試乗レポート

マツダの特別仕様車「ブラックトーンエディション」に見るCX-8の進化点

CX-8でロングドライブ

「CX-8 XD Black Tone Edition」をロングドライブに連れ出した。PROACTIVEをベースにするこのモデルは、ブラックで引き締められたエクステリアと、赤の差し色を取り入れたインテリアがポイントの1台。ちょっぴりスポーティで引き締まった感覚が得られるBlack Tone Editionのよさは、写真をご覧いただければ伝わるものがあるだろう。近年のトレンドをうまく展開し、商品力を保っているように感じる。

 だが、実は乗らなければ分からない変更が行なわれている。いつもマニアックにとことん走りと向き合い続けるマツダらしく、今回はディーゼルエンジンの出力アップ。190PSから200PSへと拡大し、さらにトルクも3000rpmから4000rpmの領域で太らせているところが特徴的だ。また、アクセルペダルの重さにもこだわり、従来モデルよりも20%ほど重くするという変更も行なっている。

 これは人間の筋肉の動きを分析し、右足の筋肉と腹筋や首の筋肉が従来モデルではリンクしていないことを発見。加速しようとした時に腹筋や首の筋肉が遅れて反応するため、急激な反応を見せていたそうだ。アクセルを重くする変更により、身体全体のリズム感とクルマとが協調しやすくなったというが、果たしてどうだろう? パワーユニットの出力特性とアクセルペダルの重さの変更でどんな走りを展開してくれるかが楽しみだ。

今回試乗したのは2020年12月に発売された「CX-8」の特別仕様車「Black Tone Edition(ブラックトーンエディション)」。グレードは4WDの「XD Black Tone Edition」(423万6100円)でボディカラーは「ソウルレッドクリスタルメタリック」(7万7000円高)。ボディサイズは4900×1840×1730mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2930mm
外観ではドアミラーをブラックアウトするとともに、フロントグリルをブラックメタリック塗装に変更。同じくブラックメタリックに塗装されたホイールは19インチへとサイズアップされた。タイヤはTOYO TIRE「PROXES R46」(225/55R19)
内装ではインパネに専用のハニカムブラックを用い、パワーウィンドウスイッチとドアミラーコントロールスイッチにサテンクロームメッキの加飾を配してオリジナリティを演出。また、シートの素材をブラックのグランリュクス+合成皮革とし、レッドステッチのアクセントを付与。レッドステッチのアクセントはステアリングやドアアームレストにも採用して統一感を図っている。セカンドシートには、ボタンを押すだけで自動的にシートが前に移動しながら背もたれが倒れ、3列目シートの乗員が降りるのに役立つ“ワンタッチウォークイン機構”を標準装備
Black Tone Editionでは地上デジタルTVチューナー(フルセグ)を搭載した10.25インチのセンターディスプレイをはじめ、置くだけで充電できるワイヤレス充電(Qi仕様)、サードシートの充電用USB端子(2つ)が標準装備される。また運転席側、助手席側、後席の3ゾーンでそれぞれ温度設定が行なえる3ゾーン対応フルオートエアコン(花粉除去フィルター付)はCX-8全車に標準装備。Black Tone Editionでは2列目シートヒーターも備わる
ラゲッジスペースのレイアウト。ハンズフリー機能付パワーリフトゲートも標準装備

疲労感が少なくどこまでも走って行けそうな感覚

 走り出すと、たしかに無駄にアクセルを入れるような状況には陥りにくいことが理解できる。運転はよりジワリと動かすことが可能で、不意にアクセルを入れ過ぎてしまうようなことはない。AT制御も改善され、シフトダウンせずにトルクでグッと加速を続ける感覚で、落ち着いたドライビングが可能になった。重量級のCX-8を優雅に動かすことが可能になったこと、これぞ進化したポイントといえるだろう。たしかに旧型ではアクセルペダルが軽くてついつい踏み込みがちで、前に出過ぎるようなことがあったことを思い出す。

 出力とトルクがアップしたと聞けば速さに繋がるものばかりと思いがちだが、これは質感を高める変更のように感じる。6速ATしか持たず、他メーカーを見比べると多段化が求められる段階に差し掛かっているように思えるところではあるが、シフトのアップダウンを繰り返さなくても十分にすべてをこなせる仕上がりがあるのであれば、多段化をしていなくても許せてしまう。現状で可能な限り煮詰めることで、足りない部分をうまく補いながら不足を感じさせない完熟の時がやってきたということなのだろう。

 シャシー側には変更がないが、久々に動かすCX-8の乗り味は絶妙だ。弟分である「CX-5」に対して230mmも長い2930mmのホイールベースが生み出す豊かな乗り味は、ロングドライブをする上で上質な乗り味と安定感を生み出しているのだと改めて感じる。キビキビとした動きではなく明らかにマイルドな乗り味だが、結果として疲労感が少なくどこまでも走って行けそうな感覚が得られるのだ。

 車両重量1910kg、総重量にすれば2t近くになる車体は、運動性能的に見ればネガに映るかもしれないが、豊かな乗り心地を生み出す上で効果を発揮している。可変ダンパーを持たず、けれども乗り心地に対して満足がいくその仕上がりは絶妙なバランスだと感じる。7人乗りのSUVという稀有な立場が注目されがちなCX-8ではあるが、実は走りに奥深さがある、それがこのクルマの持ち味だ。それは後席に乗っていても感じられるもので、路面からの入力をしなやかに受け止めて突き進む感覚はかなり優雅だ。身長175cmの筆者では3列目はやや窮屈だが、そこでも突き上げ感をさほど感じない仕上がりもなかなかだ。

直列4気筒DOHC 2.2リッターディーゼルターボエンジンは最高出力147kW(200PS)/4000rpm、最大トルク450Nm(45.9kgfm)/2000rpmを発生。WLTCモード燃費は15.4km/L

 今回のマイナーチェンジでは10.25インチへ拡大したセンターディスプレイや、車両通信機を標準設定したこともトピックだ。コネクティッドサービスとスマホアプリとの連携によって、利便性が向上したことはありがたい。時代の流れに合わせて少しでもポテンシャルアップをさせようという姿勢は、こんなところにもきちんと表れているのだ。

 2017年末に登場して3年ちょっと。いわゆる後期モデルに突入となったわけだが、CX-8の魅力はまだまだ色褪せない。というよりむしろ、今回のマイナーチェンジによってその特徴がより一層深まったことは明らかだ。ミニバンからの買い替えにも耐えるし、ラージSUVを欲する層に対してもこれなら十分に勧められる。個人的にも少し心がグラつく1台だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中島仁菜