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ツインリンクもてぎでトライアル世界選手権 第2戦日本グランプリが開催
優勝は2日連続でアダム・ラガ選手。藤波選手は初日表彰台でランキング3位に
(2014/4/30 15:56)
ツインリンクもてぎで4月26日~27日の2日間、「2014 FIM トライアル世界選手権 第2戦 STIHL 日本グランプリ」が開催された。4月23日に記者会見を行った(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140423_645848.html)藤波貴久選手、トニー・ボウ選手、柴田暁選手をはじめとする世界のトップライダーたちが参加。切り立った崖やむき出しの岩など、人がよじ登ることさえ困難なコースをオートバイで走破する姿を披露し、大勢の観衆を沸かせた。
レースは初日、2日目ともにアダム・ラガ選手(GAS GAS Factory・スペイン)が優勝。ボウ選手(Repsol Honda Team・スペイン)は2日間とも2位につけ、チャンピオンシップのポイントリーダーを堅持した。地元ということで活躍が期待された藤波選手(Repsol Honda Team・日本)は初日3位表彰台、2日目は4位と健闘を見せたものの、ポイントランキングでは3位に後退した。本稿では27日に行われた同選手権の模様をリポートする。
岩場や急斜面を走破するトライアル競技とは?
はじめに、トライアルというオートバイ競技について簡単に内容とルールを紹介しておこう。
オートバイによるトライアル世界選手権にはいくつかのクラスが存在しているが、今回もてぎで開催された大会では、藤波選手らが参戦する「Trial World Championship(World Pro)」を筆頭に、23歳未満のライダーで争われる「FIM Junior Trial World Cup」、排気量125cc未満のオートバイが用いられる「FIM 125cc Trial Cup」という3クラスの競技が行われた。
125ccクラス以外は、2ストローク300ccまで、もしくは4ストローク350ccまでのエンジンを搭載する車重70kg以上のオートバイが使われる。このジャンルではモンテッサ、スコルパ、ガスガス、シェルコといった、日本ではあまりなじみのないメーカーの車両が多く使用されている。ホンダやヤマハもファクトリーチームとして参戦してはいるものの、それぞれモンテッサとスコルパの車両をベースに、エンジンを載せ替えるなどのカスタマイズを加える形で車両開発を行って参加している。
トライアルのレースの舞台となるのは、急斜面のある山岳コースや、岩、丸太といった大きな障害物のあるコース。自然の地形を利用したり、人工的な構造物を配置するなどして、大会ごと、場合によっては日ごとに異なるコースが設定される。そういった独特のコース(セクション)が、もてぎではサーキットに隣接する自然のテーマパーク「ハローウッズ」内の12個所に設けられ、各ライダーは1日に3周、計36セクションを規定の時間内に走り終えなければならない。
世界選手権の場合は2日連続でレースが開催され、初日と2日目は独立したレースとして個別に表彰される。レースの順位によって与えられるポイントの合計により、2014年については全8戦、16レースで争われるチャンピオンシップの年間ランキングが決定するというルールだ。
各ライダーが全セクションのクリアにかけられる時間はレースによって決められているとはいえ、レース順位はタイムの速さではなく「いかに失敗しなかったか」で決まる。ライダーはスタートしたあと、あらかじめ設定されたルートを通過しながらそのセクションのゴールを目指すが、前述したとおりコース内では数々の障害が待ち受けており、各ライダーがあらゆるテクニックを駆使してこれを突破していくことになる。
滑りやすくバランスを崩しやすいガレ場、垂直に切り立った崖、わずかな接地スペースしかない岩場など、さまざまな障害を乗り越えるためには、自分やコースに合ったマシン作りはもちろんのこと、優れたバランス感覚とスロットルコントロール、体力、精神力が必要になるのは言うまでもない。レースではセクション内で地面に足がついたり、その場から後退したり、転倒したり、あるいはマシンの動きが止まったとみなされると加点される。この加点が少ないほど高順位になるというレギュレーションだ。
同じセクション内でもクラスによって異なるルートが設定されることもあり、当然ながらWorld Proクラスが最も難易度の高い過激なコースセッティングとなる。Junior Trialクラスより2、3段高い場所にある岩の上を通過しなければならなかったり、そもそも助走スペースがほとんど取れない場合もある。加点が一切ない0点でセクションをクリアすると“クリーン”と呼ばれるが、高難度のセクションではトップライダーでもなかなかクリーンは見られない。その分、クリーンでクリアできたライダーには、観客からの惜しみない声援と拍手が送られる。
藤波選手は怪我の影響で思いどおりのパフォーマンスを発揮できず
今回もてぎで行われた第2戦は、ゴールデンウィークのスタートとなる4月26日から開催されたこともあってか、会場には家族連れも多く詰めかけた。第1戦のオーストラリアグランプリでは、先日の記者会見の記事でも紹介したとおり、初日は藤波選手が、2日目はチームメイトであり現在7連覇中のボウ選手が優勝。ポイントランキングでも1位ボウ選手、2位藤波選手と、同じRepsol Honda Teamの2人が名を連ねている。
この第2戦では、初日はGAS GAS Factoryのラガ選手が、2位になったボウ選手に16点差の加点26、クリーン数26回という圧倒的な強さで優勝。2日目の27日は、これに対して年間ランキングを争うボウ選手、藤波選手などほかのライダーがどう巻き返すかも見どころとなった。
2日目の27日は、1ラップ目をボウ選手が貫禄の加点13で通過して、加点17のラガ選手を4点リード。一方の藤波選手は22点で5位。このまま順調にボウ選手が逃げ切るかと思いきや、2ラップ目で痛恨の加点26を喫し、16点でラップしたラガ選手が一気に逆転。3ラップ目、ボウ選手は8点という驚異的な成績で追い上げたが、ラガ選手がそれを上まわる7点で最終12セクションを終え、トータル40点。ボウ選手に7点差をつけて2日連続となる優勝を手に入れた。
3位にはアルベルト・カベスタニー選手(Sherco Factory・スペイン)が入り、表彰台はスペイン勢が独占。年間ポイントランキングではボウ選手がトップを守り、ラガ選手は2位に浮上した。
藤波選手はこの日4位。2013年に負った右足の前十字靱帯断裂という怪我に加え、初日に再び同じ膝を痛めた影響で、右足をかばううちに左足がつったとのこと。アシスタントからストレッチの応急処置を受けるシーンも見られるなど厳しい戦いを強いられたが、しっかりポイントを獲得してチャンピオンシップでも3位に踏みとどまった。
そのほかの日本人選手は、6位に小川友幸選手(Honda Racing)、9位に野崎史高選手(YAMAHA Factory)、13位に黒山健一選手(YAMAHA Factory)、以降、15位小川毅士選手、17位柴田暁選手、18位野本佳章選手、19位斎藤晶夫選手と続いた。
表彰式後の記者会見では、3位のカベスタニー選手が「ポディウムを獲得できてうれしい。この週末はとてもハードな戦いだった。初日よりもフィーリングはよかったけれど途中でミスも多く、3位という結果になってしまったが、それでもハッピーだ」とコメント。
初日に続き2位だったボウ選手は、この順位に満足しているかと問われ「そうは思っていない。非常に体調がわるいなかでベストを尽くしたけれど、よくない結果に終わってしまった。(ノーストップ)ルールもライダーにとっては厳しい。ポイントリーダーを維持できたことについては満足している」と話した。とはいえ、今大会直前の練習で痛めたとされる脇腹の状態が思わしくないコンディションで、2日連続2位はさすがと言えるだろう。
優勝したラガ選手は、「初日と同じようにライディングをはじめ、あらゆる面で調子がよかった。セクション3で5点をもらって、ほかのセクションで挽回しようとしたが、セクション12で再度5点もらってしまった。最後のラップが勝利には重要だと分かっていたのに、またセクション3で5点となりトニーとの接近戦になった。でも、結果的には優勝できたのでとてもうれしい。バイクを作ってくれたチームにも感謝したい」と喜びをかみしめていた。
最も間近で観戦できるオートバイ競技
トライアルの魅力の1つは選手との“近さ”だ。コースから観客までの距離は、近いところでは数mしかない。また、ライダーはチンガードのないジェットタイプのヘルメットを装着していることから、競技中のライダーたちの表情やオートバイを操るテクニックが間近で見られて、成功・失敗で興奮するライダーの雄叫びまで全て聞こえてくる。逆に観客からの声援もダイレクトに届きやすく、選手らとの一体感が得られることもトライアルならではのポイントだろう。
ライダーは1つのセクションを終えると次のセクションに移動し、1ラップ12セクションを3回繰り返すので、1個所に止まって同じセクションを集中的に観戦してもいいし、お気に入りの選手を追いかけながら12セクションを見てまわることもできる。ただ、もてぎの12セクションはほかの地域のレースと比べてかなりコンパクトな作りだと言われているものの、途中のセクションは山の中腹にあり、ちょっとしたハイキングコースを歩くような形になる。当日は、登山客のような装備で観戦している人も多かった。
現実離れした大ジャンプや卓越したマシンコントロールなど、トライアルの凄さは見ているだけでも実感できることは間違いない。さらに裏話などを交えつつ分かりやすく実況・解説が行われるセクションもあり、知識がない人でもトライアルの面白さやライダーの人柄などを十分に感じ取れるはずだ。次にトライアル世界選手権を日本で観戦できるのは来期の2015年シリーズとなってしまうが、国内では全日本トライアル選手権も開催されているため、機会があればぜひ足を運んでみてほしい。
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