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Qualcomm、自動車向け「LTE-Advanced CAT6対応モデム」発表

「Gobi 9x15」による300Mbps通信デモ

QualcommがテクニカルパートナーとなっているFormula E
会期:2014年2月24日~27日(現地時間)

会場:Fira Gran Via

「MWC(Mobile World Congress)」は、例年2月下旬から3月上旬にかけてスペインのバルセロナで開催されている通信業界のグローバルな展示会。通信キャリア、スマートフォン/タブレットメーカー、半導体メーカー、通信インフラメーカーなど、通信業界に関係しているプレイヤーが一同に集まる展示会として注目のイベントになっている。自動車業界にとっても、今後はIT技術の自動車への応用が必要不可欠な要素になると考えられており、各自動車メーカーは自社製品にIT技術の応用を急いでいるが、通信業界の企業もそうした自動車メーカーに対して売り込みを強めている。

 半導体メーカーのQualcomm(クアルコム)もそうしたメーカーの1つで、1月に米国ラスベガスで行われた「International CES」において、自動車向け規格で製造されるSoC(System On a Chip)の「Snapdragon 602A」を発表し、自動車向け事業に参入することを明らかにした。今回のMWCでも、引き続きそのSnapdragon 602Aを搭載したソリューションの展示を行ったほか、「Gobi 9x30」という「LTE-Advanced CAT6」と呼ばれる、今後通信キャリアが導入する下り300Mbpsで通信できる規格に対応した自動車向け規格のモデムを追加で発表した。本記事では、そうしたQualcommがMWCで展示した自動車向けのソリューションについて紹介していく。

モデム技術を武器にスマートフォン市場でトップシェアを誇るQualcomm

 Qualcommは米国カリフォルニア州サンディエゴに本社を持つ半導体メーカーで、スマートフォン向けのSoCではトップシェアを誇っている。同社の半導体は世界中のスマートフォンメーカーに採用されており、とくに成熟市場と呼ばれる日米欧の高級機では高いシェアを誇っている。実際、日本で販売されているAndroidスマートフォンのほとんどは、QualcommのSnapdragonシリーズを採用している。

 元々Qualcommは携帯電話向けのモデム(基地局と無線でやりとりをするモジュールのこと)を製造する会社として創業され、その後、携帯電話が2G、3G、4Gと進化する過程で携帯電話関連の基本特許を所有していくこともあり、それを端末ベンダーなどにライセンスするビジネスで大きな成長を遂げてきた。2000年代後半からはスマートフォン向けのSoCの製造・販売に取り組み、GoogleがAndroidをリリースし、そのビジネスが大きくなるにつれてAndroidを搭載したスマートフォンに採用されることが増え、現在ではスマートフォン向けのSoCで最大シェアになるまでに成長した。

 Qualcommの強みは、モデムの技術が他社に比べて抜きんでていることだ。Qualcommがモデムを販売する会社としてスタートした背景もあり、携帯電話の規格を策定するような場でも大きな発言力を持つ。それに加えて長年培ってきたモデム関連のノウハウにより、他社よりも競争力のあるモデムをいち早く市場に投入することができている。実際、SoCと呼ばれる半導体に、最新の携帯電話に採用されている通信方式であるLTE(Long Term Evolution)に対応したモデムをいち早く統合できたのはQualcommだった。他社よりも2年は早くそうした製品を出荷できたことで、端末メーカーから支持される結果につながっている。

 調査会社のGartnerが2013年12月に発表した最新の半導体メーカーランキングによれば、Qualcommは1位のIntel、2位のSamsung Electronicsに次ぐ3位だが、上位2社がほとんど成長していないのに比べて、Qualcommは対前年比で31.1%の成長率を見せており、好調にビジネスを展開しているという現状にある。

MWCのQualcommブースに展示されたスマートフォンやタブレット。実に多くの製品にQualcomm製品が採用されていることが分かる

スマートフォンシェアトップの強みを生かして自動車向けに参入

 そうしたQualcommが、1月に行われた世界最大のデジタル家電展示会であるInternational CESで発表したのが、自動車向け規格で作られたSnapdragon 602Aだ。すでに紹介したとおり、同社のSnapdragonシリーズはスマートフォン向けのSoCとしてはトップブランドの製品。その自動車向けバージョンという位置づけになるのがこのSnapdragon 602Aになる。機能としては、同社がスマートフォン向けに販売しているSnapdragon 600に近いスペックを持っているが、細かな部分が異なっているほか、自動車向けに延長された製品のライフサイクル保障、拡張された稼働温度保障などが追加されている。

Snapdragon 602Aのスペック

Snapdragon 602A
CPU コアKrait(ARMv7)
CPU コア数4
クロック周波数1.5GHz
L2キャッシュ2MB
メモリ 種類DDR3-533MHz
メモリ バス幅2x32ビット
GPU コアAdreno 320
GPU APIOpenGL ES 3.0/OpenCL
ディスプレイ出力デュアルLVDS/HDMI 1.4
DSPHexagon QDSP6 v4
カメラ最大3つ
ストレージeMMC4.5/SATA/USB2.0
サポートOSQNX/Android

 Snapdragonの特徴は、Qualcommが自社開発をした、ARMv7ベースのKrait(クレイト)というコードネームがつけられたCPUにある。一般的にARMアーキテクチャのSoCを設計する場合、ベンダはARM社が提供するIPデザイン(Cortexのブランド名がつけられている)を買ってきて組み込む形になっている。しかし、より技術力がある会社は、設計するライセンスをARM社から取得し、自社でCPUを設計して組み込むことができる。Qualcommはそのように自社デザインのCPUを設計している数少ない会社で、同社のKraitは複数あるCPUコアの周波数が負荷に応じて独立して調整できる独自機能を備えており、性能と消費電力のバランスが優れていると評価されている。

Qualcommが1月のCESで発表したSnapdragon 602Aと、今回新たに発表したLTE-Advanced CAT6に対応したモデムチップのGobi 9x30

 QualcommはこのSnapdragon 602Aに、やはり自動車向け規格で製造されるモデムチップ(Gobi 9x15)などを1つにした開発用のリファレンスボードを設計しており、今四半期中にOEMメーカーなどに出荷する計画だが、今回のMWCではそのリファレンスボードを利用したデモンストレーションを実施した。デモが行われたのは、剥き出しのサンプルボードにAndroid OSをインストールしたものと、実際の車両にQNXのOSを使って組み込んだ2種類。これは、Qualcommの開発キットがAndroidとQNXという2つのOSに対応しているためだ。

 また、QualcommはMWCにおいて、新しい車載システム用のモデムとなるGobi 9x30を追加発表したことを明らかにした。Gobi 9x30はLTEの高速化規格であるLTE-Advanced CAT6に対応しており、下り最大300Mbpsになるモデムだ。QualcommはLTE-Advanced CAT6で300Mbpsに対応するデモも行っており、今後Gobi 9x30が市場に投入されれば、自動車向けでも300Mbpsの高速通信が可能(もちろんキャリア側の回線でも対応が必要)になる。このほかにQualcommブースでは、ヨーロッパで2015年から必須機能となるテレマティクス機能を実装するための開発キットなどが展示された。

Qualcommブースに展示されていたSnapdragon 602Aのリファレンスデザインボード
SoCとなるSnapdragon 602A
左の画面ではカーナビが動いており、右側の画面にはバックモニター相当の映像が流れている
OSはAndroidベースになっている
QNX OSを使ってサンプルボードを実装した車両
OSはQNXベースになっている
メーターパネルとセンターコンソールを1つのチップで描画する
スマートフォンと同じようにタッチ操作に対応
展示していたサンプルでは、地図データはオフラインでも利用できるようローカルに保存されていた
車両の状態などを確認する機能も用意されている
Androidスマートフォンを接続して使っている様子

(笠原一輝)