試乗レポート

メルセデス・ベンツの最新EV「EQA」、都市部での使い勝手はどうか?

ミドルサイズSUVスタイルのBEV「EQA」

 東京 六本木にあるメルセデス・ベンツのブランド情報発信拠点「Mercedes me Tokyo」には、これからの建築を模索する中で実験的に作られた「EQ House」がある。呼吸する屋根や壁、BEV(電気自動車)とつながることで広がる世界を体感することができる“家”だ。そしてメルセデス・ベンツのBEVブランドであるEQにちなんでいる。このEQ Houseを起点として新型「EQA」の試乗会が行なわれた。

 EQAは先に登場したメルセデス・ベンツブランド初のEV「EQC」の弟分にあたるBEV。サイズはEQCよりもひとまわり小さく搭載バッテリーも出力が異なっている。サイズはEQCでは4770×1885×1625mm(全長×全幅×全高)と日本ではLクラスSUVに相当するが、EQAでは4465×1850×1625mm(全幅はAMGライン装着時)とミドルサイズに相当する。

 また駆動方式もEQCがツインモーターの4MATICなのに対してEQAでは前輪駆動になっている。搭載バッテリーは80kWhから66.5kWhと小さくなるが、WLTCモードの航続距離では400kmから422kmとEQAは軽量な分だけ(と言っても2030kgあるが)少し伸びている。狭いMercedes me敷地内での取りまわしも1835mmの全幅は扱いやすい。

今回試乗したのは4月に発売されたミドルサイズSUVスタイルのBEV「EQA」。EQAは「EQA 250」(640万円)の1グレード設定で、ボディサイズは4465×1850×1625mm(全長×全幅×全高、AMGライン装着)、ホイールベースは2730mm。最小回転半径は5.3m
外観は前後のオーバーハングが短く、クーペのようにスタイリッシュなデザインが特徴。フロントまわりでは中央にスリーポインテッドスターを配したブラックパネルグリルを採用し、「AMGライン」を選択するとフロントのブラックパネルグリルにハイグロスブラックフレームとツインルーバーがあしらわれる。足下は20インチアルミホイールにコンチネンタル「EcoContact 6」(235/45R20 T XL)をセット
充電は6.0kWまでの交流普通充電と100kWまでの直流急速充電(CHAdeMO規格)に対応。なおEQAはフロントアクスルにモーターを搭載した前輪駆動で、最高出力140kW(190PS)/3600-10300rpm、最大トルク370Nm/1020rpmを発生。一充電あたりの航続可能距離はWLTCモード燃費で422km

 クルマの知能化に伴って複雑になっている操作系を確認する。メルセデス・ベンツは必要なスイッチをダッシュパネルセンターに配置しているので分かりやすいが、ハザードスイッチはもう少し大きい方がとっさの時に視認しやすい。

 ステアリングスポーク部の右側にあるダイヤルスイッチで航続距離などの情報を呼び出せるので、残り航続可能距離をモニター画面に出してEQ Houseを後にした。

 ちなみに左側の小さなパッドではナビ画面を切り替えられる。またMercedes me connectにEQ専用プログラムがあり、BEVで気がかりな充電スポット情報などを得られる。

 EQAはバッテリーを床下に置くのでフロアが少し高めになっており、ドライビングポジションもABペダルが少し高い位置にレイアウトされている。最初は違和感があったが試乗中にかかとの角度が不自然に感じることはなく、乗降も自然に行なえる。

助手席前方のインストルメントパネルにスパイラル調(バックライト付)インテリアトリムを採用し、夜間にはアンビエントライトの設定により64色から選択できるバックライトを装備。円形のエアコン送風口はジェットエンジンのタービンを連想させるスポーティなデザインを採用し、内部のタービンブレードは標準仕様はローズゴールドで、AMGラインはシルバーとなる。撮影車はAMGライン仕様で、レッドステッチ入りレザーDINAMICAシートを採用(オプションでブラックのレザーシートも選択可能)
中央のモニターではナビゲーションのほかにドライブモードの設定なども可能。ドライブモードは「ECO」「COMFORT」「SPORT」「INDIVIDUAL」から選べる
リアシートは4:2:4の分割可倒式

ICEから乗り換えても変わらない運転スタイルでドライブできる

 EQCがそうだったように、メルセデス・ベンツはBEVと言えどもこれまで培ってきた「自動車」にこだわり、ユーザーがガソリン車から乗り換えても違和感なく走り出せるように作られている。スタートはフワリと発進し、BEVとしては少し鈍いぐらいに設定されている。またブレーキペダルもストロークがガソリン車並みにあって神経を使うことはないのも嬉しい。

 六本木通りの交通の流れは活発だが、EQAはサイズ感もつかみやすく、すぐに都会の混合交通の流れに溶け込める。目視では太いCピラーで斜め後方視界が少し遮られることもあるが、死角はミラーやセンサーでカバーできる。

 静かで滑らかな走りはEVの常だが、やはり改めてICE(内燃機関)とは違った所作は新鮮だ。メルセデス・ベンツではBEVでアクセルOFFでの強い回生ブレーキを使っていない。いわゆるワンペダルドライブではないのは、ICEのメルセデス・ベンツから乗り換えても変わらない運転スタイルでドライブできるようにとの意図がある。

 さらにドライバーが回生ブレーキの強度をマニュアルで操作することもできる。ハンドル左右についているパドルがそれで、左を引くと回生ブレーキが強くなり、右は弱くするスイッチになっている。これらは4段階で選択できるが、AUTOモードでは自動で前車との車間距離などから回生ブレーキの強度を判断でき、その動作に違和感はない。

 市街地を抜けて都市高速に入る。ドライブモードは「ECO」「COMFORT」「SPORT」「INDIVIDUAL」から選べるが、まずはCOMFORTを選択してストップ&ゴーにも対応するACCを使いながら前走車に追従する。車間距離の詰め方などは余裕があってストレスがない。アクセルの反応は少し鈍く設定されており、またアクセルストロークは幅を持たせられているので、コントロールがしやすい。全ての操作に余裕があるのでリラックスできるのもメルセデス・ベンツならではだ。

 アクセルを強く踏むと370Nmの大きなトルクでグンと加速するが、爆発的な加速ではない。高速道路での追い越し加速も十分で、ガソリン車のような伸び感は乏しいがEQAにはふさわしい加速力だ。

 装着タイヤはコンチネンタル「EcoContact 6」でサイズは235/45R20 T XL。大径かつ高荷重に対応する転がり抵抗の少ないタイヤだ。高速巡航ではメカニカルノイズやバイブレーションはほとんど感じないが、ロードノイズとドアミラーから聞こえる風切り音が入ってくる。BEVはパワートレーン系の音がわずかなだけに、ICEでは気にならない音が耳に入ってくる。これらの音も小さくしたいところだ。

 ところでEQAは前輪駆動。駆動方式がクルマの性格に与える影響は大きい。トルクの大きなBEVではその制御が難しいと思うが、EQAはモーターのトルク制御もよくコントロールされており、加速時のハンドルへの影響など極めてマナーがいい。

 4MATICのEQCと違うのはFFらしくハンドルを切った時の反応で、ジワリとハンドルが効くイメージで操舵力も重めの設定だ。ライントレース性も少しだけアウトに流れるようなFFらしいハンドリングになる。しかし2t越えのSUVでここまでドッシリした味を出しているのはさすがメルセデス・ベンツと感じる。

 66.5kWhのバッテリーは多くのBEVがそうであるようにフロア下にあり、低重心で安定感がある。ただ全高があるので、コーナーでのロールは少し大きめだ。それでもドライバーにそれと感じさせないのはロールスピードが抑えられているからだろう。

 前後方向の動きでは路面によってはピッチングが感じられるが、その周期は短くダンピングはしっかりしている。後席にいたカメラマンからはフラットで心地よいとのコメントがあったことも付記しておこう。

 さてドライブモードを走行中に変えてみた。ECOにするとアクセルのゲインが急に落ち、出力が3割ほど減ったような感触だ。穏やかな出力特性はアクセルの反応が鈍くなり、その代わりにバッテリーの消費量が少なくなる。クルージングも含めた走行には向いてそうだ。反対にSPORTはアクセルの反応が早くなり、合わせて同じアクセル開度でも出力特性が変わるのでEQAの性格もガラリと変わる。パワーがすぐにほしい場面では最適のモードだ。日常的に一番使いやすのはCOMFORTモードだが、それぞれメリハリが利いてEQAの異なる顔が見られるので面白い。場面に応じて使い分けられる。

 EQAは最新のメルセデス・ベンツのADASとインフォテイメントを持ち、伸びやかなデザインと都市部でも使いやすいサイズでBEVへの抵抗感を減らした重要なモデルだ。「EQA 250」の1グレード設定で価格は640万円となる。これにナビゲーションなどのオプションが積み上げられるが、ご存じのようにBEVは国の助成金に加えて自治体によっても金額が異なり、かなり現実的な金額になるのではないだろうか。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学