ニュース

筑波大学内を通る路線バス、有償での自動運転の本格運行開始

つくば市長の五十嵐立青氏「実証や実験ではない」と本格運行を讃える

2026年10月1日 開催
運行開始セレモニーでテープカット。左からつくば市議会議長の黒田健祐氏、KDDI株式会社 取締役執行役員常務の勝木朋彦氏、国立大学法人 筑波大学長の永田恭介氏、つくば市長の五十嵐立青氏、関東鉄道株式会社 代表取締役社長の登嶋進氏、KDDIスマートモビリティ株式会社 代表取締役社長の松田慧氏、デジタル庁 国民向けサービスグループ審議官の佐野究一郎氏

 つくば市、筑波大学、関東鉄道、KDDI、KDDIスマートモビリティの5者で構成される「つくば自動運転社会実装推進事業コンソーシアム」は10月1日、筑波大学内にある関東鉄道筑波大学車庫営業所にて「自動運転バス運行開始セレモニー」を開催した。翌10月2日からは関東鉄道の既存路線バス「筑波大学循環(右回り)」において通常の運賃が必要な本格運行を開始する。

TXのつくば駅から筑波大学を結ぶ既存路線で自動運転

 今回、本格運行が開始される自動運転バスは、つくばエクスプレス(TX)のつくば駅隣接のつくばセンターを発着し、筑波大学構内および周辺エリアを結ぶ既存の関東鉄道バス路線「筑波大学循環(右回り)」に組み込まれる形で運行される。

自動運転バス

 駅と大学を結ぶ自動運転バスは、多くは大学内を走るということで構内用のバスのような印象を受けるが、筑波大学の広大な構内は閉鎖された空間ではなく、大学内を通り抜ける公道扱いの道路も通っている。大学の循環バスも通常の公道を走る路線バスに近く、一回の運行が約10kmと長い。構内の道路の特徴として信号がなく、大学内を移動する自転車が非常に多いという特殊な環境となっている。

運行経路

 具体的な走行ルートは、つくばセンターを出発後、筑波メディカルセンター前、第三エリア前、一ノ矢学生宿舎前、筑波大学中央など、キャンパス内外の全25カ所のバス停を経由してつくばセンターへ戻る循環コース。運行ダイヤは平日の右回りコースにおいて10時から18時まで1日6便が設定されており、土曜日・日曜日・祝日および年末年始(12月28日~1月3日)は運休となる。

 運賃も通常の路線バスと同じで、初乗り190円で最高310円。交通系ICカードだけでなく現金での利用も可能。走行時の最高速度は40km/h。安全確保の観点から当面の間は「定員15名の全席着席限定」として運用される。車両にはセーフティドライバーが乗車し、必要に応じて手動介入を行なう自動運転レベル2で運行を開始するが、2027年度にはドライバー不在のレベル4社会実装を目指している。

料金箱を設置、有償運行をする
整理券発行機もある。現金での乗車も可能
運賃表もある
側面の行き先表示

 自動運転バスは、これまでのKDDIが行なってきた実証走行と同じティアフォー製の自動運転小型EVバス「Minibus 2.0」を使う。車両はコミュニティバスなどでよく使われる全長約7mの小型バスでBYDのJ6をベースに改造したものとなる。

乗客は15名でしばらくは全員着席で運行
まだ設置していないが車内に広告も掲出する
運行は関東鉄道
ティアフォー製の自動運転小型EVバス「Minibus 2.0」でベースはBYDの「J6」

 この運行における制度的な特徴としては、運行拠点となる「関東鉄道株式会社 筑波大学車庫営業所」を2025年11月に開設したこと。国立大学法人法の特例措置を活用し、土地の貸付事業として認可を受けた事例となる。関東鉄道が筑波大学と土地賃貸借契約を結び、大学構内という運行ルートの至近距離に車庫営業所を設置したことで効率的な車両管理・運行管理体制が確立されたという。電気バス用の急速充電設備もここに備えている。

筑波大学内に関東鉄道株式会社 筑波大学車庫営業所を設置、通常運行用の電気バスBYD K8 2.0と、実験用のバスも停まっている。なお、この路線は土浦営業所となるため、EVバス以外の車両もここに出入りする
急速充電設備も5台用意
通常運行用の電気バスBYD K8 2.0。納車されたばかりの新車だそうだ
車内も使用感なしのピカピカ

 自動運転バスの車両デザインには市民参加型のインターネット投票で決定した「見つける街並み」が採用された。デザインを手がけたのは、筑波大学芸術系准教授の内山俊朗氏と特別研究員の勝部里奈氏。白を基調に、筑波山の紫、空と花の青、豊かな自然の緑の3色があしらわれ、車体後部には筑波山や筑波大学キャンパス、松見公園の展望塔、つくばエキスポセンターのロケットなどが描かれ、筑波研究学園都市の街並みを示したデザインとなっている。

自動運転バスにはラッピングで筑波研究学園都市の街並みを描いている

 さらに、KDDIグループの強みを活かした独自の取り組みとして、乗車中の車内でKDDIの通信サービス「povo 2.0」の通信データ容量を無料で受け取れる乗客向けエンタメ・還元サービス「povoデータオアシス」が提供される。安全な自動運転制御を支える通信インフラの整備に加え、移動空間における新たな付加価値の創出も図られているとしている。

povo 2.0利用者は、乗るごとに月に10回まで0.1GBのデータ量がもらえる

大学内のスピードハンプも認識し、スムーズな自動運転

 10月1日のセレモニー開始に先立ち、報道関係者向けに筑波大学構内で自動運転での試乗会が開催された。全区間では時間がかかるため構内の一部区間だけの走行となったが、自動運転のスムーズさを確認することができた。

つくば自動運転バス試乗
試乗に出発。この部分は通常の運行経路外なので手動運転だが、いきなり大量の自転車に遭遇する

 加速や減速、カーブ走行時における挙動は気になるところはなかった。自動運転になると全体的に慎重な運転となるが、直線区間ではしっかりと速度を出し、大学構内ということで制限速度は30km/hであり、速度抑制のための道路の出っ張りのスピードハンプではしっかり速度を落とし、車内で不快な揺れが起こることはなかった。

試乗中。運転士が手放しで走行している

 レベル2での自動運転ということで、ドライバーがいつでもハンドルを握れるように待機している状態での運行となるが、自動運転区間ではドライバーが操作せずに加速も減速もハンドリングも行なわれた。

自動運転中に右前方に自転車があり、下側のモニターではしっかりと認識している

 今回の試乗では筑波大学内によくある自転車が複数台まとまって走行する場面には遭遇していなかったが、実証走行を重ねるなかで自転車が周囲に走っていてもしっかり認識し、安全に走行するという。

自動運転バスの運転席。右上には関東鉄道の運行モニターが設置されている
運転席左側には自動運転のための機器スペース
後部にも機器スペースがある
カメラやセンサー類が多数装備される
上部にもセンサー類がある

 また、レベル2ということもあり、関東鉄道のバス運転士が乗車しての運行となるほか、自動運転ではあるが、通常の路線バスと違い、乗降客がいなくても各停留所には停車する方式で運行される。このこともあり、通常の筑波大学循環(右回り)運行は1周が30分間というダイヤが設定されているが、自動運転バスでは1周が55分間と多めに設定している。

「実証や実験と書いてない」ことが特別~つくば市長

 自動運転バスを前に行なわれた運行開始セレモニーでは「つくば自動運転社会実装推進事業コンソーシアム」メンバーが登壇した。

つくば市長 五十嵐立青氏は、ボードを手にして「実証や実験と書いてない」と強調

 地元の茨城県つくば市長の五十嵐立青氏は、ボードを手にして「ここに掲げられてる運行開始の何が特別かというと、実証や実験と書いてない」と本格運行を讃え、「今の市の最大の課題のひとつは移動です。運転手も少なくなって関東鉄道さんも苦労されている。そういう中で、路線バスとして開始できることをとてもうれしく思っています」と述べた。

国立大学法人 筑波大学長 永田恭介氏

 国立大学法人 筑波大学長の永田恭介氏は、実証実験中に何度も乗車した体験を振り返りつつ、「社会はなかなか許してくれなくて、ようやく今日に至った」と話し、次の段階として「動いた、うれしい、ではなく、この便数を増やすためにどうしたらいいかを考える必要がある」とし、「筑波大学で試す場所を用意するから、各社2台ずつ入れれば10台になる」「どんどん街を普通に走ってもらわないといけない」「あとは台数だ」と、自動運転を手掛けるメーカーの参加と、各社の競争を呼びかけた。

関東鉄道株式会社 代表取締役社長 登嶋進氏

 運行主体である関東鉄道 代表取締役社長の登嶋進氏は「昨今、本当に運転手不足、全国的に年々拡大してしまっている。その中で、自動運転は切り札になり、期待も非常に大きなものがあります」と期待を寄せ、「つくば市の交通は関東鉄道がしっかり守っていくということを誓う」と宣言した。

KDDI株式会社 取締役執行役員常務の勝木朋彦氏

 コンソーシアムの総合マネジメントを担うKDDIからは、取締役執行役員常務の勝木朋彦氏が「安全確保のため、高品質な通信環境をしっかりと整備をし、リアルタイムで車両情報状態を把握する遠隔監視体制の確立に取り組む」とし「10月2日よりいよいよ自動運転レベル2での有償、定常運行がスタートします。2027年度の自動運転レベル4社会実装という高みを目指し、皆さまとともに全力で邁進する所存」とあいさつした。

つくば市議会議長 黒田健祐氏

 また、来賓として登壇したつくば市議会議長の黒田健祐氏は「自動運転バスが市民の日常の移動手段として運行開始し、より安全で利便性の高い公共交通を提供することは、持続可能な街づくりにおいて大きな一歩」と称賛した。

デジタル庁 国民向けサービスグループ審議官 佐野究一郎氏

 デジタル庁 国民向けサービスグループ審議官の佐野究一郎氏は、国の経済成長戦略における自動運転の重要性を指摘「定常的な運行を前提とした実証事業っていうのは非常に今重要な局面になる」と期待を寄せた。

筑波大学芸術系 准教授 内山俊朗氏

 今回、車体のラッピングデザインを手がけた筑波大学芸術系の内山俊朗准教授は、コンセプトは『人と地の交わりが、まちを織る』とした上で「毎日の風景に自然に馴染むということを大切にしてデザインしました。白を基調に筑波山の紫、空と花の青、豊かな自然の緑を取り入れています。筑波を思わせる建物や自然を小さな街並みとして配しており、街角で見かけたら、知ってる場所を探していただき、そのたびに新しい発見があるんじゃないかと思っています」と説明した。

セレモニーは筑波大学ヒューマン・スマートシティ研究機構に隣接する関東鉄道筑波大学車庫営業所で実施

駅前の信号のない右折をスムーズに合流、現場での改善の継続だった

 つくば市での自動運転本格運行にあたっては、都市部での運行とは大きく異なる「学園都市特有の運行環境」への適応が大きな障壁となった。セレモニーの後で、KDDIスマートモビリティ代表取締役社長の松田慧氏がその具体的な課題と解決のプロセスを明かした。

KDDIスマートモビリティによる遠隔監視も行なう

 先に行なった東京・高輪エリアなど大都市部での実証走行との違いについて、松田氏は「つくばは日本有数の学園都市であり、利用目的を通学とする学生や教職員が多く、特有の交通環境が存在します」と説明。その中でKDDIが直面した最大の技術的課題が、大学構内に設置された減速帯「バンプ(路面の凹凸)」の対応だという。

「バンプの手前でブレーキをかけて時速除行する形でないと、当然ガタガタしてしまって乗っている方がびっくりしてしまいます。そこに合わせてしっかりセンサー、レーダーデータの学習をしながらスムーズに運転をしていくというところは、技術的にも新しいチャレンジであり、難しいポイントでした」と松田氏は語る。

 このバンプ対策として、あらかじめ過去の走行データをマップ上に記録・蓄積した「マップ記録」と、走行時に車載自動センサーがリアルタイムで検知する認識制御を組み合わせ、「バンプ接近に合わせて事前に滑らかに減速する学習制御」を繰り返し重ねることで克服したという。

 さらに、学園都市ならではの難所として「自転車や学生の急な飛び出し」と「信号機のない右折交差点」を挙げた。

 つくば市内のキャンパス周辺は自転車の走行密度が極めて高く、見通しの悪い場所からの不意な飛び出しリスクが常につきまとうという。これに対し、昨年度の実証実験を通じてセンサー認識精度と回避アルゴリズムの改善を1つずつ積み重ねたとのこと。

 また、今回のルートでは始発のつくばセンターのバスロータリーを出る丁字路を右折する必要があり、交通量が多いにもかかわらず信号機がない。人間のドライバーでも神経を使うポイントだが、センサーと走行データを駆使して、対向車や後続車の流れを精度高く判断し、スムーズに交差点へ合流する技術を確立。これらの現場での細かな改善の継続が、今回の有償定常運行の実現へと結実したとしている。

 なお、今後の展開について「日本全国で高齢化に伴うドライバー不足が深刻化しています。我々はこの自動運転の事業化検討を、スーパーシティであるつくばを起点として進めていくことで、まずつくばで実装し、これを日本全国に広げていくことで全国の運転手不足の解消につなげていきたい」と語り、次の実用化を進めていることを明らかにした。

「つくば自動運転社会実装推進事業コンソーシアム」の各社のロゴが貼られる

つくば市 自動運転バス 運行概要

運行開始日 2026年10月2日(金)
運行路線 関東鉄道バス「筑波大学循環」(右回り)
運行主体 関東鉄道株式会社
運行ダイヤ 平日1日6便(つくばセンター発 10時22分、11時32分、14時22分、15時32分、16時52分、18時02分)
運休日 土曜日、日曜日、祝日、年末年始(12月28日~1月3日)
運賃 190円~310円(通常路線バスと同等、小児・障害者などは半額)
最高速度 40km/h
乗車定員 15名(当面の間は全席着席限定)
運行レベル 自動運転レベル2(2027年度にレベル4社会実装を目指す)

筑波大学内の道路を走行する自動運転バス。本来の自動運転はこの道路の反対向きに走行する