試乗レポート

新型「ノート」のe-POWER 4WD仕様、2WDとの違いは予想以上だった

2WDとの価格差は20万円を切る

 見た目も中身もガラリと変わった3代目「ノート」に少し遅れて追加されたe-POWER 4WDは、従来とは別物であることは分かるとして、現行の2WDに対して予想よりもずっと大きな違いがあったことをあらかじめお伝えしておこう。

 ざっと整理すると、従来型の2代目ノートのe-POWER 4WDはリアに4.8PS/15Nmのモーターを搭載し、発進から約30km/hまでをアシストするというものだった。それでも低ミュー路で乗り比べると2WDとの差は歴然としていて、それはそれで画期的だと思った半面、4WDとしてはもの足りないことから周囲では低評価の声があったのも事実だ。そして今回の3代目ノートのe-POWER 4WDの情報を知ったときに、当初は新しくなってリアモーターが大幅にパワーアップしたのかぐらいの認識だったのだが、それだけではなかった。

 従来型の約14倍となる50kW(68PS)を発生するリアモーターは、ちょうど軽自動車の高性能版エンジンと同等のポテンシャルを持っていることになり、モーターの役目もまったく違う。なお、発電用のエンジンとフロントモーターのスペックやリチウムイオンバッテリーの容量は2WDと変わらない。

今回試乗したのは、2020年12月に発売された新型「ノート」e-POWERの4WDモデルで、グレードは「X FOUR」(244万5300円)。ボディサイズは4045×1695×1520mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2580mm
4WDモデルではリアゲートに「e-POWER 4WD」のバッヂが付く
X FOURでは16インチアルミホイールを標準装備。タイヤはブリヂストン「エコピア EP25」(185/60R16)を装着
X FOURのインテリア。シート地は2WDの「X」とX FOURだけに用意される本革仕様

 車両重量は2WDに対して120kg増の1340kgで、車検証によると前軸重が780kg、後軸重が560kgとなっている。2WDとの価格差は25万8500円。ただし、パワートレーンの違いはもとより、4WDには7万3700円の寒冷地仕様が標準装備されるので、実質的な差は18万4800円と考えてよい。

2WDとの違いは予想以上

 正直、滑りやすい路面でないとあまりありがたみが分からないのではと思っていたのだが、全然そんなことはなかった。走り出してほどなく「おやっ!?」と感じて、さらには乗り心地やステアリングフィール、加減速時のフラットな姿勢など、多くの面で2WDよりも洗練されているように感じたからだ。

 エネルギーフローの表示を確認すると、走りはじめからずっと前後輪ともモーターで駆動し、減速時には後輪も回生していることが分かる。FFベースのオンデマンド式4WDだと必要ない状況では前輪のみを駆動するものが多いが、後輪にも常に駆動力をかけたほうが走りに関する多くの要素がよくなると聞いたとおりの、まさしくそれであることがうかがえた。

搭載する直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12」型エンジンは最高出力60kW(82PS)/6000rpm、最大トルク103Nm(10.5kgfm)/4800rpmを発生。フロントモーター(EM47型)は最高出力85kW(116PS)/2900-10341rpm、最大トルク280Nm(28.6kgfm)/0-2900rpmを、リアモーター(MM48型)は最高出力50kW(68PS)/4775-10024rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/0-4775rpmを発生。WLTCモード燃費は2WDの「X」から4.6km/L減の23.8km/L

 ワンディングを気持ちよく安定して走れたことも印象的だった。コーナリングでは前後のモーターがお互い影響されることがないおかげで、より理想的な駆動力配分の制御が可能となる。低ミュー路での走破性だけでなく、ハンドリングの向上にもリアモーターが活用できているようで、そのあたりはEV(電気自動車)「リーフ」などで培ってきた電動車の制御技術のノウハウを持つ日産の強みに違いない。感覚としてはe-POWER 4WDの発展形というよりもまったくの別物で、三菱自動車のPHEVやトヨタのE-FOURなど本格的な電動4WDに通じる。

 むろん、走りのよさは全面刷新されたプラットフォームの高いポテンシャルもあってのことに違いない。ハンドリングはいたって素直で、よく伸びる足がしなやかに路面に追従し、パワーをかけてもFFにように外に逃げることもなく、あまりグリップの高くないエコタイヤが4輪バランスよくゆるやかに流れ出す。実のところあまり多くを期待していなかったのだが、懐が深いことにも感心した。

 楽しく走れたのは、もちろんe-POWERであることも大きい。リニアなアクセルレスポンスと力強い加速は、タイトコーナーの連なるワインディングでもその威力を発揮する。アクセルOFFで適度な減速Gを生み出すe-ペダルの案配もちょうどよい。

非降雪地ユーザーも選ぶ価値あり

 車両重量増の影響か、姿勢変化が小さく走りが安定しているせいか、加速がやや控えめになったように感じられたものの、「ひと踏み惚れ」を謳うe-POWERならではの瞬発力となめらかな走りは健在だ。

 また、普通に走るぶんには、ロードノイズでエンジン音を隠すという新しい制御も効いて、エンジンの存在はそれほど気にならない。ただし、ワインディングなどアクセルを踏み込む機会の増える状況では、3気筒の安普請な音が耳に障るのは否めず。それは特殊なシチュエーションなのでヨシとしてよいと思うが、ゆくゆくはオーディオとの連携などで対処してもらうのが理想ではある。車両重量が増えたせいか、前述の制御のためか、概ね静かなので問題ないとはいえ、心なしかエンジンがかかる頻度が増えた気がしたのだが、後輪にも回生制御が追加されたことでエネルギー回収効率は向上しているという。

 ところで、同じく第2世代のe-POWERを搭載するSUVの「キックス」と違って、アクセルOFFだけではエンジンが完全停止しなくなったのも何か意図があるのだろうが、個人的には選べるとなおよかったように思う。

 そんなわけで、全体としては印象は上々だった。内外装の質感の表現もなかなかのもので、「360°セーフティアシスト」やコネクティビティなどの先進的な機能だってこのクラスとしてはかなり充実している。そして、4WDを購入する大半は基本的には降雪地に住む人だろうが、舗装路での走りもお伝えしたように想像以上によかったので、非降雪地の人も4WDを検討する価値があるように思ったことをお伝えしておこう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸