試乗レポート

マイチェンしたフォルクスワーゲン「ティグアン」、強化されたパワートレーンの実力をチェック

存在感の増したルックス

 初代「ティグアン」が世に出た2000年代終盤のころには、SUVというともっぱら大柄で高級なクルマばかりだった中に、いち早くこのサイズで現れたティグアンは、以後ずっと世界的に極端なまでの右肩上がりで販売を増やし、日本でも人気を博した。「トゥアレグ」の弟分として登場したものの、最近では「T」の名の付くさらなるコンパクトSUVも出てきたこともあり、実用性や総合力で上まわるティグアンは、フォルクスワーゲンにとっても今やすっかり中堅の主力SUVというイメージとなっている。

 現行型になって4年半、マイナーチェンジした最新版の主な変更ポイントは、デザインの刷新、パワートレーンの強化、最新の運転支援システムとコネクティビティ機能の採用が挙げられる。新デザインのバンパーやLEDを駆使した灯火類を得て、控えめな中にも力強さの増したルックスはがぜん存在感が高まったように見える。内外装をシックにコーディネートした特別仕様車の「First Edition(ファーストエディション)」の大人びた雰囲気もよく似合う。

今回試乗したのは5月12日にマイナーチェンジした新型「ティグアン」。写真は特別仕様車の「TSI First Edition」(524万9000円)で、ボディサイズは4515×1840×1675mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2675mm。ボディカラーは専用のジンジャーブラウンメタリック
外観では新しいLEDマトリックスヘッドライト“IQ.LIGHT”(ダイナミックターンインジケーター付)とともに、デザインを一新した印象的なフロントエンドを採用。TSI First Editionでは5ダブルスポークの19インチアルミホイール(タイヤは235/50R19サイズのピレリ「SCORPION VERDE」)、アダプティブシャシーコントロール“DCC”などを特別装備
TSI First Editionの室内では専用レザーシート(ノワゼット/チタンブラック)、専用デコラティブウッドパネルなどを採用。初採用の同一車線内全車速運転支援システム“Travel Assist”の設定はステアリングスイッチで行なう。DCCは「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」の5モードを選択可能

 最新世代のインフォテイメントシステムは、見た目には新鮮味があるものの、もう少し直感的に使えたほうがよい気もしたのだが、その真価を知るには少々時間が足りなかったので、これから機会があればじっくり試してみたいと思う。

 これまでどおり、サイズのわりに足下まで広々とした室内空間や、開口部が大きく開放的なガラスルーフ、驚くほど豊富に使いやすく設定された収納スペースなど、こまやかな配慮の行き届いた各部の作り込みにも、あらためて感心する。

こちらは「TSI Elegance」(483万9000円)。LEDマトリックスヘッドライトをはじめ、最新世代の9.2インチの純正インフォテイメントシステム“Discover Pro”、10インチのディスプレイを備えたデジタル インストルメントパネルのデジタルメータークラスター“Digital Cockpit Pro”などを標準装備。足下は18インチアルミホイールに「SCORPION VERDE」(235/55R18)をセット
「R-Line」(503万9000円)は専用のエクステリアやシート、マルチファンクションステアリングに加え、19インチアルミホイールを標準装備。R-LineのみDCCと20インチアルミホイールがセットとなった「DCCパッケージ」オプションを選択可能(写真はDCCパッケージ装着車で20インチアルミホイールと255/40R20サイズの「SCORPION VERDE」が備わる)

パワートレーンの変更が効いた

 走りにおける最大の関心事は、従来よりも100cc増えて1.5リッターとなったTSIエンジンと1段増えて7速となったDSGを組み合わせた新しいパワートレーンの実力にほかならないが、その変化は乗ってすぐに直感できるもので、想像以上に大きかった。

 実はDSGは乾式単板からトーイングにも対応すべく湿式多板になったらしく、その恩恵が大きいようだ。クラッチが乾式単板だとどうしても半クラッチがシビアになるので出足のトルクを絞らざるを得ない。ところが湿式多板であれば、その部分がかなり制御しやすくなるからだ。

いずれのグレードも従来の直列4気筒DOHC 1.4リッターターボ「1.4 TSI」に代わって新たに直列4気筒DOHC 1.5リッターターボ「1.5 TSI」を採用。最高出力は110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルクは250Nm(25.5kgfm)/1500-3500rpm。アクティブシリンダーマネージメント(気筒休止機能)が搭載されており、WLTCモード燃費は14.3km/Lを実現

 おかげでエンジンも従来に比べて圧倒的にリニアでトルクも力強く立ち上がるようになった。低速走行時のドライバビリティも格段に向上している。従来は出足でややもたつき、そこからしゃくれ上がるような感じで加速したのとは打って変わって、パーシャルスロットルから踏み増したときも、どの回転域からでも気持ちよく加速してくれる。

 ゼロ発進時の動きもトルコンAT並みにスムーズになっており、歯切れのよいシフトチェンジとダイレクト感のある走りはDSGならでは。さらにはエンジン自体も別物に進化していて、より音や振動も減り、ざらつきが薄れて静かでスムーズなフィーリングになっている。また、気筒休止機構により条件がそろって4気筒から2気筒に切り替わっても、まったく何も感じられない。

DCCの上質な走り

 今回は4タイプの試乗車が用意された中から、DCCが付き19インチタイヤを履くファーストエディションをメインに試乗したのだが、ドライブフィールは上々だった。路面の凹凸をなめるようにいなすしなやかさと、姿勢変化を抑える引き締まった味をうまく兼ね備えていて、フラットな姿勢を保ってくれて目線のブレも小さく、上質なドライブフィールを味わうことができる。それでいてワインディングでも手に取るように挙動がつかめて楽しく走れる。

 一方で、DCCでないコンベンショナルな足まわりは、それほど高くないといえどもSUVゆえ重心が高くなることによる挙動を抑えるため硬めにされているせいか、やはり全体的に路面の凹凸の影響を受けやすくなる。エレガンス(Elegance)のようにハイトの高い18インチタイヤを履いてもやや硬さを感じるのに対し、DCC付きのR-Lineは20インチタイヤを履いても乗り心地に硬さがない。R-LineではDCCの有無を選択でき、むろんDCCなしのタイトな乗り味を好む人もいるだろうが、22万円を払う価値は十分にあるように思う。

 R-Lineとそれ以外ではサスペンションや電動パワステのセッティングは共通ながら、タイヤが255サイズと太くなるため、より手応えが増してグリップ感が高まる。ステアリングの形状もスポーティなものとなる点も異なる。

 今回は時間の都合もあり十分には試せていないが、新設定の「トラベルアシスト」がスグレものであることもうかがい知れた。コネクティビティも強化されている。あまりラグジュアリーさや奇抜さを求めるべきクルマではないとはいえ、中身は新しいほうがよい。そのあたりをしっかりアップレードしたのも、今回のマイナーチェンジの重要なテーマの1つに違いない。

 そして、やや遅れて日本に上陸予定の同社SUV初のハイパフォーマンスモデル「ティグアン R」も非常に楽しみ。ドライブできる日が待ち遠しい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸