタとしての見解を答えていた。なかには車種ラインアップに関するセリカへの言及もあったものの、従来の「セリカ、やります」発言を超えるものはなく、GR GT3、そしてGRヤリスやGRカローラの間にあるものとして位置付け、紹介していた。