試乗レポート

ホンダの新型「ヴェゼル」 ガソリン&e:HEVの4WDモデルに試乗

ホンダを牽引する人気車種

 ホンダの世界戦略の一翼を担う「ヴェゼル」がフルモデルチェンジされた。すでにティザーは今年の初めから始まっていたが、本格的な試乗は初めてになる。試乗は高速道路を含むオンロードを走り、乗り心地や静粛性などを中心に体感した。

 さてグローバルで見るとCR-V、シビック、ヴェゼル/HR-Vの順でボリュームが大きくホンダの3大柱の1つになっている。

 そのヴェゼルはフィットをベースとしたヒット作だが、2代目となったヴェゼルもフィットをベースとしており、ホイールベースは2610mmと先代ヴェゼルと同じとなる。好評だったボディサイズを(4WDの同グレードで)比較すると4295×1770×1605mm(全長×全幅×全高)から4330×1790×1590mmと全高を除いて少しだけサイズアップしている。一見するとひとまわりぐらい大きくなっている印象だが、前から後ろまで水平に入ったウェストラインのデザイン効果が大きい。

新型ヴェゼル e:HEV Z(4WD)。価格は311万8500円。ボディカラーはメテオロイドグレー・メタリック。ボディサイズは4330×1790×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2610mm。足下はブラック+切削の18インチアルミホイールとミシュラン「PRIMACY 4」(225/50R18)の組み合わせ
ボディ同色フロントグリルを採用することでボディとの一体感を高めるとともに、奥行き感のあるヘッドライトデザイン、シームレスかつダイナミックに隆起しているロアバンパーの造形によって、親和性を持たせた。リアエンドはファストバックスタイルを強めたシルエットとして、左右のランプをつなぐ水平基調のラインやボリュームを持たせつつ立体感のある継ぎ目のないリアパネルの造形で美しさを表現
新型ヴェゼル e:HEV Zのインパネ
シフトまわりにモード切り替えスイッチやオートブレーキホールドスイッチ、ヒルディセントコントロールスイッチなどをまとめて配置
ステアリングスポークにはオーディオやHonda SENSINGの操作スイッチを配置。e:HEVモデルにはアクセルオフ時の減速感を調節できるパドルが設定される
メーターはエネルギーフローなども表示できるマルチインフォメーションディスプレーを採用
インパネ中央にはホンダ初の機能となる地図の自動更新サービスが利用できるHonda Connectディスプレーを配置。e:HEV Zではオプションとなるワイヤレス充電器のほか、全車標準装備のUSBジャックなども備えている
e:HEV Zはファブリックとプライムスムースのコンビシートを設定
新採用の「そよかぜアウトレット」は全車標準装備
後席ベンチレーションはe:HEV ZとPLaYに採用
リアシートはチップアップ&ダイブダウン機構付6:4分割可倒式タイプで、チップアップすれば、背の高い荷物の収納もできる空間になるほか、ダイブダウンすれば広くフラットで車中泊も可能なスペースとなる
唯一のガソリンエンジン搭載モデルとなるG(撮影車は4WD)。ボディカラーはプレミアムクリスタルレッドメタリック

 最初に乗ったのはコンベンショナルなガソリン車の4WDだ。

 乗降性のよいキャビンに乗り込みシートに座る。ヒップポイントが高く、視界が開ける。フィットのようなサブAピラーを持たないが、視界を遮るほど太くないので斜め前方視界も開ける。

 ステアリング角度はやや寝ていたが、ドラポジを確認しているうちになじんできた。キャビンは広く、全高が少し低くなっているにもかかわらず、ヘッドクリアランスもタップリしており斜め上方向も解放感がある。

 1.5リッター i-VTECはこれまでの直噴からポート噴射になっており低回転から力がある。1330kgの重量に見合った出力(87kW/142Nm)で軽快に走り出す。CVTとの相性もよく緩加速ならCVT特有のラバーバンドフィールは感じない。パワートレーンが上げるノイズも静かなもので先代ヴェゼルから格段に進化している。ただしシフトレバーをSレンジに入れると高回転をキープするためにエンジンのノイズが耳についた。

ガソリンモデルには、新開発となる最高出力87kW(118PS)/6600prm、最大トルク142Nm(14.5kgfm)/4300rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンを搭載

 Sレンジは積極的に使えるようにDレンジから手前に引くとすぐに入る位置に並んでいるが、シフトミスのないようにもうひと工夫が欲しい。そのSレンジでは山道や下り坂ではブレーキングでCVTが自動シフトダウンしてくれCVTの弱点を補っている。

 乗り心地はすこぶるいい。土台となるボディ剛性が上げられており、ホンダによればタイヤの接地点剛性で20%、ボディのねじれ剛性では15%、さらにショックアブソーバーの取り付け部剛性で15%向上している。この効果でこれまで以上にバネレートを低くでき、しなやかな乗り心地が実現した。舗装の荒れたところを通過してもアシはしっかり追従してバネ上の動きはゆったりとした味になっている。

 それでいてハンドリングは正確で、コーナーでの姿勢は安定。しっかり踏ん張ってコーナリング中の姿勢に余分な動きは感じられない。ただガソリンモデルのステアリング機構はコンスタントギヤレシオで、切り始めのフィーリングの滑らかさは後で乗るe:HEVとは違った印象を受けた。バランスのよい装着タイヤ、ダンロップの「エナセーブ EC300」(215/60R16)の性格の違いもありそうだ。

 ともあれ上質なクルマになったヴェゼル。まずは好印象だった。

e:HEV 4WDのしっとりした乗り味

 続いてメイン機種となるe:HEVの4WDに試乗した。ホンダの電動化戦略の重要な位置づけとなるe:HEVはシリーズハイブリッドとパラレルハイブリッドを合わせた機構だ。

 e:HEVを改めて整理するとトヨタのストロングハイブリッド「THS」では加速時にはエンジンとモーターの両方で駆動するが、e:HEVはエンジンで発電しながら電気で駆動する。日産のe-POWERと同じだが、高速クルージングではエンジン直結で走り、電気モーターは駆動には関与しないのがe:HEVの特徴になる。ホンダにとって電動化に向かう重要なパワートレーンだ。

 e:HEVはフィットと基本的に同じものだが、ヴェゼルでは1450kg(e:HEV Zの4WD)と重くなっているのでチューニングされている。1.5リッターアトキンソンサイクルはフィットの72kW/127Nmから78kW/127Nmとパワーが上げられ、搭載されるバッテリーのセルは48セルから60セルと増えて、モーター出力も80kW/253Nmから96kW/253Nmに上げられた。バッテリーのサイズアップはe:HEVのドライバビリティにとって大きなメリットになる。

e:HEVモデルには最高出力78kW(106PS)/6000-6400rpm、最大トルク127Nm(13.0kgfm)/4500-5000rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンを搭載。組み合わせるモーターは最高出力96kW(131PS)/4000-8000rpm、最大トルク253Nm(25.8kgfm)/0-3500rpmを発生する

 体になじむシートに座って気付くのはステアリングがレザーになり、ガソリン車のウレタンとは感触が異なり優しいタッチになっている。

 e:HEVは走行の主体はEVになるので、音も振動もなく粛々と走り始める。このEV走行の時間が長いだけにパワートレーン系の振動、ノイズをほとんど感じないドライブができるのはありがたい。振動や音が入りやすいリアゲートやリアドアまわりなどは補強や制振材アップといった工夫が凝らされ、走行中のキャビンはロードノイズも少なく静かに保たれている。わずかなアクセルオフでも回生に入り小まめに充電するのでEVで走れる距離は意外と長い。

 バッテリー残量が少なくなるとエンジンが始動して充電しながら走るようになる。ハイブリッドでは気になるのがこれまで無音だったのが突如としてエンジン音が耳に届くことだが、新型ヴェゼルでは対策がされていた。

 パワートレーンからの振動を最小限にとどめるためにエンジンマウントをはじめとするパワーユニットマウントの剛性アップや、遮音対策としてバルクヘッドやエンジンフードにノイズインシュレーターがタップリ使われている。

 そのために突然の振動は最小限にとどめられる。音源もインシュレーターに包まれているので高周波の音は隠されている。ただどうしても音は伝わり、やはり煩わしい。もう少しだけ電気で走れる領域が広げられれば静粛性は上がると思うが、ホンダではバッテリーの耐久性を考えて残容量に余裕を持たせた時点でエンジンを回すとしている。

 走行中に感じたことはe:HEVはハンドリングも乗り心地もしっとりしていることだ。ハンドリングではステアリング機構に可変ギヤレシオを採用して、切り始めから操舵力が一定で滑らかなフィーリングを持っているが、そればかりではなく重心高が低いのかロール姿勢はもちろん、ライントレース性も自然なことになじみやすかった。試しにステアリングを左右に切り返してみたが応答遅れもほとんどなく姿勢安定性は高かった。

 また乗り心地もしかりで、先代に比べて格段にサスペンションストロークも多くなり、腰のある乗り心地になっている。ヴェゼルのガソリン車に比べても落ち着いた乗り心地だ。後席に同乗する機会はなかったが、少なくともレッグスペース、ヘッドクリアランスともにゆとりがあるので閉塞感はなさそうだ。

 ガソリン車、e:HEVとも4WDだったがシステムは同じ。フィットのビスカスタイプとは異なりCR-Vなどに使われている後輪に移動させるトルクを電子制御クラッチにより配分するタイプになる。SUVらしく4WDの容量を上げて滑りやすい悪路でもレスポンスがよく機動性を大きく上げられる。

 このシステムはスタンバイタイプではないので走行中は常に4輪駆動になっている。前後のトルク配分は6:4を基本として9:1から5:5に至るまで変化する。路面μだけでなくハンドル舵角など幅広く感知して駆動力を分配する。舗装での走行中は9:1ぐらいにで、発進時はリアの駆動力が増えて7:3ぐらいになっているようだ。駆動力配分は違和感なく行なわれる。

 ちなみにWLTCモードでの燃費はe:HEV Zグレードで22km/L。実際の燃費計でも山道を走り回った後で18km/Lを越えていたので4WDとしてはなかなかよい数字ではないだろうか。

 ドライブモードはNORMALを標準にSPORT、ECONの3つがあるが、それぞれキャラクターが明快でメリハリがある。ECONはアクセルのゲインが穏やかになるので燃費専用と思われるが、ホンダでは高速道路などで使うことを推奨している。動きがさらに穏やかになり確かに走りやすかった。

 Honda SENSINGの全車速追従ACCは機能は渋滞時などで停車、そして再スタートで前車への追従性が高く、アクセルはほとんど踏まなかった。また、高速道路のトールゲートからの加速もそれほどモタツキなく加速でき、さらに利便性は高くなった。

装備面でも強化が図られた

 また、プレゼンでHonda CONNECTについてのレクチャーを受けたので、車載されていたスマホでトライしてみる。簡単なステップを踏むとスマホ1つで乗る前にエアコン始動からエンジン始動、ドアロックなどができる。また車内Wi-Fiに接続してゲームや動画などを見ることもできるというので、後席で退屈している子供たちもおとなしく乗ってくれそうだ(通信量は必要に応じて購入する)。純正のHonda CONNECTディスプレー装着車ではナビの地図の自動更新、あるいはHonda アプリセンターから目的地検索アプリなどを取り入れて、ドライブプランなどを構築できるのも便利だ。

 今回は試乗できなかったがPLaYグレードにはパノラマルーフが装着され、全面ガラス張りの爽快な空間が楽しめるという。熱の遮断率は従来比で50%というからシェードを使うのはわずかな季節だけになりそうだ。そのシェードは前席はロールタイプ。後席は2分割のはめ込み式になっている。合わせてベンチレーションもスポットタイプではなくエアを拡散して流すそよ風のようなモードも採用し、心地よい空間を目指している。もっともパノラマルーフは現時点で1年待ちというから残念ながらすぐには手に入りそうもない。

 使いやすいサイズに快適な乗り心地と空間、それに安心感のあるハンドリング、新しいヴェゼルも大きなヒットとなりそうだ。

無限パーツ装着車。撮影車はフロントグリルガーニッシュ、フロントアンダースポイラー、サイドガーニッシュ、リアアンダースポイラー、ウイングスポイラー、テールゲートスポイラー、スポーツサイレンサー、アルミホイールCU10などを装着
ホンダアクセス純正アクセサリー装着車。フロントグリル、フロントルアースカート、サイドロアーガーニッシュ、リアロアーガーニッシュ、ドアミラーカバー、テールゲートスポイラー、などをクロームメッキないしはグロッシーカッパー・メタリック/プレミアムアガットブラウン・パールでコーディネート。ホイールは18インチのMS-045
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸