試乗レポート

フォルクスワーゲン「T-Roc」、ガソリンモデル導入のタイミングでディーゼルの魅力に改めて触れた

堅実ながら挑戦的なルックス

 2020年に「T-Cross」と「T-Roc」が相次いで日本上陸し、さらに2021年5月には「ティグアン」が新しくなり、T-CrossとT-Rocには追加グレードがラインアップされるなど、ゴルフ8の導入で注目を集めるフォルクスワーゲンは、SUV攻勢にもますます力が入っている。

 これまで日本向けはディーゼルのみだったT-Rocに、待望のガソリンが追加された。関係者によると、エンジンは本国では6種類が用意されており、本当は日本導入時にガソリンも用意したかったのだが、T-Crossとの兼ね合いでかなわずディーゼルのみとされたところ、ようやく実現したのだという。これにより車両価格が下がるのも魅力。ただし、同じグレード(例:TSI StyleとTDI Style)で20万円差というのは、思ったよりも差が小さい気もする。

 ところで、これまでディーゼルのみだったせいか、日本での売れ行きはT-Crossの方が好調だが、意外やグローバルでは拮抗しているらしい。というのは、車格がT-Crossよりも微妙に上に位置付けられたT-Rocは、サイズだけでなくエンジンのラインアップも格上の設定となっており、欧州の中でも高速移動が主体の北の方ではT-Rocの人気が高いことが大きな要因だ。

 フォルクスワーゲンらしい堅実な側面と、これまでのフォルクスワーゲン車にないチャレンジングな側面との両方を併せ持った印象を受けるルックスは、クーペ的なルーフラインを強調するかのように配されたクロームのトリムや、ボディサイドやリアの鋭いラインも目を引く。全9色の多彩なボディカラーは、フォルクスワーゲンのSUVで唯一、ブラックまたはホワイトのルーフを組み合わせたツートーン仕様が選べるのも特徴だ。

今回試乗したのは2020年12月に仕様変更が行なわれたクロスオーバーSUV「T-Roc(ティーロック)」。撮影したのはディーゼル車の「T-Roc TDI Style Design Package」(410万3000円)で、ボディサイズは4240×1825×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2590mm。なお、5月には直列4気筒DOHC 1.5リッターターボの1.5TSIエンジンと7速DSGを搭載するガソリンエンジンモデルを日本に導入している
TDI Style Design Packageは17インチアルミホイールを標準装備し、タイヤはブリヂストン「TURANZA T001」(215/55R17)をセット
直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボエンジンの最高出力は110kW(150PS)/3500-4000rpm、最大トルクは340Nm(34.7kgfm)/1750-3000rpmを発生。WLTCモード燃費は18.6km/L

 インテリアも端正なデザインの中で、ボディカラーとコーディネートできる大面積のトリムなどにより若々しい雰囲気を演出している。2020年末には、インパネに最新のデジタルメータークラスター“Active Info Display”や、タブレット感覚のインフォテイメントシステム“Discover Pro”などが全車標準装備とされたのもありがたい。

 感心するのは、コンパクトな部類のクルマながら5人が乗れる十分な居住性やトランク容量を確保していること。電動テールゲートもぬかりなく装備されている。

TDI Style Design Packageのインテリア。通信モジュール(eSIM)を内蔵し、常時オンライン化を実現する最新世代のインフォテイメントシステム(ナビ)“Discover Media”などが標準装備される。同グレードでラヴェンナブルーメタリックのボディカラーを選択すると同系色のインテリアカラーでコーディネートされる

十分に力強くDSGもスムーズ

 5月に追加されたガソリン車もそのうちドライブする機会はあるだろうが、ここではあらためてディーゼル車をおさらいしておきたい。

 150PS/340Nmを発生する2.0リッターディーゼルは、1430kgの車両重量に対しては十分に力強い。高いトルクに対応するため、DSGのクラッチが湿式多板とされているおかげで、つながりがスムーズで乗りやすく、それでいて持ち前のダイレクト感もあり、シフトチェンジも素早い。まわして楽しむタイプではないにせよ、音や振動もディーゼルとしては抑えられており、なんら不満なく街乗りから高速巡行まで余裕を感じさせてくれる頼もしいエンジンだ。

 動力性能について、最高出力はガソリンと同値でも、むろん最大トルク値が圧倒的に大きいディーゼルの方が力強さを直感することには違いないだろうが、ガソリン版と同じエンジンを搭載する別の車種に乗った限りでは、その性能に不満はなく、吹け上がりの気持ちよさもある。音や振動もまずまずとはいえ、ガソリンがさらに有利なのは言うまでもない。ただし、DSGが乾式単板クラッチで前輪駆動となることによるドライバビリティの違いもそれなりにあるはずだ。

DCC付きを選ぶべきか?

 全幅は1800mmを超えるものの、これぐらいのボディサイズなら狭い日本でもなんとかなるだろう。最小回転半径が5.0mというだけあって、前輪の切れ角が大きく取りまわしもよい。1.6mを切る全高によりアイポイントも高すぎず低すぎず、ちょうどよい。

 重心がそれほど高くないので固める必要性が小さいせいか、DCC非装着車同士でもティグアンやT-Crossがやや乗り心地にコツコツとした感触があるのに対し、あまり硬さを感じさせない。とはいえ、別の機会にドライブしたDCCを標準装備するR-Lineは、低偏平タイヤを履きながらもしなやかでフラット感のある上質なドライブフィールを実現していたことを思い出す。もしもその境地を求めるならR-Lineを選ぶしかない。

 路面の状況を的確に伝えてくるステアリングフィールや、イメージしたラインを正確にトレースしていける操縦性はさすがというほかない。そのあたり一連の走りのよさにはもちろんMQBも効いていることに違いない。

 先進運転支援装備には、大半のグレードにレーンキープアシストシステムやハイビームアシストも備わり、このクラスとしては文句なく機能的には十分に充実していることも魅力の1つだ。

 フォルクスワーゲンブランドという信頼感のもと、とっつきやすくオシャレで実用性も十分で走りの仕上がりも申し分なし。増殖するコンパクトSUVの中でも、ひときわ目を向ける価値のある1台に違いない。そして、どちらかというとT-Rocの場合、経済的で実直的なディーゼルももちろん魅力だが、本来のキャラ的にはより軽快なガソリンの方が似合いそうな気もするので楽しみだ。

【お詫びと訂正】記事初出時、駆動方式の表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸