インプレッション
トヨタ「プリウス PHV」(プロトタイプモデル サーキット試乗)
2016年9月13日 00:00
「PHV」(プラグインハイブリッド車)は、「HV」(ハイブリッド車)に続く次世代の環境対応車として欧州勢を中心にラインアップが増えている。トヨタ自動車の「プリウス」は先代(3代目)プリウスでPHVをラインアップに加えていたが、ベースのプリウス(HV)とデザイン上の識別が明確ではなく、差別化がしにくかった。
新しい「プリウス PHV」はその反省も含めて、まずエクステリアをHVプリウスからガラリと変え、強いインパクトを与えることから始まった。フロントマスクやリアまわりの大幅な変更により、HVプリウスの印象から大きく変わり、まったく違うクルマになっていた。プリウスが持つ鋭角的なデザインよりもなじみやすいデザインで、HVプリウスに躊躇しているユーザーもプリウス PHVなら抵抗なく受け入れられるだろう。
フロントマスクはFCV(燃料電池車)の「ミライ」から継承したインテリジェント4灯式LEDヘッドライトで印象が大幅に変わり、さらに黒系統の大型フロントグリルは、ダイナミックだが受け入れやすいデザインだ。
また、テールゲートは軽量化のためにカーボン(CFRP)で形成され、全体の造形イメージが大きく変わっている。とくに異なっているのはリアウィンドウで「ダブルバブルウィンドウ」になっており、複雑な曲面は見事にリアゲートまで連なっている。シルエットはまぎれもなくプリウスだが、それでいて別のクルマに見える。
インテリアは基本的にプリウスから踏襲しているが、プリウス PHVではオプション設定でセンタークラスターに11.6インチの大型ディスプレイが追加される。iPadのような大きな画面は新鮮だ。テスラの「モデル S」ほど自由奔放に情報が取れるわけでないものの、自動車メーカーらしく整理されている印象だ。
リアシートはプリウスの3人掛けから、ミライ同様の2人掛けになっており、センター部分はカップホルダー付きコンソールになっている。
ドラポジはプリウスの特徴の1つだ。トヨタの新しいクルマ作り「TNGA(Toyota New Global Architecture)」の思想に基づいた骨格は重心を低くすることができ、これに伴いシート位置も下げられている。昨今はアップライトなドラポジのクルマが多いなか、最初に乗り込むときはフロア近くにストンと落ちるような印象だが、ドライブすると非常に安心感がある。
ただそのまま着座位置が低いと直前視界がわるくなるが、プリウスではスカットルが低くなっているので直前視界も確保されている。さらにプリウスの美点でAピラーが後ろに下がっているので、斜め前方視界は良好で、これもプリウスと共通。
後方視界はテールゲートをCFRPで作って軽く頑丈になったため、リアウィンドウのフレームが必要なくなった。従ってその分だけプリウス PHVの後方視界は横方向に広がっている。
ただ、ユーティリティの面では走行用のリチウムイオンバッテリーがトランク下に移動しているために、ラゲッジルームのフロアが底上げされて、HVのプリウスほど広い荷室容量は取れない。工夫しても9インチのゴルフバッグが2個ギリギリというところで、かさばる荷物を入れるためには後席のシートバックを倒さなければならない。
大型の11.6インチディスプレイは存在感があり、iPadのようにスワイプやピンチイン/アウトなどでカーナビの地図を拡大したり、ほかの車両情報を表示したりと直観的に操作できる。また、一方で従来のカーナビの操作方法も残しているのがトヨタらしい細やかさだ。ディスプレイ表面は条件によって若干反射などを感じるが、市販までには改良されるという。
新しいプリウス PHVは、従来モデルになる初代と比べてEVとしての走行距離が26kmから60km以上に伸びている。以前、初代プリウス PHVを試乗したときは微妙に走行距離不足に感じたが、新PHVの60kmという数値は(走行条件で走行可能距離が半分になったとしても)、ちょっとした買い物ぐらいならほとんどEVとして賄えることになる。ちなみに200Vでも100Vでも充電できる利便性も備える。
PHVはさらにEVに近づいたことを実感
試乗はクローズドサーキットで行なわれ、最初はEVモードでのスタート。コースは1周約2.4kmなので余裕でEV走行できるが、加減速とアップダウンのあるコースなので意外と電気の消耗は激しくなると予想された。
システムのモーター出力は90kWと大きく、電気での加速は気持ちがいい。従来モデルの走行時は駆動用モーターの「MG2」だけで駆動力を補っていたが、新型では本来はジェネレターである「MG1」と2ZR-FXEエンジンのあいだにワンウェイクラッチを追加することで、MG1の出力でも駆動力をサポートできるようになったため、そのぶん従来よりもパンチ力がある。簡単にいえばモーターがガソリンエンジンの過給機のような役割を示し、グイとした加速感が味わえる。
また、EVでの最高速は130km/h以上になり、(その代わりに電気の消耗は激しいものの)加速が途中で頭打ちにならない。また、走行中にエネルギーモニターを見ていると、かなりエネルギー回生を頻繁に行なって、バッテリーの消耗分を補っているのが見てとれる。実際に結構速度を出して周回したにもかかわらず、バッテリーモニターはほとんど減っていない。
次にHVモードで走行した。こちらではエンジンがブンとかかるかと思いきや、ほぼEVで走ってしまった。バッテリーに余力がある場合、エンジンが始動するのはアクセルを強く踏んだ場面だ。パワーゾーンに入ったときはエンジンも使って走るものの、バッテリーに頻繁に充電し、エンジンだけで走っているケースは少なかった。
もちろん条件が異なると、EV走行中心から最大熱効率40%の2ZRエンジン中心になるが、いずれにしてもEV走行の時間を少しでも長くして、燃費の向上を図っている。エネルギーモニターを見ているだけでも感動的で、PHVに改めて感心した。PHVはさらにEVに近づいたことを実感した。
また、会場では試乗車とは別に、ルーフにパナソニック製ソーラーパネルを搭載したモデルも体験することができたが、私の知っていたソーラーパネルとは格段に変換効率が上がり、約20%というこのソーラーパネルを上手に使うことで燃費向上に役立てている。
180Wの発電量があるソーラーパネルは、駐車中は発電した電気をいったん専用の小型ニッケル水素バッテリーに充電し、そこから駆動用バッテリーに供給する。走行中は専用バッテリーから補器類に電気を回すことで12Vバッテリーが消耗しないよう助け、結果的に駆動用バッテリーの負担を減らしている。
このシステムは専用のECUを持ってコントロールしているので、PHVでなくともHVやガソリン車にもコンバートできるという。ちなみに専用バッテリーは、条件がよければ空の状態から15分ほどで満充電できるコンパクトなものだ。計算上、ソーラーパネルは年間1000km走れる発電量があるという。
プリウスよりもどっしりしたひと味違う走り
ハンドリングは思いのほか重厚で、プリウスとは味付けが全く違う。最も大きな要因はリチウムイオンバッテリーの搭載位置。約150㎏の重量がリアタイヤにかかるので、前後重量配分がプリウスの62:38から56:44となっている。このためハンドル応答性もしっとりとしたものになり、なによりもリアのグリップ感が高い。機敏というのは当たらないが、どっしりとした走りはプリウス PHVの大きな魅力だ。
リア荷重が増しても車体側の余裕は大きく、しっかりと受け止めていると同時に、サスペンションのチューニングもバランスよく行なわれているために走りやすい。タイヤは試乗車では195/65 R15を装着。車体とのマッチングもよく、タイヤ自体の上下動や横方向の動きの収束も素直で、余計な動きをしないのが好ましい。
もう1つ、安定性とともにプリウス PHVの質を上げているのがノイズ。プリウスは新型になって静粛性が高くなっているが、路面によってラゲッジスペースから入るロードノイズが気になるところだった。PHVではその部分にリチウムイオンバッテリーを積んでいるので、これが遮音材の役割も果たしてよくノイズが抑えられている。
PHVはプリウスからさらに燃費がいいというだけでなく、エクステリア、インテリアはもちろん、走りの質もひと味違う別のクルマに仕上がっていた。実際に路上でハンドルを握るのが楽しみだ。